「自分の“ホーム”と言っても過言ではないくらい人生における大きな作品」音楽家・田中公平が『ワンピース』にかける思い【インタビュー】 | 超!アニメディア

「自分の“ホーム”と言っても過言ではないくらい人生における大きな作品」音楽家・田中公平が『ワンピース』にかける思い【インタビュー】

TVアニメ『ワンピース』が、放送開始から20周年を迎える。「アニメディア4月号」では、20年間携わってきた音楽家・田中公平に、これまでの音楽制作やキャラクターソングについてインタビュー。「超!アニメディア」では、本誌に …

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 TVアニメ『ワンピース』が、放送開始から20周年を迎える。「アニメディア4月号」では、20年間携わってきた音楽家・田中公平に、これまでの音楽制作やキャラクターソングについてインタビュー。「超!アニメディア」では、本誌に掲載しきれなかったロング版を公開する。


物語の持つ熱量に負けないそれ相応の熱量で立ち向かう

ーー田中さんがTVアニメ『ワンピース』の音楽制作に携わって20年になります。今のお気持ちはいかがですか?

 私は来年でキャリアが40周年になるので、自分のキャリアの半分がTVアニメ『ワンピース』です。いちばん脂が乗り始めたころから『ワンピース』に携わっているからこそ、これほど長い期間、制作をすることができたと思います。この20年間、いいことばかりで幸せでした。

ーーどんないいことがありましたか?

 世界中に行けました。『ワンピース』は世界中のどこに行っても知られています。今やパリ(フランス)、ロンドン(イギリス)など、のべ15都市でオーケストラコンサートを開催して、どの都市でも初代のOP主題歌「ウィーアー!」を日本語で歌ってくれます。このコンサートを最初に開催したのは香港だったのですが、お客さんがみんな立ち上がって「ウィーアー!」を歌ってくれたときは「このまま死んでもいい(笑)」と思うくらい、うれしくて感動しました。アニメ音楽をやっていてよかったと思った瞬間でした。じつは世界でいちばんウケている曲は「ウィーアー!」ですけど、2番目は“ヨホホホ”(「ビンクスの酒」)です。「一緒に歌ってほしい」と言わなくても、自然と一緒に歌ってくれます。今年は9月にミラノ(イタリア)で公演を行います。もっといろいろなところでやりたいですね。

ーー世界共通のお約束があるわけですね。

 そうですね。ポール・マッカートニーが来日してビートルズの曲を歌ったときは、私も一緒に歌って感動したものです。音楽家として、そういう光景がとてもうらやましかった。それが今、『ワンピース』で実現されているのは、本当にすばらしくて誇らしいです。

ーー「ウィーアー!」を作ったときのことで、印象に残っていることは?

 そのときは本当に時間がなくて。私に与えられた時間は2日半でしたが、藤林聖子さんの詞がすばらしかったので、1日とかからずに作ることができました。藤林さんが書いた歌詞の最初の<ありったけの~>というフレーズが、私にインスピレーションを与えてくれたんです。言葉が詰まった感じで歌うメロディーがおなじみになっていますが、最初に曲を提出したときは、各所から「こんな早口言葉みたいなメロディーでは子どもが歌えないじゃないか」と反対意見が出ました。でも、これがウケるという確信は私のなかにありました。アニメ『勇者王ガオガイガー』のテーマソング「勇者王誕生!」を作ったときも、じつは「“ガ”が多すぎる」とお偉いさんから反対されたのですが、若いスタッフからは好評だという意見を優先した結果、それが大当たりした経験があって。それで電話でのやりとりでしたが、その場で「じゃあ<ありった~け~の~>にしますか?」と歌って聴かせたら「勢いがないね」と気づいてもらえて、OKしてくれたんです。

ーー『新世界編』が始まる際のOP主題歌「ウィーゴー!」は、結果を出したあとだけに作りやすかったのでは?

 そんなことはありません。「ウィーアー!」を超えて、なおかつ誰もやっていない面白いことをやらないといけない。前よりハードルが上がっていて大変でした。それで考えたのが、AメロとBメロの音を途切れさせずに繋げるというやり方です。藤林さんに「こういうアイデアはどうかな」と相談したら「面白いですね」と言って歌詞を書いてくれました。いちばん大変だったのが歌唱するきただに(ひろし)くんで、長いフレーズを、一気に繋げて歌わないといけないので、「どこで息継ぎすればいいんですか?」と戸惑っていました(笑)。

ーーきただにさんの起用は、どのような経緯で決まったのですか?

