アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまでーー「第一回:立ち上げ」東映とテレコム・アニメーションフィルムがタッグを組んだ理由を両プロデューサーが語る | 超!アニメディア

アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまでーー「第一回:立ち上げ」東映とテレコム・アニメーションフィルムがタッグを組んだ理由を両プロデューサーが語る

アニメ映画『ブルーサーマル』の立ち上げから公開に至るまでの制作過程について、押切大機プロデューサーと諸澤昌男プロデューサーにインタビュー。

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「ブルーサーマル」 (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • 「ブルーサーマル」 (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • (左から)諸澤昌男プロデューサー、押切大機プロデューサー
  • 「ブルーサーマル」 (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • 「ブルーサーマル」 (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • 「ブルーサーマル」ポスタービジュアル (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会

 グライダーというスポーツを通して「空」に恋した大学生の青春物語を描くマンガ『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』。本作を原作としたアニメ映画が、2022年3月4日に公開される。編集部では、アニメ映画『ブルーサーマル』の立ち上げから公開に至るまでの制作過程について、各スタッフへインタビューを敢行。アニメ映画が完成していく過程と併せて、同映画の魅力に迫っていく。

 今回は零号試写(完成版を上映する初号試写の前段階となる、完成品に近い状態での試写)を終えたばかりの押切大機プロデューサー(東映)と諸澤昌男プロデューサー(テレコム・アニメーションフィルム)に直撃。同社がタッグを組んだ理由や、“空”への圧倒的なこだわりについてお話を聞いた。


(左から)諸澤昌男プロデューサー、押切大機プロデューサー【画像クリックでフォトギャラリーへ】

互いのやりたいことが合致したことで実現した初タッグ

――『ブルーサーマル』の企画は、押切Pが立ち上げたそうですね。

押切 そうです。そもそもの発端は、たまたまマンガ『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』を手に取ったことでした。主人公の女の子がまっすぐこっちを見ている(第1巻の)書影に直感的に惹かれ、読んでみたところ、空の爽やかさや開放感をすごく感じられて。これをアニメとして表現できたら面白いんじゃないかと思ったんです。また、弊社は映画を作る会社ですので、映画館の大スクリーンで、(主人公の)たまきたちと一緒に空を飛ぶ感覚をお客さんと共有したいという気持ちもありました。そこから本作の企画が動き出した形です。

――アニメーション制作をテレコム・アニメーションフィルム(以下、テレコム)に依頼した理由は?

押切 東映というとグループ会社の東映アニメーションをイメージされる方も多いと思いますが、今回は東映アニメーションと連携しつつ、「外部のプロダクションとタッグを組む」という新たな試みをやってみたい気持ちがありました。いろんな伝手を使ってさまざまなスタジオとお話するなかで、テレコムの浄園祐社長と出会ったんです。浄園さんは最初に企画書をお見せしたときから、全力でこの作品に向き合ってくださいました。「スタッフみんながやりがいを見出してくれそうな作品だから、ぜひともやりたいです」とおっしゃってくれて。それを聞いて、我々としてもぜひテレコムさんに作っていただきたいと思いました。

諸澤 弊社も“『ルパン三世』がメインのスタジオ”というイメージを脱却すべくどんどん新しいことに挑戦していこうと考えている時期に、ちょうどお話をいただいたんです。また、テレコムは「劇場作品を作る」という目標を掲げて設立したという歴史があるぶん、浄園は「劇場作品を作りたい」という思いを強く抱いていて。そんな背景もあって、興味を引かれたんですよね。

『ブルーサーマル』に光る、テレコムの強み

――両社のやりたいことがマッチした形だったんですね。そうしてタッグを組むことが決まり、制作にあたって東映からテレコムへオーダーしたことはありましたか?

