「アーティスト・高橋李依がこの作品に必要なのか」芝居にも歌にも本気でみんなと共有したいからこそ悩んだ声優が出した、いまの答え【インタビュー】 | 超!アニメディア

「アーティスト・高橋李依がこの作品に必要なのか」芝居にも歌にも本気でみんなと共有したいからこそ悩んだ声優が出した、いまの答え【インタビュー】

2022年10月7日にデジタルシングル「共感されなくてもいいじゃない」をリリースする声優の高橋李依さんにインタビュー。

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 声優の高橋李依さんが、2022年10月7日にデジタルシングル「共感されなくてもいいじゃない」をリリース。本曲は、自身がアイリーン役を担当するTVアニメ『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』のオープニング主題歌で、“アーティスト・高橋李依”にとって初のアニメタイアップ曲となる。しかしながら、タイアップ曲を歌うと知ったときの胸中は、決して穏やかではなかったそう。それは、彼女がアニメ、芝居、そして音楽が大好きだからこそ生まれた複雑な感情だったという。

 今回は、リリースを控えた高橋さんに、デビューからここまでの活動を振り返ってもらいつつ、本曲の聞きどころ、そしていまの彼女にとって声優と歌がどのようなものになっているのかお聞きした。

[取材・文:M.TOKU]

「好き」の気持ちをみんなと共有したい

――アーティスト活動が始動してから1年以上が経ちました。ここまでのアーティスト活動はどうでしたか?

 あっという間でした。この1年で1stEP「透明な付箋」を作るだけで本当にいっぱいいっぱいだったので、1年の間に何枚もリリースされている方って本当にすごいなと、改めて感じています。ここから高橋李依の音楽チームを固めていき、たくさんの楽曲を作っていけたらいいなと感じる1年でした。

――同じようにアーティスト活動をされている声優仲間のなかには、年間に何枚もリリースされる方がいらっしゃいますもんね。

 そうなんですよ! 1曲だけでも相当なカロリーが必要なのに、胸を張ってお届けできる楽曲をスタッフのみなさんと何枚も作っていらっしゃるのって、本当にすごいことだなって尊敬します。私もみなさんに追いつきたいので、同じように活動している同業の声優さんとお話する機会が増えました。

――例えば、どういう方とお話されましたか?

 早見沙織さん、あとは同じ事務所の上田麗奈ちゃんや斉藤壮馬さん、そして光栄なことに坂本真綾さんとお話するタイミングもありました!

――お話を聞いていくなかで、私もこういう活動をしてみたいと思うことも。

 ありましたね。例えば、作詞。お忙しいなかでも満足いくまで自分の思いに向き合って言葉にしているという熱量を目の当たりにして、私もやりたいという気持ちが芽生えました。

――いつか高橋さんが作詞された曲が聞ける日を楽しみにしています。大きな活動のひとつとしては、バースデーイベントもありましたね。

 あのイベントではアーティスト・高橋李依としての曲だけではなく、キャラクターソングも歌わせていただきました。懐かしい音楽をお借りしたり、小澤亜李ちゃんにゲストに来てもらったりなど、本当に色々な方の協力があって実現したイベントです。亜李ちゃんと歌った『がっこうぐらし!』のキャラクターソング「アンハッピーエンドワールド」は、生で披露したかった念願の曲だったんですよ。おかげさまで、「アンハッピーエンドワールド」オタクの高橋李依は無事に成仏できました(笑)。

――キャラクターソングを披露する機会がなかなかない、という作品もありますよね。

 そうなんです。キャラクターソングって、アニメの放送が終わってしまうと、なかなか披露できる機会がなくって……。今回のイベントでは、自分が過去に関わった作品の思い出なども話せて本当に素敵なバースデーイベントになりました。今回は時間の都合で3曲でしたが他にも候補にあげた曲はいっぱいあったので、また機会があれば歌いたいですね!

――作品への愛が深いですね!

 大好きなんですよ。その「好き」の気持ちをみんなと共有したいというのが、活動の軸のひとつでもあるんです。幼稚園ぐらいの頃、砂遊びが好きで「一緒に砂遊びしようよ」って周りに布教していました。あの頃の私が、大人になってからも変わっていないんですよね。仕事ではありますが、好きで楽しい仕事をやっているということがみなさんにも伝わっていたらいいなぁ。

――そうすることで、「好き」「楽しい」の輪が広がっていくかもしれません。

 誰かと一緒に喜べたら幸せですし、一人より仲間がいたほうが楽しいことは多いと思うんです。一人でも同じように喜んでくれる人がいれば、その気持ちが倍になるじゃないですか。作品に声で携わらせていただくときも、リアルタイムで一緒に見てくれる人や、「この話よかったね!」って共感できる人が多いほど嬉しいです。こういう気持ちを感じられる瞬間が「やりがい」にもなっていますね。

本気でやりたいからこそアーティストデビューを拒み続けた

――ソロアーティストとしてデビューしてから気づいたことや、仕事に対する向き合い方への変化はありましたか?

