アニメやゲームの主題歌、テーマソングなどを歌うアーティストに楽曲について語ってもらう雑誌「メガミマガジン」のインタビュー企画「Megami’sVoice」。2023年3月号にはテレビアニメ『スパイ教室』のオープニングテーマを担当したnonocが登場。
本稿では、本誌で紹介できなかった部分も含めたロングインタビューをお届けする。
危機と隣り合わせという 不安感を残して歌った
――「灯火」はテレビアニメ『スパイ教室』のオープニングテーマですが、作品にはどんな印象がありますか?
作詞をすることが決まってから、原作を読みました。トリックや登場人物が多いのですごく難解な物語なんです。でも、そこが引き込まれるポイントだとも思いました。
――そんななかで、何をテーマに作詞をしていったのでしょうか?
メインキャラクターが多く、さらに全員が主役といっていいほどの存在感があるので、誰かひとりをイメージして作詞をするのは無理だと感じました。それで、スパイチーム「灯」の一員になり、チームメンバーと同じ状況に立たされたらどうするかを入口として歌詞を考えました。私がつねに危機的な状況に立たされていたら、見えない希望にすがって必死にもがくくらいしかできないと思うんですね。そんな思いを歌詞に込めていきました。
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――チーム名は「灯」ですが、タイトルは同じ読みでも「灯火」なんですね。
私自身、作中に登場するワードがタイトルに盛り込まれているとうれしいので、自分が作品の主題歌を歌うときは、そんなタイトルを付けたいと思っていました。それから、この曲には「聞いた人が前を向けるように、聞いた人の心に小さな火を起こしたい」という思いも込めたんです。それもあって、「火」という言葉を追加しました。
――曲はオープニングにふさわしい疾走感のあるナンバーです。
私もそう感じました。それから、作品と同じようにコロコロと展開が変わる曲調や、現実味を感じさせる重みのある部分と自分の命に危機感のないポップさがバランスよく表現されていて、作品にマッチした曲だなと思いました。
――イントロ部分のスキャットがとても印象に残りますね。
あの部分は「タッタラ」にするか「トットゥル」にするか、それともほかの音にするか、仮歌収録時に製作陣の皆さんととても悩みました。でも、『スパイ教室』のメインキャラクターは若い子たちばかりなので、若さを感じさせるような軽めの音がいいと思ったし、現実に対して彼女たちがどう向き合っているのか、その重みも考えて歌ってみると「タッタラ」という音がピッタリだね! となりました。
――レコーディングでは、どんなことを大切にして歌いましたか?
この曲はめまぐるしい展開と言葉数の多さで、キャラクターの焦燥感を表しているんだとも感じていたんです。ここまで展開が早い曲はいままで歌ったことがなかったのですが、きっといまの私なら歌えると思ってもらえたからこそいただけた曲だと思うので、この曲のかっこよさに負けないように歌いました。また、キャラクターがつねに危険と隣り合わせなので、あまり安定した声にならないよう、不安な感情を残しながら歌っていきました。
――ちなみに「灯」のメンバーで、いまのところnonocさんが気になっているのは誰ですか?
