アニメディア4月号コラム「アニメ妖怪よもやま話」全文掲載。妖怪文化研究家・木下昌美が、『ゲゲゲの鬼太郎』のねこ娘をピックアップ。 | 超!アニメディア

アニメディア4月号コラム「アニメ妖怪よもやま話」全文掲載。妖怪文化研究家・木下昌美が、『ゲゲゲの鬼太郎』のねこ娘をピックアップ。

発売中のアニメディア2018年4月号で掲載しているコラム「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説するコーナーとなっている。今回はその全文を …

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 発売中のアニメディア2018年4月号で掲載しているコラム「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説するコーナーとなっている。今回はその全文を掲載します。語り部は奈良県在住の妖怪文化研究家・木下昌美先生です。

 

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<多くの人に影響を与えた水木しげるさんの作品>

“妖怪界”を代表するアニメ・マンガといえば、誰がなんと言おうと『ゲゲゲの鬼太郎』です。現代の妖怪イメージを確固たるものにした、妖怪アニメ・マンガの代名詞と言っても過言ではありません。これまで幾度となくアニメ化されてきた本作。大なり小なり日本人であるならば、いやそうでなくとも『ゲゲゲの鬼太郎』から、妖怪に対するイメージの影響を受けてきたのではないでしょうか。
 まさしく「日本の宝」とも言うべき作品のひとつである本作は、4月より第6期シリーズとなるTVアニメがスタートします。昨年12月に公開された『映画 妖怪ウォッチ シャドウサイド 鬼王の復活』に鬼太郎ファミリーが登場した際に、すでにこの展開を予想した人もいるのでしょう。いずれにせよ、お化け好きにとって、とてもうれしいニュースでした。
『ゲゲゲの鬼太郎』の作者は、水木しげるさん。残念ながら2015年に亡くなられていますが、それでもなお多くの人の心に彼の作品や彼の存在が印象深く刻まれているはずです。末端ながら私もそのひとり。子どものころに『のんのんばあとオレ』を読み、妖怪というものに興味を抱きました。
 水木さんは『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』など、一般的には「異界とつながる作品を生み出した人」というイメージが強いですが、それは彼のほんの一部に過ぎません。推測ではありますが、戦争を体験したことが心身ともに彼の人生の大きな部分を占めているように思います。2007年にTVドラマ化もされた自伝的戦記マンガ『総員玉砕せよ!』などを読むと、そのことがひしひしと伝わってきます。
 水木さんの戦争体験は『ゲゲゲの鬼太郎』にも影響を与えているように思います。たとえば、本作に登場する目玉おやじ。文字どおり目玉がひとり歩きする個性的なキャラクターですが、それに近い凄惨な光景を目の当たりにしたからこそ生まれたキャラクターなのではないかと想像します。

<ねこ娘につながる化けネコの歴史>

『ゲゲゲの鬼太郎』は墓場で産まれた幽霊族の末裔である鬼太郎が、さまざまな人間や妖怪と関わり、ときに人間に悪事を働く妖怪をこらしめるというストーリーです。原作はおどろおどろしさ満載でアクの強さが際立つ作りでしたが、アニメ化するにあたって“ヒーローもの”の要素が前面に出た、ずいぶんとやわらかな話に作り替えられました。
『ゲゲゲの鬼太郎』はキャラクターの豊富さも観どころのひとつ。作品を見ているだけでひととおりの妖怪名を覚えることができます。また鬼太郎の脇を固めるキャラクターが個性的。目玉おやじにねずみ男、砂かけ婆や子泣き爺、ねこ娘に一反木綿、ぬりかべ……。
 先日、最新作のキャラクタービジュアルが解禁されました。そこで話題になったのが「ねこ娘」です。これまでの子どもらしい姿とは打って変わって、かなり大人っぽいイメージに仕上がっていました。
「ネコ」はペットとしても大人気で私たちの生活に密着した生き物です。あまりに身近であるからか、年をとると尾がふたつに別れるだの人間の言葉をしゃべるようになるだのと、まことしやかに言われます。
 日本のネコに関する古い記述としては、平安時代初期に書かれた日本最古の仏教説話集『日本霊異記』が挙げられます。ただし、ここに登場するネコは「狸」と書いてネコと読ませており、いわゆるネコ(イエネコ)を指す訳ではない可能性があります。
 同じく平安時代に成立した日本最古の本草書『本草和名』にもネコらしき記述があります。しかし、そこでもタヌキとネコとを混同して記録しています。この時代にタヌキとネコとを同一視していたのか、はたまた分けて考えていたのか、たしかなことはわかりません。
 また位の高い人たちがネコを飼うようになり「唐猫」という外来のネコも珍重されました。つまり平安時代には、ネコと人との関係が現代と同じようになったようです。
 そして鎌倉時代前期に書かれた藤原定家の日記『明月記』に「猫胯」が登場して、新たなネコ像が加わります。「猫胯」という名称が文献上に登場したのは同書が初です。『明月記』には天福元年(1233年)8月2日、奈良県に猫胯が出現して一晩で7~8人の人間を食い殺したという記述があります。「目はネコのごとく、体は大きなイヌのようだった」と記録されており、とても大きな体をしていたようです。
 この『明月記』を皮切りに、中世に入るとたびたび化けネコ「猫また」が登場するようになます。時代を経て、さらにさまざまな特徴や要素が付け加わり、近世に入ると読み物や舞台などでも盛んに描かれるようになりました。『ゲゲゲの鬼太郎』のねこ娘は『明月記』の猫胯のように人を喰らうわけではありませんが、先述したような歴史を経たからこそ生まれたネコ系妖怪だと言えるでしょう。アニメ第6期の『ゲゲゲの鬼太郎』では、これまでのねこ娘とはひと味もふた味も違う姿を見せてくれると思います。ここからまた、新たな・ネコ妖怪像・が生まれることを楽しみにしています。

解説:木下昌美
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<プロフィール>
妖怪文化研究家。福岡県出身、奈良県在住。子どものころ『まんが日本昔ばなし』に熱中して、水木しげるのマンガ『のんのんばあとオレ』を愛読するなど、怪しく不思議な話に興味を持つ。現在、奈良県内のお化け譚を蒐集、記録を進めている。大和政経通信社より『奈良妖怪新聞』発行中。

●挿絵/幸餅きなこ

《超!アニメディア編集部》
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