アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまでーー「第二回:アフレコ」堀田真由の芝居の魅力は「声優の“型”にハマらないありのまま感」 | 超!アニメディア

アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまでーー「第二回:アフレコ」堀田真由の芝居の魅力は「声優の“型”にハマらないありのまま感」

アニメ映画『ブルーサーマル』のアフレコは2021年6月に5日間にわたって行われた。当日の現場の様子と、アフレコを終えた直後の堀田真由さん・島﨑信長さん・榎木淳弥さんの座談会インタビューを紹介する。

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(左から)島﨑信長・堀田真由・榎木淳弥
  • (左から)島﨑信長・堀田真由・榎木淳弥
  • アフレコ時の様子
  • 都留たまき役・堀田真由  (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会 
  • 倉持潤役・島﨑信長  (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • 空知大介役・榎木淳弥  (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
  • 「ブルーサーマル」ポスタービジュアル (C)2022「ブルーサーマル」製作委員会

 風に乗って空を飛ぶ航空機・グライダーに青春を懸ける大学生たちの姿を描く、映画『ブルーサーマル』。編集部ではその制作の裏側に密着。アニメ映画が出来上がる過程と、本作の魅力に迫る記事を連載中だ。

 連載第二回となる今回は、アフレコ現場に潜入。現場でのやり取りの様子や、メインキャストのアフレコ後インタビューの模様をお届けする。


アフレコ時の様子(左から島﨑信長、堀田真由、榎木淳弥【画像クリックでフォトギャラリーへ】

堀田さんの芝居に刺激を受けました

 アニメーションのアフレコは、通常、出演キャスト全員が一堂に会し、掛け合いをしながら進められる。だが、新型コロナウイルス感染症が拡大する昨今は、収録ブースが“密”になってしまうこのやり方を行うことができない。そのため近年では、作中で絡みのあるキャラクターごとにキャストを少人数ずつグループ分けし、現場が“密”にならないように調整しつつ、掛け合いの芝居を行う「分散収録」が主流になっている。

『ブルーサーマル』でも、そうやってアフレコが進められていた。

 収録日程は計5日間。主人公・都留たまきを演じる堀田真由さんはアフレコの大部分に参加し、周りを固めるキャストが日ごとに入れ替わるというやり方だ。収録2日目には、堀田さんに加え、倉持潤役の島﨑信長さん、空知大介役の榎木淳弥さんが参加。橘正紀監督や山口貴之音響監督、そして原作者の小沢かなさんをはじめとしたスタッフ陣がコントロールブースで見守るなか、物語の主軸を担うたまき・倉持・空知に命が吹き込まれていった。


都留たまき(CV=堀田真由)青凪大学航空部1年。通称・つるたま。サークル活動や恋愛など普通のキャンパスライフに憧れ、長崎から上京したが、ひょんなことから航空部へ入部することに。天真爛漫な性格で、ムードメーカー的存在。

 記者が見学したなかで特に印象に残ったのは、たまきと空知の掛け合いのシーンだ。空知は、倉持を尊敬するがあまりたまきに突っかかってしまうという、不器用なキャラクター。たまきに対するちょっとトゲのあるセリフを、榎木さんが愛嬌たっぷりに熱演する。聞いていたスタッフ陣からは、思わず笑いがこぼれていた。

 本作が声優初挑戦の堀田さんも、そんな榎木さんの芝居を受けて緊張がほぐれたようだ。実写の芝居で培ったナチュラルな芝居で、空知のセリフに一喜一憂するたまきを感情表現豊かに演じ上げていく。そんな堀田さんの芝居には、榎木さんや島﨑さんも影響を受けた部分は大きかったようだ。のちのインタビューで二人は口をそろえて「刺激になりました」と語っている。たまきと空知の掛け合いでは、それぞれのよさが相乗効果となって乗り、ケンカをしつつもなんだかじゃれ合っているような、たまきたちの等身大の距離感が見事に表れていた。


空知大介(CV=榎木淳弥)青凪大学航空部2年。エースの倉持を心の底から敬愛している。1年生の養成担当となるも、つるたまとはケンカばかり。不器用で自分の気持ちに素直になれない。

 これには橘監督や山口音響監督も「いいね!」と大絶賛。アドリブ芝居が尺からこぼれてしまった部分に関しても、通常であればリテイクになるのだが、「映像に合わせようとするとこの面白さが抜けてしまうので、このままセリフを活かして映像のほうを調整しましょう」と話していた。また、島﨑さんのセリフひと言ひと言に対するこだわりが随所に光っていたのも印象深い。

