――『転生したらスライムだった件』（以下『転スラ』）は、第1期のエンディング主題歌「Another colony」に引き続き、２回目のタッグになります。今回も、歌詞を自分で担当していますが、テーマは？
作品に寄り添うのはもちろんですが、聞いてくださる人のことも意識した歌を作ろうという気持ちが強かったです。そして、今年アニソンシンガーとしてデビューしてから６年ほどになる自分の人生もきちんと乗せた楽曲にしたいという思いもありました。
――自分の人生も乗せたいと考えるようになったきっかけは？
私自身、『転スラ』という作品にすごく影響を受けたんです。リムルは大切なものを守り続けるためには、何かを失うこともあれば、何かを手放すことも必要だと知っている。その強さがすごく胸に響いたんですね。アニソンシンガーになったころは、作品に寄り添う曲を作らなければという意識が強すぎたところがあったんですが、リムルの行動を見ていくうちに、寄り添うだけでいいんだろうかと考えるようになって。人生で何か思いがけないことが起こったとき、自分の曲が手を伸ばした先にあるような存在になれたらいいなと思うようになり、自分の人生も乗せたい気持ちが強くなりました。
――最近は、サブスクリプションも普及して、アニメの主題歌と知らないところで曲を聞く方も増えていますよね。
そうなんです。アニメで主題歌を知る方もいれば、サブスクなどで楽曲を聞いたあとにアニメの主題歌だと知ってアニメに興味を持ってくださる方もいる。作品と曲は対等でなければならないと思うようになりましたし、そのためには自分のすべてをぶつけて作らなければいけないと考えるようになったんです。
――そんな思いを抱えて、「Storyteller」はどのように制作されたのでしょうか？
『転スラ』って全体的にさわやかで前向きなイメージがありますが、第2期の物語は結構重い。そういう部分もあって、今回の曲は物語に即した命の重みやリムルたちの強さを表現したいと思いました。歌詞もそういう思いで書いたので、楽曲に関しても、たくさん希望を出しました。リムルが前に進んでいるように、私も前に進んでいると表現したい、さらには「Another colony」を越えたいという気持ちも強くて。そこで、作品にも今の私にも一番フィーリングが合った曲を選ばせていただきました。
――どんな希望を出したのですか？
『転スラ』は、前向きな物語なので明るく元気な曲にしたいなと思っていたのですが、それと同時に強さや命の重みも乗せられるような、奥ゆきの深い曲にしてくださいとお願いをしました。
――タイトルの「Storyteller」に込めた意味は？
私の人生は私が決めるもので、誰かに決められるものではないと思っているんです。そういう意志を、タイトルに込めました。実際、歌詞もありのまま、今感じていることを言葉にできたと思います。
――歌うときには、どんなことを意識したのですか？
しっかりと地に足をつけた私を皆さんにお届けするべきだと思ったので、いつもより少しキーを低めにしました。これまでは、アニメの雰囲気に合うようにキーを高めにすることも多かったんですが、もっとそのままの私でいいんじゃないかなと思って。等身大の私を表現できたと感じています。
――カップリングの「黎明」は、『転スラ 第2期』の前奏曲ですね。
オープニング主題歌と一緒に、前奏曲もとお話をいただきました。この曲は、アニメの放映前からプロモーションとして皆さんにお届けできるということだったんですね。なので、期待が高まるような、壮大な楽曲を作曲家の方にお願いしました。
――歌詞のテーマは？
「Storyteller」以上に、『転スラ 第2期』の物語に沿っていきました。原作を読んだ方なら、もしかしてあのシーンかな、とわかるようなフレーズもたくさん入れています。原作をご存じない方は、アニメを見たあとに歌詞をチェックすると、発見がたくさんできる、そんな作品になりました。「黎明」は前奏曲ですが、劇中で流れることも想定して作ったので、印象に残る曲になっていたらうれしいです。
――３曲目の「memento」は、『転スラ』とは関わらない曲ですね。
以前は、表題曲がアニメの主題歌なら、ノンタイアップのカップリングも、作品の挿入歌やイメージソングになれるような曲を考えて制作していました。でも、アニソンシンガーとして活動するうちにどんどん変化して、今はアーティスト・TRUEとしての曲をお届けしたいと思いながら制作しています。
