リョウマが報われるようにと願いを込めた「ヤサシイセカイ」
――「ヤサシイセカイ」は『神達に拾われた男』のオープニングテーマ。田所さんは主人公のリョウマ役で出演されていますね。
はい。原作をしっかり読ませていただいていたので、オープニングを歌わせていただけるのなら、こういう曲がいいなというイメージがあったんです。
――今回のシングルには、田所さんの希望が詰まっていると聞きました。
そうなんです。まず表題曲の「ヤサシイセカイ」は、『神達に拾われた男』という作品に合った曲調のイメージが自分のなかに浮かんでいたので、希望を伝えて、コンペで選ばせていただいたんです。
――どんなイメージだったんですか?
原作は、報われない人生を送ってきた主人公が、人との出会いで少しずつ温かさや幸せを感じていく物語なんです。それならば、主題歌となる曲は「元気」とか「明るい」「かっこいい」ものではないだろうなと個人的に感じて、原作で印象的だったシーンなどをお伝えして作っていただきました。
――それはどんな場面ですか?
転生先で、公爵家の方々にリョウマが「お帰り」と言われるシーンです。リョウマ自身が気づいていなかった傷が癒えて、思わず涙してしまうんですが、オープニングではその温かさとやさしさを表現したいなと思いました。何より、つらい過去を抱えているリョウマが報われるような曲にしたかったんです。
――この曲に決めた理由は?
原作を読みながらこの曲を聞いていたときに、感情が流れてくるなと感じたんです。その後、コンペでいただいた曲をすべて聞いて、再度聞き直しても同じ感想だったので、この曲しかないなと思いました。スタッフの方に「オープニングっぽくないけど大丈夫でしょうか」と尋ねたら「大丈夫」とお返事をいただけたので、この曲を選びました。
――歌詞についても、田所さんのほうから希望を出したのでしょうか?
はい。曲をお願いするときと同じように、原作のシーンをお伝えして、つらい過去があったからこそ、染み入るような歌詞にしてほしいとお願いしました。上がってきた歌詞は、言葉選びが美しく、キラキラするような温かさを感じて。直接的な言葉もリョウマの実直なところが表れていますし、「生」を感じているような歌詞も盛り込まれていて素敵だなと思いました。
――レコーディングはどうでしたか?
リョウマも聞いてくださった方も報われるような曲にできたらと考えていたので、愛情や温かさを込めてあまり声は張らないようにしました。抑えつつ、でもサビらしさが感じられるようにと計算しながら歌う、どちらかというと引き算をしていくタイプの歌だったので、技術的には難しかったですね。
――オープニングで映像と一緒に流れると、より作品とマッチした感覚もあったかと思います。
どの曲もそうなんですが、レコーディングが終わっても反省するところがいっぱいあるんです。皆さんに聞いていただくまでは「大丈夫かな、良くなかったんじゃないかな」みたいに不安になっちゃって。でも、オンエアで素晴らしい映像と流れているのを聞いて、やっと完成したという気持ちになれました。見てくださった方からも良かったと言っていただけて、私も報われた気分です。
――ミュージックビデオ(MV)は、泣き顔が印象的ですね。
MVの監督も私の希望で、三石直和監督にお願いしました。撮影当日、監督にこの曲をどうやって作ったのかお話ししたんです。そうしたら、監督が「あなたを撮りに来たのだからあなたのパーソナルを知りたい」「田所あずさとしてこの曲に向き合ってみて」とおっしゃっていただいて。確かに、田所あずさとしては歌っていなかったなと客観的に思うことができて。改めて、歌詞を見つめ直して臨んだ結果が、あのMVになりました。じつは、泣こうと思っていたわけじゃなく、気がついたら涙が出てしまっていたんです。撮影中だから止めなきゃと思ったら、監督から「そのままでいいし、無理に笑わなくていい」と言っていただいて、その言葉に救われました。
――比較的笑顔も少ないですよね。
私なりに込めた想いはありますが、そこはあえて公表せずに、皆さんに自由に感じていただけたらなと思います。でも、改めて向き合って、この曲は私にとってはやさしくてつらい曲でもあるなと思いました。決して不幸な歌詞ではないですが、つらいと思う方もいていいと思える、そんな歌です。
カップリングも最強です。
――オープニングと主人公を担当しているということで『神達に拾われた男』という作品の魅力を教えてください。
