Netflixにて2018年1月5日(金)より全世界独占配信される『DEVILMAN crybaby』。これまで映像化された『デビルマン』の中で最も原作を忠実に再現したという本作の監督を務めるのは湯浅政明監督だ。今回は、原作のファンでもあるという湯浅監督にインタビューを実施。映像化するにあたっての想いなどについてうかがった。
湯浅政明監督
原作を忠実に。ただ現代風に。それが『DEVILMAN crybaby』
――本日はよろしくお願いします。『デビルマン』といえばこれまでもアニメ・実写と様々な形で映像化されてきた作品です。今回、監督が映像化するにあたって特に意識された点は何でしょうか?
ヒーローものとしての『デビルマン』はすごく認知されていますが、これまで原作の形をそのまま映像化したものはありませんでした。なので、今回は「原作に沿った内容」ということを一番に意識しました。原作のバイオレンスな表現やエロティックな部分は、なかなか地上波では流せない内容です。しかし、今回は配信という形なので、原作に沿った内容のものにできると思ったんですよね。
――確かに、今回の作品は地上波で流すには難しい表現が多いなと思います。
ですよね(笑)。ただ、原作で伝えたいものはバイオレンスな表現やエロティックな部分も描かないとたどり着けない気がしたんですよね。
――監督もそういうものが作りたかった?
最初は『デビルマン』を自分が作るなんて考えてもいなかったのですが、自分が作るなら大好きな原作マンガを再現したものにしたかったんですよね。今回はNetflixでの配信ということなので、作りやすい環境にあったと思います。
――地上波とNetflixで作るアニメでは、制作面で何か違いを感じましたか?
やはりバイオレンスな表現やセクシャルな表現ができるという点でしょうか。地上波ではできないことがやれているということは制作時にも感じましたね。また、本作は毎週放送されるテレビとは違って間を置かずに一気に最終話まで見られるので、その点も意識していました。
――なるほど。原作に沿った内容ということでしたが、原作者の永井豪先生から何か要望はありましたか?
「最後までやるんだよね」という話はしました。でもそれ以外で永井先生が何か要望されることはなく、「変えてもいいよ」とまで言ってくださいました。「いや、変えませんよ」とお伝えしましたけど(笑)。
――ただ、その中でも作品ではいくつか原作と変わっている点もありましたよね。
「変えて」はいないんですよ。「置き換えている」のほうが正しい表現かなと思います。例えば今回付け加えた主人公たちが「陸上」をやっているという要素。あれはデーモン(※)と人間の能力差がハッキリと分かるようにするために付け加えています。
(※)作中で悪事をはたらく悪魔のこと。デビルマンはデーモンと人間の間の存在
――なるほど。
また、人間はどの動物よりも早く走れる訳ではないのに、なぜ頑張って走るんだというところが「どうせ死ぬのになぜ生きようとするのか」、「合理的に考えれば無駄だと思われるものを、何で守ろうとするのか」という、作品を通じて伝えたいことに繋がると思ったんですよね。このように原作を読んで僕がくっきりと分からなかった事を具体的な絵を付け加えて置き換えている部分があります。あとは現代風に置き換えている描写もありますね。
――現代風に?
はい。原作では番長グループが登場しますが、今はあんなにアクティブに悪ぶっている人はそうそういないと思うので、そのままやってしまうとアナクロなものになってしまう。本作は原作に沿った内容とはいえ現代の物語として描きたかったので、番長の役割を今の時代に置き換えたんです。そこで登場したのが「ラッパー」。
――ラッパー!
原作の番長ポジションはヒロインの牧村美樹と面と向かって衝突、そして信頼関係を築く立場です。そのキャラを現代風に置き換えるとしたら、「ラッパー」なのかなと。ラッパーの方々は腹が決まればその人を立てたり、強く想ったりできるタイプの人が多いような気がしたんですよ。
同じような意味合いとしては、ミーコの役割も大きく置き換えています。原作が連載していた当時はデーモンと人間の間の存在である「デビルマン」が新鮮でしたが、それから30年、40年と経つなかでもっと間の微妙な存在を描かないといけないだろうと思ったんです。そこでミーコは揺れ動きながらも、人間側へ戻るキャラクターとして描きました。そうすることでデビルマンの微妙な立場を引き立てる役割も担えると思ったので。脚本の大河内(一楼)さんも、幸田という人物を、ミーコと対比出来るよう持って行ってくれました。
ミーコ
ラッパー軍団(ガビ、ワム、バボ、ヒエ)
ラッパーのククン
――人間、デーモン、デビルマンという3分割ではなく、もっとグラデーションで描きたかった?
そうですね。デビルマンになる主人公の不動明も場合によっては人間側、デーモン側に寄ってしまう可能性もあるということが分かりやすくなるように描きました。そこは永井さんのテーマにも通ずるかなと思っています。
――なるほど。そのほか、原作から置き換わっている点でいえば、主人公のひとりである飛鳥了のお父さんが登場しなくなりましたね。
了と明のふたりが小さい頃に出会っていたという印象を強くしたかったので、彼らの出会いを優先させました。
――逆に明のほうはお父さん・お母さんも話に絡んできます。
原作を読んでいて、明のお父さん・お母さんはどうなっているんだと気になった方が多いと思うんです。明をほっぽってどうしているんだというね(笑)。僕も気になっていたので、そうする事で感情が乗り易くなるキャラと置き換えました。
内山さんの苦労している姿が見たかった
――『DEVILMAN crybaby』が原作を忠実にしつつも、より伝えたいテーマを明確にするために補強している箇所があるということが分かりました。先ほど主人公の明と了がお話のなかに出てきました。今回それぞれのキャストである内山昂輝さん、村瀬歩さんは、どのようなことを期待されての起用だったのでしょうか?
