CS映画専門チャンネル「ムービープラス」で、人気声優にスポットを当てて特集として放送する人気企画「吹替王国」が6月で記念すべき10回目を迎える。そんな記念回に登場するのは、90年代に社会現象とまでなった大人気アメリカ青春ドラマ「ビバリーヒルズ高校白書」でのスティーブ役のほか、数々の作品でさまざまな声を担当してきた堀内賢雄。番組では、スティーブのアイアン・ジーリングの声を再び吹き替えた「シャークネード」をはじめ、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(ブラッド・ピット役)や、ヒューマン・コメディ「人生、サイコー!」(ヴィンス・ヴォーン役)など、計4作品が放送される(6月25日(日)17時15分~)。今回の放送を記念して、堀内に今回放送される作品で演じた役のことや、海外ドラマと映画の吹替の違い、声優として大切にしていることなどを聞いた。
ーーまず、声優のお仕事をやり始めた当時について聞かせてください。
デビュー作はTBSでやった「アンドロメロス」(1983年)という作品のアンドロウルフという役をオーディションで勝ち取ったんです。その後にアニメーションだと「サイコアーマー・ゴーバリアン」でハンス・シュルツという大きな役をいただいてやらせていただいたんですけど、これがひどかった(笑)。「賢雄さんのためにどんだけ時間かかったか」と今でも当時のスタッフから言われますからね(笑)。当時はテープだったので、今以上に作業が大変で苦労をかけたと思います。でもそこから「この世界でやっていく!」と決意して今に至る、という感じです。
ーー長年、声優としてやられてきて、今回のようなご自身に焦点を当てた特集が企画されることについてはどんなお気持ちですか?
嬉しいですね。地道に階段を上がってくればこうやって特集も組んでいただけるんだなと(笑)。あと、人に恵まれていたと思います。昔は今の映画やドラマのように、●●組、●●組みたいに吹き替えの現場も座組をつくってやっていたんですよ。その中で僕は決してうまくなかったけど、監督方にはかわいがっていただいて、役もいただきました。当時よくお酒を飲む監督や野球好きの監督、いろんな人がいましたけど、何か集まりがあると必ず参加していましたね(笑)。
ーー吹替のお仕事では、アイアン・ジーリングの声を「ビバリーヒルズ高校白書」と「シャークネード」という、二つの異なる作品で担当されることも。両者をやるにあたって、意識して変えたことはありますか?
「ビバリーヒルズ高校白書」が終わって、アイアン・ジーリングの声をやることはもうないんじゃないかと思っていたんです。実際は、2回くらい映画でやったんですけど、主役ではなくて。それが「今度は主役だよ」って言われてやったのが「シャークネード」。またできて嬉しいなと思いましたね。「スティーブは、「●●でやんす」とか「●●でありんす」とか話してコミカルなイメージが強かったので、「シャークネード」でもちょっとおちゃらけてやったら、監督から「賢雄さん、マジメにやってください」と言われてしまって(笑)。「ビバリーヒルズ高校白書」の頃と比べると、渋くてカッコいい人になっていましたね。その渋い、一生懸命なところが映画を引き立てているなと思いました。
ーー「フルハウス」のような海外ドラマと、洋画の吹替をする際、何か違いを感じることがありますか?
シリーズものは長く続きますから、先が分からなかったりもしますけど、映画はエンディングが分かっていますので、「先を知っていながらも分からない演技」というものをやらなければならないところですね。
ーーシリーズものの海外ドラマだとストーリーの先が見えないこともあるとのことでしたが、見えないからこそ演じにくいということはないのでしょうか?
作り手側からすると、知らずにやった方が演技的に面白いというのもあるのでしょうし、演じるこちらとしてもやっていて徐々にキャラクターが解明されていくのが面白いなというのはあります。シリーズものは、いろんなことが起きて楽しいですね。これから大活躍するんじゃないかと思われていたキャラがいきなり死んでしまったり、予想がつかない分、役者も結構ドキドキで楽しみながら演じられるんじゃないかと思います。
ーーちなみに堀内さんはアフレコでアドリブを入れることは多いのでしょうか?
実は、僕がアドリブを入れたのは「危険戦隊デンジャー5 ~我らの敵は総統閣下~」(2016年)ぐらいなんですよ。難しかったですね。のべつ幕なしに入れちゃダメだと思いました(笑)。声優をやり始めた頃に、先輩が台本を直すことにすごく厳しかったこともあって「アドリブを入れてください」と台本に書いてあったら入れますけど、そうじゃないものは基本的にはいじらないようにしているんです。「ビバリーヒルズ高校白書」のスティーブのおちゃらけた言い方をみんな僕のアドリブだと思っている人が多いんですけど、あれはみんな台本に書いてあるものなんです。与えられたものの中で、どれだけアドリブを入れているように見せるのかというところが楽しいですね。
ーー海外ドラマや洋画の他に、アニメやゲームでもいろんな役をされていますが、それらとの違いは感じますか?
