『鬼滅の刃』音楽担当の椎名豪が語るアニメの音楽「物語に入り込むための踏切板みたいなものになれば」【インタビュー】 | 超!アニメディア

『鬼滅の刃』音楽担当の椎名豪が語るアニメの音楽「物語に入り込むための踏切板みたいなものになれば」【インタビュー】

TVアニメ『鬼滅の刃』で音楽を担当する椎名豪が、音作りの秘密を明かしたインタビューが「アニメディア7月号」に掲載中。超!アニメディアでは、本誌に掲載しきれなかった部分を含めた長文版をご紹介する。 ーー『鬼滅の刃』の原作 …

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 TVアニメ『鬼滅の刃』で音楽を担当する椎名豪が、音作りの秘密を明かしたインタビューが「アニメディア7月号」に掲載中。超!アニメディアでは、本誌に掲載しきれなかった部分を含めた長文版をご紹介する。


ーー『鬼滅の刃』の原作マンガは、読んでいましたか?

 はい、読んでいました。でもまさかお仕事のお話がくるとは思っていなくて、驚きましたね。というのも、(アニメーション制作の)ufotableさんの作品では『鬼滅の刃』の前に『衛宮さんちの今日ごはん』の音楽をやっていたので、ここまでガラッと違った世界観のものがくるとは想像していなかったです。

ーー自分が読んでいた作品が決まると、うれしいものですか?

 そもそも最初に『鬼滅の刃』を読んだときは、「音楽なんかいらない」と思うほどドラマ性が高い作品だと思っていたので、すごく怖かったです。読者の方が持たれていたイメージを壊してしまったり、アニメを観た方から「これじゃなかった」と言われてしまったりする可能性があるわけですから。また、シリアスでありながらギャグテイストも混ざっているので、それをそのまま音楽にするとギャップが出すぎてしまうというのも不安要素でした。ただ今回は、制作スタッフの方と事前に細かく打ち合わせをさせていただけたので、気持ち的にも安心感がありましたね。

ーー『鬼滅の刃』の音楽は、梶浦由記さんと名前が併記されていますが、棲み分けはどのようにされているのですか?

 梶浦さんはメインテーマを作っていて、そのアレンジ違いがいくつかあります。1話のプロローグと中間と最後、2話の最後、4話の一部で、梶浦さんが手がけた曲が使われています。梶浦さんの曲が使われる部分はあらかじめ決められていたので、僕はバトルなど、そのほかのシーンやキャラクターの曲などを作っています。

ーー本作では「フィルムスコアリング(フィルスコ)」で音楽をつけているとうかがいました。この「フィルスコ」とは、どういう手法なのか教えてください。

 通常は、「こういうシーンのこういう曲」と指示がたくさん書かれたメニューシートをいただいて、その指示に従って曲を作っていきます。フィルムスコアリングは、目の前の映像に対してリアルタイムで曲をつけていく方法です。『鬼滅の刃』は、場面展開が非常に多く細かいので、あらかじめ別々に作った曲を繋いでいくと、曲のキーやテンポが合わなくて違和感が生まれたり、それを修正する手間がかかってしまったりするんですね。フィルスコでは、それがありません。まずテンポとキーを決めて、1曲のなかで細かく起承転結を付けていくような感覚で作っていくので、視聴者の方にはシーンの流れを止めずに観ていただくことができます。

ーーどのシーンも音楽が鳴っていて、音楽の占める割合も多いですよね。

 話数によっては本編22分のうち、17分くらい音楽が鳴っているんじゃないでしょうか。基本的に1話分の音楽のデモを1日で上げて、リテイクに3日かかり、アレンジャーの方にお願いする場合は楽曲を渡して、「写譜屋さん」という楽譜を起こす方に楽譜を書いていただいて、そこから本番のレコーディングという流れです。フィルスコは毎話この流れをやるので、並行してどんどん次をやっていく感じです。リテイクも含めると、単純に600曲くらい作る計算になります。

ーーそれはすごいです。あと時代設定が大正時代ですが、それによって難しさを感じる部分はありますか?

 たとえば明治時代なら、江戸時代のちょんまげがざんぎり頭になったり、文明開化で蒸気機関が入ってきたりするので、前後の江戸時代や大正時代との差別化がわかりやすいんです。でも大正時代は、すでに電気もある時代なので、昭和初期との違いを出すのが難しいです。それでヨーロッパっぽい重厚なコーラスを使うことで、ヨーロッパとの交流がより深くなった時代であることを表現しました。もともと楽曲の発注の際、和楽器をなるべく使わないようにしてほしいとリクエストされていて、大正時代を表現するうえでも、それはきっと正解だったんだなと思います。とは言いつつ、部分的には和楽器も使っていますけど、それが決してメインにならないように気をつけています。


ーー曲を作るときは、映像を観ながらピアノなどでメロディを作るんですか?