村瀬さんはオーディションを受けた方のなかで唯一得体のしれない何かがお芝居の中に入っていたんですよね。了の掴めないながらも実は何か含みのあるキャラクター性が、村瀬さんはオーディションの段階で既に表現できていました。
逆に内山さんは了役しかオーディションを受けていなかったのですが、こちらから明役でお願いしたいとお声がけする形になりました。
――どういう意図があったのでしょうか?
内山さんは元々好きなタイプの俳優さんです。あまり努力を前面に見せない感じで、何でも簡単にできてる様に見える。そこがすごく好きなのですが、僕はそんな彼が苦労を見せるところが見たかったんですよね(笑)。だから彼がやるのが容易に想像出来ない、難しい役を演じているところを見てみたいと思って明役をお願いしたんです。
――そんな経緯が。
でもやはり、難なく明役をしっかりこなしていましたね。デビルマンになる前の演技も弱弱しくも優しい感じがとてもよかったです。内山さんにお願いして正解でした。
――内山さんは苦労なさっていましたか?
そうですね、ちょこっとだけ弱音を吐いていました(笑)。その姿を見て、本当はすごい努力家なんだろうなと思いました。なんだか嬉しくなりましたね。
不動明
飛鳥了
――ここまでは主役お二人のお話が中心でしたが、その他のキャストの方はいかがでしたか? 美樹役の潘めぐみさんの演技も、キャラクター性がとても表れていて光っていたように感じました。
そうですね。潘さんは割とすぐに美樹役に決まったと思います。天真爛漫にと言うか、美樹の突き抜ける感じがあるキャラクターのお芝居に、潘さんが飛びぬけて合っていました。しかも明るさだけでなく、後半の絶叫する場面もいい感じに表現されていて、感動しました。
――そのほか、監督的にハマったというキャストの方はいらっしゃいましたか?
シレーヌ役の田中敦子さんとカイム役の小山力也さんはこれ以上ない適役です。津田健次郎さんの長崎も痛い感じが最高だった。また、ラッパーも実際のラッパーの方にやっていただけて、YOUNG DAISさんの演技もすごくよかった。高戸靖弘さんのサイコジェニーもハマりましたし、作中で流れる「デビルマンのうた」の歌っていただいたアヴちゃん(女王蜂)の男女が入り混じった演技で「魔王ゼノン」も面白くなった。聞き所もいっぱいです。
牧村美樹
シレーヌ
カイム
長崎
あえて見せない演出
――キャストのお話に続いて、演出面についてもおうかがいします。これまでのお話のなかにもありましたが、今回の『デビルマン』はバイオレンスなシーンが多いですよね。
僕は映像を作るうえで「何を見せたいのかが見ている人に分かるような形で作る」ことを基本的に意識しています。今回デビルマンが戦うときはできるだけパンチやキック、ビームではなく、引き裂いたり食いちぎったりするような形にすることを意識しました。そうすることで「何を見せたいのか」がはっきりと伝わるとも思ったので。
――なるほど、その他でこだわったシーンは?
セクシャルなシーンは基本的には生々しいような演出をしつつも、まんまポンと出さないように作っています。やり過ぎと思ったらフレーミングしたり、加工したりしました。セクシャルやバイオレンスは、絵で見せすぎると逆に伝わらない場合があると思うんです。だからあえて見ている人に想像してもらう部分も残すようにしています。
――演出という面でいえば、今回は作中でも「デビルマン」が存在しているという描写がありましたね。
今まで何度も映像化されて知っている人も多いのに、また新たに『デビルマン』という映像作品ができて、「これは皆さんの知らない作品です」と言うことが恥ずかしくて。既に認知されている作品ですので、「何度も映像化した作品ですよ、でも今度はまたちょっと違います」というのを認識してもらう記号として登場させています。
――そうだったんですね。
あの世界では、特撮ものの「デビルマン」が存在していて、了もそれを子供の頃に見ていた。だから「デビルマン」というネーミングを自分の中に持っていたのだと思います。
――なるほど。そういう細かい演出という面では牧村家に飾ってあった「最後の晩餐」も何か意図があるように思えました。
そうですね。やっぱり僕らもラストを知りながら作っているので、色々とほのめかすような形で「最後の晩餐」の絵を飾っています。
――そのほか、演出面で意識したことはございますか?
本作は現代よりもちょっと治安が悪い設定にしていて、あちこちでサバトが起こり、デーモンが悪事を働いています。陸上のシーンでも「悪意」が現れるような演出をしていて、純粋に楽しむのではなく、歪んだ目で見ているような描写を入れているんですよ。そうやってちょっとすさんだ雰囲気になる表現も入れるようにしましたね。
――今日のお話で数多くのこだわり、そして地上波ではないからこそ実現できた作品だということがよく分かりました。本日はありがとうございました。
<『DEVILMAN crybaby』情報>
2018年1月5日(金)Netflixにて全世界独占配信
原作:永井豪「デビルマン」
監督:湯浅政明
脚本:大河内一楼 音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:倉島亜由美 デビルデザイン:押山清高
ラップ監修:KEN THE 390
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャスト:内山昂輝、村瀬歩、潘めぐみ、小清水亜美、田中敦子、小山力也、アヴちゃん(女王蜂)、津田健次郎、KEN THE 390、木村昴、YOUNG DAIS、般若、AFRA ほか
公式サイト
devilman-crybaby.com
公式ツイッター
@DevilmanCryBaby
(C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project