押切 この作品は“空”がメインテーマかつ最大の特徴なので、そこを大切にしていただきたいということはお伝えしました。それを実際にどういうふうに描いていくかは、橘正紀監督はじめ、スタジオの皆さんと協議していった次第です。また、テレコムさんはアニメ作りを入口から出口まで担える環境をお持ちなので、ぜひ総力戦でやっていただきたいということですね。ただ、それについてはこちらからお願いする前に、その体制をテレコムさんはあらかじめ整えてくださっていました。

諸澤 弊社としても本作をやるうえで外せない要素だと思っていました。とくに空については、弊社もうちの美術を推していきたいという気持ちがあって。美術ってアニメのなかですごく重要な要素ですし、弊社の美術は他社からも評価を受けてきたので、この作品でもそこは活かしていきたいなと思っていました。

――公開中の本作のPVでも、テレコムの美術の魅力が光っていますね。

諸澤 ご覧になった方の中には「写真じゃないのか?」と思った人もいるかもしれませんが、違うんですよ(笑)。最近のアニメーションでは写真を加工した背景が使われることも少なくないですが、そうではなく、ちゃんと一枚一枚描いています。美術監督の山子泰弘をはじめとする美術スタッフのこだわりを、ぜひとも注目していただきたいですね。

押切 あげていただく美術ボードがどれもすばらしくて。空の開放感はもちろん、草花や河川敷の青々しさ、部室や訓練場に残る汗の匂い……それらが絵から伝わってくるような、自分がその場所に入っていったような、そんな感覚になりました。

――美しい空を翔けるグライダーが、3Dではなく作画で描かれている点も印象的です。

諸澤 グライダーは最初に3DCGモデルを作ってモーションを作り、その後、それをもとに線画を起こしていくという作業をしています。昨今のアニメでは乗り物は3Dで描くことがほとんどなので、僕としては本作も3Dでやると思っていたんですが、コンテが上がったタイミングで「グライダーは手描きで表現したい」と橘監督からお願いされまして。「え⁉」となりました(笑)。そのときは「CGモデルも使わずにすべて手描きにする」と言っていたのですが、「それはさすがに難しい」ということで、まずはモデルを作ることになったんです。
 とはいえ、グライダーがどう飛ぶかをスタッフみんな知らないので、モデルやモーションを作るのも一苦労でしたね。大学の航空部の合宿にお邪魔して、取材させていただき、さらに、グライダーを動かすためには背景もかなり広範囲を描く必要があって。背景素材も、事前に3Dモデルを組む「3Dレイアウト」を作っています。そこにグライダーを置いていくという作業が尋常じゃなく大変でした。
 ただ、そのぶんグライダーの気持ちよさを伝えられる仕上がりになっていると思います。乗り物をCGで作ると、どうしてもカチッとしすぎてどこか味気なくなってしまうんですよ。手描きにしたことで面白い表現ができていたと、仕上がりを観て感じましたね。

押切 橘監督のなかには早い段階で、「グライダーもひとつのキャラクターとして、親しみが持てるように描きたい」という考えがあったようです。最初はみんな「どういうことだろう……?」と思っていましたが(笑)、画ができあがってきた段階で「監督がやりたかったのはこういうことか」と納得しました。

アニメーターたちの腕が光るキャラクター芝居

――それでは逆に、スタッフィングなどでテレコム側から希望を出したことはありますか?

諸澤 弊社から希望を出したというわけではないですが、キャラクターデザインのコンペで弊社在籍の谷野美穂を選んでいただけたのはありがたかったです。おかげで作業もやりやすかったですし、チームとしてもうまく機能したと思います。

押切 コンペでは、たまき、倉持、空知の引きとアップの画を描いていただいて。谷野さんが描かれたたまきがすごく印象的だったんです。「こんな表情を描いてほしい」というオーダーはしていなかったのですが、谷野さんは、グライダーで飛んだときの感動した表情を描いてくださいました。「空を飛ぶ爽快感をこの作品で描きたい」という我々のやりたいことに共感してくれている感じがしましたし、たまきたちが動き出す姿をすごくイメージしやすかったです。

――実際に動いたキャラクターたちをご覧になって、いかがですか?