 倉持は天才的なグライダー技術を持つ航空部のエースという役どころでもあるので、島﨑さんは「翼」や「サーマル」、「バラスト」といったグライダー用語のアクセントを丁寧に確認しながら、倉持のセリフに説得力を持たせていく。台本に書かれた「平均時速」というセリフについては、「原作では『スピード』とルビが振ってありましたけど、セリフとしては『へいきんじそく』で読みますか?」と質問。そんな島﨑さんの原作に対する読み込みの深さに、堀田さんや原作者の小沢さんも驚かされた様子だった。


倉持潤(CV=島﨑信長)青凪大学航空部4年/主将。グライダー操縦の天才で絶対的エース。つるたまを航空部に迎え入れ、目をかける。選手の羨望の的であるが、誰にも言えない悩みを抱えている。

 その後も収録は和やかに進行。この日終日をかけて、三人のアフレコは終了した。それぞれのよさが光る芝居の全容は、ぜひスクリーンでチェックしてほしい!

アフレコを終えたばかりの3人にインタビュー!

——初めて三人揃ってアフレコをされた感想を教えてください。
島﨑
 率直に、楽しかったです。ほかの現場ではあまりないことなんですが、『ブルーサーマル』では事前にキャストが集まって台本の読み合わせをしていて。そのときに堀田さんや榎木くんと芝居の雰囲気やお互いの人物像を確認し合っていたこともあって、今日は安心して臨むことができました。

堀田 三人でお会いするのは今日が二度目だったんですが、私も読み合わせでお会いしていたおかげで緊張せずに取り組めました。特に、コミカルなシーンを一緒に演じたことでグッと距離が縮まった気がします。

島﨑 そうですね。今日は、初めに僕が演じる倉持と堀田さんが演じるたまきだけのシーンを二人で録って、そのあとに榎木くんが合流したんですが、倉持とたまきのシーンはシリアスな場面が多かったんですよ。そんな映像の空気もあって最初は少し気を張っていたのですが、榎木くん演じる空知が加わったことで一気に明るい雰囲気になりました。空知はこの作品のコメディ部分を担っている子かもしれないですね(笑)。

榎木 確かに、空知はすごくいいキャラですよね(笑)。休憩中には三人で、それぞれの業界の話をして盛り上がりました。堀田さんから映像業界と声優業界の現場の違いを教えてもらったりして、それもすごく面白かったです。

——一緒にアフレコされて、お互いのお芝居に刺激を受けた部分はありましたか?
榎木
 たくさんありました。信長くんとはこれまでも一緒にお仕事をしたことがありましたけど、今日は読み合わせのときから確実に芝居を変えてきていて。僕も信長くんも、より堀田さんのお芝居が持つ空気感を意識しながらやっていたと思います。

島﨑 僕も、榎木くんのお芝居に、読み合わせのときよりもさらに挑戦しているなと感じました。倉持はたまきの先輩かつ教官という立ち位置だけど、空知はもっと距離が近くて、学年は先輩とはいえ、たまきと対等に言い合う関係性だから、榎木くんは僕よりもさらに堀田さんのお芝居を意識していたんじゃない?

榎木 実は事前に堀田さんのことをめちゃくちゃ研究してから、今日のアフレコに臨みました。

堀田 そうだったんですか⁉(笑)。

島﨑 (笑)。そんな感じで、僕ら二人とも、堀田さんからたくさん影響を受けていましたね。

榎木 お芝居のパターンが、やっぱり僕らとは違うんですよ。声優の芝居は“声優の型”みたいなものがあるんですけど、堀田さんはその型にハマらないので、発声や言い回しがすごく自然体で。「こういうふうにやると、こう聴こえるんだ」と、すごく刺激になりました。

島﨑 声優としての仕事に慣れてくると、“声優としての文法”が知らず知らずのうちに備わってくるんです。もちろんそれも大切なものなんですが、堀田さんの場合はその“文法”に染まっていないからこそ、僕らからは出てこない、より新鮮な発想や表現をされていると感じましたね。

堀田 ありがとうございます。私は逆に、そういった声優としての技術がないので、皆さんのスピードの速さにすごく刺激を受けました。スタッフの方が「こういうニュアンスでお願いします」とおっしゃると、一発でそれに対応されていて。「すごいなぁ~!」と感動しながら眺めていましたね。

島﨑 もしかしたら、それも声優の特徴かもしれないですね。言われてすぐに対応する力、瞬発力みたいなものが求められるといいますか。

榎木 経験を重ねると、だんだんと“OKが出る芝居”がわかるようになってくるんですよね。「きっとこういうのが求められているんだろうな」みたいな。でも、それだとやっぱり“型”にハマったお芝居になってしまう。今回は堀田さんのお芝居に刺激されて、「たぶんこうすればOKが出るだろうけど、それでは面白くないから、もう少し違う方法でやってみよう!」ということも考えたりしていました。

