アニメディア1月号コラム「アニメ妖怪よもやま話」全文掲載。妖怪文化研究家・木下昌美が、あまたの作品のテーマになっている”異類婚姻譚”を語る。 | 超!アニメディア

アニメディア1月号コラム「アニメ妖怪よもやま話」全文掲載。妖怪文化研究家・木下昌美が、あまたの作品のテーマになっている”異類婚姻譚”を語る。

発売中のアニメディア2018年1月号で掲載しているコラム「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説するコーナーとなっている。今回はその全文を …

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 発売中のアニメディア2018年1月号で掲載しているコラム「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説するコーナーとなっている。今回はその全文を掲載します。語り部は奈良県在住の妖怪文化研究家・木下昌美先生です。

 

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<少女と異形の魔法使いの異類婚姻譚>

 この連載では、アニメやマンガなどを題材に妖怪について考えています。これまでにも、さまざまな作品を取り上げましたが、妖怪が登場する作品のなんと多いことか。そして妖怪をメインテーマにした作品もあれば、妖怪ではないけれど妖怪のようなナニかが出てくる作品も少なくないことにお気づきでしょう。妖怪はあらゆるジャンルの作品で取り扱われやすいことがわかります。今回、取り上げる『魔法使いの嫁』もそのひとつです。

 同作はタイトルのとおり、魔法使いの嫁・羽鳥チセを主人公とする物語です。特別な魔力を持つ「夜の愛し仔(スレイ・ベガ)」の少女・チセは、異形の魔法使い、エリアス・エインズワースにオークションで競り落とされ、彼の自宅があるイギリスへと連れていかれます。エリアスはチセを魔法使いの弟子として、そして未来の妻として面倒を見ながら、ふたりで成長していくというストーリーです。

 チセは赤毛のかわいらしい女の子。対するエリアスは獣のような頭蓋骨に、ねじれた角を生やした少々恐ろしい見た目をしています。私も初めて目にしたときは、思わずぎょっとしてしまいました。

 このふたりは師弟関係にありながら、夫婦にもなっていくようです。チセは不思議な力を持っているとはいえ人間。つまり人と人外のモノが結婚するという話ですが、こうしたお話は古くからあり、一般的に”異類婚姻譚(いるいこんいんたん)”と呼ばれています。

 日本だけでなく世界中に例がありますが、ここでは日本における話を見ていきましょう。異類婚姻譚の源流となるのは、神と人との婚姻、神婚説話(しんこんせつわ)にあると言われています。

 神婚説話といえば、記紀神話(ききしんわ)に登場するトヨタマヒメとヤマサチヒコの話が思い出されます。海の怪物である八尋熊鰐(やひろわに)や龍に姿を変える神・トヨタマヒメが、人であるヤマサチヒコとの間に子をなすというものです。

 そのほか有名なのが、これも『古事記(こじき)』(712年)に記録される三輪山伝説(みわやまでんせつ)。イクタマヨリヒメという美しい女のもとへ夜ごと男が訪ねてきて、ついにはその女が身ごもります。しかし、男をいぶかしんだ女の両親が、糸を通した針を男の衣につけて後をたどると、三輪山の神の社に着き、男が神であったことを知るという話です。

 これらの例を見るだけでも『魔法使いの嫁』で描かれているものに近い異類婚姻譚は、古くから物語に用いられているテーマのひとつであることがわかります。

<異類婚姻譚は人気テーマ!? 昔話やジブリ作品にも>

 さて、そうした人と人以外のモノが婚姻関係を結ぶことを主題とするお話は、昔話やアニメーション作品にも多く取り上げられています。

 昔話でいえば、『雪女』が有名です。そして『鶴の恩返し』や『浦島太郎』のなかにも、異類婚姻譚と呼べるお話が見られます。しかも男女が離ればなれになってしまう悲しい結末を迎むかえるパターンがほとんどです。

 またアニメ作品では『うる星やつら』や『犬夜叉』が思い出されます。図らずも高橋留美子さんの作品ばかりを挙げましたが、彼女が手がける作品にはご存知のとおり、妖怪を題材としたものが多数あります。人とそれ以外のモノをごちゃまぜに描く独特の世界観が、彼女の作品における特徴のひとつと言えるでしょう。高橋留美子さんの作品については、また別の回でお話できればと思います。そのほか、『神様はじめました』など、最近では少女マンガ系でたびたび異類婚姻譚が用いられるような印象があります。

 興味深いのが、スタジオジブリ制作の『千と千尋の神隠し』です。主人公・千尋がトンネルを通り、神の暮らす世界に迷い込むお話。一見するとわかりづらいですが、この作品も異類婚姻譚の一種と考えられます。それこそ魔法使い見習いであるハクという少年の正体は「ニギハヤミコハクヌシ」という川の神です。神話に出てきそうな名前ですね。ハクは龍の姿にも変化します。千尋がハクの正体に気づき、彼に本当の名前を告げるシーンが物語最大の盛り上がりの場面となります。

 川や水の神が、人の子を迎え入れるというパターンは古くからあり、日本最古の仏教説話集『日本霊異記(にほんりょういき)』(810~824年)などにも見られます。『千と千尋の神隠し』のお話も、千尋とハクの一連のやりとりから、そうした型を受け継いでいることがわかるのではないでしょうか。

 このように、ざっと見ただけでも異類婚姻譚を取り扱う作品と、その内容の多種多様さを知ることができます。『魔法使いの嫁』も舞台はヨーロッパでこそあれ、主人公は日本人。これまでの日本の異類婚姻譚の流れを受けて生まれた作品のひとつなのかもしれません。先述したように異類同士の婚姻は、悲しい結末を迎えることが少なくありません。しかし、どうか『魔法使いの嫁』では幸せな未来が待っているよう願いながら、今後のストーリーを見守っていきたいと思います。

 

解説:木下昌美
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<プロフィール>
妖怪文化研究家。福岡県出身、奈良県在住。子どものころ『まんが日本昔ばなし』に熱中して、水木しげるのマンガ『のんのんばあとオレ』を愛読するなど、怪しく不思議な話に興味を持つ。現在、奈良県内のお化け譚を蒐集、記録を進めている。大和政経通信社より『奈良妖怪新聞』発行中。

●挿絵/幸餅きなこ

《超!アニメディア編集部》
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