アニメ放送スタートから10年を迎える今秋、オリジナルエピソードによる劇場版が公開される『夏目友人帳』。映画の見どころや作品の魅力など、主人公・夏目貴志役の神谷浩史と、ニャンコ先生・斑役の井上和彦が、たっぷりと語ってくれた。
――最初に台本を読まれた時の感想は? 神谷
井上 とても自然だし、無理なところが全然ない。テレビだと時間の都合があるので、どうしても急いでしまう部分もあるんですが、劇場版は作り手側が納得のいく長さで作った感じがしますね。最初に読んだときからすんなりと、何の違和感もなかった。ただ「ニャンコ先生3つになるのか。誰がやるんだ、俺か」っていうのはありましたけどね(笑)。それも含めて、優しくてほろっとするお話だなと思いました。
――10周年を迎えた「夏目友人帳」ですが、改めてお二人にとっての「夏目友人帳」とは?
井上 ここまで長く続くと思っていなかったのですが、第一期、第二期が終わった後、楽しいし続けばいいなと思っていました。2年半ぐらいたって諦めた頃に第三期、第四期が始まり、第四期が終わった後、4年以上の月日を経て続編が決まりました。4年以上空きましたが、SOUND THEATREもやらせていただいたので、そんなに間が空いた気はしなかったですね。ずっと携わっていたい作品です。
神谷 第三期、第四期の打ち上げでご挨拶させていただくときに「こんな素敵な作品に出演させていただいて、自分の代表作がずっと『夏目』であり続けるのは失礼じゃないか。代表作が変わっていくような役者にならないと、この作品に対して申し訳ない気がする」ということを言ったんです。それは僕の本心だったんですけど、10周年を迎えて劇場版があって、もう僕の代表作は『夏目友人帳』なんだなと。失礼とかいうより、僕のプロフィールから、消えることがないものなんだろうなと。だからこそ、この作品に対して恩返しをしていかなくてはいけないと、考え方が変わった気がしますね。恩返しの方法はわからないですが、緑川先生がご納得いくエンディングにたどり着いたときに、僕や和彦さんが揃って映像化できるというのが恩返しかもしれない、という考えにシフトしていきましたね。
――トリプルニャンコ先生については、どう演じ分けようと思われたのですか?
井上 演じ分けはしてないです。ただ、1号、2号、3号の役割は意識していました。声のトーンは一番辛いところですね。聞いている方が第一声でキュンとくるような、かわいいって思っていただけると嬉しいなと。
――夏目は人に対してと妖に対して、対応が違うように見えますが。
神谷 妖と対峙している方が素に近い部分があるだろうし、対人となると自分が変わり者じゃないっていうことをアピールしなきゃいけないので、当然ながら装っている部分があると思うんですよね。その些細な違いだと思うんですが、映像や音声で伝わっているのであれば、まさにその通りです。妖怪に対しては、装う必要がない。夏目ってわりと乱暴なところもあるんですよね。面白いなと思うんですが、一人称が「俺」なんですよ。ニャンコ先生を見ていればわかると思うんですけど、妖怪は夏目に遠慮がない。だから夏目も遠慮しない。人間でも本心で話してくれる人に対しては、きつい言葉で言い返すシーンもあって遠慮はないですが、逆に距離を置く人に対しては遠慮しなくてはいけない。子どもの頃に接した大人たちから変な目で見られたトラウマが、遠慮に繋がっているんだと思います。
――劇場版ならではの要素だと思うところは?