堀田 そうなんですね! あと、お二人の原作に関するリスペクトが素晴らしいなと感じていて。信長さんが、セリフのなかに出てきた「平均時速」という言葉にも「原作では『スピード』とルビが振ってありましたけど、セリフとしては『へいきんじそく』で読みますか?」と丁寧に確認されていて、原作を読み込まれているからこそ言えることだなと感じたんです。榎木さんも、アフレコ前に「映像はもう頭に入ってます」とおっしゃっていて。念入りに準備されていて、さすがだなと思いました。

——堀田さんは、前日にもお一人のシーンなどのアフレコをされていたそうですね。本日、お二人と同じ空間でアフレコをされてみて、一人でアフレコしたときと違いを感じた部分はありましたか?
堀田
 私は今作が声優初挑戦だったこともあって、どんな球を投げても全部拾ってくださる島﨑さん、榎木さんが両側にいてくださるのは、本当に頼もしかったです。一緒にやらせていただくと、できないなりにも、自分もうまくなったような気がするといいますか(笑)。あと、お二人が先ほどおっしゃっていたお話とも通じるものがありますが、私もプロの声優さんと一緒にやらせていただいたことで、普段の実写のお仕事とは違うお芝居の雰囲気を実感することができて、とても学びになりました。

——島﨑さんと榎木さんからご覧になって、声優としての堀田さんの魅力はいかがでしたか?
島﨑
 そもそも素敵な役者さんですが、声の表現をする素質も素晴らしいと感じましたね。このままの感性や感覚を持ちつつ、これからもいっぱい声優の仕事に挑戦してほしいですし、機会があればまたご一緒できたらうれしいなと思います。

榎木 堀田さんのお芝居は、「“声優の型”にハマらないからこそのありのまま感」がすごく素敵で。僕もそういうありのままな雰囲気が出せるお芝居を身に着けたいと感じましたし、学ぶところが多くありました。そんな堀田さんの魅力そのままの方向性で、これからもまっすぐと進んでいってほしいですね。……って、なんだか偉そうになっちゃったな(笑)。

堀田 いえいえ! 素敵なお言葉、ありがとうございます!

——橘正紀監督やスタッフの方からのディレクションで、特に印象的だったことはありますか?
島﨑
 声優の現場では通常、音響監督さんを介してディレクションをいただくんですけど、今回、倉持のセリフで一か所、橘監督が直接ディレクションをしてくれた部分があるんです。重要なシーンなのでまだ詳しくは言えないんですが、それはすごく印象に残っていますね。

榎木 面白いディレクションでしたよね。すごく人間的というか。

島﨑 そう! きれいな感情のディレクションじゃなくて、「確かに、人間って複雑だよね」と思わせられるような内容だったんですよ。やっぱり監督は深いところまで人間を見ているんだなと実感しましたね。どんなセリフかは……ぜひ劇場でお確かめください(笑)。

榎木 僕が印象的だったのは、空知初登場のシーンのテスト初っ端で言われた「読み合わせのときよりも年取りました?」ですね(笑)。読み合わせからアフレコまで1か月くらい期間が空いていたので、ちょっと老けちゃったんでしょう。

島﨑 老化早いよ! 「読み合わせのときはもう少し声が高かった印象だった」ということでしょ(笑)。

榎木 (笑)。自分の大学生だった頃を思い出しながらやろうと思ったんですが、僕はこんなにまぶしい青春を経験していなかったので、難しかったです。

堀田 私は、最初に橘監督が「とにかく、自分が思うようにやってみてください」っておっしゃっていたことを覚えています。私が何もわからない状態だったというのもあって、「まずは自由に声を乗せてみてください。何かあったら言いますので」と言ってくださって。すごく心強かったですし、肩の荷が下りる気持ちになりました。

島﨑 あと、劇中に出てくる、グライダー用語も丁寧にディレクションしていただきました。特に印象に残っているのが「翼」ですね。アクセント辞典だと「よ(↑)く」と頭高のアクセントなんですけど、グライダーの常識では「よ(→)く」と平板(単調)に発音するらしいんです。声優業界ではよく「専門用語は平板になりがち」と言うんですが、きっと専門家の方はそのワードをたくさん言うから楽に言えるようにしているんでしょうね。細部までこだわったディレクションをしていただきましたので、ぜひ仕上がりを楽しみにしていてください!

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執筆/後藤悠里奈

アニメ映画『ブルーサーマル』
2022年3月4日(金)全国公開
出演:堀田真由 島﨑信長 榎木淳弥 小松未可子 小野大輔
   白石晴香 大地葉 村瀬歩 古川慎 高橋李依 八代拓 河西健吾 寺田農
原作:小沢かな『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』(新潮社バンチコミックス刊)
監督:橘正紀 脚本:橘正紀 高橋ナツコ
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:「ブルーサーマル」製作委員会
配給:東映

(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会

《M.TOKU》
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