 いえ、手には楽器ではなくマウスを持って、コンピュータで作ります。鍵盤を使うと、どうしても弾きグセが出てワンパターンになってしまうんです。『鬼滅の刃』に関しては、とにかくバリエーションが求められるので、特定の楽器を持たないほうが、発想が柔軟になります。あと今回注目していただきたいのは、オーケストラの演奏や生楽器の音だけでなく、レトロなシンセサイザーの音を取り入れているところです。なつかしさのあるシンセの音によって、大正時代の持つノスタルジックさや、レトロフューチャー感を表現しています。

ーーシンセの音色は、音源で出しているのですか?

 いえ、ミニムーグやローランドのジュピター8といった実際の楽器を、復刻版ですけど用意して弾いていただいています。あと7話では、メロトロンという楽器の音をたくさん使っています。

ーービートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」という曲で使われている、シンセの元祖と呼ばれている1960年代の鍵盤楽器ですね。

 はい。実際に使おうとしたのですが、音程があまりに危うかったので、フルートの音を録音して、テープシミュレーターという機材を使って、メロトロンっぽい音を表現しました。

ーーどの楽器を使うかは、実際にどういうものをヒントにしているんでしょうか?

 登場人物の人となりやバックボーン、衣裳の模様やアクセサリーなど身に着けているものからヒントを得ることが多いです。たとえば善逸はかわいいイメージがあったので、彼の曲は小・中学校で使うアルトリコーダーを使っています。錆兎が出てきたシーンには、アイルランド民謡を取り入れていて、それは錆兎の衣裳の模様から発想しました。幽霊のような存在なので異質感を出したかったのもあります。ただ、曲をつけたときは色が付いていないのでそう思ったんですけど、色が付いてみたら緑とオレンジと黒の歌舞伎っぽい配色だったので、それで急遽和太鼓の音を入れて和の要素をたしました。

ーー完成した映像をご覧になって、音楽を修正する場合もあるのですか?

 多いです。コンテもすごく細かく描かれているのですが、やはり色や撮影処理によって雰囲気が変わりますよね。だから絶対に外せない重要なカットの場合は、たとえば(炭治郎が使う呼吸法)「水の呼吸」の技を繰り出したシーンなどは、事前に資料や映像のテストムービーを見せていただくようにしています。

ーーアクセサリーからもインスパイアを受けるのは、面白いと思いました。

 かなり重要ですね。炭治郎のイヤリングなどのアクセサリーはデザインが特徴的ですし、鈴やベル、トライアングルなどの音と相性がいいんです。ほかにも刀鍛冶の鋼鐡塚が被っていた笠に風鈴がたくさんぶら下がっていて、そういう物質的なディティールからもインスパイアを受けます

ーーただ効果音と被ってしまうので、風鈴の音をそのまま使うわけにはいかないですよね。

 なので、風鈴の代わりにクリスマスの「ジングル・ベル」という曲で使われている鈴を使いました。ただ効果さんと僕の作業が並行しているので、実際に音がぶつかることもあって。そのときのために、こちらでは2パターンの音色を常に用意しています。

ーー鬼の曲を作るときは、鬼のフォルムからですか?

 鬼のテーマを1つ作ってあって、鬼ごとに人間だったときの状態からインスパイアを受けたものを肉付けしていきます。2話で鬼が出てきたときに、子どもの声で鳴っている民族っぽいメロディーが出てくるのですが、そのメロディが鬼のテーマです。ただ「鬼が出た〜!」というわかりやすい感じにならないでほしいときもあって、そういうところでは、ストリングスや篠笛などでそのメロディを表現しています。

ーーそういうふうに絵から音を想像するのに、何か練習とかあるんでしょうか?

 練習と言うとあれですけど、音楽を含めていろいろなものに興味を広げておくことも大事ですし、世界の風景を4Kで映している動画などを、音を消した状態で観てイメージを広げます。映画『アース』は、ヘビロテですよ。そういう映像から、自分のなかにあるものをいかに引っ張り出せるかを訓練すると言うか。だから、たとえばアイルランドっぽさがほしいと思ったときは、必ずしもアイルランドの音楽を勉強するわけではないんです。あくまで自分のなかにある“アイルランド感”が出せればいいんですよ(笑)。だから和楽器を使うときも、“ド和”ではなく、外国の映画に出てくる和のようなイメージですね。1話にまだ平和だった炭治郎の家族のシーンがあって、そこでは胡弓を使っています。牧歌的な和のイメージなのですが、そもそも胡弓は中国の楽器なので完全な和ではないんです。