井上 せせこましくない(笑)。例えば島本須美さん演じる容莉枝さんが木の前で座って悲しんでじっとしている。立ち上がるまでの間、すごく長いんですけど、間が持っちゃう。そういう“夏目タイム”で描かれているところは、劇場版らしいなって。ちゃんと心の間を考えてゆったりと作られている。
神谷 テレビシリーズだと、本来前後編にしたいエピソードも、どうしても1話完結で描かないといけなくて。だからアフレコでも、夏目のセリフとモノローグやナレーションの気持ちの切り替えを、瞬時にやらないといけなくて、1本収録すると結構ぐったりしていましたからね。劇場版は僕の場合、前半、後半、ナレーションの3回に分けてアフレコさせていただいて。時間がかかった分疲労感があると思ったんですが、全然疲れなかったですね。出番のない中級妖怪たちはずっとロビーで盛り上がっていて。差し入れをたくさんいただいたので、ちょっとしたパーティー会場になっていて(笑)。存分に盛り上がっていましたね。
井上 楽しそうだったよね(笑)。
神谷 僕らはストイックに作業していたんですけど、それでも疲れなかったんですよね。テレビシリーズだと、時間に合わせて能動的にどんどん気持ちを切り替えていかないといけない。劇場版だと時間をかけて切り替えられたので、自然とそういう気持ちになるから心地よかったです。あとはゲスト声優が島本須美さん、高良健吾さん、バイきんぐのお二人だったりというのも劇場版ならではですよね。高良さんは何本かアニメを拝見していて、巧みな方だと存じ上げていたんですけど、津村椋雄というキャラクターがとても自然に、なおかつ不自然に存在していて。何かあるんだけど、自然と受け入れてしまう不思議な存在感を保っていて。それを受け入れる母親の容莉枝さん。『夏目』のTVシリーズの1話からいたんじゃないかなっていうくらい自然に存在していて、全てを包み込んでしまうような役どころで。ちょっと油断すると「あ、俺いま『ナウシカ』と喋っているんだ」みたいな(笑)。感動的でしたね。
井上 『夏目』の空気感ってちょっと前の昭和な感じだったりするじゃないですか。都会じゃない良き日本の空気というか、その中にすっと溶け込んでいるのが素敵でしたね。
神谷 全体的に品のある感じでしたね、ほんとに。
井上 見ていて、切り絵やりたくなっちゃうよね。
神谷 容莉枝さんの切り絵、すごかったですよね。切り絵師の方が作ってくださったんでしょうけど、ちょっと興味持ちましたね。
――夏目とニャンコ先生は、この10年で変化はありますか?
神谷 ニャンコ先生自体のスタンスは、基本変わってないと思うんですよ。おそらく、夏目以外の人とも関わりを持っていたんじゃないかと思うんです。一番最初に「人のくせに私を見て驚かないとは生意気な」って言うところがあるので。畏怖の対象でしかなかった自分に、命がなくなる時に友人帳をあげるって安易に約束するんですよ。ニャンコ先生から見たら夏目は余程変わった人間だと思います。だから、面白半分で付き合ってやるかと思っていた入り口に比べると、いまの関係は「ニャンコ先生、頼んだ」って言えるようになるまでには進化したかなって。
井上 ニャンコ先生的には、“変なやつ”が好きなんですね。人が「ん?」って思うようなものでも自分が好きならしょうがない。
神谷 今までは夏目が無茶しているのを「やれやれしょうがない」って助けてくれていた感じですが、でも第五期、第六期あたりで「ニャンコ先生、頼む」って言えるようにはなりました。でもシリーズを重ねても、基本的なところは変っていない気がしますね。
――映画を楽しみにしているファンの方へ、メッセージをお願いします。
井上 楽しんでいただけるのはもちろんですが、優しさだったり、色々なことを感じていただけるのではないかと。僕は普段、映画を見ても「あー、面白かった」って終わっちゃうタイプなんですけど、この映画は生きるってどういう事なんだろうと考えさせられる作品でした。自分がいなくなった時どうなるんだろうなとか、人の記憶に残りたいなと思うようになったんですよね。人それぞれ、いろんなことを感じていただけたらと思います。