――「memento」のテーマを教えてください。
会いたい人に会えなかったり、届けたい言葉をうまく相手に渡せなかったりする、そういうもどかしさがテーマで、今回はそれを失恋に見立てて書いていきました。シングル全体として、生きていくなかで悲しいことや目を背けたくなることもあるけれど、そういうときに手を伸ばしてもらえるような存在を目指したので、この曲も悲しいメロディではなく、前向きなものにしてもらいました。
――歌詞に「言葉はすり減る」というワードがありました。言葉を仕事にしているTRUEさんも、そう感じるのかと少し意外な感じもしました。
言葉はすり減るし、すり減らしているなと思いますよ。自分が吐き出した言葉がすり減って上書きされて、違う意味のものに変わっていくと感じる瞬間は結構ありますね。
――ジャケットは、水のイメージが強い幻想的なものですね。
リムルの体内にいるような世界を表現して欲しいとお願いしました。水中に階段を置いて、そこで撮っていただいているので、一切合成はしていないんです。私からは、「シンプルに表現してください」ということだけお伝えして作っていただきました。今回も、私の想像を遥かに超える素晴らしい作品を作っていただきました。
――2020年はどんな1年でしたか？
アニソンシンガーとしてデビューしてから、いろんなお仕事をコンスタントにいただけて、つねに稼働できていたのですが、今年は初めて止まってしまいました。気持ち的に不安になったときもありましたが、スタッフの皆さんが「制作し続けましょう」とおっしゃってくださって。自分と向き合いながら制作をした結果、必要なものとそうではないものが明確に見えるようになりました。止まって見える景色はあるなと感じましたし、自分を見直す機会を与えてもらえたような気持ちもあります。
これまではいただいたお話に応えてきましたが、これからは自分でも提案して生み出していかなければならないだろうとも感じることができました。今回のステイホーム期間でインプットも勉強もたくさんしましたので、それは2021年以降の私に生かせると思っています。
――改めて、第1期、第2期と携わってみて『転スラ』という作品の魅力はどんなところだと感じていますか？
強さと温かさですね。世の中の人って、誰もが誰かのために動きたい、もらったものを返したいと考えていると思うんです。それをリムルはいともたやすくやってしまう。そんなリムルのいる世界は、まさに理想的で、だからこそ、惹かれるんじゃないかなと思います。
――今回のシングルはどんな1枚になりましたか？
今は、何をしていても私らしく楽しめていますし、何を表現しても自分の言葉や意志が乗せられているんです。今回のシングルは「そのまま全部が私」という1枚になりました。いい意味で力が抜けた、そのままの私の強さを受け取っていただける、そんな1枚です。
――読者にメッセージをお願いします。
2021年は「Progress」前進するための年にしたいと思っています。2020年に得たものを、2021年やその先で皆さんにどうお見せしようかと考えるとわくわくします。準備も万端で、あとはステージに立つだけ、というくらいの気持ちなので、これからの私に今まで以上に期待していてください。そして、私の生み出していく音楽を楽しんでいただけたらうれしいです。
取材・文／野下奈生（アイプランニング）
プロフィール
TRUE【トゥルー】2014年に『バディ・コンプレックス』オープニングテーマ「UNISONIA」で「TRUE」としてアーティストデビュー。これまでにシングル15枚、アルバム3枚をリリース。「唐沢美帆」名義で作詞家としても活動中。
「Storyteller」リリース情報
発売日：1月13日(水)
レーベル：バンダイナムコアーツ
価格：1,430円（税込）
概要：表題曲は、テレビアニメ『転生したらスライムだった件 第2期』のオープニング主題歌。困難に挑みながらも前に進み続ける主人公・リムルの心情にも沿った歌詞が印象的な1曲。カップリング「黎明」は同作の前奏曲。ほか、カップリングとして失恋した女性の思いを表現した「memento」も収録する。
Information
「Storyteller」発売記念オンラインサイン会が開催決定。日程は2021年2月7日 (日)、2021年3月5日(金)、それぞれアニメイト回、ゲーマーズ回の計4回行う。参加方法などの詳細は公式webサイトをチェック。
