TVアニメ『ブギーポップは笑わない』のOPテーマ「shadowgraph」をリリースしたMYTH & ROID。その制作秘話を聞いたインタビューが、『アニメディア4月号』に掲載されている。「超!アニメディア」では、本誌記事内ではお届けしきれなかった部分も含めたインタビュー全文をご紹介する。
――表題曲の「shadowgraph」は『ブギーポップは笑わない』(以下『ブギーポップ』)のOPですが、作品への印象は?
Tom‐H@ck(以下T) KIHOWちゃんは『ブギーポップ』をリアルタイムで知らない世代なので、新しい作品として受け取る感じだよね。
KIHOW(以下K) そうですね。全体像がなかなかつかめない作品だなと感じました。特に物語の冒頭はその印象が強いんですが、読み進めるうちに、そういうつかめないところが魅力の作品なんだろうなとも感じて。それもあって、今回歌うときには、言葉で説明しづらいことを表現することに着目したんです。
T 僕は本当なら原作世代なんですが、残念なことに触れてこなかったんですね。今回タイアップの話をいただいてから原作を読ませていただいたのですが、KIHOWちゃんと同じく、つかみどころがないというかシュールな作品がまとまった物語なんだなと感じました。
――アニメの制作サイドから曲についてのオーダーはありましたか?
T テンポの指定もなく、すごく自由に作らせていただきました。今回は答えを出さない方向で制作をしたんです。あるものは無であり、無であるからこそ、そこに物体があるといった「色即是空」に近いイメージで、よくわからない感じを表現しようと思ったんです。MYTH & ROIDは比較的、怒りや悲しみなどの感情の強さを表現することが多いんですが、今回の楽曲は“何もないもの”を強烈にアピールすることを意識しました。
――KIHOWさんは“何もないもの”を歌うにあたって、どんなことを意識しましたか?
K 作品のことを考えすぎず、自分のなかで登場人物やストーリーを作り上げ、その感情に当てはまるように歌うことを意識しました。何がなんだかわからないから、つねに不安を抱えて何かを探し続けているようなイメージです。そんな気持ちで、最後まで歌いました。
T KIHOWちゃんとの活動も長くなってきているので、今回のレコーディングでは、ディレクションはなかったんですよ。彼女自身、感情移入が得意だから、今話したように世界をつかめていれば、すごく早くレコーディングは進むんです。
K たぶん、自分の性格が、歌詞に書かれている人に近いんだと思います。私も普段、自分のなかで考えていることはあっても、それはほかの人には説明してもたぶん通じないだろうなという言葉で考えてしまっていて。その伝わらない部分を、歌で表現できるようになってきているのかなと。それもあって、「shadowgraph」は難解そうに聴こえるけれど、私としてはむしろ歌いやすかったですね。ラストにひと言だけ「私は、誰?」というセリフが入りますが、あそこも感情を入れずに無機質に言えばよかったので、むしろやりやすかったです。
――「shadowgraph」は、弦楽器の音がとても印象的に響きますね。
T 僕は、音楽に関する流行って7年周期だと思っているんです。7年前が一番古く感じて、その倍の14年前はむしろ今やると新しい。14年前というと、宇多田ヒカルさんのようなR&Bがすごく流行った時代なんですね。当時は、そのR&Bにストリングスセクションを入れるのも流行していたので、それを取り入れたらいいんじゃないかと。ただ、そのままストリングスを持ってきてもつまらないから、セクションではなくチェロをソロで入れたんです。音も大きめにしたので、すごく印象的に響く形になっているんです。
K ボーカルレコーディングの直前にチェロが入ってきたので、私は曲を聴いたときに「歌よりチェロのほうが目立つんじゃないか……」と思ってしまって(笑)。でも、そこで気張るのはよくないというのを経験として学んでいたので、抑えめにしました。
T チェロと戦わなかったもんね(笑)。
K 戦闘民族にはなりませんでした(笑)。以前は、「歌の力をわかってほしい」という気持ちが強すぎて、つい突っ込んでしまいがちだったんです。でも、それも経験を重ねて、自分の歌の使い方がわかるようになってきたんですよ。
T それもあって、特にディレクションをする必要がなかったんですよ。
K デモを聴いて、自分でイメージしていった歌い方がそのまま使われていますよね。
――カップリングの「Remembrance」は、『劇場版 幼女戦記』のEDです。
T アニメスタッフ側から「1stアルバム『eYe’s』に収録されている『雪を聴く夜』のような曲がほしい」と言われました。「なんなら、『雪を聴く夜』をそのまま使いたいくらい」だとおっしゃっていたんですよ。それを聞いて「ではそれに次ぐ新しい曲を作ります」ということでできあがった曲です。MYTH & ROIDとしてやりたいことを含みつつも、職人としての作家性も落とし込んだ作品になりましたね。
――アニメスタッフは、なぜ「雪を聴く夜」をプッシュしたのでしょうか?
