コロナ禍で変わってしまった日常や価値観を登場人物たちの生きる姿に重ね、今だからこそ、より多くの人々に響く物語に仕上がっている。
今回は、ワニ役の神木隆之介、ネズミ役の中村倫也、そしてモグラ役の木村昴に、作品の魅力や作品が描き出す“仲間”に対しての思いを語ってもらった。
[取材・文=野下奈生 撮影=Fujita Ayumi]

■実写映画のようにリアルなキャラクターたち

――最初に、それぞれキャラクターを演じる際の思い出、こだわった点をお聞かせください。
神木 自分の声でワニというキャラクターの印象を作っていけることにワクワクしました。声の高さや低さ、しゃべり方を全部決められるから、ネズミくんをはじめとする、ほかの親友たちとのバランスを考えなくてはいけなくて、自由だからこその難しさと楽しさもありました。
監督からは「親友と話している、いい意味で気の抜けた感じ」「ワニが気を抜いて地声でしゃべっているような間やテンションで」というオーダーがあったので、演じるときはそのことを意識しました。
中村 ネズミは行動や余白の部分にやさしさがにじみ出ていて、繊細かつ周りを見ているキャラクターでもあったんですが、全体的にどこかぶっきらぼうな空気感があるなと感じました。それもあって、声の表現は極力淡々にということを心がけました。
木村 原作を拝見したときから、モグラって親友のなかでちょっとお兄さんっぽい印象があったんです。達観していて大人っぽい。見た目はパーカーを着ていてちょっとやんちゃそうですが、最初に感じた印象を大事にして、クールではしゃがない空気感で演じていきました。
神木 倫くんとはこれまでも『3月のライオン』や『屍人荘の殺人』でご一緒して、仲良くさせていただいていたので、その絆を信じて、倫くんからの絆も信じて、ワニとネズミが幼なじみだという雰囲気を出せるように頑張りました。
昴くんとは15年ぐらい前に『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』で共演させていただいたんですね。当時、僕は小学校6年生で、昴くんがキャストのなかで年齢的に一番近かったのでお兄ちゃんみたいに接してくれて。子どもの頃から知っていて安心できる関係性だったので、一緒にお芝居ができてすごく楽しかったですね。

中村 昴くんとは今回はじめましてだったんですけど、隆の知り合いでもあったし、会ってみたらすごくフランクだったんですよ。こう見えて、僕より年下ですし。
木村 そこなの(笑)。
中村 お願いすれば担当しているアニメのキャラクターを演じてくれたりもしたんですよね。愉快な人たちが集まってのアフレコは、すごく楽しかったです。
木村 僕が普段やらせていただいているアニメーションとは少し違う、実写映画のようなリアリティーが求められる作品だったので、今までにない新しいことに挑戦できたことも僕はうれしかったです。

■胸が痛くなるようなオリジナルエピソード
――物語の後半は、ワニが亡くなった100日後を描いています。原作にはない映画のオリジナルピソードになりますが、ご覧になった感想は?
神木 日常を変えるような出来事があったあとに、前を向こうとする人、前を向けない人、前を向こうともしない人、前を向きたくない人……いろいろいると思うんですね。その人たちの止まった時間がどうやって動いていくのか、どうやって溶けていくのかというのは気になっていました。
実際、映像で見ると、仲間たちはワニを失ったあとでそれまでのことが当たり前じゃなかったと気づくんですよね。そのシーンは見ていて胸がズキンとしましたね。
監督の「コロナ禍で普段の当たり前が当たり前じゃなくなった」というメッセージも伝わってきました。また、ワニとどう過ごしてきたかやワニへの思いで、それぞれその後の受け取り方も変わってくる。そういったところを丁寧に描いているのが素敵だなと思いました。
中村 家を建てるとき、柱は4本必要だと思うんです。この原作を映画化するに当たってオリジナルエピソードが加わったことで、その柱がより太く強固になったし、相乗効果をもたらしているなと感じました。今、隆くんが言ったように、メッセージがすごく伝わりやすくなり、胸がズキンとすることがより身近に感じられました。
木村 監督がアフレコの日に「本当は原作で描かれているところを8割から9割入れて、残りの少しをオリジナルにしようと思っていた」と話してくださったんですね。「でも、コロナ禍で人と人とのつながりが断たれていき、人が亡くなるということも非現実的ではなくなってきている。だから、ワニが死ぬまでのお話ではなく100日間生きた話を半分、残りを新しいものにしたんです」と。
その言葉を聞いて改めて見ると、ワニくんが登場しないのに、ずっとワニくんの存在を感じる映像になっていて。身につまされるような切ない思いから温かい気持ちまで感じられる、素晴しい物語になったなと思いました。

――カエルというオリジナルキャラクターの存在については、どう感じましたか?
神木 (山田)裕貴くんがどう演じるのかが楽しみでした。実際に見てみたら、すごくズシッときましたね。作品自体はキャラクターもかわいく、気軽に見ていただけると思うんですが、監督のメッセージがカエルの存在でより伝わるようになっていたと思います。
中村 カエルそのものの感想ではないんですが、アフレコで裕貴がすごく緊張していて、それを見ているのが面白かったですね(笑)。裕貴が得意そうなキャラクターだと思ったので、なんであんなに緊張していたのかがずっと気になっています。
木村 カエルという存在自体は、仲間たちにとっては異物ですよね。でも、彼にも過去があって、知らない街にやってきた。その理由が明かされたときは感動しましたし、人間の世界に置き換えると、見かけで人を判断するのはよくないなと感じさせてくれる存在だなと思いました。
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