アニメの監督が考える業界の課題点とは? アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまでー「第八回:監督」 | 超!アニメディア

アニメの監督が考える業界の課題点とは? アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまでー「第八回:監督」

 映画『ブルーサーマル』が作られる過程をお届けする連載企画第八回。今回は監督・脚本を務める橘正紀さんにインタビュー。

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『ブルーサーマル』場面カット (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • 『ブルーサーマル』場面カット (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
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  • 「ブルーサーマル」ポスタービジュアル (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会

 映画『ブルーサーマル』の制作裏側に密着し、アニメ映画が出来上がるまでの過程を追った本連載もついに最終回。ラストを飾るのは、本作で監督・脚本を務める橘正紀さん。

 アニメ作品を作る最高責任者ともいえる監督。しかし、どんなことを考えながら作業しているのか、というのは意外と知らないもの。『ブルーサーマル』の注目シーンを例に、橘監督の演出&監督論を語ってもらった。なお、本記事には『ブルーサーマル』のラストの展開について触れた個所もある。また映画を観ていない人は、ぜひ映画館へ足を運んでからご一読を!


映画『ブルーサーマル』制作の裏側に迫る【画像クリックでフォトギャラリーへ】

作品の軸をどこに据え、視聴者にどう共感してもらうか

――映画『ブルーサーマル』はどうやって作っていかれたのでしょうか?
 実はもともとはTVシリーズというお話があったんです。そこから紆余曲折あり映画という形に決まったので、まずは(脚本の高橋)ナツコさんと相談しながら、原作の物語をどうやって映画の尺に収めるかを考えることから始まりました。90分前後の尺の中にコミックス5巻分の物語を全部収めることは到底できません。どのエピソードを盛り込み、どこを落として、どういう物語として一本の映画にするのか、まず僕のほうで選定し、そこからシナリオを作っていきました。
 僕は原作を読んで、この作品は「たまきが自分の能力で居場所を見つけていく物語」だと感じました。だから、映画でもそれを軸として、たまきを中心とした物語にしようということは最初に決めていましたね。そのうえで、たまきをどういうふうに見せていくのか。たまきって倉持と空知の二人の男子と仲良くなるキャラクターなので、描き方を一歩間違えると八方美人な子に見えてしまう可能性があるんですよね。たまきが同性から嫌われるキャラクターにならないようにしつつ、「この子を中心にどんな物語が始まるんだろう?」と視聴者に興味を持ってもらう要素を足しながら、物語を構築していきました。


たまきは倉持と空知との会話が多いが、決して八方美人ではない

――まず「映画の軸を何にするか」を構築するところから、アニメ監督の仕事になるんですね。
 そうですね。ただ、これは誰か師匠から直接教えてもらったというではないんです。僕は、Production I.G.で『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』という作品に参加したときに(監督・脚本の)神山健治さんのシナリオの作り方を見ていまして。神山さんはコンテの打ち合わせのときに「このパートでは何を見せたいか」という軸を説明してくれるんですよ。そうしてもらったことで僕自身コンテが書きやすかったですし、TVシリーズ1話20分の中で起承転結をつけやすいと感じました。神山さんは(『攻殻機動隊』の監督を務めた)押井守さんがやられていた「押井塾」で「シナリオは構造が大事だ」とずっと教えられていたそうです。僕は「押井塾」に参加したわけではないんですが、神山さんを見てそのやり方を学んだという感じですね。
 ただ、こういう監督や演出のロジック、手練手管みたいなものを教えてくれる場所って、実はあまりないんですよね。自分で学んでいかないと身につかないので、中には誰からも教わることがないまま、演出や監督になる人もけっこういたりして。個人的には、これはアニメ業界のなんとかしなくてはいけない点だと思っています。

