「アニメ産業レポート2023」売上を伸ばすアニメ映画― 今後のヒット作、海外市場の広がりは?【藤津亮太のアニメの門V 第103回】 | 超!アニメディア

「アニメ産業レポート2023」売上を伸ばすアニメ映画― 今後のヒット作、海外市場の広がりは?【藤津亮太のアニメの門V 第103回】

2009年から刊行されている、日本のアニメ産業に関する統計『アニメ産業レポート2023』。データから見るアニメ産業は、どのような動きがあったのか。

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昨年12月に『アニメ産業レポート2023』が刊行された。

あらためて紹介するとこのレポートは「アニメ産業の調査及び統計・分析を行っており、調査結果を内外に広く発信することを目的」(日本動画協会公式サイトより)に、2009年から刊行されている、日本のアニメ産業に関する統計である。逆にいうと、2009年までは、アニメ業界内で調査を行う産業統計が存在しなかったのである。だから、このレポートは現在もアニメ業界の産業面を知るための、もっとも基本的なデータとして非常に重要な役割を担っている。  

もちろん私企業のさまざまな数字を取り扱うので、推計になっている部分もある(そのあたりの算出方法などは必要に応じて同書を参照していただきたい)。しかし、マスに向けメジャーなチャネル(テレビや映画館等)で流通するアニメは、ビジネス的な外枠がその内容に与える影響は大きい(例えば深夜アニメはまずその枠の成立が先にあり、その結果、“深夜アニメに向いている原作・企画”がセレクトされるようになった)。その点でも、産業の現状からは目を離すことができない。  

同レポートは、前年のデータを整理して当年秋から冬にかけて発刊するという形をとっている。だから今回の『アニメ産業レポート2023』には2022年のアニメ産業のデータがまとめられている。今回は、同レポートの中でも興味をひいた映画の興行収入の話題を中心に紹介しつつ、そこからなにが考えられるかを記してみたいと思う。以下、引用する数字は同レポートによるものだ。  



まず確認しておきたいのはアニメ産業レポートが発表する大きな数字は2つあるということ。  

ひとつは、アニメ産業市場(広義のアニメ市場)。これは、エンドユーザーが支払ったお金の総計。例えば「映画」であれば、劇場映画の興行収入(入場料の総合算)がそこに入るし、「遊興」であればアニメを扱ったパチンコ台などの出荷高(ホール側がパチンコメーカーに支払った額)がカウントされる。おおざっぱにいえば、映像そのものに支払われたお金だけでなく、関連アイテムにどれだけお金が支払われたかをまとめたものだ。  

2022年はこのアニメ産業市場(エンドユーザーの支払総額)は、2兆9277億円。アニメ(関連)産業がコロナ禍からの回復基調にあるとはいえ、2021年を上回り3兆円に迫る過去最高の数字となった。  

もうひとつは、アニメ業界市場(狭義のアニメ市場)で、これは製作(企画・出資まわりを担当する企業)と制作会社(映像を作る会社)の売上を集計したもの。  
2022年のアニメ業界市場(製作・制作会社の売上の総計)は3407億円で、こちらも過去最高となった。これは背景に制作費の増加や、制作印税の設定や増加など、制作ライン確保のため受託の条件が向上していることは反映された数字だと指摘されている。ただし予算等の条件が向上すると同時に、制作のためにかかる費用も上昇しているのも実情である。  

アニメ産業市場で、前年に対し一番大きな伸びとなったのはライブ(アニメ関連のライブ、イベント、2.5次元ステージ、展覧会、コラボカフェ等)で、972億円(前年比170.2%)と大幅な上昇を見せている。これは新型コロナウィルス感染症の流行により、大幅にシュリンクしていたこのジャンルが、対策の変化などにより、ようやく息を吹き返した、ということがいえる。さらにコロナ以前の2019年の844億円と比べても15.1%の増加であり、このような「作品本体ではなく、作品にまつわるものを楽しむ文化」は確実に拡大をしつつあることがうかがえる。  

次に伸びているのが映画で、アニメ映画興行収入は785億円。コロナ前は2019年に694億円を売り上げているが、それと比べても100億円近くの伸びがある。これは大型のヒット作が並んだ影響で、作品を列挙すると次のようになる。なお※は、2022年から2023年1月3日までの集計で、その後ろの数字が総計(レポートには「2022年以外の上映期間を含む興行収入」とあるが、本文記述から2023年8月末ごろの数字と思われる)だ。

『ONE PIECE FILM RED』(189億円※ 197億円)
『すずめの戸締まり』(113億円※ 131.1億円)
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(97.8億円)
劇場版『呪術廻戦 0』(80億円※、138億円)
『THE FIRST SLAM DUNK』(67億※ 148億円)  


この5つの大ヒット作で、アニメ映画の興行収入の7割を占めており、過去最高の興行収入をとなった最大の原因であろう。2020年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以降、アニメ映画のヒットがさらに大型化した印象があるが、その印象は2022年のこのヒット群(劇場版『呪術廻戦 0』の封切りは2021年12月24日だが)のによるものが大きい。5作のうち3作が「少年ジャンプ発」であるのも印象的だが、スタジオジブリ一強だった、2000年代までとはまったく異なる状況になっている。同レポートは「ヒットの多様化と巨大化が進んでいる」と記している。  


《藤津亮太》
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