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アニメ・マンガ作品における定番ジャンルでもある「妖怪」のことを、ちょっとだけアカデミックに解説する「アニメ妖怪よもやま話」。アニメ雑誌「アニメディア」で連載していた本コーナーが「アニメ・マンガ妖怪よもやま話」としてWEBで復活。今回は、TVアニメ第2期が放送中の『不機嫌なモノノケ庵』の登場人物の名前について、奈良県在住の妖怪文化研究家・木下昌美が語る。
かわいらしい妖怪たちが活躍する『不機嫌なモノノケ庵』が現在、TVアニメで放送中です。人間と妖怪が互いの世界を尊重しつつ暮らしていく、やさしい世界観が人気の秘密ではないかと思います。
さて、物語は主人公の芦屋花繪(あしやはなえ)が妖怪に憑かれることから始まります。安倍晴齋(あべのはるいつき)と出会って、なし崩しで共に妖怪祓いの仕事をするようになり、芦屋の妖怪に対する捉え方が変わっていくところが印象的です。
ふたりの名前は、平安時代の陰陽師から取っているのでしょう。鎌倉初期の説話集『古事談』などを見ると、安倍晴明と術比べをする道摩法師(蘆屋道満<あしや・どうまん>)という人物が登場します。芦屋花繪はこの蘆屋道満を、安倍晴齋は安倍晴明をモデルにしている可能性が濃厚です。
術比べと聞くと何やら禍々しい雰囲気ですが、当時の陰陽師といえば官職のひとつ。現在、広く浸透しているであろう超人的な存在とはまた少し違い、学問や知識に基づき公務を執行していていたと考えられます。
アニメでは芦屋花繪の過去にふれる描写がありましたが、さらにさかのぼると彼の先祖が陰陽師……だったりするのかもしれませんね。
解説:木下昌美
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<プロフィール>
【きのした・まさみ】妖怪文化研究家。福岡県出身、奈良県在住。子どものころ『まんが日本昔ばなし』に熱中して、水木しげるのマンガ『のんのんばあとオレ』を愛読するなど、怪しく不思議な話に興味を持つ。現在、奈良県内のお化け譚を蒐集、記録を進めている。大和政経通信社より『奈良妖怪新聞』発行中。
●挿絵/幸餅きなこ