――そうなんですね⁉ それは少し意外でした。
 コンテの書き方や演出の見せ方も、実はきちんと文法があるんですよね。例えば、キャラクターをどアップにすると観る人はそのキャラクターの内面を意識するし、逆に引いた画角にすると「ポツンとして寂しそう」という印象を受けたりします。
 物語って、「何か事件があって落ち込む→事件を乗り越え前進する」というところにドラマが生まれるじゃないですか。でも、それを何で表現するかは決まっていないから、そこは描く人・作る人の“経験”によるんですよね。「食べるのを楽しみにしていた飴玉を落としてしまって落ち込む」みたいな、自分の身に起きた出来事を、ほかの人にも共感してもらい、そこから物語を転がすにはどうしたらいいか。10人いたら、10通りのものが出てくるはずなんです。
 そして、それをどう描くことで、視聴者の方にどう共感してもらうのかというのは、演出それぞれの持ち味になってくる。そういうロジックの使い方を多くの人が学べる場があれば、よりたくさんの面白い作品が生まれるんじゃないかな、と。おこがましいですけど、自分が何か残せるものを作れたらいいなと考えているところです。

――なるほど……。映画『ブルーサーマル』の物語も、「事件が起こって落ち込む→乗り越えて前進する」の連続ですよね。共感を得るために、橘監督が特に意識したポイントは?
 たまきの核となる気持ちがどこにあるのかということをまず固めていきました。たまきって、父親から存在を否定され、両親は離婚し、お姉ちゃんからも嫌われて……という悲しい家庭環境で育っていて。さらに、高校では告白する前に失恋してしまい、自分の居場所がなかった子なんですよね。ずっと否定されてきたから、新しい場所で新しい人生を始めようというところから大学生活をスタートしています。大学でもやっぱり嫌なことは起こるけど、へこたれずに前を向こうとしていて、でも本当は傷ついていて。それがふとしたときにチクッと来てしまうことがある。
 ……と、そういう、たまきの“感情の波”や”感情の線の繋がり“みたいなものは、非常に意識して作っています。先ほど「どのエピソードを盛り込むか、まず僕のほうで選定した」と言いましたが、観た方の共感を得るために、まずは僕自身が特に共感できるエピソードを原作から抜き取り、たまきの芝居やしぐさに繋げていった感じです。


訳あって妹のたまきを嫌っている姉の矢野ちづる

――ラストシーンは、原作とは大きく異なる展開となっていました。
 脚本会議のときに、原作の小沢かな先生や脚本の高橋ナツコさんとも話し合い、「映画として観終わった時に気持ちいいラストにしよう」ということになりました。ラストの展開は、最後まですごく悩んだ部分です。尺とも戦いながら、原作のほかのシーンのセリフも持ってきつつ、スケジュールギリギリで何とか形に収まりました。
 実はDパートは、アフレコが終わったあとにもコンテを直しています。大筋は変わっていないんですけど、たまきと倉持の会話のストロークを変えたり。どうやったら唐突に見えないようか、かなりいろいろと模索しました。そういう部分は映画を作る難しさですけど、なんとか形にできてよかったと思います。

――ラストシーンは、どうやって今の形になったのですか?
 初めのほうに倉持がある目標を掲げるじゃないですか。それがずっとたまきに影響しているんですよね。そういう倉持が発した言葉が、全部たまきの中に残っていて、それを信じて行動したから、上昇気流を捕まえることができたのだと繋がるように、と考えながら作っていました。
 僕は作品を作るときに、最初に芯になる部分を決めるんですよ。3行ぐらいで、この作品はどんな物語なのか、と。『ブルーサーマル』の場合は、「たまきが自分の居場所を見つけて、みんなを救ってくれる映画」。たまきの一生懸命な姿が、ほかの悩みを抱える人たちを前に向かせるという物語であり、同じことが映画を観てくれた方たちに対してもできたらいいなと思っています。