転生ものでファンタジーですから魔法が使えたりスライムがいたりという現実にないこともあります。でも、人と人とのつながりや、関わることでお互いに変わっていくことも描いている。人にやさしくあろうとする姿は現代にも通じるものだと思うので、そこがとても魅力的な作品です。
――カップリング曲についても教えてください。まず「New-me」。
作詞・作曲をしてくださった草野華余子さんが、ずっと曲を書きたいと言ってくださっていて、今回お願いできました。制作前にお会いして、私の置かれている状況や好きな曲の話をさせていただき、その後何曲もデモを送っていただきました。どれも素敵だったんですが、そのなかからリズムが好きでしなやかさを感じたこの曲を選びました。歌詞は、華余子さんご自身が、自分のことを表現する方でもあるので、いまの田所あずさ像と華余子さんとが混ざり合っている印象もあります。
――すごくおしゃれな雰囲気の曲ですよね。
私は力強い曲を歌うことのほうが多かったので、こういったしなやかな曲を、リズムを追って歌うのは大変でした。でも、すごく気持ちよく盛り上がれる曲になったと思います。
――もう1曲はアーティスト盤に収録の「Visual Vampire」。
作曲・編曲してくださった堀江晶太さんとは、何度もご一緒させていただいていました。いままではストレートで爽やかなロックサウンドが多かったので、今回は遊んでみたいなという気持ちもあって、いつもよりもクセのある、洋楽っぽさのある曲にしてほしいとお願いをしました。いい意味で力が抜けている曲になりましたね。
――この曲は、歌詞も印象的ですよね。
大木貢祐さんの歌詞は、毒がありますよね。でも、それを軽めな曲に乗せることで、すごくおもしろさもある曲になったなと思います。私自身、この歌詞に刺激されるところも多くて。
――例えば?
「Visual Vampire」というのは、主役を食うくらいに悪目立ちするという意味なのですが、私もアーティストであり、クリエイトする側なのだから、もっと自分を出して悪目立ちしていくくらいにやっていかなきゃという気持ちになりました。周りの様子をうかがいつつ、いい子でいるだけじゃダメなんだなって。世間に訴えかける部分もありつつ、自分にもすごく刺さる歌詞でしたね。
――レコーディングはどうでしたか?
堀江さんがディレクションをしてくださったんですが、声を楽器のひとつとして使ってもらうことを意識しました。あえて声を伸ばさなかったり、置くように歌ってリズムを浮き上がらせてみたりと、新たな試みをたくさんさせていただきました。
――花を持ったビジュアル、花に囲まれたジャケットも目を引きますね。
ビジュアル面はアートディレクターのquiaさんにお願いしました。この方も、私が先輩方にジャケット制作について聞いたり、探したりして知ったんです。そして、希望を叶えていただきました。決めきって撮るのではなくて、一瞬を切り取ったような写真にしたいとお願いをしました。曲のやさしさを表現しつつ、田所あずさのビジュアルも活かす写真になったんじゃないかなと思います。
――曲選びからジャケットまで、CD作りに主体的に関わった感想は?
自分でいうのもなんですが、すごくクオリティの高いものになったと思います。アニメ盤のジャケットもかわいくて最高ですし、自信を持って皆さんに聞いてほしいと言える1枚です。違う雰囲気の3曲が集まったこともあり、3曲しかないのにボリューミーなんですよ。「ヤサシイセカイ」ももちろんですが、カップリングも最強です。
――もちろん、歌も素晴らしいです。
ありがとうございます、歌もいいです(笑)。歌い方にもこだわったので、ぜひ聞いていただきたいです。


取材・文/野下奈生(アイプランニング)
プロフィール
田所あずさ【たどころ・あずさ】11月10日生まれ。茨城県出身。ホリプロインターナショナル所属。2014年にアルバム『Beyond Myself!』でアーティストデビュー。これまでにシングル10枚、アルバム3枚をリリース。声優としての主な出演作は、『神達に拾われた男』リョウマ役、『半妖の夜叉姫』もろは役、『神田川JET GIRLS』紫集院かぐや役など。
「ヤサシイセカイ」リリース情報
表題曲は、テレビアニメ『神達に拾われた男』のオープニングテーマ。主人公・リョウマの心情に寄り添ったような、胸に染み入るバラードをしっとりとした歌声で表現する。カップリングには「New-me」と「Visual Vampire」(アーティスト盤のみ)を収録。
発売日:11月11日発売
レーベル:バンダイナムコアーツ
発売日:
アーティスト盤1430円(税込)
アニメ盤1320円(税込)
(C)Roy・ホビージャパン/『神達に拾われた男』製作委員会