アーティストデビュー発表からの一年
――アーティストデビューが発表されたのが昨年のご自身の誕生日である9月8日。一年以上が経ちました。アーティストとしてはどのような一年になりましたか?
元々歌が苦手だったので、発表自体も怖かったんです。歌に対する自信もなかったですし、私の歌が誰にどう受け入れてもらえるのかも分からない。そんな不安だらけのなかデビューを迎えました。
その気持ちに変化があったのが、サンシャインシティで行った1stシングルのリリースイベント。あの時、「こんなにも応援してくれている方々がいるだな」と改めて気が付きました。また、その時行ったハイタッチ会で、今まで声優としての私を応援してくれていた方が「アーティストとしても応援するよ」と声をかけてくれたんです。それが自信に繋がりました。
一年が経ったいま、不安な気持ちがもうないと言ったら嘘になりますが、前よりもリラックスして歌えるようにはなっています。レコーディングでは自分の世界に入りながら歌えるようになったんじゃないかな。
――前向きな気持ちで歌に臨めるようになったなか、3月以降は新型コロナウイルスの関係もあり、なかなか思うように活動ができなかったと思います。
そうなんですよね……。1stシングルのリリースイベントはできましたが、それ以降、人前で歌う機会がまだあまりなくって。次にライブイベントをやったときにはどれくらいの人が見に来てくれるのかな、という不安な気持ちもあります。
――そういう意味では、人前で歌うことが次のステップにも繋がりそう?
そうですね! その機会が早く来ればいいなと思っています。
――これまでの活動という点でいえば、1stリリースイベントやCDのリリース以外にも、2ndシングル併せの企画で、架空のラジオ局「AJwave9.08」を期間限定で開局していました。番組では「恋のお悩み相談」メールを募集されていましたね。
人の恋愛話を聞くのが好きなのですが、仕事をするようになってからはそんなに機会がなくって……。だからこそ、リスナーの方から生々しい恋愛事情を聞きたかったんです(笑)。番組内でも色々と紹介しましたが、リスナーの方から送っていただいたお便りのなかで一番多かったのが「好きって気持ちが分からない」という相談でした。
――恋愛感情が分からないというニュアンスのもの?
そうですね。いわゆる推しに対する好きではなくて、「この人となら結婚したい!」とか、そういう好きが分からないというお便りが多かったです。
――和氣さん的には、その内容のお便りが多かったのは意外だった?
ビックリしました。というのも、私は幼稚園の頃にはもう好きな子がいたので(笑)。同じように、みんなも好きな人ができたことってあるもんだと勝手に思っていました。男の子って、幼稚園の先生に憧れる人が多いイメージもあったので、「気持ちが分からない」というのは意外で、不思議でもありました。でも、今はまだ分からないという方もきっといつか、「好き」と思える人と出会えるはず。またその時にもお話を聞きたいですね(笑)。
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「あたたかい、儚いけども大切なもの」
――先ほどの企画にも関連して、2ndシングルは恋愛に関する楽曲が多かったです。今回はそれとは雰囲気が違う4曲が集まりました。
そうなんです! 3rdシングルを出すと決まったとき、音楽プロデューサーの方から「1stは和氣あず未らしさを出した楽曲、そして2ndは恋愛系でしたが、次はロック系でいきます」と言われたんですよ。ロックって「うえーい!!」とかガイコツというイメージがあったのですが、今回歌った4曲は、そういうものとは雰囲気が違う楽曲だったんです。ロックの幅の広さを知りました。
――それぞれの楽曲について教えてください。まずは表題曲のひとつである「イツカノキオク」について。
歌詞を見ながら曲を聞いたとき、過去の記憶や遠い昔の大切なものを歌っていたので、儚くて悲しい、切ない曲なのかなと最初は思いました。ただ、何度も聞いていくうちに、そんなことはないと感じるようになって。レコーディングのときには、「あたたかい、儚いけども大切なもの」を歌詞から感じながら、歌っていました。
――本曲はTVアニメ『くまクマ熊ベアー』のOPテーマ曲でもあります。
作品にもフィナ役として出演しているので、タイアップ曲が歌えるのはとっても嬉しいです。
――質問していてふと思ったのですが、和氣さんは異世界に関わる作品に多く出演されていますね。
言われてみれば、確かに多いですね! 年に数回は異世界転生に関わっています(笑)。自分がする側だったり、主人公がしてくる側だったり……。
――ファンタジー作品に出るのは楽しい?
難しい用語や敵の名前などを覚える難しさはありますが、ファンタジーならではの先が読めない、夢のある物語に登場するキャラクターを演じられるのは楽しいです!