 お仕事で上手くいかなかったときの悔しさや悲しみなど、本当だったらネガティブとジャンル分けされてしまう感情を抱いたとき「これ、次の歌にしちゃおう。この感情を忘れないようにしておこう」と、前を向けるようになりました。モヤモヤしながらも輩出できなかった感情の行先が決まった気がしています。音楽って、そういう感情が作品にもなるんですよね。しかも、オチがいらない。ラスサビで絶対にハッピーにならなきゃいけないってことはないんです。一役者、人間として、いい循環になっている気がしますね。

――アーティスト活動が、役者としても人間としてもいい影響をもたらしている。

 はい。私がアーティストデビューを決断したのって、同世代のなかだとちょっと遅めだと思うんです。それもあってか、より前向きに音楽活動に向き合えている気がしています。

――前向きに?

 あと数年早かったら、アーティストとしての自分の見られ方を気にして恐怖を抱いていたかもしれません。音楽活動に対する若干の申し訳なさが、もっと強かったと思います。

――アーティスト活動をやるとこに抵抗があって、昨年のタイミングでのデビューとなった。

 実は以前から「アーティスト活動をやりませんか?」というお話はいただいていたんです。ただ、「自分はアーティスト活動をやるような人じゃない」と思っていて。そういう活動をやれる人は、本人に魅力があったり、もともと歌が得意だったりする人。アーティスト活動を“やっていい人”がいると思っていたんです。実際、声優活動と両立できる自信もなかったですし。アーティスト活動を始めたら私は、きっとブレブレな人間になってしまうと思っていました。

――そんな想いを抱えていたなかでも、デビューに踏み切れたのは。

 声優として活動していくなかで、アーティスト活動と声優の職業どちらも本気でやっている先輩方にたくさんお会いできたからです。みなさんの姿を見て、本人次第で両立はできると思えるようになりました。それまでは、声優がアーティスト活動をすることへの偏見が心のなかではあったのかもしれませんね。

――歌に対する想いが強いがゆえに、そういう気持ちがあったんですね。

 だって、気軽にはできないですよ。やるからには本気でやりたいし、続けたいし、続けるには相当な覚悟が必要です。その覚悟を持てたときに、「やる」って言えたんだと思います。

――自分のなかで決断して、声優もアーティスト活動も本気でやれると思ったから踏み出せた。

 声優もアーティストも両軸でやれると自分で思えないといけないし、私を応援してくださる方や業界でお世話になっているスタッフさんを含めて「やれる」と思わせないといけないという考えでいます。「高橋さん、今アーティスト活動で忙しいじゃん」って言われたら、それは本末転倒でしかなくって。声優として声がかからなくなったら、めちゃくちゃ嫌ですもん。この一年活動してきましたが、いまは胸を張って「アーティスト活動をやっています」と言えますね。それだけ本気で向き合えています。

キャラクターソングへの自信

――音楽への熱い想いが伝わってきましたが、そもそも何か音楽関係の習い事などはやっていましたか?

 幼稚園の頃から小学6年生まではピアノを習っていました。音楽クラブに入ってトランペットをやったり、高校生の頃にはギター部に入部して、一応バンドでギターボーカルを担当したりもしていました。音楽は常に身近にあった気がします。

――音楽が好きになったきっかけなどはありましたか?

 私、MDが好きだったんです。父からMDプレーヤーを貰った時、何だか大人になったような気がして(笑)。音楽を持ち歩けるようになったことが、ハマるきっかけになったのかも。

――なるほど。

 中学生くらいの頃は、父と一緒にレンタルCD屋さんに行って、オリコンのCDランキング1位から10位までの曲を借りてMDに入れて、ひたすらJ-POPを聞きまくっていました。

――流行りの音楽を中心に聞いていたんですね!

