アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまで――「第四回:スタジオ潜入(2)」3Dレイアウトってどういう作業!? | 超!アニメディア

アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまで――「第四回:スタジオ潜入(2)」3Dレイアウトってどういう作業!?

アニメ映画『ブルーサーマル』制作の裏側に迫る本連載。今回は、3Dレイアウト作業について紹介!

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  • 「ブルーサーマル」場面カット(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
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 アニメ映画『ブルーサーマル』制作の裏側を覗く本連載。第四回は前回に引き続き、テレコム・アニメーションフィルムに潜入した模様をお届け。今回は、背景美術制作の裏側に密着! いくつかの工程があるなかで、まずは縁の下の力持ち的存在「3Dレイアウト」について紹介しよう。

背景美術はアニメーションにおいて重要な要素!

 そもそもアニメーションにおける背景美術は「画面全体の約7割を占めることも多い」といわれる重要な要素。ときには写真と見紛うほどのリアルな描写で観客に臨場感を味わわせ、またあるときは非現実な描写で視聴者をファンタジー世界に誘う。そして、明るさや色合い、天気、影などでキャラクターの心情をセリフ以上に詳しく説明する役割も果たす。つまり、作品の世界観を構築する基盤であり、感情の動きを際立たせる“演出係”にもなっているのだ。

 そんな背景美術について、テレコム・アニメーションフィルム(以下、「テレコム・アニメーション」)は高い技術力で業界内から評価されている。3月4日公開のアニメーション映画『ブルーサーマル』でも、主人公たちが飛ぶ空の美しい描写などでその強みを存分に発揮している。今回は、そんなテレコム・アニメーションの背景美術の制作過程を直撃した。


作業工程のおさらい。今回はレイアウトの作業部分で行われる「3Dレイアウト」について紹介する【画像クリックでフォトギャラリーへ】

テレコム美術の強みは高い画力と正確性

 テレコム・アニメーションフィルムの美術の魅力は、第一にその画力の高さが挙げられる。同スタジオがこれまで数々の作品を繊細かつ美麗な背景美術で彩ってきた実績は、「アニメ制作の名門!『ルパン三世 カリオストロの城』『つくもがみ貸します』『閃光のハサウェイ』などに携わったテレコム・アニメーションフィルムの歴史と魅力」でも紹介した通り。

 そしてそれに加えてもうひとつ。正確性という点も特筆すべき強みといえるだろう。シーンによる齟齬がなく、違和感を抱かせない整合性のとれた描写が、観客を世界観に引き込む大きな力になっているのだ。

 例えば、頭の中で好きなキャラクターの部屋を想像してみてほしい。もし、あるシーンでは扉の右手側にキャビネットがあったのに、別なシーンではそれが左手側に移動していたら、あなたはどう思うだろうか? あるシーンでシングルサイズのベッドだったものが、アングルが変わったら突然キングサイズになっていたら? たとえどんなに丁寧に、精巧に描かれていたとしても、そこが気になって作品世界から一気に現実に引き戻されてしまうことだろう。

 これはあくまでも極端な例ではあるが、「シーンやアングルが変わっても整合性が保たれていること」は背景美術にとって大切な要素である。しかし、たくさんの作業者が関わって作っていくアニメーションでは、その整合性を保つのは、実は非常に難しいのだ。

背景美術の土台を作る「3Dレイアウト」とは?

 では、なぜテレコム・アニメーションが手掛ける美術は正確で、業界内外から評価されているのか。その正確性の裏側には、「3Dレイアウト」という工程がある。

「レイアウト」とは背景の構図やキャラクターの立ち位置などを示す設計図のことだが、3Dレイアウトは、名前の通りそのレイアウトを3Dモデルで作ること。作中に登場する場所、例えばキャラクターの部屋や部室、『ブルーサーマル』でいえばグライダーの滑空場や航空部が宿泊する訓練場などの模型を3Dモデルで作り、そのモデルを使って各シーンの構図を決定。それを下地として、美術スタッフが背景を描いていく。

