アニメディア3月号コラム「アニメ妖怪よもやま話」全文掲載。妖怪文化研究家・木下昌美が、つくも神誕生の経緯を紹介。 | 超!アニメディア

アニメディア3月号コラム「アニメ妖怪よもやま話」全文掲載。妖怪文化研究家・木下昌美が、つくも神誕生の経緯を紹介。

発売中のアニメディア2018年3月号で掲載しているコラム「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説するコーナーとなっている。今回はその全文を …

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 発売中のアニメディア2018年3月号で掲載しているコラム「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説するコーナーとなっている。今回はその全文を掲載します。語り部は奈良県在住の妖怪文化研究家・木下昌美先生です。

 

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<畠中恵作品に登場するふんわりかわいい妖怪たち>

 これまでに本コラムでは数々の妖怪作品を取り上げてきました。読者のみなさんは、自分のなかに少しずつ新しい妖怪像ができあがってきているのではないかと思います。妖怪といえば「怖い」「不気味」というマイナスイメージが色濃かったのも今は昔。最近は「かわいらしい」「親しみを持てる」という側面から妖怪をとらえる流れが強いことを感じていただいているのではないでしょうか。
 たとえば近年、妖怪という言葉を定着させるのに大貢献した『妖怪ウォッチ』。タイトルからも一目瞭然ですが、本作には妖怪が数多く登場します。メインキャラクターであるジバニャンは、車に轢(ひ)かれて地縛霊となったネコの妖怪と、とても悲惨な過去を持っています。しかしながら作中で描かれている姿は悲しい過去を微塵(みじん)も感じさせない、非常に愛らしいものになっています。妖怪は恐ろしいだけでなく“かわいらしさ”がポイントのひとつとなっているとわかる、いい例と言えるでしょう。
 さて、そんなかわいい妖怪がわんさか登場する小説『つくもがみ貸します』が、2018年にTVアニメ化されることになりました。本作の作者・畠中恵さんは、代表作の『しゃばけ』から一貫して、ふんわりとやわらかな空気をまとう妖怪たちの活躍を描き続けています。
 少し『しゃばけ』の話をしましょう。本作が世に出たのは2001年末。今から16年以上も前のことですが、当時のことを私は今でも覚えています。まず驚いたのは、その表紙。それまで妖怪を扱った小説といえば、少し暗い雰囲気の、どちらかと言えばおどろおどろしいものが多かったように思います。作家・京極夏彦さんの代表作『百鬼夜行』シリーズなど、まさしくそれです。しかし『しゃばけ』はどうでしょう。少し抜けている、ホワホワとした愛嬌(あいきょう)たっぷりの妖怪たちが、表紙にドンと描かれているではありませんか。かわいい妖怪が表紙を飾るという、画期的な取り組みでした。今でこそ珍しいことではありませんが、当時大きな衝撃を受けたのは私だけではないでしょう。
 そして何より、作中に登場する妖怪たちが人間と対等な関係にあることが特徴であると思います。それまで妖怪といえば退治されるもの、調伏されるものというポジションが一般的でした。それが主人公の一太郎(いちたろう)と同じ目線に立ち、まるで仲間のようにふるまう妖怪たち。畠中恵さんの作品により、新しい妖怪像が作られたと言っても過言ではありません。

 

<つくも神とは>

『つくもがみ貸します』も、そうした畠中節がぞんぶんに発揮されている作品です。舞台は江戸、お紅(こう)と清次(せいじ)という血のつながりのない姉弟が切り盛りするレンタルショップ「出雲屋(いずもや)」を中心とするストーリー。出雲屋では鍋や釜、布団などなんでも貸し出しますが、そのなかに妖怪と化した古道具――所謂(いわゆる)つくも神が混じっているのです。つくも神たちは貸し出された先でうわさ話を仕入れては、周囲で巻き起こる騒動を解決へと導いていきます。
 つくも神は「付喪神」、「九十九神」などと表記され、さまざまな作品に登場します。放送中の「続『刀剣乱舞-花丸-』」も、刀剣のつくも神を題材とする作品です。つくも神の人気度と認知度の高さがうかがい知れます。
 そもそも、つくも神という言葉を一躍有名にしたのは、室町時代に成立したと考えられている『付喪神絵巻』です。『付喪神絵巻』の冒頭には「陰陽雑記(おんみょうざっき)に云(い)ふ。器物百年を経て、化(か)して精霊を得てより、人の心を訛(ばか)かす。是(これ)を付喪神と号(ごう)すと云へり」とあります。つまり「『陰陽雑記』という(架空の)書物によると、タンスや傘、鏡といった器物は、作られてから100年経つと魂を得て、人をだますことができるようになる。これをつくも神と言う」と説明しています。その言葉どおり、一般的に長い年月を経た道具などが特別な力を得て、霊魂を宿したものこそが“つくも神”であると考えられています。
 そうしたつくも神の片りんを感じられる記述は『付喪神絵巻』以前、つまり室町時代以前にも見られます。平安時代末期に成立したとみられる説話集『今昔物語集』には、人に捨てられた器物が祟(たた)りを起こす話が記録されています(27巻第6話「東三条銅精成人形被掘出語」より)。
 そのほか妖怪文化研究の第一人者である、国際日本文化研究センターの小松和彦さんは『日本妖怪異聞録』のなかで『古本(こほん)説話集』(平安時代末期~鎌倉時代初期成立)や『宇治拾遺物語集(うじしゅういものがたりしゅう)』(鎌倉時代前期成立)などの説話集に登場する百鬼夜行の事例を挙げ、百鬼夜行から器物妖怪の夜行へ移行していく様子を説いています。
 このように、さまざまな過程を経て今に受け継がれているつくも神。根底にはモノを大切にする、または大切にしてきた日本人の心と姿があるように思います。畠中恵ワールド全開の『つくもがみ貸します』が、アニメという新しいステージでどのように描かれるのか、放送を楽しみに待ちたいと思います。

 

解説:木下昌美
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<プロフィール>
妖怪文化研究家。福岡県出身、奈良県在住。子どものころ『まんが日本昔ばなし』に熱中して、水木しげるのマンガ『のんのんばあとオレ』を愛読するなど、怪しく不思議な話に興味を持つ。現在、奈良県内のお化け譚を蒐集、記録を進めている。大和政経通信社より『奈良妖怪新聞』発行中。

●挿絵/幸餅きなこ

《超!アニメディア編集部》
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