 はい。嵐さん、FUNKY MONKEY BABYSさん、AquaTimezさんなどよく聞いていました。アニソンもかの有名な「ハレ晴レユカイ」から入ったタイプです。みんなの注目度が高い曲で私も高まる!という感じでした。

――ちょっとジャンルが違うかもしれませんが、『からかい上手の高木さん』で高木さんとして名曲のカバーを歌えたのは、流行曲が好きな高橋さんにとって嬉しいことだった。

 めちゃくちゃ嬉しかったです! 先日、『キュンキュンレコーズ』という『からかい上手の高木さん』のアプリゲームで、業界に入るきっかけとなったオーディションで披露した「MajiでKoiする5秒前」を歌いました。もうね、オーディションのために必死で練習していたから安定感が出すぎて、高木さんとしてカラオケで歌うのが逆に大変で(笑)。「そりゃ、あれだけ練習したもんな」と思い出に浸りながらレコーディングしました。

――キャラクターソングとご自身として歌うときは、感覚は違いますか?

 違いますね。キャラクターソングのときは、そのキャラクターがどういう環境、シチュエーションで歌っているのか想像しながら歌っています。アフレコと同じように声をあてている感覚に近いかもしれません。キャラクターソングのレコーディングでは、できるだけキャラクターの表情集を譜面台に貼るようにしています。そして、そのキャラクターの口の形から声が出ている姿をひたすらイメージして歌うようにしていますね。例えば、先ほどお話した高木さんであれば、彼女は口を開けたときの形が丸いので、その丸さが表現できたら、と思いながら歌っています。

――それを意識するのって、すごく大変だと思います。それでも愛ゆえに、そうしたい。

 そうしたいですし、完成したキャラクターソングを聞くのが大好きなんです。そのキャラクターが歌っていると思える曲になったとき、本当に嬉しいんですよね。だからこだわりたいですし、それだけやった分、自分が歌うキャラクターソングに自信もあります。

――気持ちが本気で、こだわっているからこそ「自信」に繋がるのだと思います。対してソロの音楽活動に関してはいかがですか?

 正直、まだ探している途中ではありますが、感情を纏って歌うというのが、今の私のなかでの答えです。これから活動をしていくなかで色々な学びがあると思います。そのなかで考え方もブラッシュアップしていきたいですね。

アーティスト・高橋李依は今作に必要なのか

――続いて、今回リリースされる「共感されなくてもいいじゃない」について教えてください。こちらは、ご自身にとって初のアニメタイアップ曲です。担当すると聞いたときのお気持ちを教えてください。

 アイリーン役としてオーディションを受けて演じることが決まったのちに「オープニング主題歌を歌っていただけませんか?」というお話をいただいたんです。驚きましたし、すごく考えました。

――考えた?

 はい。声優・高橋李依として『悪ラス』(『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』の略称)と向き合っているなかで、果たしてアーティスト・高橋李依は今作に必要なのかと思ったんですよ。アーティスト・高橋李依にはやりたい音楽があって、それが『悪ラス』とよい相乗効果を生み出せるのかと、すごく考えました。アイリーンとしてもちゃんと作品と向き合いたかったですし、タイアップ曲を歌っているから主役を演じていると思われてしまうのは、作品にとっても失礼なプロモーションになってしまうという不安もあって。

――「アニメタイアップ曲を歌える、やったー!」じゃなくて、まずは真摯に考えた。

 はい。高橋李依の音楽が好きだし、『悪ラス』の物語が好きだし、声優・高橋李依としての活動も好きだから悩みました。ただ、アニメ制作チームの方々からのオファーという形でしたので、きっと本作にアーティスト・高橋李依の歌が合うと思ってくださったんだろうと考え、それなら挑戦してみようと決めました。とはいえ、楽曲ができあがるまでは本当にアーティスト・高橋李依は『悪ラス』において必要なのか、疑問は持ち続けていました。実際に曲を聞いた瞬間、その疑問は払拭されましたね。作品にピッタリな曲ですし、歌うときも『悪ラス』のことをたくさん思いながら歌えたので、すごくいいオープニング主題歌になったと自負しています。

――改めて、どういう楽曲に仕上がったのか教えてください。

 疾走感という言葉がいちばん近いかな。生きる速度の速さを感じてもらえる曲です。私自身がふだんから早口だねと言われたり、脳内会議がめちゃくちゃうるさかったりするタイプなのですが、そういう脳内の騒がしさや、生き急いでいる感覚を楽曲に詰め込みました。アイリーンは口を動かすより先に足を動かすようなタイプだと感じたので、そういった行動力が楽曲と結びついて伝わったらいいな。

――そういう意味では、作品に関わると分かってからレコーディングできたことで、想いをより込めることができた。

 そうですね。アイリーンの力強さなどは演じているなかで感じていたので、想いは込めやすかったです。ただこの曲は、アイリーンのキャラクターソングではないんですよ。アイリーンがもし私の心の中に住んでくれていたら、戦える気持ちになれる、力強くなれると、アイリーンからパワーをもらいながらアーティスト・高橋李依として歌いました。

――作品についてのお話もお聞かせください。アイリーンはどういう人物ですか?