基本的には演じるということに関しては同じだとは思うんです。ただ、アニメーションやゲームによくあるんですけど、「すごくデフォルメしてください」って言われるものもあれば、「洋画のようにリアリティを持ってやってください」と言われるものもあって、バラバラなんですよね。あと、洋画の吹き替えでコミカルなキャラがきた時に演じるコミカルな感じと、アニメーションで演じるコミカルな感じはまったく違う。洋画はリアリティの中で演じるけれど、アニメーションは「こんなの現実でありえないだろう」くらいにハジけてもいいというか。僕は、「芝居というものは声を張ってやるものだ」と言われてずっとやってきたんですけど、今はそんなに張らなくてもいいと言われる時もあるし、収録の仕方も変わってきていろんな形態があるので、それで右往左往することもあります(笑)。でも、こちらとしては向こうからの要望に応えられるよう努力するだけですからね。一生懸命勉強中というところでもあります。現場によってより臨機応変に対応することが求められることが多いので、難しくなっている気はしますね。声を前に出す訓練ばっかりしてきたから「ボソボソ喋る感じで」と言われても「ボソボソってどういう感じなんだ」みたいになってしまうこともありますし(笑)。昨年「ジョーカー・ゲーム」(結城中佐役)をやった時も「ささやくくらいでいいですから」と言われて、そんな訓練を受けたことがないから思わず大きく張った声でやってしまったら「もっと抑えて大丈夫です」と言われたり(笑)。オンエアで見ると監督の指示でちょうどよいくらいになっていて「ええ?あれぐらいでよかったのか」と驚いたこともありましたね。
ーー声優という仕事をやる上で大切にされていることはありますか?
ずっと大切にしているのは「なれ合いにならないこと」「巨匠にはならないこと」ということをいつも思ってやっています。キャリアがあるというのは、いろんな勝手が分かるけれど、芝居をするという面では別物だと思うんです。与えられたものをできるかどうかというところは、声優をやり始めた頃も今も変わらない。与えられたものを真摯に受け止めて、若い時と同じように喜べてその役を魅力的にやれるかというところにあると思いますね。だから若い子たちと一緒に仕事をする時も、キャリアではなくて、「どれだけ気持ちを乗せられるか」というところで戦ってますから。今でも役をもらった時に「できるかな?」と不安になることもありますし、現場で監督からいろいろ言われますからね。それが楽しみでもあるし、モノ作りなんだと思います。主役をやってるからってその人には何も言わないということはないですし、違うと思ったら言うだろうし、怒られてるということではなくて、モノ作りの上で必要なことなんです。最初は「全然違う」と言われていたものが、だんだん「いい感じになってきたね」と言われると喜びを感じますしね。あと、「(役のイメージの声と)違う」と言われて「うるさいな」って思ってしまったら終わりだと思っています。それを冷静に受け止めて、とにかくいろいろやってみる。声を変えるということではなくて、声に吹き込む気持ちを変えるというか。「こんなキャリアがあるのに」とか「この役はこういう風にやろう」とか余計なことを考えすぎずに、作品の中にある基本となる気持ちみたいなものが伝わるとうまくいくんです。作品は演者だけではなくて、本当にたくさんの人が関わって作っているもの。「俺はこうしたい」だけじゃダメなんです。そもそも「すごい」と言われることなんてないですからね。「アホか」って言われることはいっぱいありますけど(笑)。今でも「もうちょっとこうしてほしい」と言われますし、でもそれが役者なのかなと思います。何も言われなくなったら面白くなくなる。「こんなのできないよ」と思うこともありますけど、やってくうちに楽しくなってくる。毎回戦いです。
ーーとはいえ、長年やられていると、後輩たちからアドバイスを求められることも多いかと思います。
そうですね。若手には「声をつくるな」とは言っています。外見のイメージだけで強そうな感じとか、細い感じの声をやるんじゃなくて、その人の性格から出るものからどんな声になるのか考えた方がいいと言っていますね。老人だと思って単純にしわがれた声にすればいいとか、安直に声をつくることはしない方がいい。もし、キャラクターの設定がそこまで明らかになっていないんなら、自分で考えればいいんです。自分の中で性格付けしたらその声が出てくるんです。昔は年配の役は年配の人が演じていましたけど、今はそうじゃないこともある。だからこそ、声をつくらない方が声優としても長くやっていけるんじゃないかなと思いますね。声をつくるということばかりをやっていると、自分というものがなくなってしまうから。僕は「器用じゃない」とよく言われるんですけど、逆にそれがよかったのかもしれないですね。声をつくらない分、変な色がつかないから、いろんな役をやらせてもらっているのかもしれないです。
ーー最後に放送を楽しみにしている視聴者にメッセージをお願いします。
今回こういう機会をいただきましてとても嬉しいです。いろんな方がいる中で堀内賢雄に声をかけていただいて、ここまで声優として生きてきた中のこともお話しできましたし、今回をきっかけにして映画、吹替を盛り上げていっていただければと思います。
<プロフィール>
堀内賢雄
ほりうち・けんゆう
7月30日、静岡県出身。低音ながらも軽やかな独自の声質を活かし、洋画の吹替ではブラッド・ピットやベン・スティラー、アイアン・ジーリングなどを担当。吹替の他に、ナレーター・アニメ(「鬼平犯科帳」など)・ゲーム(「メタルギアソリッド」シリーズなど)でも幅広い分野で活躍している。
「シャークネード」
「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」
「ベスト・フレンズ・ウェディング」
「人生、サイコー!」
<CS映画専門チャンネル「ムービープラス」情報>
「吹替王国」堀内賢雄の回は6月25日(日)17時15分~放送
http://www.movieplus.jp/square/fukikae/1705.html
視聴方法はこちら ↓
http://www.movieplus.jp/howto/
◆現在本番組のおもしろCMを配信中!
アイアン・ジーリング『シャークネード』編
https://www.youtube.com/watch?v=Ix8q7kMAY38
ブラッド・ピット『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』編
https://www.youtube.com/watch?v=-02NQxKtAW8
堀内賢雄 登場編
https://www.youtube.com/watch?v=MAhsu4s3YmE
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