国立新美術館開館20周年を記念し、少女漫画の歴史を切り拓いてきた萩尾望都、山岸凉子、大和和紀の三人に焦点を当てる大規模展『少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展』が、2027年2月8日まで開催されています。国立の美術館で開催される大規模な少女漫画展としては、初の試みとなります。
1970年代、少女漫画は従来の枠を大きく超え、SFや歴史、文学、舞踊、社会性のあるテーマまで、多彩で奥深い表現を切り拓いていきました。その進化の中心にいた三人の作家は、それぞれに唯一無二の世界を築き、今なお世代を超えて読み継がれる数々の名作を生み出しています。本展では、デビュー初期から現在に至るまでの創作の軌跡を、カラーイラスト、名場面の原画、貴重な資料などを通して紹介。
会場には、美麗なカラーイラストの数々に加え、切り貼りされた写植のセリフや修正の跡まで生々しく残るモノクロ原稿、さらには舞台化作品の衣装などもずらりと並びます。展示される原画は合計800点を超える圧巻のボリュームで、三人が切り拓いてきた少女漫画表現の豊かさと、その創作の熱量を間近で味わえる内容です。アニメ!アニメ!では内覧会を取材し、会場の見どころをレポートします。
◆少女漫画の歴史も俯瞰できる「少女漫画史の金字塔」、「デビューの頃~1970年代の少女漫画~」

会場に入ると、まずはプロローグ「少女漫画史の金字塔」として、各作家の代表作の原画と大スケールのパネル、タペストリーの数々が迎えてくれます。長年親しんできたファンにとっては、見慣れたはずの代表作のビジュアルとの再会にもかかわらず、原画ならではの息をのむような線の美しさや色彩に、思わず足を止めてしまうはず。これから始まる展示への期待が、一気に高まります。
続いては「デビューの頃~1970年代の少女漫画~」エリア。三人のデビュー当時の作品原画に加えて、当時の少女漫画雑誌などの実物展示、そして戦後の漫画文化から少女漫画雑誌の変遷、三人に少なからぬ影響を与えたであろう諸先輩たちの活躍ぶり、少女漫画史そのものを俯瞰する解説も見どころとなっています。
◆萩尾望都・山岸凉子・大和和紀という、果てしなく広がる「三つの宇宙」
大規模なこの企画展の中でも特に見応えたっぷりのエリアが、作家ごとに8つのテーマを設けてその輝かしいキャリアをたどる「三つの宇宙」です。
大和和紀 華やかな色彩で描く、時代を生きる女性たち

まず最初は大和和紀のエリア。『ラブパック』から『はいからさんが通る』、紫式部の『源氏物語』をマンガとして描き切った『あさきゆめみし』まで、「女性が輝く時代へ」「学園青春ストーリー」「歴史に生きた女性たち」といったテーマで展開しています。紫式部の生涯を描いた大河ドラマ『光る君へ』をきっかけに、改めて『源氏物語』の世界に触れた人にとっても注目の展示といえるでしょう。ひときわ目を引く鮮やかな色彩とともに、時代や文化を背景に、たくましく、華やかに生きる女性たちの姿が広がります。

宝塚歌劇の舞台で使用された『はいからさんが通る』の花村紅緒と伊集院忍の衣装や、『あさきゆめみし』の雛人形といった作品ゆかりのアイテムも展示。

原画とあわせて見ることで、作品世界がページの外へと広がっていくような感覚を味わえます。
萩尾望都 幻想と少年たちの内面世界へ

続いての萩尾望都のエリアは「『ポーの一族』という衝撃」、「少年とギムナジウム」、「SF・幻想世界」といったテーマで展開。美しい原画とともに、幻想的で内面世界に深く分け入る物語を辿っていきます。

時を超えて愛され続けるキャラクターたちの視線や、印刷では見落としてしまいそうな繊細な描線を前にすると、萩尾望都がマンガで描いてきた壮大な世界観を改めて実感させられます。

キャラクター設定などが描き込まれた制作時のスケッチ、舞台化作品の衣装などの関連展示も必見です。
山岸凉子 美と業が交錯する、緊張感に満ちた世界

山岸凉子のエリアは、「神話と御伽噺の世界」「『日出処の天子』で拓いた新しい境地」「新時代のバレエ漫画」といったテーマで構成されています。神話や伝承をモチーフにした物語から幻想ファンタジー、ホラー、サイコスリラーまで、多彩な作品を通して、繊細かつ緊張感に満ちた線が描き出す人間の業や精神性に迫ります。