ーー椎名さんのSNSを拝見したら、スイーツのお写真がたくさんありましたが(笑)。

 平和ではない作品なので、作品と向き合っているときは、気持ちも殺伐としてしまいます。だからパフェを食べるとか真逆のことで打ち消さないと、自分がおかしくなりそうで怖いです。実際に炭治郎たちは、まだ希望もほとんど見えていないけど、わずか一筋の“光”に望みを託しているわけですし、音楽の部分でも、まったくの暗雲のなかで終わるのではなく、ほんの少しでいいから“光”が見えている状態を作っておかないと、視聴者の方も観ていてつらくなります。そのためにも、糖分を取って癒やされる時間を作ることも大事です。

ーー実際に音楽で、そういう“光”のようなものはどういうふうに入れるのですか?

 たとえば全体的に悲しいなかで、ほんの1小節だけ明るいメロディをふわっと入れて、また悲しい雰囲気に戻す。作品を観て流れている音楽を聴いて、へこんで終わるのではなくて、もし現代で同じような境遇にあったとしても、必ず希望を持ってほしいと思っています。

ーー『鬼滅の刃』において、椎名さんの音楽はどうあるべきだと思っていますか?

 あくまでも物語に入り込みやすいようにするための、跳び箱の踏切板みたいなものになればいいかなと思っています。自分が炭治郎や善逸、伊之助に感情移入できるように、背中を押してあげられるものであればいいなと。戦闘シーンは自分がヒーローになった気持ちになれるように考えていて、ほかのシーンでは、そのシーンに没入できるようにと考えています。

ーー今後もさまざまな音楽が出てきますが、音楽面で注目なのは?

 これからいろいろな「鬼」が出てきますが、並行していろんな技術も使って音楽を表現しています。たとえば「グレイン」という、時間軸を止めたり動かしたりする技術があって。映像で言うスローモーションの音版で、独特な音色が出るんですね。一度目は物語に着目して観ていただいて、二度目はそういう細かい音楽に注意を置いて観ていただけると、面白い音楽がたくさん聞けるので、楽しみにしていてほしいです。

取材・文/榑林史章

〈TVアニメ『鬼滅の刃』情報〉
TOKYO MX:毎週土曜 23時30分~
とちぎテレビ:毎週土曜 23時30分~
群馬テレビ:毎週土曜 23時30分~
BS11:毎週土曜 23時30分~
読売テレビ:毎週月曜 25時59分~
熊本放送:毎週水曜 25時58分~
広島テレビ:毎週水曜 26時9分~
福岡放送:毎週水曜 26時24分~
新潟放送:毎週水曜 26時27分~
メ~テレ:毎週水曜 26時29分~
高知さんさんテレビ:毎週木曜 25時25分~
テレビ愛媛:毎週木曜 25時45分~
長野朝日放送:毎週木曜 25時55分~
静岡放送:毎週木曜 26時03分~
福島中央テレビ:毎週木曜 26時14分~
札幌テレビ:毎週木曜 26時34分~
四国放送:毎週金曜25時56分~
ミヤギテレビ:毎週金曜 25時59分~
長崎国際テレビ:毎週金曜 25時59分~
岡山放送:毎週土曜26時20分~
AT-X:毎週月曜日21時00分~

【配信情報】
AbemaTV:毎週土曜日23:30~
dTV:毎週月曜日23:30~
dアニメストア:毎週月曜日23:30~
Amazonプライム・ビデオ:毎週月曜日23:30~
dアニメストア for Prime Video:毎週月曜日23:30~
FOD:毎週月曜日23:30~
バンダイチャンネル:毎週月曜日23:30~
GYAO!:毎週月曜日23:30~
ニコニコ生放送:毎週月曜日23:30~
ニコニコチャンネル:毎週月曜日23:30~
ひかりTV:毎週月曜日23:30~

【スタッフ】
原作:吾峠呼世晴(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン:松島 晃
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
脚本制作:ufotable
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、竹内香純、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野 学
音楽:梶浦由記、椎名 豪
制作プロデューサー:近藤 光
アニメーション制作:ufotable

【キャスト】
竈門炭治郎:花江夏樹 
竈門禰豆子:鬼頭明里
我妻善逸 :下野紘
嘴平伊之助 :松岡禎丞
冨岡義勇 :櫻井孝宏
鱗滝左近次  :大塚芳忠
鎹鴉:山崎たくみ

公式サイト
https://kimetsu.com

公式ツイッターアカウント
https://twitter.com/kimetsu_off

©吾峠呼世晴/集英社 ©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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