T KADOKAWAの音楽プロデューサーによると、超シリアスに終わるのではなく、少しコミカルというか、余韻を残した曲がいいらしい、ということでした。そのニュアンスも残しつつ、映画のエンドロールに流れるということも意識した曲作りをしました。
K エネルギッシュな曲ではないですよね。でも、「shadowgraph」と比べると感情もあふれてくる曲で。内容的には哀悼の意を表した曲ですが、得意な曲調だったので楽しく歌えました。
――レクイエムのような曲を歌うのは好きですか?
K そうですね。レクイエム調の曲って、そんなに頻繁に歌える曲ではないので、歌う機会をいただけたのがすごくありがたいです。今回の曲に関しては、余韻についてやエンドロールで流れることを自分なりにも考えて、ねちっこさよりもさわやかさ、切ないけどさらっと聞けるような歌声を目指しました。ただ、そのなかにも怒りに近い感情は浮かべていたんです。
――哀悼のなかに怒りを込めた?
K はい。私は戦争を経験していませんが、普段から人の死に対して「悔しい」という感情があるんですね。それはイレギュラーなことだけに限らず、仮に死を予期できるような状況だったとしても「なんでいなくなってしまったんだろう」と思ってしまう。悲しみもありますが、それよりその理不尽さへの怒りに近い感情もあり、その思いを心の中に浮かべながら歌った記憶はあります。
T こちらからの指示もほとんどなかったしね。普段は、KIHOWちゃんの声に、いくつも声を重ねるんですが、今回は1本だけなので、絶妙なニュアンスが聴こえやすくなっていると思います。こういう手法は、TVアニメだとなかなかできないので、劇場版だからこそ、というところはありますね。
K 毎週レクイエムが流れるアニメって、ないですよね(笑)。
T 何より、売れないと思うよ(笑)。
――MVやジャケットは、どのようなコンセプトで作られているのでしょうか?
T MVにしてもジャケットにしても、人に作っていただく形になりますから、まずクリエイティブ精神をそがないことを第一に考えています。だから、僕たちからは「楽しいことをやってください」とお願いするんです。「神秘的」と「恐怖」だけ入れていただければ、ほかはもうお任せで。今回の「shadowgraph」のMVに顔のない人物が登場するのも監督のアイデアで、そういうアイデアは僕からは出てこないので、いつもありがとうございます、という気持ちですね。ジャケットに関しては、今回僕から「黄色を入れてほしい」というお願いだけしました。ただ、アートディレクターの方から「金色はどうでしょうか」と提案をいただいて、それを採用した形です。アートディレクターの方は、「『MYTH & ROID』は高貴な感じがある」と思ってくださっているようで、今回もそのイメージで素晴らしいジャケットを作ってくださいました。
K ほかの方が自由に作ってくださったのに、自分たちの想像とピッタリのものが上がってくるのは本当にすごいなと思います。毎回、とてもありがたいです。
――では最後に、読者へメッセージを。
K 「shadowgraph」はすでに多くの反響もいただいています。アニメとあわせて楽しんでいただけたらうれしいです。それから、ライブだとまた違った雰囲気になると思いますので、ライブにも遊びに来てください。
T ファンクラブに入ってね(笑)。ファンクラブに入ると、僕たちとご飯が食べられますよ。
K そんなにゆるいイベントがあるんですか?
T 僕としては、今後そういうゆるいイベントをやりたいと思っているので、ぜひ!
<プロフィール>
【ミスアンドロイド】2015年に結成。Tom-H@ckがトータルプロデュースを務め、ボーカル・KIHOWをはじめとした複数のクリエイターで構成されたコンテンポラリー・クリエイティブ・ユニット。これまでにシングル7枚、アルバム1枚を発表している。
<シングル「shadowgraph」情報>
発売中
KADOKAWA
1,296円
MYTH & ROIDの8枚目となるシングルは、TVアニメ『ブギーポップは笑わない』のOP「shadowgraph」と、『劇場版 幼女戦記』のED「Remembrance」を収録。表題曲は、『ブギーポップは笑わない』の不穏な世界観をそのままに表現したような、どこか不安定さが漂いつつも、一度聴いたら耳から離れない、不思議な印象のナンバーに仕上がっている。
取材・文=野下奈生(アイプランニング)