本作の舞台は、西暦2049年、人工知能を搭載したAIロボットが日常にいる世界。阿佐ヶ谷団地に住んでいる小学4年生の沢渡悠真は、間もなく地球に大接近する“SHIII・アールヴィル彗星”に夢中になっていた。そんな時、沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコが未知の存在にハッキングされる。「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来たその存在から届いたメッセージは、「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」。子どもたちの極秘ミッションが始まった。
「二月の黎明号」のコアを通じて悠真たちが出会う河合花香は、小学校で「クラスの敵」に認定され、無視されている女の子。演じる声優の水瀬いのりさんは、彼女の気持ちに共感しつつ、「自分を貫ける」花香から勇気をもらったという。
[取材・文:M.TOKU 撮影:吉野庫之介]
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河合花香役・水瀬いのり【画像クリックでフォトギャラリーへ】
気軽に連絡が取れるからこそ境界線が難しくなっている
――本作のシナリオを読んだときの印象を教えてください。
いくら技術が発達しても、やっぱり人の力や頭脳は必要不可欠なんだと、悠真くんたちの冒険を見て思いました。原作を読み終えたあとは、人にしかわからない感情もいっぱいあるということを、最新の技術から受け取ったような不思議な感覚になったんです。
――技術が発達しても、人間として変わらない部分があると感じた。
そうですね。肉体が傷ついたり、心が痛くなったりすることで成長するというのは、人として誇らしい部分だと思います。AIが美しいところだけを表現するならば、人間は泥臭い部分も表現できる存在なのかなと思いました。
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――今回演じる花香の印象について教えてください。
彼女はどこか達観しているような女の子で、いわゆるかわいげのあるヒロインではありません。感情的になることもあって、ちょっとトラブルメーカーな面もあるんです。リアルな未熟さが投影されたキャラクターだと感じました。
――そんな花香を演じるうえで意識したことは?
本作は、なるべくこの子たちが本当にここにいるような、ドキュメンタリーに見えるような感情の動きを大切にしたくて、芝居を作り込まずに向き合った作品なんです。監督や音響監督も「なるべくナチュラルな世界観にしたい」とおっしゃられていたので、そこに応えられるよう心がけました。
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劇場アニメ『ぼくらのよあけ』キービジュアル
――花香のようにご自身の年齢よりも若い、幼いキャラクターを演じるとき、年齢感みたいなものは意識されますか?
意識しますね。小学5年生ならこういう怒り方はしないよなとか、大人っぽいとはいえ好奇心から出る明るさは持っているよなとか、そういうことを考えます。とはいえ、キャラクターのイラストがくれる印象のほうを重視していますね。ビジュアルを見ながら声のイメージを連想するので、演じるキャラクターの年齢に引っ張られ過ぎるということはないです。
――同じ年齢であっても、時代や環境によって色々と変わりますもんね。例えば現代と異世界の10歳が同じ価値観かと言えば、置かれている環境によってはそうじゃない可能性はあるでしょうし。
そうですね。私たちが思う現実の小学生と、2049年を生きているこの作品の小学5年生というのも、またちょっと違う気がします。必ずしも自分の子供時代に重ねて演じることがすべてじゃないとは、演じたキャラクターたちを通じて感じていますね。
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――本作には色々なキャラクターが登場しますが、なかでも共感を覚えたのは?
花香ちゃんですね。私も学生時代にクラスの集団行動でどこまで自分を出していいのか悩んだことがあったので、花香ちゃんが作中で感じているムズムズっとした気持ちに共感できました。ただ、彼女ほど感情を貫くことはできなかったので、尊敬もしています。当時の自分は「私が悪いんだ」と我慢していましたが、本当は花香ちゃんのように自分の感情を貫きたかったので、彼女の強さに勇気をもらいました。
――人間関係の悩みって、決して思春期の方や大人だけが抱えるものじゃないですよね。
ましてや小学校って、家から離れたところで人との関係を築くフェーズ1の場所だと思うんです。すぐ家に帰れるわけではない場所でみんなと同じ時間を過ごす、その中で個性を見つけていく。ただ目立ちすぎると、それが違和感になってしまう。自由に過ごしていい場所のはずなのに、自由過ぎると悪目立ちすることがあるんですよね。そのギャップに私も苦しんだことがあります。
――それこそ、花香のように自分を貫くと目立ってしまう可能性がある。
そうなんですよね。ただ、彼女は悠真くんと出会うことでひとつ救われた気がします。
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――本作の世界はSNSのようなコミュニケーションツールの技術も発達しているから、それによるコミュニケーションの取り方もまた違う悩みの種となりそうです。
人と直接会わなくてもコミュニケーションを取れるのは便利だけど、それにより苦しめられることもあると思います。気軽に連絡が取れるからこそ境界線が難しくなって、心が色々なものをキャッチしてしまう。これは現代も近しい状況にある気がしました。
――水瀬さんもSNSなどコミュニケーションツールの発達によって人間関係の難しさを感じたことはありますか?