難しい……すごく難しいです! ビジュアルだけなら、ジビアかモニカですね。でも、話しているところをアニメで見たらアネットが好きかもしれない。たぶん、いまこうして話をしていても、アニメの放送が進んだら好みが変わっちゃうと思うんです! お話が進むと人間関係にも変化がありますし、キャラ同士の関わりから見えてくるものもあって。きっと毎回の展開に皆さんも引き込まれると思います。
――カップリング曲についても教えてください。まずはnonocさんが作詞をしている「ラスター」。
この曲は、私がサウンドプロデュースを手がけ、アニメーションミュージッククリップを作るというシリーズの集大成となる曲です。テーマは始まりでもあるけれど、ひとつの区切り。ミュージッククリップで追いかけてきた2人のキャラクターがこれからそれぞれに進んでいってまた出会うのか、この先どうなるのかを皆さんに受け取って考えてほしい。そういう意味では分岐点的なイメージのある曲でもあります。
――どこか達観したような、それでいて少しの熱があるような曲ですね。
楽曲はポリスピカデリーさんにお願いしたのですが、ギターがリズミカルでロックテイストのカッコいい曲を作ってもらえました。ポイントは、盛り上がりきらないサビです。安定していて爆発しきらない感じがすごく好きなんです。ミュージックビデオの主人公たちのように、いろんな経験や決断をして強くなったからこそ、落ち着いて一歩引いたところから歌うことにも挑戦できました。Bメロは自分でもとくに気に入っていて、迷ったけれど進んでいくという振り返りの曲でもあるんで、それを感じられる歌になったんじゃないかなと思います。
――もう1曲の「endless tears」は、アプリゲーム『Re:ゼロから始める異世界生活 INFINITY』の主題歌です。
『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下『リゼロ』)は、これまでも映画やテレビアニメの主題歌を担当してきたので、また関わることができて光栄です。それから、Tom-H@ckさんの曲をまた歌えたこともうれしかったです。楽曲は『リゼロ』らしく、ループ感のある曲で。おしゃれさを前面に押し出さないおしゃれナンバーで、自分のビートにもすごく合う曲でした。
――レコーディングでは、どんなことにこだわりましたか?
ループしても答えが見つからない絶望感や、そのなかに希望を見つけたいという思いを込めて歌いました。私が歌うTomさんの曲は、言葉数はそれほど多くなく、何回も同じことを伝えてメッセージ性を強めていくものが多い気がするんです。この曲でもそれを感じていたので、歌詞に入り込みながらその思いも込めていきました。
――ジャケットなどのビジュアル周りは、モノクロですね。
カラーとモノクロの両方で撮影をしていたんですが、スタッフの方によると「『心のなかの火』というテーマを考えたら、ビジュアルはモノクロのほうがいいのではないかと思った」とのことです(笑)。キラッとした眼差しをいかしたかったんだそうです。
――衣装もグッと大人びた印象です。
これまではかわいい系や儚い系の衣装が多かったので、今回カッコいい系の衣装が着られてうれしかったです。全体的にビジュアルはクールめなのですが、しゃべるのは好きだけどしゃべり下手なところをこのビジュアルがいい感じにごまかしてくれて(笑)。いい意味でギャップだと感じてもらえそうなので、すごくありがたいです。
――このシングルは、自身にとってどんな1枚になりましたか?
私のこれからに期待してもらえるような1枚になっていたらうれしいです。2023年のnonocはさらにパワーアップしているんだということを、アニメやアニソンが好きな方はもちろん、それ以外の人にも聞いてもらえたらと思うんです。私はいつも、自分の音楽が、誰かの何かを少しでも解決できたらと思っているので、それをこの1枚でも感じてもらいたいです。
――最後に、今年の抱負と読者にメッセージをお願いします。
これからもイベントやライブで、たくさん「灯火」を歌っていきたいです。ライブがあるときは、皆さんにぜひ気軽に遊びに来てもらいたい。皆さんから期待してもらえるようなアーティストであり続けられるようにがんばりたいです。そして、「灯火」がオープニングテーマとなっている『スパイ教室』は、とにかく情報量が多く、1話も見逃さずに見てもらいたい作品です。素晴らしいアニメなので、ぜひチェックしてください!
取材・文/野下奈生(アイプランニング)
■Profile
nonoc ノノック/7月12日生まれ。北海道出身。CREATIVE OFFICE CUE所属。2018年に劇場上映されたOVA『Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow』のイメージソングと主題歌のシンガーに抜擢され、2019年にメジャーデビュー。これまでにシングル5枚、配信シングル1枚をリリースしている。
■「灯火」
発売中
KADOKAWA
1650円(税込)
表題曲はnonoc自身が作詞を担当した、テレビアニメ『スパイ教室』のオープニングテーマ。アップテンポなメロディとパワフルな歌声が印象的に響く1曲だ。カップリングには、同じくnonoc作詞の「ラスター」と、アプリゲーム『Re:ゼロから始める異世界生活 INFINITY』の主題歌「endless tears」を収録。