アニメの絵は描き込みの量が多ければいいという訳ではないーアニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまで「第六回:キャラクターデザイン」 | 超!アニメディア

アニメの絵は描き込みの量が多ければいいという訳ではないーアニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまで「第六回:キャラクターデザイン」

 映画『ブルーサーマル』が作られる過程をお届けする連載企画第六回。今回はキャラクターデザイン・総作画監督を務める谷野美穂さんにインタビュー。

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『ブルーサーマル』場面カット (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • 『ブルーサーマル』場面カット (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
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  • 『ブルーサーマル』原作第1巻(新潮社バンチコミックス) (C)小沢かな/新潮社
  • 『ブルーサーマル』原作第2巻(新潮社バンチコミックス) (C)小沢かな/新潮社

 映画『ブルーサーマル』が作られる過程をお届けする連載企画第六回。前回まではアニメーション制作のテレコム・アニメーションフィルムに潜入し、実際の作業風景を見学したが、今回からはスタッフへのインタビューを掲載。各スタッフがどんなことを考えながら、どんな作業をしているのか? スタッフの視点から見たアニメ制作のリアルを教えてもらった。

 今回お話を聞かせてくれるのは、映画『ブルーサーマル』でキャラクターデザイン・総作画監督を務める谷野美穂さん。


本作の主人公・都留たまき【画像クリックでフォトギャラリーへ】

原作の魅力を活かしつつ、アニメ用のキャラクターへリデザイン

――谷野さんは、映画『ブルーサーマル』でキャラクターデザイン・総作画監督をされていますね。それぞれ、どんな仕事なのかを教えてください。
 キャラクターデザインはその名の通り、アニメーションに登場するキャラクターをデザインする仕事です。『ブルーサーマル』の場合は原作があるので、その雰囲気を活かしつつ、クライアントからの「こういう作品にしたい」という要望を踏まえて、アニメで動かせる形にキャラクターをリデザインする作業をしています。総作画監督は、フィルムにしたときにキャラクターがより魅力的に見えるよう、画面を整えるお仕事ですね。

――キャラクターデザインに関する「クライアントからのオーダー」とは、例えばどういうものなんですか?
『ブルーサーマル』なら、原作がとてもやさしく柔らかな印象の絵柄なので、素朴な方に振ることもできるし、最近流行りのキラキラとした雰囲気に振ることもできるけど、どっちがいいのか、といった感じですね。当初は「柔らかく、少女漫画風に」というイメージがあって、それに「もう少し丸みがほしい」という追加のオーダーがあって、今のようなコロッとした印象のデザインになりました。
 ただ、オーダーの内容は作品によってまちまちです。どういうアニメーションにしたいか、どんな人に観てもらいたいかなどで、いろんなやり方があって。物によってはあえて「原作の絵は意識しないように」と言われることもあったりします。

――ちなみに、「漫画の絵」と「アニメの絵」はどこが違うんでしょうか?
 ザックリと言うと、漫画の絵はどこまでも細かく描けるというところでしょうか。細部までこだわられる漫画家さんだと靴紐の結び方まで魂を込めて描いていらっしゃると思うんですが、アニメではそれをそのまま再現するのは難しいんです。アニメーションは動かすことが大前提ですし、作画さんみんながそれを描けないといけないので。
 もちろん、たくさん描きこめばそれだけ密度が増すのである程度は画面が持ちますけど、そのせいで無駄に線が増えてしまうというのはよくないんですよね。原作の魅力であるこだわりをどこまで拾ってアニメに落とし込むのか、費用対効果を一番発揮する線量を見極めることは、キャラクターデザインの仕事で最も難しいことであり、永遠の課題だと思っています。

――線量の費用対効果、ですか。
 例えば『進撃の巨人』のようにものすごく描き込んで迫力を出す作品があれば、『王様ランキング』のように線が少ないことで絵本の魅力が生まれる作品もあるじゃないですか。キャラクターデザインって、一概に「これが正解」というものがないんですよね。何がその作品にとってベストなのかを考えるのが、キャラクターデザインの難しさだと思います。

――では、『ブルーサーマル』のキャラクターデザインで意識したことは?
『ブルーサーマル』を初めて読んだとき、原作の小沢かな先生の大切な思い出がたくさん詰まった作品だと感じたので、その思いを壊さないようにというのは一番意識しました。
 そのうえで、映画では原作の絵よりもさらにキャラクターそれぞれの特徴を強調しています。表情豊かなたまきなら丸っこくして少し幼さを出したり、悩みを抱える倉持なら少しシャープめにしてシリアスな印象を加えたり。たまきの姉のちづるは、原作だと目も大きくて割とやさしい顔をしているんですが、映画ではたまきとの対比を一目で伝わりやすいように、クールビューティーの方向に振っています。原作と見比べるとあまり似ていないんですけど、映像として観たときに「ちづるだ」と思ってもらえる範囲で、極端にキャラを振り分けていますね。
 あと、原作では目や髪の毛も茶色系の色で塗られているんですが、映画の場合は個別カラーのようなものがあったほうが観た方にわかりやすいのかなと思い、コンペの段階からたまきはピンク、空地はオレンジなど色を振って、塗ったものを提出しました。倉持は、原作のカラーイラストだと目も茶色ですが、映画では少し青系の色に振っています。それはのちに採用してもらえたので、色味でもキャラが分かりやすくなっているんじゃないかなと思います。


原作第1巻と第2巻の書影


こちらが映画のたまきと倉持。原作と見比べてみると違いが分かる

――色のイメージも、キャラクターデザイン時に考えているんですね!
 普通はやらなくてもいいんですけどね。映像における色バランスのプロである色彩設計さんがいますし、コンペの段階だとまだ背景の色も決まっていないので。ただ、出すだけ出しておけば、色彩さんや監督にも「こういうふうに表現したい」という方針が伝わるから、私はけっこうやるようにしています。