 きただにくんは、最初は仮歌を担当する歌手だったんです。あるスタッフに「面白いやつがいるから使ってみてほしい」といって紹介されたのが、当時LaPisLaZuliというバンドでボーカルをやっていたきただにくんでした。きただにくんが歌った仮歌をレコード会社と東映アニメーションのスタッフに聴いてもらうとすごく好評で、「本番もこの人でいいじゃん!」となりました。非常に大ざっぱな決め方でしたが、きただにくんも「このとき人生が変わった」と言っていました。もちろん、あの難しい曲が成立したのは、彼の歌唱力のすばらしさと、藤林聖子さんの歌詞があればこそ。たくさんの人の協力があって「ウィーアー!」と「ウィーゴー!」の2曲は、私のなかでも金字塔と呼べるものになりました。

ーー本作では、訪れる島ごとに文化や住人の特徴が異なります。劇伴制作という点では、そのつど島や人物に合わせた音楽を考えなくてはならず、大変では?

 『ワンピース』という大きな世界感のなかで島ごとに世界感が違うところに、『ワンピース』の音楽制作の醍醐味があります。これから描かれる「ワノ国」のお話では、もちろん和楽器をたくさん使っていますが、『ワンピース』という世界感の一部であることを忘れてしまうと『ワンピース』ではなくなってしまう。どうバランスを取るかに苦心しますね。

ーーたとえば「ドレスローザ」編のエピソードで使用された劇伴は、スパニッシュ音楽のテイストが入っていました。

 きっとスペインの人がそれを聴いたら、「スパニッシュだけどちょっと違うな」と思うんじゃないかな。スペインと言えば「カルメン」というオペラの曲が有名ですが、作曲者のジョルジュ・ビゼーはフランス人なんです。ビゼーがフランス人だったからこそ、スペイン音楽を客観的に捉えることができて、世界的にヒットしたのではないかと思います。『ワンピース』の劇伴も、同じように舞台を客観視しながら制作しています。

ーー世界で『ワンピース』コンサートがウケていることもうなずけますね。

 だからワノ国では、曲を作る僕が日本人ですから、コテコテの演歌にならないようにするなど、気をつけないといけないと思って気を引き締めています(笑)。


面白くて深いキャラクターソングを作り続けた20年

ーー20年の間に登場キャラクター数の増加に伴ってキャラクターソングも多く生まれていますが、キャラクターソングを書くうえで意識することは何ですか?

 キャラクターのバックボーンや物語も大事ですけど、声優が誰かということも重要視しています。たとえばジュラキュール・ミホークは、最初の声優は青野武さんで、声が高くてエキセントリックなかっこいい演技だったんですね。その青野さんの声を前提にしてミホークの曲を書いたのですが、青野さんが7年前にお亡くなりなって……今、ミホークを演じられている掛川裕彦さんは、掛川さんらしい渋さのあるかっこよさで素晴らしいのですが、青野さんのミホークをイメージして音楽を付けていたので、掛川さんのイメージでキャラクターソングを書き直したいという気持ちもあります。

ーー演じているキャストの声のイメージも念頭に置いて作曲されるんですね。

 新しいキャラクターが登場するときは、真っ先に「声優は誰?」と聞きます。プリンが出てきたときはうれしかったです。

ーープリンの曲もありましたっけ?

 ないですけど、単純に声優の沢城みゆきさんが好きなんです。彼女は、林原めぐみさんに次ぐ演技の天才です。山寺(宏一)さんともよく話すんですよ、彼女はすごいよねって。プリンの曲も、作れるなら作りたいですね。「プリンとサンジのデュエット曲なんてどうかな?」と、提案しているんですけどね。

ーーそれは聴いてみたいですね。キャラソンを作曲するうえで難しい部分はありますか?

 キャラソンでキャラクターのすべてを語ることは、とても難しいです。曲調だけでその人物を語ろうとすると、すごくステレオタイプになりがちです。たとえばルフィの曲と言ったら、「俺の腕は伸びる」みたいな特徴を捉えた曲を誰もが想像すると思います。新規のファンに向けてならそれでも構わないのですが、『ワンピース』は20年の歴史があって、最初は中学生くらいだったファンが今は大人になって成熟しているので、より深いものを求めているんです。だから「始まりの宝石」というルフィの曲では、ルフィの身体的な特徴ではなく、心情に重きを置いて書きました。とは言っても、“変化球”ばかりでは新規のファンが置いていかれてしまいます。新規のファンが面白いと思ってくれて、なおかつ成熟したファンには「深い」と思ってもらえる曲でないといけない。このバランスをとることが、アニメ音楽やキャラクターソングの難しいところでしょう。

ーーこの20年で機材や録音方法も変わったと思いますが、変わらずにこだわっていることはありますか?

