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2019年5月1日、30年余り続いた「平成」から「令和」へとバトンがつながれました。私も改元に関するニュースを追っていましたが、元号が移行する瞬間を国民が楽しみにしている、ハッピーな雰囲気にあふれていたように思います。元号が「令和」に確定するまでにも、どのような名称になるのかと各方面で大いに盛り上がっていました。元号について考えをめぐらせているのは、おそらく今も昔も変わりません。
明治・大正期の小説家であり、陸軍省医務局長などを務めた森鴎外も元号に強い関心を持っていたようで、宮内省図書頭を務め、そこで熱心に元号研究に取り組みました。
この森鴎外をモデルにしたキャラクターが出てくるマンガ・アニメといえば『文豪ストレイドッグス』で、現在TVアニメ第3期が放送中です。本作には、鴎外だけでなく太宰治や中原中也、芥川龍之介、中島敦、谷崎潤一郎など、そうそうたる名前の人物が登場します。
実在した鴎外の代表作といえば『舞姫』でしょう。『舞姫』について、とても簡単に説明すると、ドイツに留学した官吏の男が美少女エリスとの生活を回想するといった話です。鴎外自身もドイツと浅からぬ縁があり、ドイツ軍で軍医として過ごした時期もありました。そのこともあってか、ヨーロッパで書かれた不思議な小説に興味を持っていたようです。これらを翻訳したものを紹介するだけでなく、自らも筆を執り、なんと‟怪奇モノ”をしたためたのです。
ひとつ例を挙げると『百物語』という話があります。これはある夏「僕」が『百物語』というものを聞きに出かける話。ただそれだけで、実際には『百物語』を聞かずに帰ってくるという、さらっと読んだだけでは、あまりつかみどころのないストーリーです。この『百物語』とは、鴎外が作中で「多勢の人が集まって蝋燭を百本立てて置いて一人が一つずつ化物の話をして、一本ずつ蝋燭を消して行くのだそうだ。そうすると百本目の蝋燭が消された時、真の化物が出ると云うことである」と書いているとおり、いわゆる「怪談会」の形式のこと。江戸時代あたりから盛んに行われていたようです。同時代には『諸国百物語』など有名な怪談集もあり、後世の怪談本にも影響を与えたといわれています。
おそらく鴎外も、そうした近世の書物を少なからず参考にしていたことでしょう。『百物語』も深く読み込めば、オバケの片鱗を感じられる仕組みになっています。『百物語』をはじめとする不思議な怪しい作品を読むことによって、『文豪ストレイドッグス』に登場する沈着冷静な鴎外とはまたひと味違う姿を知っていただけるのではないかと思います。
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