――ファンタジーの世界では、日常ではなかなか体験できないことばかり起きますもんね。
そうですね。本作にも、魔法といったファンタジーならではの要素が出てきます。ただ、異世界転生ものでありながらも、わりとストーリー的にはほっこりしているんですよね。異世界だけども日常感のある作品なので、観ている方はきっと、癒されると思います。
――そんな作品にも注目ですね。ちなみに、レコーディングしたのは、アフレコ前でしたか?
ちょうどアフレコをしている途中にレコーディングをしました。
――そういう意味では、作品への想いも乗せて歌えた。
そうですね。『くまクマ熊ベアー』の主人公であるユナちゃんは異世界に転生してきて、私が演じるフィナちゃんと運命的な出会いをします。そういう出会いの大切さもこの曲には乗っているので、そこは作品ともリンクしていると感じています。とはいえ、キャラクターソングという訳ではないので、作品半分、アーティスト・和氣あず未半分というくらいの気持ちでレコーディングしました。
――アーティスト・和氣あず未としてはどのような楽曲だと捉えて歌っていますか?
終盤に出てくる「どれだけ世界が変わっても この記憶は褪せない ずっと」という歌詞を見た時、「私は毎日をそんなに大切に生きていけていないなぁ」と思って、じーんときました。過去の日常を大切にできているこの歌詞の主人公には、憧れに近い感情を抱いています。
――レコーディングでは、どのようなディレクションがありましたか?
「こうしてください!」というディレクションは特別なかったですね。まず一度歌ってみたところ、「そのニュアンスで合っているよ」と言っていただけたので、その後もわりと自由に歌わせていただきました。楽しくレコーディングできましたね! 他の3曲の中に苦戦した楽曲はありましたが……。
――そのあたりも追々おうかがいできればと思います。初回限定盤には本曲のMVが収録されたDVDが付属します。こちらはどのような仕上がりになっていますか?
「時間」「過去」「記憶」がテーマの楽曲に合わせた、時間の流れを感じられるMVに仕上がっています。今の時間を生きている「私」と過去の「私」が登場するのですが、それぞれの対比が注目ポイントのひとつですね。
――どのような対比がされていますか?
今の時間を生きている「私」はカラフルで通常通り動くのに対して、過去の「私」はモノクロでスローモーションな動きをするんですよ。中には、その二人が同じ画角に入っているシーンもあります。とてもオシャレなMVに仕上がりました。
――撮影はいかがでしたか?
外でも撮影したのですが、実は撮影日がものすごい暴風雨だったんです。風が止んだら撮影する、という感じで、少しずつMVを作っていきました。休憩中はスタッフさんが雨に打たれてびしょびしょになりながらも、私に傘を差してくれて……。感謝の気持ちでいっぱいになったのと同時に、心苦しかったです。それくらい撮影は大変でしたが、映像は清らかなものになっています!
――過酷な環境での収録とはいえ、その雰囲気や表情を映像に乗せるわけにはいかないですもんね。
そうなんですよ~! でも、過去の「私」を演じてくれた高須柚羽ちゃんは、撮影が押していたのも関わらず、すごくいい子にしていたんです。
――自分が同じくらいの年齢の時だったら……。
絶対に駄々をこねていました(笑)。私、ちょっとでも空き時間があれば昼寝をしちゃうんです。でも、柚羽ちゃんは私だけのシーンのときにも、ジーっと撮影している様子を見ていたんです。大人だなと思いました。
――すべてを吸収しようとしているのかもしれません。
偉すぎる。すごいですよね。現場でいちばん輝いていました。
――前回のインタビューでは、「撮影は一生慣れないと思う」とお話されていました。
やっぱり、慣れないですね。特にMVの撮影はカメラマンさんや監督さんなどたくさんの方がいらっしゃるので、緊張しちゃうんです。レコーディングやアフレコは目の前にマイクしかないので大丈夫なんですけども……。たくさんの人の顔がちらついてしまうと、どうしても緊張してしまうんです。
――割と人の目を気にされるタイプ?
そうなんです! 自意識過剰なんですよね。「どう思われているんだろう」「変に思われていないかな」って気にしちゃう。
――街などに出ても、人目を気にしてしまう?
まさに、そのタイプです。マッサージ師さんに「緊張しながら生きているでしょ」と言われたこともありました。電車でイスに座る時ですら、他の人から「なんで?」と思われていないか気にしちゃうんです。本当に小さなことでも気にしちゃうタイプなんですよ。
――それなら、リリースイベントで噴水広場のステージに立った時も相当緊張されたのでは?
