「忍者と殺し屋のふたりぐらし」美少女×ギャグは貴重? ギャグにおける“常識の破壊”のバランス【藤津亮太のアニメの門V 119回】 3ページ目 | 超!アニメディア

「忍者と殺し屋のふたりぐらし」美少女×ギャグは貴重? ギャグにおける“常識の破壊”のバランス【藤津亮太のアニメの門V 119回】

2025年春アニメ『忍者と殺し屋のふたりぐらし』。世間知らずのくノ一と殺し屋女子高生の危ない共同生活がおりなす、ちょっとダークなコメディ。そのギャグのポイントに迫る。

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そう考えると『にんころ』の死体が次々と木の葉になっていく描写は、「命の軽さ」と「視聴者の倫理観をギリギリ刺激しすぎない」絶妙のバランスで成立していることがわかる。木の葉の軽さ、少しカラフルな色彩設計なども加わって、ちゃんと笑えるようになっている(もちろんたぶん笑いきれない人もいるだろう)。  

シリーズの少し雰囲気が変わるのは、第5話「ロボットと殺し屋のふたりぐらし」。このエピソードは、発明家の殺し屋のマリンが、さとこを奪うために、さとこに似せた(でも見た目はロボットそのものの)ロボ子を作って入れ替えるという内容。このはは、ロボ子に入れ替わってもまったく気付かず、なんなら、ロボ子のほうにこそ親しみを感じたりする。この人間とロボが転倒した状況はもちろんギャグとして展開されるのだが、これが最終的に独特の情緒に着地するところに第5話の味がある。  

アニメとしての遊びが多いのも第5話の特徴。ロボ子が目からビームを発するときなどに、『マジンガーZ』のようななタッチが入る。これは、でこぼした台の上に紙をおいて鉛筆の腹でこすってつけた独特のテクスチャー感があるもので、おそらくわざわざこの素材を作ったのだろう。第1話冒頭でも抜忍する様子をわざわざ『忍風カムイ外伝』のようなタッチで描いていたりしたので、その延長線上にあるギャグでもある。  

このほか、突然4:3のフレームでビデオ画質になったり、突如1カットだけペープサートになったり、実写を使ったカット(クロックムッシュ、怒ったネコ、殺害シーンにインサートされるキャベツの千切り動画など)のインサートされたりもある。このあたりストーリーの語りと深い関係があるわけではないので、ひたすら「おもしろく見せる」ためだけに、こういうアニメならではのお遊びがぶち込まれている。このあたりの遊び具合はいかにもシャフト作品らしいところでもある。  

そのほか第8話「忍者と殺し屋の大きなおうち」は、ホラー要素でドタバタする回なのだが、それだけにちょっと奇妙なアングルも多くて刺激が多い。  

キャラクターの魅力(特に女性キャラクター)を押し出すとどうしてもコメディ色が濃くなって、ギャグにはなりにくい。そこを考えると、ガンガン人が死んで、それがちゃんとギャグになってる『にんころ』はなかなかに貴重な作品だと思うのだ。



【藤津 亮太(ふじつ・りょうた)】
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』、『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』がある。最新著書は『ぼくらがアニメを見る理由 2010年代アニメ時評』。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」で生配信を行っている。

《藤津亮太》
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