 いわゆるヒロインなのですが、そう呼ぶにはあまりにも強くてたくましくてカッコいい主人公です。自分の足で解決へ向かう姿に憧れます。一方で、本作に登場するクロード様との恋愛では、可愛らしい一面も見られるんですよ。乙女心をくすぐられています。改めてこういう素敵な女性に出会えて嬉しかったですね。

――続けて、『悪ラス』の見どころについて教えてください。

 テンポよく話が進んでいきますし、次々と立ちはだかる壁に立ち向かっていくアイリーンの姿を目に焼き付けて欲しいですね。イケメンキャラクターもたくさん登場して、物語としても面白さが詰まっているので、男女ともに楽しめる作品だと思います!

声優・歌は「感情」を伝える・共有するもの

――アーティスト・高橋李依として、今後はどんな曲を歌ってみたいですか?

 バースデーイベントのときに、「電波曲とバラード曲どっちが聞きたいですか」という質問を応援してくださっている方々にしたんです。そしたら、見事に半分ぐらいに分かれまして(笑)。私もどっちもやりたいですし、求められているからには歌いたいですね!

――ライブはどういったものをやりたいですか?

 バースデーイベントは声優を含めた高橋李依のイベントなので、アーティスト・高橋李依とキャラクターソングの両方を歌いたいです。アーティスト活動のライブは、せっかくなので世界観がしっかりあるものをやりたいですね。

――同じ声優仲間のライブを見て、自分もこういうことやってみたいと思ったことはありますか? 

 いろいろありますよ! 直近だったら上田麗奈ちゃんがLINECUBE SHIBUYAで開催したイベントが印象に残っています。物語のような展開で、舞台美術も素敵でした。あとは音響も本当に良くて。ライブ会場で聞く生声の心地よさを知りました。麗奈の口から紡がれている音を直接耳で受け取っているという感覚になったんですよね。私も演出面でも、質感の意味でも体感できるライブができたらな、という憧れがあります。

――高橋さんにとって、声優や歌はどういうものになっていますか?

 先日、声優が表に立つことについて、ちょっと考えたいなって思うことがあって。私のソロラジオでもずっと議論していたんですよ。そもそもアイドルと声優の違いってなんだろうって話では、「アイドルは笑顔を届ける存在で、声優は感情を届ける存在じゃないんですか」っていう意見がリスナーさんから届きまして。それがすごく肌に馴染んだんです。私は声優、そして音楽活動の中で、感情を伝えたいんだなって思ったんですよね。なので、私の中ではどっちも「感情」であり、それを伝える、共有するものかな。

――なるほど。

 ソロラジオでは、それ以外にもいろんな考え方を送ってくれました。「アイドル声優」という造語が生まれていますが、なかには「声優がアイドルをやっても声優だよ」っていう意見もあって。それもなるほど、と思いました。確かに、俳優さんが歌ったら俳優さんじゃなくなるわけじゃないですし、漫画家さんが歌ったら漫画家さんじゃなくなるのかというと、そうじゃないと思いますし。こういう考えは、年々アップデートしていきたいなと思っています。 

――高橋さんの熱量にあてられて、私も心が熱くなりました。その熱量がなくなるときって、ないんですか?

 ありますよ。さっき、「好きを共有するのが好き」という話をしたじゃないですか。だからこそ、共有できないときは本当に辛いです。子供みたいですが、自分だけ熱量が高いときは苦しいかな。例えば、一生懸命作った曲だったのに無反応だったら、ダメージはきっと大きいです。

――とはいえ、そうなってしまったときは「何で伝わらなかったんだろう」と考える。

 そうですね。アイリーンも壁にぶちあたっても戦っていく姿勢を見せてくれるので、私も戦わないと。自分の人生一度きりなんだから、やらないで後悔するより、やって後悔したいです。

――「伝わらないのがつらい」っていう感情がある高橋さんだからこそ、救える人もいる気がします。

 そうだったらいいなぁ。こんな「共感したい」私が、「共感されなくてもいいじゃない」という曲を歌っているんですよね(笑)。そこも実はポイントではあるので、ちょっと意識しながら聞いてもらえたら嬉しいです!

●リリース情報
TVアニメ『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』オープニング主題歌
「共感されなくてもいいじゃない」
10月7日配信リリース
各種音楽サイトにて配信中

《M.TOKU》
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