押切 谷野さんのキャラクターデザインは、原作が持つ柔らかくかわいらしい雰囲気を踏襲しつつ、キャラクターそれぞれの個性をアニメとして引き出してくれていると感じました。かわいかったり、かっこよかったり、渋いオーラを放っていたり、「学生時代にこういうやついたな」と思えるような人もいて。すごく親しみを持てる感じにしてくださったと思いますね。そして、アニメーター陣にも、テレコムさんが誇るレジェンドが参加されていて。細かな動きもすごく楽しくしていただいています。

――レジェンド、と言いますと?

諸澤 全国大会パートでたくさんのキャラクターが駆けていくシーンがあるんですが、そこは『ルパン三世 カリオストロの城』でカーチェイスシーンを担当したアニメーターの友永和秀という者が担当しています。演出の指示を面白く膨らませて動かしていて、さすがだと思いましたね。また、新人戦パートでは矢野雄一郎という者が絵コンテ、演出を担当しています。(テレコムが制作し、1988年に完成した日米合作映画の)『NEMO/ニモ』にも参加したかなりのベテランなので、今回も抑えるべきキャラ芝居をしっかりと抑えた演出をしてくれました。 
 基本的に彼らはみんな、何も言わないと勝手にどんどんキャラクターを動かしちゃうんですよ(笑)。TV作品だと原画枚数に制限があるものですが、今回は劇場版ということで、思う存分その腕を発揮してくれました。

――零号試写を観ての感想を教えてください。

押切 この企画を立ち上げて6年くらい経ちますが、色が付いたたまきたちにようやく会えたという喜びがありました。まだ零号なので、ここからよりよい状態で皆さんにお届けできるよう、テレコムさんや橘監督と意見交換しながら、完成まで持っていきたいなと思います。

諸澤 僕は改めて、たまきの声が堀田真由さんですごくよかったなと思いました。ナチュラルなお芝居がすごくたまきの魅力を引き出してくれたな、と。あとは海田庄吾さんの音楽も印象的でしたね。通常、アニメの音楽は「こういう曲がほしいです」というメニューをお渡しして作っていただくんですが、今回、海田さんは映像に合わせて曲を作ってくださったおかげで、それぞれのシーンがよりマッチする仕上がりとなって、楽曲が物語をより盛り上げてくれたと思います。SHE’Sさんの主題歌・挿入歌もすごくよかったですし、音楽とセリフが合っているのも魅力になったと思いますね。
 あと、効果音もすごかったです。音響効果の小山恭正さんにもロケハンのときに実際にグライダーに乗っていただいたんですが、そのときに音を録音していたそうで。「(実際の音を)そのまま使っているんですよ」と言っていたのが印象的でした。

――細部までこだわりにあふれた作品になっていそうですね。では最後に、読者へ向けて本作の見どころを教えてください。

押切 本作はたまきが空を飛ぶ感動から物語が始まり、登場人物たちがブルーサーマルに乗って上昇するように、上を向く姿が描かれていきます。橘監督も、「観た人の背中を優しく押してあげられるような話にしたいよね」とおっしゃっていました。そんなメッセージをうまく伝えられればいいなと思っています。たまきや仲間たちと一緒に空を飛ぶ感動を味わえるような作品ですので、ぜひ劇場の大スクリーンでご覧ください。

諸澤 今回は空が舞台ということで、アニメーションとして描かれる空のかっこよさ、爽快感、壮大さは観ていただきたい部分です。そして、たまきたちが生き生きと動く姿、少しずつ成長していくところも観てほしいですね。たまきたちが“ちゃんと生きている”ということが感じていただけたらうれしく思います。

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取材・執筆/後藤悠里奈

アニメ映画『ブルーサーマル』
2022年3月4日(金)全国公開
出演:堀田真由 島﨑信長 榎木淳弥 小松未可子 小野大輔
   白石晴香 大地葉 村瀬歩 古川慎 高橋李依 八代拓 河西健吾 寺田農
原作:小沢かな『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』(新潮社バンチコミックス刊)
監督:橘正紀 脚本:橘正紀 高橋ナツコ
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:「ブルーサーマル」製作委員会
配給:東映

(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会

《M.TOKU》
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