アニメ【推しの子】を見て、有名芸能プロダクションの 元マネージャーが思わず唸った名シーンとは? | 超!アニメディア

アニメ【推しの子】を見て、有名芸能プロダクションの 元マネージャーが思わず唸った名シーンとは?

春アニメでイチ押しされている『【推しの子】』。今回、有名女優やタレント、モデルなどが多数在籍する芸能プロダクションの元マネージャーにインタビューを実施。本作を見て、芸能界の“リアルな描写”に思わず唸った名シーンについて語ってもらった。

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『【推しの子】』キービジュアル(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
  • 『【推しの子】』キービジュアル(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
  • 『【推しの子】』ファーストステージ編ビジュアル(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
  • 『【推しの子】』アクア&ルビー(編集部私物)

春アニメでイチ押しされている『【推しの子】』。毎回放送直後には、関連ワードがトレンド入りし、話題の上位を独占している。今回、誰もが知っている有名女優やタレント、モデルなどが多数在籍する芸能プロダクションの元マネージャーにインタビューを実施。本作を見て、芸能界の“リアルな描写”に思わず唸った名シーンについて語ってもらった。

※以下の本文にて、本テーマの特性上、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。

◆ドラマチックな出来事は滅多に起きない、“地味な世界”


――まず、アニメ『【推しの子】』をご覧になっての印象は?

アクア&ルビー(編集部私物)

元マネージャー:これまでにも「芸能界」を舞台にしたドラマやマンガ・アニメはたくさんありますけど、正直私は「芸能界」は非常に難しいテーマだと思っています。このテーマは概ね2つのパターンに分類できます。
ひとつは、主人公が類稀なる才能を持っていて、同じく天才肌のライバルたちと切磋琢磨しながら芸能人としてのステージを上げていくサクセスストーリー。もうひとつは、主にプロダクションの前身となる養成所などが舞台で、才能に乏しい主人公がまわりの仲間に助けられながら努力と成長を遂げていく青春群像劇。

現場で働いている人間からすると、いずれも虚構の要素がかなり多いファンタジーな作品ばかりな印象を受けます。光り輝く汗がほとばしり、役者同士が演技力でバチバチ火花を散らすような出来事はまず起きない(笑)。実際は「この前のオーディション、“ごめんさい”(不合格)でした」「明日の台本、メールで送ったよ」など、淡々と地味な毎日の繰り返し。だからこそ必要以上に虚構の要素が盛り込まれた作品が、“ファンタジー作品”のように見えてしまいます。

その点、『【推しの子】』では、実際に仕事をしてきた我々が、はっと気づかされる視点が多く盛り込まれています。「そうそう! よくわかってるよね~」と画面に向かって何度も言葉に出したほど(笑)。そこに、芸能とは全く毛色が違う“サスペンス”の要素がプラスされているところも興味深いです。

◆芸能界を夢見るのは良いけど、芸能界に夢を見るのはよしたほうがいい


――作品の中で、特に印象的なシーンやセリフは?

元マネージャー:物語のキーパーソンでもある映画監督の五反田泰志(ごたんだたいし)のセリフ「芸能界を夢見るのは良いけど、芸能界に夢を見るのはよしたほうがいい」。かなり衝撃的なセリフでした(笑)。

――星野アイが出演した映画のシーンが大幅にカットされたことに腹を立てたアクアが、五反田監督に抗議の電話を入れたときに返された言葉ですね。

元マネージャー:実際に、芸能界を目指す多くの志望者は、最初から自分が成功したときの姿しか思い描けていない方がほとんど。そこに至る具体的なステップがイメージできていません。多くの志望者は「プロダクションに所属すること」がゴールになっていて、その先はマネージャーがなんとかしてくれると思っていますね(苦笑)。

芸能界でも、とくに声優業界の志望者は年々増え続けていて、一説によれば毎年6万人もの新人が業界の門戸を叩くと言われています。ゲームのキャラクターボイスや深夜帯アニメの作品数が増えているとは言え、仕事の数自体に大きな変化はないです。昔は、ひとつの席を50人程度で争っていましたが、今はひとつの席を300人で争うほど志望者が増えています。

――かなり激戦ですね。

元マネージャー:有名なプロダクションが併設する養成所には、入所試験に数百人の応募が来ますが、志望の動機は養成所のカリキュラムというよりは、「有名な誰々が所属しているから」という曖昧な理由がほとんどです。何百倍もの狭き倍率を突破し、ようやく入所試験に合格しても、1年後の進級審査でその数は20人程度絞り込まれ、最終的に新人として所属できるのは良くて1~2名といったところ。全国の大小何百ものプロダクションも共通です。

――確かに、そこへ辿り着くまでのカロリーやコストを考えれば、「所属=ゴール」と考えてしまうのも不思議ではない。

元マネージャー:また、自分が進級できなかったか明確な理由を知ることができないので、1年後には違う養成所の試験を受ける人も少なくないです。ある有名な専門学校の卒業後の進路調査では、10%は諦めて就職し、10%が所属や準所属。残りの80%がまた別の養成所の研究生になっています。誰にでも気軽にオススメできる職業ではないですね(苦笑)。

――芸能の世界には夢が溢れているように見えていましたが……。

元マネージャー:所属できても、そこがゴールではないですからね。新人がようやく所属できた状態をケーキ屋で例えると、ようやくショーケースに商品として並んだだけ。「お客さんが手に取ってくれる」「 次も買いに来てくれる」まで達成して“本当の成功”と言えます。

「芸能界を夢見るのは良いけど、芸能界に夢を見るのはよした方がいい」というセリフは、一見同じこと言っているようで全く別の次元の話をしていて、いかに核心をついているがよくわかります。

◆「いいか! 役者ってのは3つある。ひとつは看板役者、次に実力派、最後に新人役者」


――なかなか厳しい話ばかりですね(苦笑)。ほかに気になったシーンは?