あります、あります! 例えば複数人と連絡グループを作ったとき。みなさんがとある話題で盛り上がっているのに、自分だけ仕事などの都合で入れない場合があるじゃないですか。もちろん、ログを追えば盛り上がっていたことは分かるんです。ただ、自分が後からその会話に入るなら、開口いちばんに何と言えばいいのか、すごく悩んでしまうんですよ。あとは、「誕生日おめでとう」をグループのなかで誰がいちばんに言ったのかというのも、私には難しい問題で…。もちろん、誕生日になった瞬間に「おめでとう」と言うことも大事ですけど、人それぞれに生活リズムがありますし、遅れたら「おめでとう」と思っていないのかと言うと、それは絶対に違うし。
――同じタイミングで盛り上がれなかったら、何だか置いていかれたような気がしてしまうというか。
そのときに盛り上がれなかったら乗り遅れた人みたいになるのが結構辛くて。とはいえ、常に通知を見ておくのはそれもそれで嫌だし。本来は気軽にコメントを送れるツールのはずなのに億劫になってしまうという経験が、何度かあります。便利と窮屈がぶつかり合っているのかもしれません。その反動と言ったら変かもしれませんが、心を込めて贈るものとして、メールや手紙がより際立つようになった気もします。SNSはラフに付き合うべきツールなのかなと、大人になってから感じるようになりましたね。
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――応援してくださる方々から手紙が届くこともあるかと思いますが、そういうのを見ると気持ちがこもっていると感じる。
感じますね。手紙って、便せんを選ぶというステップがまずはあるじゃないですか。そこからどんな風に書こうかなとか、シールを貼ろうかなとか色々と考えて送ってくれたということが、いただいた手紙から伝わってくるんです。失われて欲しくない文化のひとつですね。
――SNSではスタンプなどを使えるツールがありますが、それとはまた違った魅力がありますよね。
そうですね。より身近でポップなのがSNS、硬派に想いを届けることに長けているのが手紙だと思います。
――もし子供の頃にナナコのような優秀なロボットがいたら、どんな幼少期を過ごしていたと思いますか。
愛嬌があるAIはもう沼でしかないと思います。親離れに続いて、ナナコ離れという言葉が生まれそう(笑)。もし洋服の着せ替えとかができるなら、「私だけのナナコ」みたいな感情も芽生えそう。私は一人っ子なので、ナナコのような存在が家庭にあれば性格が根底から変わっていたかもしれないです。
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――家族みたいな存在になる。
だって、あのペッパーくんにもちょっと愛が芽生えるじゃないですか。ペッパーくんと会うと何だか嬉しくなったり、「こんにちは」と言ってくれたら「こんにちは!」って言いたくなったりするし。ロボットが愛嬌を手に入れたら最強かもしれません。
――そういう愛嬌や、今回のナナコみたく日常的に問題なく会話ができるロボットが登場したら、声優みたいなこともできちゃうかもしれないですね。
先ほど「AIが発達したら我々の仕事がなくなっていくかもしれない」って話を、田所銀之介役の岡本(信彦)さんともしていました。絶対に噛まないという点では、生身の人より適している声の仕事もあると思います。実際に、AIが音声ガイダンスを担当しているということも、既にありますよね。ただ、例えAIが発達したとしても、声優の仕事をすべて取られるという感覚が、私にはまだあんまりなくって。特にアドリブの掛け合いは、AIでは計算できない部分じゃないかな。人間は、失敗することで学び、成長することもあります。ミスや失敗を乗り越えようとする姿が美しいと感じる人は、決して少なくないはず。ミスやダメな部分があるからこそ、際立つこともあると思います。完璧じゃないというのが、人間の魅力なのかもしれません。
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――最後に、改めて本作の注目ポイントを教えてください。
技術が発達した未来だからこそ、人間の根底にある根性や逆境魂みたいなものがより活きると感じられる作品です。どんなに便利な世の中であっても、ちゃんと地に足を付けて自分の目で見て心を動かすことは必要だと、悠真くんたちを見て思いました。本作の舞台である2049年は遠そうで、きっとまたすぐきちゃう未来な気がします。来る2049年がどんな世界になっているのかということに思いを馳せながら、作品を楽しんでもらえたら嬉しいですね。
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『ぼくらのよあけ』作品情報
2022年10月21日(金)公開
【STAFF】
原作:今井哲也 「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
監督:黒川智之
脚本:佐藤 大
アニメーションキャラクター原案・コンセプトデザイン:pomodorosa
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:吉田隆彦
虹の根デザイン:みっちぇ
音楽:横山 克
アニメーション制作:ゼロジー
配給:ギャガ/エイベックス・ピクチャーズ
【CAST】
杉咲 花(沢渡悠真役)
悠木 碧(ナナコ役)
藤原夏海(岸真悟役)
岡本信彦(田所銀之介役)
水瀬いのり(河合花香役)
戸松 遥(岸わこ役)
花澤香菜(沢渡はるか役)
細谷佳正(沢渡遼役)
津田健次郎(河合義達役)
横澤夏子(岸みふゆ)
朴 璐美(二月の黎明号役)
主題歌:三浦大知「いつしか」
2022年10月21日(金)公開
【STAFF】
原作:今井哲也 「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
監督:黒川智之
脚本:佐藤 大
アニメーションキャラクター原案・コンセプトデザイン:pomodorosa
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:吉田隆彦
虹の根デザイン:みっちぇ
音楽:横山 克
アニメーション制作:ゼロジー
配給:ギャガ/エイベックス・ピクチャーズ
【CAST】
杉咲 花(沢渡悠真役)
悠木 碧(ナナコ役)
藤原夏海(岸真悟役)
岡本信彦(田所銀之介役)
水瀬いのり(河合花香役)
戸松 遥(岸わこ役)
花澤香菜(沢渡はるか役)
細谷佳正(沢渡遼役)
津田健次郎(河合義達役)
横澤夏子(岸みふゆ)
朴 璐美(二月の黎明号役)
主題歌:三浦大知「いつしか」
(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会