たまきの一生懸命な姿を見れば、前に進むことができるかもしれない

テレコム・アニメーションフィルムの強みは感情の伝わる動きや表情付け

――本作を作る中で、橘監督が感じたテレコム・アニメーションフィルムの強みを教えてください。
 感情の伝わるキャラクターの動きや表情付けが、非常にうまいと思いました。今回、『ルパン三世 カリオストロの城』にも参加された友永和秀さんや道籏義宣さんといったベテランも参加してくださって。たまきがグライダーに体験搭乗するシーンや、キャラクターたちが大勢でワーッと盛り上がるシーンなどをやってくださっているんです。表情の芝居を絵コンテからすごく膨らませて描いてくれて、とてもうれしかったですね。キャラクターが感情を出して騒ぐ様子って、アニメーションで一番動かしていて楽しい部分なんですよ。そこを遊んで描いてもらったのがよかったです。大塚康生さんや宮崎駿さんから連綿とテレコム・アニメーションフィルムに受け継がれている流れが、『ブルーサーマル』にも表れていると感じます。

――ちなみに、橘監督がアニメ業界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?
 僕は子どものころから映画に興味を持っていたので、最終的には映画監督をやりたいと思っていたんですね。それで、映画を作る人になるにはどういうルートで行ったらいいのか、学生の頃からずっと考えていました。大友克洋さんみたいに自分で作った漫画を自分で映画にできたら映画監督になれるなと思って、漫画の持ち込みをしていたこともあるんです。実写かアニメかにはこだわりはなかったんですが、たまたま運良く東映アニメーションに入ることができ、そこでアニメ業界に入ったという感じですね。
 当時、東映アニメーションには「演出試験」という制度があって、結果がよければ1年目でも演出家になれると言われていたんですけど、残念ながら僕が入ったころにはその制度は凍結されていました(笑)。

――アニメ監督をやっていて、達成感を感じるのはどんなときですか?
 やっぱり、作品が出来上がったときが一番安心しますし、「やった!」という気持ちになりますね。作っている最中にも、いくつか達成感を感じる瞬間はあって。僕は自分で絵を描くタイプなので、レイアウトのときに絵を直したりすることもあるんですが、それでアクションがうまくいったときはうれしいですね。以前、P.A.WORKS社長の堀川憲司さんにその話をしたときは「それはアニメーターの感覚だよ」と笑われましたけど(笑)。
 あとは、やっぱり役者さんが声を入れた瞬間。作品がガラッと変わりますよね。僕が思っていたのとは違うアプローチをしてもらったことで、もっと魂がこもるということもあって。自分の発想にはなかった発見があるのは面白いです。また、役者さんに「このキャラクターはこういうバックボーンがあって、こういうことを考えているんです」と説明したときに、「なるほど」と言ってもらえたときも、わかってもらえてよかったなと思います。そう言ってもらえたということは、共感を得られたということだと思うので。そうしてキャラクターが出来上がっていくのは、アニメ監督をしていて楽しいと感じる瞬間ですね。

――ありがとうございました! 最後に読者へメッセージを。
 映画『ブルーサーマル』は、観たあとに元気になれるような作品になるといいなと思いながら作りました。たまきの元気さや純粋さに共感し、さわやかな気持ちで劇場を出てもらえたらとてもうれしく思います。


「たまきが自分の居場所を見つけて、みんなを救ってくれる映画」をぜひ映画館でご覧いただきたい

取材・執筆/後藤悠里奈

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アニメ映画『ブルーサーマル』
2022年3月4日より全国公開中
出演:堀田真由 島﨑信長 榎木淳弥 小松未可子 小野大輔
   白石晴香 大地葉 村瀬歩 古川慎 高橋李依 八代拓 河西健吾 寺田農
原作:小沢かな『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』(新潮社バンチコミックス刊)
監督:橘正紀 脚本:橘正紀 高橋ナツコ
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:「ブルーサーマル」製作委員会
配給:東映

(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会

《M.TOKU》

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