元マネージャー:これも同じくアイが参加した映画の撮影現場で、五反田監督がアクアに話したシーン。抜群のかわいさのある新人アイドルのアイが、看板役者よりも目立ってしまうことを避けるために、その出演シーンが大幅にカットされたお話でしょうか……ここまで露骨にシーンがカットされることもないとは思いますけど(笑)。

――そこはちょっとファンタジーでしたか(笑)

元マネージャー:私も何度も経験してきましたが、わざわざ朝早くから地方へ移動し撮影に参加して、何時間もいろいろな角度から撮影されたのに、放送されたシーンはわずか4秒だったという話も少なくないです。実際に放送されるシーンでは、おそらくカメラが回っている時間の10分の1くらいかな? 台本にはあっても泣く泣くカットされるシーンはかなり多い。

今のドラマ業界は、プロダクションから制作会社やテレビ局へ直接企画や脚本を持ち込むケースがほとんどで、数年先まで企画は決まっています。春ドラマはA社、夏ドラマはB社、秋はC社など持ち回りが決まっていて、そのローテンションでドラマ制作の現場は動いているんです。

企画を持ち込んだプロダクションは、主要な役どころを概ね抑えていて、脇役は仲の良い個性派俳優が所属する事務所に声をかけるなど、いわゆる同じようなタレントが在籍する事務所(ライバル関係がある事務所)には、あまり声はかけません。

時々、売り込みたい新人を「出演料はいくらでもいいので使って下さい!」と持ち掛けることもあります。そこで急遽、原作にはない「主人公の妹役」など新しい設定を追加して、毎回一言二言、物語の本筋とは関係ないシーンに新人を登場させます。

――世に言うバーターですね。

元マネージャー:オーディションとして他のプロダクションに話が回ってくるのは、メイン以外の役どころがほとんど。そこに数百の役者さんのプロフィールが寄せられて壮絶な椅子取り合戦が繰り広げられるワケです。

抜群なルックスがあっても、類稀なる演技力があっても新人役者がそう簡単には売れるような芸能界ではないということ。事務所のパワーバランスであったり、出演した作品のタイミングなどの運にも左右されます。この辺りは『【推しの子】』の中でも実際のセリフとして盛り込まれていました。

後日談で「この子は絶対売れると確信してた」と担当のマネージャーがよく言うけど、それはマネージャー全員が思っていることです。芸能界でどれほどの影響力があっても、狙ってタレントを売ることはなかなか難しい。それは有名な事務所が主催する大きなコンテストで、グランプリを受賞しても必ず売れるとは限らないことと同じ。当時は、審査員の誰もが「この子は間違いなく売れる!」と思っていても、グランプリより賞には届かなかった子が大ブレイクする話もよくあります。つまりマネージャーも次に誰が売れるかなんて、正直言えば全く分かっていないのが現実(笑)。あくまで私個人の感想ですが(笑)。

――最後に、『【推しの子】』の今後の展開に期待していることや注目ポイントは?

元マネージャー:五反田監督は毎回出演しているキャラクターではないので、この鋭い芸能界の視点は、“10秒で泣ける元天才子役”の有馬かな、アクアとルビーの親代わりでもあり苺プロダクションで社長を務める斉藤ミヤコが代弁しているケースもあるんです。なので、この3人のシャープな発言にぜひ注目していきたい! アニメは残すところあと1話ですが、原作は続いているので今後の展開も楽しみにしています。


第7話 バズ
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【推しの子】 12 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
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<STAFF>
原作:赤坂アカ×横槍メンゴ(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:平牧大輔
助監督:猫富ちゃお
シリーズ構成・脚本:田中 仁
キャラクターデザイン:平山寛菜
サブキャラクターデザイン:澤井 駿
総作画監督:平山寛菜、吉川真帆、渥美智也、松元美季
メインアニメーター:納 武史、沢田犬二、早川麻美、横山穂乃花、水野公彰、室賀彩花
美術監督:宇佐美哲也(スタジオイースター)
美術設定:水本浩太(スタジオイースター)
色彩設計:石黒けい
撮影監督:桒野貴文
編集:坪根健太郎
音楽:伊賀拓郎
音響監督:高寺たけし
音響効果:川田清貴
アニメーション制作:動画工房

<CAST>
アイ:高橋李依
アクア:大塚剛央
ルビー:伊駒ゆりえ
有馬かな:潘めぐみ
黒川あかね:石見舞菜香
MEMちょ:大久保瑠美
ゴロー:伊東健人
さりな:高柳知葉
アクア(幼少期):内山夕実

(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

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