 近年テレコム・アニメーションフィルムが手掛けた作品では、ほぼすべて3Dレイアウトが採用されているという。

 筆者は当初、「せっかく3Dモデルを作るのにそれを直接アニメ本編で使うわけではないなんて、なんだかもったいない……!」という驚きを抱いた。しかし、3Dレイアウトは作品全体の作業効率とクオリティの向上に大きく関わる重要な役割を担っているのだという。例えば、レイアウトを手描きで作成するとなると、同じ部屋を100以上のアングルで何パターンも描くなど、膨大な作業が発生する。一方で、3Dレイアウトなら1回モデルを作ったらカメラアングルは自在に変更が可能だ。また、手描きの場合は複数の作業者がかかわるために「部屋の広さがアングルごとに微妙に違う」といった齟齬が生まれがちなのに対し、3Dレイアウトならばその心配は無用。これにより、作画監督や美術監督の修正作業も大幅に軽減される。まさに、3Dレイアウトは“縁の下の力持ち”的な工程なのである!

 実際に、『ブルーサーマル』の3Dレイアウトチェックの様子を見学させてもらった。3Dレイアウトチェックは基本的に、3Dレイアウトを担当する宮川淳子さんと副監督の土屋康郎さん、3Dレイアウト制作進行の宮前美希さん、該当パートの演出担当者と制作担当者というメンバーで行われる。


3Dレイアウトチェックの様子。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、現在はリモート打ち合わせがメイン。

 レイアウトチェックの工程は、事前に宮川さんが提出していた画像を土屋副監督や演出担当が確認しておき、打ち合わせ当日それぞれの考えをすり合わせ。宮川さんが「3ds Max」というソフトを使用して3Dモデルのカメラを動かし、演出意図に沿うようなアングルを調整していく。例えば、演出の方が「キャラクターの孤独感を演出したい」という意図を伝えたら、カメラを引き、キャラクターがぽつんとその場にいるように見えるアングルにする、といった感じだ。そうやって意見を重ねながら、各シーンのレイアウトを確定させていく。

 通常、3Dレイアウトは画像のみでやり取りをすることも多いが、テレコム・アニメーションでは演出意図をよりしっかりと伝えるために直接意見を交わす打ち合わせの場を毎回設けているのだという。


カメラを動かすことは、実際のカメラのレンズをズームインしたり、アウトしたりするイメージ。例えばこのシーンであれば、グライダーにもっと寄ったアングルにすることも可能。広い空を映すか、グライダーの寄りにするかでシーンの印象は大きく変わる


『ブルーサーマル』ではキャラクターの身長表もレイアウト時に用意。各場面で身長の齟齬がないようにしている

 こうして作られた3Dレイアウトをベースとして美術スタッフが背景を描いていくわけだが、そのまま一気に全作業を進めるというわけではない。次回の連載では、美術スタッフの指針となる「美術ボード」について、美術監督の山子泰弘さんと橘正紀監督の打ち合わせの様子と合わせて紹介。また、作画における最後の砦となる総作画監督の仕事についても迫る。


この美しい空を生み出す工程をさらに追っていく!

執筆/後藤悠里奈

連載「第六回:キャラクターデザイン」谷野美穂さんインタビューを読む
連載「第五回:スタジオ潜入(3)」美術・総作画監督の作業について知る
連載「第三回:スタジオ潜入」テレコム・アニメーションの仕事場を見る
連載「第二回:アフレコ」アフレコ現場潜入レポートを読む
連載「第一回:立ち上げ」プロデューサー対談を読む
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アニメ映画『ブルーサーマル』
2022年3月4日(金)全国公開
出演:堀田真由 島﨑信長 榎木淳弥 小松未可子 小野大輔
   白石晴香 大地葉 村瀬歩 古川慎 高橋李依 八代拓 河西健吾 寺田農
原作:小沢かな『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』(新潮社バンチコミックス刊)
監督:橘正紀 脚本:橘正紀 高橋ナツコ
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:「ブルーサーマル」製作委員会
配給:東映

(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会

《M.TOKU》
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