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アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説する「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ雑誌「アニメディア」で連載していた本コーナーが「アニメ・マンガ妖怪よもやま話」としてWEBで復活。今回はアニメ映画『天気の子』のヒロイン・天野陽菜はいったいどんな存在だったのか、奈良県在住の妖怪文化研究家・木下昌美が考察する。(10月19日時点でまだ公開中の映画作品であるため、ネタバレを気にする方は映画鑑賞後に一読することを推奨いたします)
アニメ映画『天気の子』が大ヒット中です。そろそろ上映が終了する館もあるかと思われますが、その勢いは衰えを知らないように見えます。
(以下、ネタバレを含みますので未見の方はご注意ください)
同作を見進めるにあたり、私が特に気になったのは“少年・森嶋帆高(もりしまほだか)が島から東京本土に家出をしてくること”“晴れ女・天野陽菜(あまのひな)の存在”、そして重要なシーンで必ず登場する“代々木の廃ビル屋上の神社”の3点です。
なかでも不思議であるのが、天野陽菜。彼女はいったい何者なのでしょうか。あるとき、病気の母に付き添っていた彼女は空から差す光に導かれ、代々木の廃ビルの屋上にある神社にたどり着きます。強い思いを胸にその神社の鳥居をくぐったところ、一時的に局地的なエリアを晴れにする能力を手にしてしまうのです。「空とつながっちゃった」という、彼女のあっけらかんとした言葉とは裏腹に、能力の代償なのか、身体が次第に薄く透明になっていきます。
鳥居の内側は本来であれば、人が立ち入るべき場所ではありません。つまり鳥居で遮られていたはずの空間をぶち破って、彼女は異世界へと足を踏み入れてしまったのでしょう。
さて、作中で彼女は人柱であると説明されますが、単なる人柱というよりは、神に仕える女性――巫女としての側面が強いのではないかと考えます。『古事記』や『日本書紀』に登場する「天の岩屋戸」の話を思い出してください。天照大神(あまてらすおおかみ)が隠れてしまった岩屋戸の前で、天宇受賣命(アメノウズメ・アマノウズメ/『日本書紀』では天鈿女命)が躍り、大神を誘い出した女神の話です。
人が依り代となって神を体に宿す作業、俗に言う「神がかり」の儀式に「巫(かんなぎ)」と呼ばれるものがあります。一説には、この行為の原型が、記紀神話の「天の岩屋戸」の話であるといわれます。
お気づきでしょうが、アマノウズメと天野陽菜……いずれも名前に「あまの」と入っています。天野陽菜の生まれをたどっていくと、もしかすると巫に行きつくかもしれない、というのは考えすぎでしょうか。
不思議な能力を手にしてしまった陽菜と、彼女を支える帆高らの運命はどうなるのでしょうか。未見の方はぜひ映画館へとお急ぎください。
なかでも不思議であるのが、天野陽菜。彼女はいったい何者なのでしょうか。あるとき、病気の母に付き添っていた彼女は空から差す光に導かれ、代々木の廃ビルの屋上にある神社にたどり着きます。強い思いを胸にその神社の鳥居をくぐったところ、一時的に局地的なエリアを晴れにする能力を手にしてしまうのです。「空とつながっちゃった」という、彼女のあっけらかんとした言葉とは裏腹に、能力の代償なのか、身体が次第に薄く透明になっていきます。
鳥居の内側は本来であれば、人が立ち入るべき場所ではありません。つまり鳥居で遮られていたはずの空間をぶち破って、彼女は異世界へと足を踏み入れてしまったのでしょう。
さて、作中で彼女は人柱であると説明されますが、単なる人柱というよりは、神に仕える女性――巫女としての側面が強いのではないかと考えます。『古事記』や『日本書紀』に登場する「天の岩屋戸」の話を思い出してください。天照大神(あまてらすおおかみ)が隠れてしまった岩屋戸の前で、天宇受賣命(アメノウズメ・アマノウズメ/『日本書紀』では天鈿女命)が躍り、大神を誘い出した女神の話です。
人が依り代となって神を体に宿す作業、俗に言う「神がかり」の儀式に「巫(かんなぎ)」と呼ばれるものがあります。一説には、この行為の原型が、記紀神話の「天の岩屋戸」の話であるといわれます。
お気づきでしょうが、アマノウズメと天野陽菜……いずれも名前に「あまの」と入っています。天野陽菜の生まれをたどっていくと、もしかすると巫に行きつくかもしれない、というのは考えすぎでしょうか。
不思議な能力を手にしてしまった陽菜と、彼女を支える帆高らの運命はどうなるのでしょうか。未見の方はぜひ映画館へとお急ぎください。
解説:木下昌美
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<プロフィール>
【きのした・まさみ】妖怪文化研究家。福岡県出身、奈良県在住。子どものころ『まんが日本昔ばなし』に熱中して、水木しげるのマンガ『のんのんばあとオレ』を愛読するなど、怪しく不思議な話に興味を持つ。現在、奈良県内のお化け譚を蒐集、記録を進めている。大和政経通信社より『奈良妖怪新聞』発行中。
●挿絵/幸餅きなこ 撮影/高旗弘之