原画を間近に見ると、印刷物では見落としがちな筆致や画面の密度、登場人物の表情に込められた感情が鮮やかに立ち上がり、山岸作品が持つ妖しさや張り詰めた空気がいっそう強く伝わってくるようでした。ページをめくるだけでは気づかなかった緊張や美しさに出会えるのも、原画展ならではの醍醐味です。

作画資料となった雑貨や着物などの展示もあり、作家の手で見事に描き出された美の由来を垣間見られます。
◆個性あふれる三人のなかで不思議と重なった「響きあうイメージ」

三つの宇宙で果てしない旅を繰り広げた後に待っていたのは、個性あふれる三人の“共通点”にフォーカスするエリアです。
少女の心をつかんで離さない「ファッション」、溢れるロマンに魅せられた「平安時代」、そしてキャラクターたちの内面に迫る「母と娘の相克」、時代と深く影響し合った「性の境界」、少女漫画家の象徴のひとつでもある「猫」。
三人三様に表現は違えど、不思議とどこか重なりあう、大きなテーマが感じられます。
◆次々と映し出される美麗なシーンの一部になれる「インフィニティ・フォトスポット」

展示エリアの最後に据えられていたのは、撮影禁止の本展覧会で唯一思い出を写真に残すことができる「インフィニティ・フォトスポット」。カメラのフレームを埋め尽くさんばかりの大きな映像モニターには、萩尾望都・山岸凉子・大和和紀の作品から、印象的なシーンやイラストが、20分に渡り動きのある形で次々に映し出されます。
◆心に残った“推し”を連れて帰りたい! 特設ショップも必見

展示の最後に設けられた特設ショップでは、出品作品から厳選した約300点の図版に加え、萩尾望都×山岸凉子×大和和紀によるスペシャル鼎談などを収録した「公式図録」をはじめ、数々のオリジナルグッズを販売しています。
ポストカードやアクリルスタンドなどの定番グッズに加えて、イタリア発のスイーツブランド「BABBI」とコラボした「クオーレ バスケット」(各3,800円)、書画用品の老舗「鳩居堂」とのコラボによる「御朱印帳」(各3,300円)、「Cosme Kitchen」とのコラボで、作品イラストの缶に入った「ハンドクリーム&リップクリームセット」(各4,400円)といったアイテムも並んでいました。

本展覧会の音声ガイドナビゲーターは、『ポーの一族』『はいからさんが通る』など、宝塚歌劇の舞台で作品世界を表現してきた柚香光が担当。音声ガイドは会場入口で1台700円(税込)で販売されています。自身のスマートフォンで二次元コードを読み取り、Webブラウザ上で利用するシステムのため、音声ガイドを楽しみたい人は、スマートフォンとイヤホンを持っていくのがおすすめです。
◆レジェンドたちが残してきたもののスケールに圧倒されるひとときを……!

半世紀を超える長きにわたり、現役の少女漫画家として作品を発表し続けてきた三人。合計800点を超える原画と関連展示は、こちらの想像を軽々と超えてくる圧倒的なボリュームでした。
少女漫画という表現が、どれほど自由に、豊かに、そして深く広がってきたのか。その歩みをたどると同時に、何度も読み返してきたお気に入りの作品や、心に残り続けてきた場面と再会できる展覧会です。内覧会の1時間ではとても鑑賞しきれないほどの内容だったため、足を運ぶ際はぜひ時間に余裕をもって。歩きやすい靴で、じっくりと三人の「宇宙」に浸ってみてください。
【開催概要】
▶会場:国立新美術館 企画展示室2E
▶開催期間:2026年10月28日(水)~2027年2月8日(月)
[前期]2026年10月28日(水)~12月14日(月)
[後期]2026年12月16日(水)~2027年2月8日(月)
※カラー作品は前期・後期で展示替えがあります。
▶開催時間:10:00~18:00(毎週金・土曜日は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
▶お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
▶主催:国立新美術館
▶共催:毎日新聞社
▶特別協力:上ノ空、講談社、小学館
▶協力:ソニー・ミュージックエンタテインメント










