アニメやゲームの主題歌、テーマソングなどを歌うアーティストに楽曲について語ってもらう雑誌「メガミマガジン」のインタビュー企画「Megami’sVoice」。2023年5月号には1stにしてベストのアルバム『BLUE MOON』をリリースした安月名莉子が登場。

本稿では、本誌で紹介できなかった部分も含めたロングインタビューをお届けする。
新曲は経験を重ねたいまだからこその1曲
――2018年のデビューから、ついに1stアルバム発売ですね。
自分としてもやっと、という気持ちが強いです。でも、新曲の「BLUE CYALUME」はいまだからこそ作れた曲だと思うので、このタイミングでのリリースでよかったなとも感じています。
――新曲以外の収録曲は、シングルの表題曲が中心ですね。
そうですね。たくさん溜まったので、全部入れましょうみたいな形で、とくに異論もありませんでした(笑)。関わった順番に曲が並んでいるので、改めて自分のたどってきた道を振り返るきっかけにもなりましたし、いま聞くとすごく成長を感じます。「Memories」は、すごく初々しいし、歌い上げ方もていねいで。当時のレコーディングのことを思い出しました。作品の主題歌を聞いて私のことを知ってくれた方には、ほかにもいろいろな曲も歌っていたんだと知ってもらえるきっかけになるアルバムだと思います。
――アルバムタイトルの『BLUE MOON』に込めた意味は?
まず、「安月名莉子」の名前のなかにある「月」を入れたタイトルにしたくて、「MOON」を決めました。「BLUE」は、収録曲を振り返ってみたときに最初に浮かんだ景色が青いサイリウムだったんです。「Memories」は『Re:ゼロから始める異世界生活』のイベントで歌ったのですが、そのときに見た青いサイリウムの印象が強くて。テレビアニメ『彼方のアストラ』のEDテーマ「Glow at the Velocity of Light」も、作品の舞台が宇宙ということもあり、青いサイリウムを振ってもらうことが多かったんです。それから、青い炎が赤い炎よりも高温で燃えているので、一番熱い気持ちという意味も込めて、「BLUE」にしました。
――とてもバラエティ豊かなジャンルの曲が揃っていますが、なかでもとくに印象に残っている曲といわれたら?
全部押しが強いし、全部がターニングポイントみたいな曲ばかりなので選ぶのは難しいですが、「Glow at the Velocity of Light」かな。この曲はSNSでたくさん反応がもらえたこともあるのですが、アニソンDJの方がよくDJライブなどでかけてくれたんです。たくさんの方に知ってもらえた曲ということでも印象に残っています。
――テレビアニメ『やがて君になる』のOPテーマ「君にふれて」は、舞台版でも使用されていましたね。
そうなんです!私も何度か舞台を見たのですが、最初に流してもらえるのがうれしくて。それから、初めてのテレビアニメ主題歌ということもあり、テレビで自分の名前が出た感動はいまも忘れられません。それぞれの曲に思い出はもちろんありますが、「Memories」や「君にふれて」は、初めての経験をたくさんさせてくれた曲なので、心に強く残っています。
――「Memories」は全編英語の歌詞でしたよね。
洋楽はたくさん聞いていたので英語で歌えるのはうれしかったんですが、「R」と「L」の発音を徹底的に教え込まれたことも印象に残っています。そういう大変さもありましたがレコーディングブースで歌えるのが楽しくて、いまでもそのころのことは素敵な思い出になっています。
――最新のタイアップ曲である「かたち」(『メイドインアビス 烈日の黄金郷』OPテーマ)は、ダークな曲調が印象的でした。
「かたち」は、とくにプレッシャーとの戦いが激しかった曲ですね。『メイドインアビス』という大きなタイトルのOPテーマということはもちろん、制作当時に自分の芯を探していかなければいけないと思っていたんです。自分と向き合って、これからどういう方向性でやっていくのか、自分の将来を見据えていたころだったので、そういう意味でのプレッシャーも大きくて。でもそれをエネルギーとして歌にぶつけることができたんですね。実際にアニメで流れたときは、作品の主人公であるリコとレグの中間みたいな声をしているという感想を見たんですね。自分としては意識していなかったことでしたが、そうやって新しい気づきをもらえてうれしかったです。
――これだけジャンルが違うと、レコーディングはいつも挑戦ですか?