あの時は知っている顔の方がたくさん来てくださっていたので、安心して歌うことができたんですよね。
――なるほど。和氣さんは他のコンテンツでも歌う機会が多々ありますが、そういう時はあたたかい目があるから、安心して歌えているんですね。
そうかもしれないです! 撮影などの仕事のときって、皆さんが仕事目線で真面目な顔をされていることが多くって。だから、余計に気にしちゃうのかも。
――他のアーティストの方も出演されるようなフェスなどでは、緊張の度合いが増してしまうかもしれません。
きっと、ダメですね……。
――ダメ!?
もしかしたら、一番ハードルが高いかも。
――中止にはなってしまいましたが、「コロちゃんフェス」はその機会になる予定でした。
「コロちゃんフェス」が開催されていたらきっと、「私の時間を退屈にさせてはいけない」という一心で、すごく緊張しながら頑張っていたと思います。でも、「コロちゃんフェス」がもし開催される機会があれば、ぜひ出演したいですね。他のアーティストさんも出演するライブに出られたら、アーティストとしてまた一段階成長できるんじゃないかな。
自分を信じて進まないと、夢には届かないよ
――続いて、もうひとつの表題曲「透明のペダル」について教えてください。
この曲は「自分を信じて進まないと、夢には届かないよ」ということを伝える歌です。過去の自分と重なる歌詞だったので、とても共感できました。私は「声優になる」という夢を叶えるために、専門学校に通っていました。その時には「夢を掴みたい」と強く思っていましたし、ものすごく狭き門だと理解はしていましたが、なぜか「声優になれる!」という自信に満ち溢れていたんです。絶対になれるって。
――なりたいという気持ちが強くあったがゆえに「なれる!」というポジティブな気持ちになれたのかもしれません。
そうかもしれないです。甘く見ていたということは決してありませんが、夢を実現することへは前向きな気持ちでいたんです。
――実際に和氣さんは夢を叶えている最中です。
でも、元々の性格はすっごくネガティブなんですよ。特に大切なものや大きな夢に対してほど、ネガティブになっちゃう。ただ、声優という夢だけは「なれる!」という自信がありました。それくらい、「なりたい」という気持ちがあったんだと思います。この曲は自分への応援ソングでもありますが、夢を叶えたいと強く願っている人を後押ししたい、という気持ちも込めて歌いました。
――レコーディングはいかがでしたか?
音楽はオシャレで、キラキラとした輝かしい青春を感じられるものでした。それなら歌い方も熱く、サビにいくにつれて上がっていく感じになるかと思っていたのですが、実際は、抑揚を付けずに歌ったんですよね。レコーディングでも「歌詞は熱いけども、歌い方にそういう熱は込めないように」というディレクションがありました。特にAメロ・Bメロは抑え気味に歌っています。その歌い方がそのまま、この曲の主人公の心情にもなっているんじゃないかな。私も「絶対に夢を叶えるぞ」という気持ちを表に出すタイプではなかったので、「内に秘めつつも、強い気持ちを持っている」という表現にも、共感できました。
――3曲目に収録されているのは、「Girl’s Riot!!」。最初に曲を聞いたときの印象を教えてください。
アメリカンポップな曲で、ガールズロックという言葉が似合うなと思いました。曲のテーマは「女の子同士の友情」。恋愛系の曲も好きですが、こういう「恋愛なんていいよ」という、女の子の自由さを歌った曲も好きなんですよね。
――まさに、女の子が友達の話を聞いているという歌詞に仕上がっていると思いますが、和氣さんもこういうガールズトークをされますか?
します! すごく好きですね。中高からの親友ちゃんがいるのですが、その親友ちゃんが絶賛恋愛中なんですよ。その子は、中高ともに女子校、大学でも女子大に通っていたこともあり、あまり男性との接点がなくって。どうやって男の子と関わればいいのかも分からない子だったんです。そんな子に、やっと彼氏ができて! お話もいっぱい聞いています。
――親友のそういう話を聞くと、嬉しい気持ちになりますよね。
でも、私はちょっと寂しくもあるんですよね。前は週末になるといつも「あず、この日空いている?」と聞いてくれていたのに、最近は彼氏が中心。こっちから「今何してるの?」と聞くと、「彼氏の家にいるよ」って返事がくるんですよね。だから、寂しいなって。
――なるほど。
その寂しさそれゆえに、彼氏のことをちょっと悪く言っちゃう時もあります(笑)。
――おぉ(笑)。
親友ちゃんが彼氏と喧嘩したときにも、「絶対に彼氏が悪いよ」「それ、止めさせた方がいい」って言っちゃいました。親友ちゃんに彼氏ができたことは本当に嬉しいんですけども、寂しさから、彼氏のせいにしちゃうときがあるんですよね……。彼氏さん、ごめんなさい(笑)。
――原稿には「もうちょっとかまってください」と書いておきます。
このインタビューは親友ちゃんに見せますね(笑)。
――(笑)。1st、2ndシングルの楽曲でもそうでしたが、和氣さんは物語を思い浮かべながら歌うことを大切にされています。この歌の主人公は、どんな人物だと思いますか?
