『私を喰べたい、ひとでなし』は「電撃マオウ」・「カドコミ」にて連載中の、少女と妖怪の出会いを美しくも切なく描いた苗川采によるマンガを原作とするTVアニメだ。死を望む少女・比名子と、その血肉を求める人魚・汐莉の出会いから始まる、新感覚のガール・ミーツ・ガールの物語が繰り広げられる。
アニメ!アニメ!では、主人公の比名子役を演じる上田麗奈、人魚の汐莉役を演じる石川由依にインタビュー。本作以外にも繊細な表現を必要とする作品に多数出演する2人に、お互いの声の印象を聞いた。

[取材・文=米田果織 撮影=稲澤朝博]
■オーディションから「苦しく、しんどかった」
――仄暗い雰囲気漂う、独特なストーリーが特徴の本作。初めて物語に触れて、どのような感想を持ちましたか?
上田:シリアスなパートが主線になっているものの、そのなかにコミカル、ホラーといった要素も含まれていて、メリハリがあり、とても見応えのある作品だと思いました。その上でサクサク読み進められて、そこもとてもステキで印象に残っています。
また、比名子と汐莉、そして美胡の想いが絶妙にかみ合わないところがもどかしくもあって。「これを楽しんでいいんだろうか?」と迷いながら読み進めていった記憶もあります。
取り扱っている題材のひとつが“生死”にまつわるので、そのあたりを読んでいると胸が苦しくなりましたし、だけど比名子と汐莉の関係性には、歪がゆえの美しさみたいなものも感じられて。そこは苗川先生が“萌え”を感じて描いたんだろうなということがわかり、魅力的に思いましたね。
石川:本作は海が舞台になっているのですが、海の底のような重さがあり、読んでいて息苦しさを感じる瞬間がありつつ、幻想的な美しさも感じられるんですよね。壊れやすいものを取り扱っていますが、なぜかそれも居心地よく感じてしまうような。身を委ねてしまいたくなるような魅力を持ち合わせている作品だと思いました。
ここまで死にたがっている主人公はなかなかいないと思うのですが、だからこそ人の“柔らかいところ”を刺激してくれるような気がして。先ほどうえしゃま(上田さんの愛称)も言っていたように、比名子、汐莉、美胡の想いのかみ合わなさ。だけど、相手のことを想っているからこその発せられる言葉や、思考の変化があるので、歪だけどどうにかして保たれている関係性が尊く感じられるような。不思議な気持ちにさせてくれる作品だという印象を持ちました。
――妖怪を惹きつける血肉を持つ比名子、彼女を喰べたい人魚の汐莉。演じるキャラクターも特徴的ですが、印象を伺えますか?

上田:比名子はやはり「死にたがっている」というインパクトが強く、印象に残りますよね。アフレコに入る際、監督から「“感情を動かす気力すらなくなっている状態”という認識を持ってほしい」と言われ、すごく深くて静かなところに沈んでしまっているイメージを持って演じました。だけど比名子は、そんな状態であっても、人と話すときはちゃんと相手のテンションに合わせられるんですよね。それが意識的なのか無意識なのかはわかりませんが、比名子が人のことを考えて行動する子だからだとは確信しています。
自分の中に確固たる“軸”みたいなものはあるけれど、それ以外のところでは人の気持ちを優先して行動できてしまう。そのバランスは、比名子らしさだと思いました。
石川:汐莉は、不思議な空気をまとっている子。どこか見透かしているような雰囲気もありつつ、強引だったり、時には優しかったり……何を考えているのか読み取れない部分が多く、原作を読んでいても「捉えきれないな」という印象が強かったです。
真剣な表情で比名子に向き合っているかと思ったら、ちょっとおちゃらけたり。その落差は、演じる上で意識しなきゃいけないと思った部分でした。しかし、どこかフワフワしつつも、比名子に対しての想いの強さみたいなものは軸にあって。だからこそ、おちゃらける一面があっても、なんだか言葉に説得力が感じられるような。「真意が読めない」だけど「説得力がある」の天秤のバランスを保つことは、一番大事にしたことかもしれないです。
――役はオーディションで決まったと伺いました。
上田:オーディションから比名子の内面に触れるシーンの収録だったので、すごく苦しくてしんどかった記憶があります。比名子は繊細さと危うさ、あふれ出てしまいそうな強い想いを抱えているキャラクター。この想いを抱えながら全話収録していくと考えると、体力はもちろん、心もすごく疲弊するアフレコになるだろうなと思い……。
合格の連絡をいただいても、手放しに「うれしい!」「楽しみ!」という気持ちにはなれませんでした。比名子の内面をしっかり丁寧に汲んで、その上で間違いなく届けられるのかという不安と緊張が大きく、「しっかり向き合わなければいけないな」と強く思ったことを覚えています。
石川:私もうえしゃまと同じく、扱っているテーマから「軽い気持ちで演じられないな」と思いました。ここまで仄暗さを纏った作品はなかなかなく、原作を読んでその部分を魅力に感じたからこそ、「この繊細さをどう表現できるだろうか」と自分自身にとって挑戦になる作品だと思いましたね。
オーディションの結果が来たときに、比名子役をうえしゃま、美胡役をファイルーズあいちゃんが演じると名前もありました。この作品は3人の掛け合いが重要となってくるので、信頼している2人とどのような会話劇を作っていけるか楽しみにもなりました。

――今お名前が挙がったように、もう1人のキーパーソンとなる社美胡役を、ファイルーズあいさんが演じています。3人で掛け合ってみていかがでしたか?
上田:比名子は仄暗くて湿度の高いイメージで、天気に例えると「どんよりした曇り空」だとしたら、美胡は「明るい太陽」。いてくれるだけで、空気とカラッと温かく明るくしてくれるような感じがします。美胡の前ではふっと力が抜けて、前屈みだった状態から胸が開けてちゃんと深呼吸できるような。なんだからホッとさせてくれる子だなという印象です。
それをファイルーズあいさんが演じることで、より頼もしさが増した感じがしました。「この子についていけば大丈夫。安心だ」という……リーダーシップなのでしょうか。安心して身を委ねていける強い美胡ちゃんがそこにいました。その“強さ”は、この先々の展開に大きく関わってくるポイントになっています。
石川:美胡はその明るさで、すぐに死にたがる比名子を現世に留めてくれている存在。美胡がいるから、比名子はこの世界でやっていけている部分があると思います。そして、その美胡の太陽のような明るさを表現するのが、ファイちゃんの底抜けに明るい声。比名子の暗さと美胡の明るさ、このバランスも作品を構成する1つの要素だと感じていて、うえしゃまとファイちゃんがその対比を魅力的に再現してくれています。










