スポーツアニメはケレン味で見るか? 日常系で見るか? はたまた“試合時間”の一体感か【藤津亮太のアニメの門V 117回】 | 超!アニメディア

スポーツアニメはケレン味で見るか? 日常系で見るか? はたまた“試合時間”の一体感か【藤津亮太のアニメの門V 117回】

アニメの王道ジャンルである“スポーツ”。その多岐にわたるスポーツアニメに、昔から今にかけて一体どのような変化が起こっているのか?

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藤津亮太のアニメの門V
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4月上旬に発売になる某雑誌の企画で「スポーツを扱ったアニメ・マンガ」というテーマで対談に参加した。今回は、その対談のためにあれこれ考えたことをベースに近年のスポーツアニメについて考えたいと思う。  

スポーツアニメを考えるときの重要なポイントは「競技を描くときのケレンの度合い」だ。物理法則を超越した派手な技を熱く見せるのか、それとも地に足のついた表現の中でその競技の魅力を描き出すのか。
スポーツアニメはマンガ原作が多いから、この「ケレンの度合い」も原作に寄っている。しかし同時にそこは動きと色と音が加わるアニメ化の“伸びしろ”の部分として大切なところでもある。もちろんオリジナル企画の場合であっても、競技シーンをどう見せるかは重要な要素である。大雑把にいうと、スポーツアニメはケレン味が多い作品を中心に広がり、21世紀に入ってからはリアリティに軸足をおいた作品が増えているーーという流れがある。  

近年、なぜか連続して放送されたゴルフを題材にしたアニメは、偶然にもこの「ケレン味の度合い」の違いを比べるためのちょうどいいサンプルになっている。  

一番ケレン味にあふれているのは『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』。本作はBN Pictures制作によるオリジナルアニメで、マフィアが絡んだ「闇ゴルフ」というアイデアが盛り込まれたことからもわかるとおり、本作はかなり振り切った設定で、スーパーショットを打つときには、(ちゃんと)技名を叫ぶ演出もある。  

逆にかなり地に足がついた作品が『オーイ! とんぼ』。こちらはゴルフ雑誌「週刊ゴルフダイジェスト」に長期連載中のマンガで、可能性を秘めた主人公が成長していく様子を丁寧に描いている。もちろん主人公には天賦の才があり、そこがフィクションならではのカタルシスを生み出す源にもなっているのだが、それでもゴルフ描写は『BIRDIE WING』に比べてはるかに“リアル”だ。  

この対照的な2作の関係はそのまま、スポーツアニメの縮図といえる。また少年ジャンプ作品の『ライジングインパクト』は、このふたつの作品の間の“ややケレン寄り”といった立ち位置だろう。  

ゴルフ・アニメでおもしろいのは、この3作品に加えて新たな“第三極”が加わったことだ。その作品は『空色ユーティリティ』。オリジナルアニメの本作は、こちらはあえてジャンルに分類するなら“日常系”に近く、「趣味としてのゴルフ」を扱っている。そのためゴルフの競技としての側面はほぼ登場しない。そういう切り口だから、主人公も劇中でそこまで劇的に上達することはない。「地に足がついている」というならばこれほど「地に足がついている」作品もない。方法論としてはトレッキングの『ヤマノススメ』、キャンプの『ゆるキャン△』、日曜大工の『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』といった作品に連なるものと説明すればわかりやすいだろう。  

ゴルフ・マンガの数に比してゴルフ・アニメの数が少ないのは、おそらくアニメファン受けしそうな主人公の作品が少ないことと、競技が基本的に個人単位のため、「バトル的な見栄えの弱さ」があるからだろう。そこを埋めるにを「ケレンで盛る」方向ではなく、「キャラクターへの愛着」を入口に「勝負ではなく趣味の楽しさに軸足を置く」という方向でアプローチしたのは新鮮だ。このように競技としてではなく趣味としてのスポーツという切り口に注目すれば、このほかにもテニスや草野球などに可能性があるように思う。これは実は「ケレン抑えめでリアルにスポーツを描く」という昨今のアプローチにも合致しやすいという特徴もある。  


《藤津亮太》
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