――なるほど……! 総作画監督のときは、どういうことを意識しながら作業されていますか?
 一番大事なのは、等身や見え方が違和感なく見られるかというところ。そこからキャラクターを合わせていきます。表情が物語に合っているのか、とか。
『ブルーサーマル』では、カッチリとした決め顔よりも、動きや表情からやさしさや柔らかさを感じられるように心がけていますね。ストーリーはシリアスなシーンも多いですが、橘監督が「深刻さよりも、空の楽しさを描いていきたい」とおっしゃっていたので、表情や動きでそのバランスをとれたらいいなと思っています。


たまきの姉のちづる


たまきとちづるの対比が分かりやすいようキャラクターデザインがなされている

谷野さんの原点となった作品とは?

――本作はテレコム・アニメーションフィルムがアニメーション制作を担当しています。谷野さんもテレコムさんに所属されていますが、感じている強みを教えてください。
 
作画さんはやわらかい動きが得意な人が多いです。キャラクターをよく動かすという方向性の作品だと、作画の皆さんはとても生き生き作業している感じがしますね。あと、社内の美術さんが、本当にクオリティの高い美術を挙げてくださること。すごく安心感があります。

――谷野さんは、新卒でテレコム・アニメーションフィルムに入られたんですか?
 そうですね。動画担当のころからずっと。入社のきっかけは、採用試験の時期がアニメ会社の中で一番早くて最初に内定をもらったからという、やや不純なものなんですが、今もこうしてここにいるのはきっと相性がよかったんだと思います(笑)。

――アニメ業界を目指したきっかけも教えてください。
 高校生くらいのころに、たまたま『明日のナージャ』というTVアニメを観ていたら、すごく演出が強烈な回があったんですよ。「フランシスの向こう側」というエピソードなんですけど。私はそれまでは「できている映像をただ観る」という感覚だったんですが、そのエピソードからは「こういうふうに見せたい」という強い意志を感じました。前に観た『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』と演出の仕方が同じだと思ったので、「誰がこの画面を作っているんだろう?」と名前を確認したところ、細田守さんのお名前を知り。それで初めて「アニメって人間が作っているものなんだ……」と意識したんですよね。

――アニメの仕事の中で作画を選んだのは?
 TVアニメで週ごとにキャラクターの顔が違うのが気になって気になって仕方なかったんですよね(笑)。「すごくいい話なのに、先週と顔が違う!」って思いながら観たくないなと思ったのが、最初に作画を目指したきっかけです。
 ただ、実際に業界に入って内側を知った今は、顔がまったくぶれない最近のアニメには、逆に「どうして顔が変わらないの⁉」と思いますね(笑)。

――(笑)。谷野さんの中で、キャラクターデザインをするときのルーティーンはありますか?
 原作を読み込むのはもちろん、ほかにも、人気のイラストレーターさんの絵や、実写の映画、ドラマなど、今の流行をできるだけチェックするようにしています。あと、『ブルーサーマル』の場合は、原作の連載は少し前で小沢先生はその後も新しい作品を描いていらっしゃるので、そちらも読ませていただきました。小沢先生の今の絵のニュアンスや、「当時はこう描いていたけど、今ならこういうふうに描いているのかな」みたいな表現を吸収して、『ブルーサーマル』に逆輸入するようなつもりで。
 あとは、手癖で描くと、服のシワの描き方とかで何年代生まれだかわかったりするので、そういう概念の部分は常にアップデートして描けたらいいなと思っています。最近気づいたことなんですが、『美少女戦士セーラームーン』とかが流行った時代の少女向け作品って、中指と薬指をくっつけるような手の描き方をする人がめちゃくちゃ多かったんですよ。私もその傾向があって、『ブルーサーマル』でもメインの三人を描いていたときは手をそうやって描いていたんですが、その後「最近の作品ではそういう手の描き方を全然してない!」と気づきまして。ほかのキャラクターをデザインするときは気づいたら中指と薬指を離すようにしていました。

――手の描き方ひとつとっても、流行があるんですね……!
 アニメで指を全部動かすのって大変なので、指をくっつけて作業を減らしたいというのがあるんですよ。だから、当時はアニメの指南書とかにも「中指と薬指をくっつけて描こう」みたいなことが書いてあったのかもしれませんね。
 ただ、それが当たり前だと思いすぎると、気づかないうちに置いて行かれていたとなりかねないので、なるべく感覚を更新することを心がけたいといつも思っています。

――ありがとうございました! それでは最後に、映画『ブルーサーマル』の公開を待つ読者へメッセージを。
『ブルーサーマル』はとても清々しい気持ちになれる映画だと思います。今回、作品を作るにあたり、私も初めてグライダーを知って、体験搭乗をさせていただきました。たまきの初体験の気持ちを一緒に味わえると思いますので、ぜひ劇場に足を運んで観ていただけるとうれしいです。


『ブルーサーマル』には魅力的なキャラクターが多数登場する。グライダーというスポーツを通して「空」に恋した大学生らの青春物語をぜひ劇場で見届けよう

取材・執筆/後藤悠里奈

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アニメ映画『ブルーサーマル』
2022年3月4日(金)全国公開
出演:堀田真由 島﨑信長 榎木淳弥 小松未可子 小野大輔
   白石晴香 大地葉 村瀬歩 古川慎 高橋李依 八代拓 河西健吾 寺田農
原作:小沢かな『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』(新潮社バンチコミックス刊)
監督:橘正紀 脚本:橘正紀 高橋ナツコ
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:「ブルーサーマル」製作委員会
配給:東映

(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
(C)小沢かな/新潮社

《M.TOKU》

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