 劇伴に関しては、生のオーケストラで録ることにこだわりを持っています。今の時代は、シンセサイザー音源の打ち込みの音楽がほとんどなので、そういう曲しか聴いたことのない若い世代に、オーケストレーションされた生楽器による音楽を聴かせてあげることも、僕らの務めだと考えています。そのぶん経費も手間もかかるし、オーケストラのスコアを書くのは大変ですけど、無理を押し通してでも頑張っている部分ですね。

ーースコアもパソコンで書くことができますが、それも手書きですか?

 そうです。1000曲弱は書いたと思います。『サクラ大戦』シリーズでは1200曲くらい書きましたけど、わりに書くのが好きなほうです。それに、のちのち「田中公平記念館」ができたときに、展示品がなくなっちゃうじゃないですか(笑)。私が音楽家になったのも、ワーグナーやベートーベンの直筆スコアを見て感動したからなんです。ゴッホの絵を観たときも、ゴッホがここにこうして立って描いていたことを想像したら、タイムスリップしたような気持ちになりました。そういう感動が芸術を生むわけです。それに『ワンピース』のコミックは、ひとコマに描かれた描写の密度がすごいじゃないですか。ひとコマだけで1週間かかるんじゃないかと思うものを、毎週あのページ数描いている。音楽もあの熱量に勝てないまでも、同等に近いまでのものを生み出さないといけないわけですから。こちらもそれ相応の熱量で立ち向かわないと、尾田栄一郎先生に失礼になりますからね。

ーー3月15日にはゲーム『ONE PIECE WORLD SEEKER』のサウンドトラックもリリースされました。こちらは、雰囲気が少し変わりますね。

 そうですね。ゲームというのは爽快さがなければいけないので、戦う内容にしてはさわやかさのある曲にしました。さわやか系『ワンピース』と思って聴いてもらえたらうれしいです。ポイントはザコバトルの曲ですね。ゲーム音楽の世界ではザコバトル中に流れる音楽が、もっとも大事なんです。極端に言うとボスバトルは1回しかやらなくても、ザコバトルは何百回とやるわけで、そこで流れる音楽がつまらないとザコバトルは苦痛でしかなくなるんです。同じ理屈でフィールドの曲もそうです。このふたつに重きを置いて作っているというところに注目して聴いていただけたらうれしいです。

ーーちなみに、お好きなキャラクターやストーリーはありますか?

 いっぱいいすぎるけど、好きなキャラクターをあえて挙げるならバギーです。バギー役の声優・千葉繁さんも好きで、バギーとルフィの絡みのセリフは、ほとんどアドリブだそうです。ただ千葉さんはやりすぎてしまうので、テスト、ラステス、本番で全部変えるものだから、本番でネタが尽きているときがあるらしく、それは考えものですけど(笑)。あとは、ルンバー海賊団です。ブルックも好きで、いつかクジラのラブーンともう一回逢えたらいいのになって思いますね。

ーーでは、音楽家・田中公平にとって『ワンピース』とは?

 自分の“ホーム”と言っても過言ではないくらい、人生における本当に大きな作品です。今から30年くらい前に、私はアニメの仕事1本に絞ろうと踏ん切ったのですが、アニメの曲しか書かないと決めた私の背中を押してくれた作品です。縁や運命みたいなものも感じます。

ーー最後にアニメディア読者にメッセージをお願いします

 『ワンピース』はすごい作品。これからの盛り上がりがまたすごいので、今後も観続けてほしいです。ちょうど新しい展開に入るところで、途中からでは入りにくいと思っている方でも、観始めるのにはいいタイミングだと思います。これからいい話がたくさんあるので、まだ観ていない人もどんどん参入してください。

構成/榑林史章

〈アニメ『ワンピース』〉
毎週日曜日朝9時30分よりフジテレビ系列で放送中

<劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』>
8月9日(金)より劇場公開

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尾田栄一郎公認ポータルサイト
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(C)尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

《超!アニメディア編集部》
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