神谷 『夏目友人帳』をご存知の方には今更ですが、自信作ですので劇場に足を運んでいただけたらなと思います。全く知らない方にも、『夏目友人帳』のいろんな要素が詰まっているので、1シーンなり1コマなり、どこか刺さるところがあってほしいと思います。もしそれがあったら、テレビシリーズの第一期から様々なエピソードがあるので、そちらを見ていただけたら琴線に触れるエピソードがあるのではないかと。そこから全てのエピソードを観ると、全てが輝いて見えると思います。そのきっかけになる作品だと思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。
神谷浩史【かみや・ひろし】千葉県出身。青二プロダクション所属。主な出演作に『化物語』阿良々木暦役、『黒子のバスケ』赤司征十郎役、『進撃の巨人』リヴァイ役、『おそ松さん』松野チョロ松役などがある。
井上和彦【いのうえ・かずひこ】神奈川県出身。B-BOX所属。主な出演作は『NARUTO』はたけカカシ役、『ジョジョの奇妙な冒険』カーズ役、『美味しんぼ』山岡士郎役など。
〈「劇場版 夏⽬友⼈帳 〜うつせみに結ぶ〜」情報〉
9月29日(土)全国公開
<イントロダクション>
2003年の初出当初から多くの読者を魅了してきた緑川ゆきの代表作「夏⽬友⼈帳」(⽩泉社 ⽉刊LaLa連載)は、優しさと切なさの溢れる描写が話題となり、漫画ファンを中⼼に圧倒的な⽀持を得てきました。TVアニメ第⼀期は2008年に放送を開始、その後2017年の第六期まで継続され、深夜アニメとしては他に類を⾒ないロングシリーズとなりました。 そして、2018年秋、アニメ「夏⽬友⼈帳」の集⼤成ともなる劇場版がスクリーンに登場。本作では、シリーズ初の⻑編映画として、原作者監修による完全新作のオリジナルエピソードが描かれます。総監督は、第⼀期〜第四期TVシリーズの監督(第五期〜第六期は総監督)をつとめ、実写的な演出に定評のある⼤森貴弘。監督はアニメーターとしても幅広く活躍する伊藤秀樹。脚本は数多くの劇場作品を⼿掛けてきた村井さだゆき。アニメーション制作はTVシリーズを担当してきた朱夏。確かな実⼒と多くの経験を積んだスタッフの⼿によって、待望の劇場アニメーションが誕⽣します。
<プロローグ>
⼩さい頃から、他の⼈には⾒えない妖(あやかし)を⽬に映すことができた夏⽬貴志。亡き祖⺟レイコが勝負をしかけ、負かした妖に名前を書かせた契約書の束「友⼈帳」を 継いで以来、⾃称⽤⼼棒・ニャンコ先⽣とともに、妖たちに名を返す⽇々――
<スタッフ>
原作:緑川ゆき/⽉刊LaLa(⽩泉社)連載
総監督:⼤森貴弘
監督:伊藤秀樹
脚本:村井さだゆき
妖怪デザイン・アクション作監:⼭⽥起⽣
サブキャラクターデザイン:萩原弘光
美術:渋⾕幸弘
⾊彩設定:宮脇裕美
編集:関 ⼀彦
撮影:⽥村 仁・川⽥哲⽮
⾳楽:吉森 信
アニメーション制作:朱夏
製作:夏⽬友⼈帳プロジェクト
配給:アニプレックス
〈キャスト〉
夏⽬貴志:神⾕浩史
ニャンコ先⽣・斑:井上和彦
夏⽬レイコ:⼩林沙苗
夏⽬貴志(少年時代):藤村 歩
結城大輔:村瀬 歩
藤原塔⼦:伊藤美紀
藤原 滋:伊藤栄次
⽥沼 要:堀江⼀眞
多軌 透:佐藤利奈
⻄村 悟:⽊村良平
北本篤史:菅沼久義
笹⽥ 純:沢城みゆき
名取周⼀:⽯⽥ 彰
柊:ゆきのさつき
笹後:川澄綾⼦
⽠姫:樋⼝あかり
ヒノエ:岡村明美
三篠:⿊⽥崇⽮
ちょびひげ:チョー
⼀つ⽬の中級妖怪:松⼭鷹志
⽜顔の中級妖怪:下崎紘史
河童:知桐京⼦
津村容莉枝:島本須美
津村椋雄:高良健吾
もんもんぼう:小峠英二(バイきんぐ)
六本腕の妖怪:西村瑞樹(バイきんぐ)
劇場版公式 サイト
http://natsume-movie.com/
©緑川ゆき・⽩泉社/夏⽬友⼈帳プロジェクト