そうですね。歌えると信じてもらえているからオファーをいただけるのだと思うのですが、毎回「歌えない」と言いたくなるくらい難しい曲が多いです(笑)。でも、負けず嫌いだから絶対に歌いたいと思っちゃう。練習をいっぱいしてからレコーディングに臨むと、毎回新しい扉が開けるので、私にとってはすべてチャレンジ曲です。
――そんな強いタイアップ曲たちのなかにあって、タイアップなしの新曲「BLUE CYALUME」はどんなテーマで作りましたか?
テーマは、ライブで楽しめる曲です。デビューしてからすぐにコロナ禍に入ってしまって、あまり声出しでのライブを経験していないんです。最近になってようやく「声出し解禁」という声も聞くようになったから、私ももっとライブを楽しみたい。だから、皆さんと盛り上がれる曲にしたいと思ってこの曲を作っていきました。
――かなり強烈な歌詞もありますね。
この曲は「かたち」という、ダークで重い曲を歌っていたからこそ生まれた曲だと思います。その「かたち」もこれまでに歌ってきた曲があったからこそ歌えた曲なので、デビューしてからの繋がりが生んだ曲とも言えるかもしれません。生死にまつわるような強いワードも、「死」という言葉を使った歌詞を何曲も歌ってきたので、書いてもいいのだと思えたんですね。それから『メイドインアビス』の主人公・リコやレグが自分の意思で進んでいく姿を見て、これからは私も自分で動いていくんだと強く思うようになったので、その決意表明のような意味もあります。
――「BLUE CYALUME」のアレンジはZAQさんが担当です。
メロディと歌詞ができた段階で、ロックなイメージですとお話してアレンジをしてもらいました。私がよく弾くアコースティックギター寄りのアレンジになっていますね。ZAQさんとはレコーディング当日が初対面だったのですが、そこで歌へのこだわりをたくさん聞いてもらい、吐息の入れ方や言葉の切り方をていねいに考えてもらえて、人と曲を作ることの楽しさを感じることができました。レコーディングでもいまの自分を出し切って、ライブで盛り上がる様子を想像しながら歌えました。歌の掛け合いなどのリズムにもすごくこだわったので、ぜひ聞いてほしいです。
――今回のアルバムを通して、自分の成長は感じましたか?
感じました!メジャーデビューする前は、ひとりで弾き語りをしていたこともあって、全部自分でがんばろうという気持ちが強かったんですね。でも、今回「BLUE CYALUME」の制作を経て、誰かと曲を作りたい、もっと視野を広くしたいという気持ちが強くなりました。
――ジャケットは、とても幻想的な雰囲気のデザインですね。
パッと見ただけでイメージが伝わるものにしたくて、月をデザインとして入れてもらいました。最初はもっとロック色が強かったのですが、アルバムの収録曲のなかにはポップな曲もあるし、明るさも見せたくて差し色として黄色を入れてもらいました。12曲のイメージがこのジャケットに詰まっています。
――完成したいまの感想は?
集大成の1枚ではあるけれど、まだ私は歌っていきたいのだと感じられる1枚になりました。もっと大きなステージで、ひとりで立って歌いたいという夢があるし、コロナ禍になる前に見た大きなステージでの景色をもう一度見たい。その気持ちは「BLUE CYALUME」の歌詞に込めたので、まだまだがんばっていきたいです。
――ベストにして自信作の1枚ですね。
本当にそのとおりで、私の喜怒哀楽すべてが詰まった1枚になりました。安月名が歌った曲との出会いは、皆さんそれぞれに違うと思いますが、聞いたことがない曲に興味を持ってもらえたらうれしいですし、さらにそこから作品を見てみようと思ってもらえたらとても幸せです。DJ素材としても最適な1枚ですので(笑)、ぜひお手に取ってみてください。
取材・文/野下奈生(アイプランニング)
安月名莉子(あづな・りこ)/2018年にテレビアニメ『やがて君になる』のOPテーマ「君にふれて」でメジャーデビュー。これまでにシングル9枚、デジタルシングル1枚をリリース。2022年からはEARLY WINGに所属して、声優としての活動を正式にスタートした。5月2日には東京・渋谷にて開催の「HUG ROCK FESTIVAL 2023 GW」への出演も決定。
■『BLUE MOON』
発売中
KADOKAWA
3300円(税込)
安月名莉子の1stアルバム。OVA『Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow』の挿入歌「Memories」や、これまでにリリースしてきたシングルの表題曲、さらに自身がこのアルバムのために作詞・作曲を手がけた新曲「BLUE CYALUME」など全12曲収録。