私の勝手なイメージですけども、金髪の女の子がいいですね。
――金髪!
そうです。金髪でミニスカートを履いていて、爪もカラフルなイメージ。恋愛よりも友情を大切にするくらい友達思いで正義感も強い。友達が失恋したら最初に「ご飯食べに行こ」と言ってくれるタイプの女の子だと思います。すごくサバサバしていてヤンチャだけども、素敵な女の子なんじゃないかな。
――見た目で勘違いされがちだけども、実はすごくいい奴。
まさに、そういうイメージですね!
――和氣さんはそんな主人公と似ている部分はありますか?
どうでしょう……。でも、「誰にも縛られない今がイチバンだよ」という歌詞は、すごく分かるなと思いました。私も人に縛られるのがとにかく嫌なんですよ。反対に、「誰かに決められたルール通りに 生きていくなんて もうたくさんだ」という歌詞には、少し羨ましさを感じました。私はわりとルールを守って生きているので(笑)。
――縛られるのは嫌だけども、ルール通りに生きている。
そうなんですよね。ルールを破って人に迷惑をかけたり怒られたりするのは嫌なんです。だからルールは守っていますが、誰かに縛られたくはないんですよ。
――分かります。私も破天荒に生きたいと思いつつ、どうしても守りに入ってしまうタイプなので。
やっぱり、そうですよね~。でも、思い返してみると仕事をする前は、多少ルールを破っていたかも。というか、高校生時代は校則を破りまくっていました(笑)。
――夏休み中にちょっと髪の毛を染めちゃったり……。
やっちゃいましたね~。
――そして、夏休みが明ける前に黒髪に戻したにも関わらず、染めていたことがバレる。
そう、すぐにバレちゃうんですよね。不思議なことに。こういうのって、若いからこそできていたことなのかな。今はルールをガチガチに守って生きています。だから、「Girl’s Riot!!」は、今の私にとっては「分かる」部分もあり、「羨ましい」部分もある、そんな感じの曲ですね。
――レコーディングはいかがでしたか?
楽しかったです。サビの英語の部分はメロディー通りに録ったものもあれば、コーラス的な要素を入れるために、4役くらいになって叫びながら収録したパートもありました。時間はかかりましたが、その分、賑やかな楽曲に仕上がったと思います。
――ということは、冒頭のお話からすると、今回レコーディングに苦戦した楽曲は「Break Theory」。
です。曲を最初に聞いたときはライブ映えしそうで、後ろにバンドメンバーがいる風景も思い浮かんでワクワクしたのですが、レコーディングは苦戦しました。
――どのあたりが難しかったですか?
私、テンションの上がりが遅くて、熱い気持ちをあまり外に出せないタイプなんです。嬉しい・楽しいという気持ちになるとはもちろんあるのですが、冷静な自分も心のどこかにいちゃって……。だから、100%のテンションまでいくことがあまりないんです。でも、この曲は、熱い気持ちを持って夢を駆け抜けていく子が主人公なので、その気持ちを表現するためには120%のテンションで歌わないといけなかったんですよ。
――自分ではなかなかいかないテンションの到達点までいかないといけなかった。
そうなんです。アフレコではそういうテンションも出せるのですが、歌になるとすぐにはできなくって。一度100%のスイッチが入ればその調子でいけるのですが、休憩が入るとまた50%くらいに戻ってしまうんです。精神的にも体力的にも疲れたレコーディングでしたね。ただ、レコーディングでこれだけ大変だったからこそ、ライブで歌うのが楽しみでもあります。
――前回のインタビューでは、まずは3rdシングルの発売が目標とおっしゃれていました。今回、その目標を達成しましたが、次に目指すべきところは?
次の目標は……またCDを出せるように活動すること、そして……人前で歌いたいですね。いつになるかは分かりませんが、今度はリラックスしながらも、ちゃんと来てくださった方一人・一人の顔を見ながら歌いたいです。
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取材・執筆/M.TOKU
【プロフィール】
和氣あず未【わき・あずみ】9月8日生まれ。東京都出身。東京俳優生活協同組合所属。主な出演作は、『くまクマ熊ベアー』フィナ役、『ブレンド・S』桜ノ宮苺香役、『アイドルマスター シンデレラガールズ』片桐早苗役 ほか。
「イツカノキオク/透明のペダル」概要
発売日:2020年10月7日(水)
【初回限定盤】
仕様:CD+DVD
価格:2,000(税別)
※DVDには「イツカノキオク」Music VideoとMaking Movieを収録
【通常盤】
仕様:CD only
定価:1,500円(税別)