「あの花」「ここさけ」の3人の“新たな挑戦”が心を揺さぶる― 映画「ふれる。」長井龍雪&田中将賀インタビュー 2ページ目 | 超!アニメディア

「あの花」「ここさけ」の3人の“新たな挑戦”が心を揺さぶる― 映画「ふれる。」長井龍雪&田中将賀インタビュー

絶賛公開中の映画『ふれる。』。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などで知られる長井龍雪監督、脚本・岡田麿里さん、キャラクターデザイン&総作画監督・田中将賀さんが送り出す、オリジナル長編アニメーションアニメ映画だ。

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キャラクターデザイン&総作画監督・田中将賀さん/長井龍雪監督
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◆「ふれる」が揺れ動くたびに、作品も変化する

――秋、諒、優太の設定やビジュアルはどう作りあげていったのでしょうか?

長井 最初に岡田さんから「3人の男の子を出そう」と提案があって。さらに「お酒を飲むシーンも入れたいし年齢は少し高めにしたい」などの要望を出し合って設定を作っていきました。
本作は「環境によって変わっていく関係性」が軸にあるので、3人をバラバラな環境に置くことも意識しています。秋はアルバイトをしているので、あとはバランスをとるために諒は社会人、優太は学生にして。こうした設定を文字で詰めていきながら、田中さんにもその場でビジュアルを描いてもらいました。

田中 脚本とキャラクターデザインは、ほぼ同時進行でしたよね。最初に描いたのが少年期の3人と、人間の姿の「ふれる」。そのときはまだ企画段階で、「ふれる」が人型のお兄さんでした。同世代とお兄さんがいるのは、僕の中では映画『スタンド・バイ・ミー』のイメージ。だから3人と1人を一気に描いて、都度セットで見てもらいました。

僕はだいたいキャラクターを作るとき、1人メインのキャラクターができたら、そこには含まれていない要素を別のキャラクターに割り当てていきます。秋の「きれいな顔をしているけれど、口下手ですぐに手が出る」という設定は最初からあったので、まずは少年期の秋を中性的な顔で描いて。そのあとは秋にない要素を諒に、秋にも諒にもない要素を優太に入れました。

――先ほどの話に出ました「ふれる」が人型から、ハリネズミのような見た目になっていった経緯も教えてください。

田中 ハリネズミみたいになる前にも、シャチなど紆余曲折がありました。さまざまなクリーチャーを経てできあがったのが本作の「ふれる」です。
確か、打ち合わせで「ハリネズミのようなものにしよう」と言われたときに、僕がその場で“イメージハリネズミ”を描いたんですよ。それがほぼ一発採用されてしまって。そのあとハリネズミを検索して、あまりにも違っていたのでびっくりしました(笑)。でも、そこがよかったみたいです。

長井 よかったです。シナリオ段階で「糸っぽい見た目になる」というアイデアがあって、そこから逆算して今の形になりました。どこかほどけそうな雰囲気があるビジュアルです。田中さんに描いていただいたラフがそのイメージ通りだったので、「ぜひこれでいきましょう!」と採用しました。

田中 「ふれる」はデザインが決まるまで、脚本でなかなか形作っていけないキャラクターだったので難産でした。「ふれる」の存在が揺れ動くたびに、作品の形も変わってしまうんです。

――3人の共同生活には、樹里と奈南ら女性陣も加わっていきます。彼女たちの設定やデザインはどう作りあげましたか?

長井 今回はあくまでも男性キャラがメインだったので、女性陣はヒロインキャラではない、という前提がありました。ステレオタイプではありますが、意思の強い子と女の子らしい子という性格をつけ、田中さんにラフを描いてもらいつつ設定作業を進めていきました。

田中 デザインでは、キャラクター性をどうわかりやすく出すかを意識しました。例えば、樹里は“東京の女性”のイメージ。最初に思い描いたのは、バブル期のワンレンボディコンの派手な雰囲気でした。とくにロングのストレートは、僕にとって象徴的な髪型だったので、“東京感”を出すために入れました。あとは強いキャラらしく猫目系で、派手にするために唇も厚くして化粧もして。そのカウンターとなる要素を全部奈南に詰め込みました。奈南は樹里とは対極で、すごく身近にいそうな子なんですよ。その結果かわいい感じに仕上がったのは、僕にとっての発見でした。

長井 田中さんがビジュアルのバランスを調整してくれたので、5人と1匹が揃ったときの見え方も全然心配なかったです。あと、作画では秋の背の高さを意識してもらいましたね。

田中 (秋が)樹里と言い合っているシーンの身長差はかなり思い切りました。今回はサブリメイションさんに部屋の中を3Dでほぼ組んでいただけたので、そこにキャラクターの身長を反映させた素体も置いてレイアウトを確認しました。実際にそのデータが上がってくると、びっくりするぐらい秋が大きくて。190cm近くある秋の、高身長が醸し出す恐ろしさのようなものを感じました。多分自分だけで描いたらここまでの身長差には気付けませんし、はっきりした対比が怖くてできなかったと思います。

――そういったリアリティーのある描写を追求する一方で、「ふれる」のようなファンタジックな存在もいます。ファンタジーを描こう、という意図は最初からあったのでしょうか。

長井 画面を派手にするために、僕からオーダーした部分です。僕は劇場作品を作るときに常に「映画っぽいものにしたい」と思っていて。画面を派手にする要素としてファンタジーの描写を積み重ねてもらいました。

田中 ファンタジーをどのくらいの塩梅に落ち着けるのか、自分の中では難儀した印象です。例えば「ふれる」の能力をどこまでのものにするのか。リアルな東京で20歳の男の子が過ごす、という主軸があるので、それを壊してしまうほどのものは、ただのノイズにしかならない気がしていて。最終的にはリアルに軸足を置いて、ファンタジーを描くことになるのだろうと予想していました。だから「ふれる」のビジュアルを作っているときは、浮いた存在にならないかと相当ビビっていたんです。

――秋たち3人の心がつながるときの演出も印象的です。この演出は最初からイメージが固まっていたのでしょうか?

長井 シナリオを進めつつ、演出も決めていきました。心がつながるとはどういうことか、を重点的に考えて。最初は手をつないでいるときに口に出さなくても会話ができる、という表現だったのですが、それだと心がつながるイメージとはなんとなく違うと思ったんです。単に口を動かさずにしゃべっているだけに見えてしまう。試行錯誤した結果、セリフをいくつも重ねて、心の中にある言葉が一気に伝わるような表現にしました。また、秋たちが過ごした島の延長線上にあるような映像にしたかったので、撮影さんには海のような青みがかった処理をお願いしています。

田中 絵コンテを見たとき、心がつながるときはお互いの目線を合わせないほうが効果的に見えると思ったので、作画に反映させました。物語の仕掛けとしては、渦のように飛び交っているセリフをよく聴いてから先の展開を見ると「あれ?」と気付く部分があるはずです。ひとつひとつのセリフがどう扱われているのか、「ふれる」に隠された能力を知ったあとに見るとまた印象が違ってくるので、発見していただければと思います。


《ハシビロコ》
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