『ガンダムSEED FREEDOM』福田己津央監督が語る制作秘話―「誰も愛を語らない時代だからこそ、愛を描いた」 | 超!アニメディア

『ガンダムSEED FREEDOM』福田己津央監督が語る制作秘話―「誰も愛を語らない時代だからこそ、愛を描いた」

「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」の完全新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。公開から1ヶ月で興行収入34.8億円、207万人動員突破するヒットとなった。今回、福田己津央監督にインタビューを実施した。

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2006年に制作が発表された「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」の完全新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が18年の時を経てついに公開。約20年の長い時を待ち続けたファンが公開初日から劇場に押しよせ、初日3日間で興行収入10億6,500万円・観客動員数63万人を記録した。さらに公開から1ヶ月で興行収入34.8億円、207万人動員突破する大ヒットを躍進中だ。

そんな本作の企画を粘り強く温めつづけた福田己津央監督に、本作についての想いやこだわりについて話を聞いた。

※以下の本文にて、本テーマの特性上、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。



■企画当初は【愛の要素】は薄かった

――公開後の反響を受けて、今の率直なお気持ちはいかがですか。

福田:興行が好調だそうでとてもありがたいです。今回は両澤(千晶)がプロットは作ってくれたけど、セリフを起こすといった脚本作業は後藤(リウ)さんにお願いして、その上で自分が直しています。今までの『SEED』の制作と違うプロセスを踏んでいるので、それがきちんと受け入れられているのかなって不安はあります。正直に言うと、後半は自分のペースになっちゃっていますね(笑)。でも、どれもこれも両澤のプロットに元々あったものです。セリフのニュアンスで与える雰囲気がまったく異なるものになるんだなと実感しています。

――企画が発表されてから18年後の公開となりましたが、その月日の経過があったからこその変化や難しかった点はありますか?

福田:劇場版発表時から3DCGでやろうという話があったんですが、そのために3Dモデルを大量に作らないといけないので、CG制作から「本気ですか!?」と言われてました。今のスタッフは『SEED』を見て育った世代も多くて、作品に対して愛情が強く、よくぞこれだけの物量をこなしてくれたなと思います。

変わった点で言えば、TVシリーズで上手くいかなかった部分……主にキャラクター描写について補正したかったのですが、そこはある程度上手くいったんじゃないかと思います。両澤は最後まで見届けることはできませんでしたが、彼女の方針でそのあたりも動かしたつもりです。

でも、愛の要素はもう少し薄かったですね。両澤は「愛ってよくわからない」とよく言っていたんです。愛って何が本物かわからないじゃないですか。両澤は具体性がないと書きにくいと言っていました。人を愛するには“資格”や“価値”が必要なのか、愛される“価値”とは何か、ということに最終的に行きつき、キャラクターたちにそれを体現させるように組んでいます。

その部分が一番大きいのはアグネスとかオルフェたちなんですけど、メインキャラクターではないので、最終的にはラクスに背負わせるために彼女もアコードの一員という設定を追加しました。そのことが“遺伝子がすべてを決める社会”に対する回答になっていて、彼女はそういうものから脱していく。それが今回描きたかったことです。

――なぜ愛の要素を増やそうと考えたのですか?

福田:愛ってなんか恥ずかしいですよね。言葉にした瞬間に薄っぺらく感じるような風潮が90年代や2000年代にはありました。それから20年経って、今は誰も言わないようになってきているから、むしろ愛を描いてもいいかなって思ったんです。今の時代、結婚は人生のゴールではない、価値観が多様化したからこそ愛もストレートに描けるのではないかなと思いました。

――“遺伝子が全てを決める社会”という話が出ましたが、『SEED』の物語はナチュラルと遺伝子調整によって誕生したコーディネイターの争いを軸にしています。テレビシリーズから20年以上が経過し、遺伝子編集が現実的になりつつある今、あらためてその技術に対してどうお考えですか。

福田:良いか悪いかはわかりません。ただ、常に思うことですが、技術は止まることがないですよね。危険だと言っても核兵器は作られるし、新しい原発も生まれる。実際に、放射線治療として放射線は医療に用いられていますし、技術に良い・悪いはないと思うんです。だから、僕らも“良い・悪い”の話をするのではなく、「どうなると良いだろう?」と問いかけることしかできません。

遺伝子編集技術は、今後もっと普及するでしょうし、人体の治療に使われたりもするでしょう。倫理的にそれを受け入れない人もいるかもしれないけど、治療しないと死ぬという場合、どっちがいいかわからないですよね。だから、両方を併記して問いかけることが唯一こちらにできることです。

実際、コーディネイターを否定的に描いたことはありませんし、遺伝子で人類を選別することを否定しているわけでもない。もっと言うと、戦争自体も否定していないと思います。戦争は良くないと言い続けても、人は何千年も争っているわけで、そこには何らかの理由があってのことでしょう。それが何か、今の価値基準で判断はできないけれど、現実がそうなっている。それが本質ですよね。テクノロジーの良し悪しも使う人間がどう考えるのか、それに尽きると思います。

■新型で勝つより旧型で勝つほうがカッコいい

――メカデザインについて苦労した点、こだわった点はありますか?

福田:僕が言っても説得力ないかもしれないですけど(笑)、この世界にどんな機体が成立するかの理屈は考えました。2回大きな戦争をしているので、経済もかなり疲弊しているはずだから軍縮の方向になっていて、なるべくローコストで戦争をやっているだろうという方向で考えました。

――その意見を大河原邦男さんにお伝えしてあのようなデザインに?

福田:そうですね。フリーダムやジャスティスはボディや肩は一緒にするつもりだったんですけど、上がってきたデザインが全然違って(笑)。でもカッコいいから採用しました。やはり、メカもキャラクターだなと思ったので。18年前にデザイン発注していて、探せば何年版とかいろいろ出てくると思うんですけど。ブラックナイトスコードの機体は、初期稿ではもっと数が多かったです。あと、デストロイは上下分離というアイディアがありました。上下分離したら、ビグ・ザムとジオングだよねっていう(笑)。

――ロボットの戦闘シーンの見せ方についてこだわった部分はありますか?

福田:「機動戦士」とタイトルについているので、『SEED』の基本的な約束事は『機動戦士ガンダム』(ファーストガンダム)に準拠するところからスタートしています。そこからいろいろ発展させて、最終的に『SEED』のアクションが確立していったんです。なので、今回もテレビシリーズ同様に、ファーストガンダムの重量感ある重々しいアクションから始まり、だんだんスピードアップしていくというメリハリをつけていくという、テレビシリーズで1年かけてやっていたことを、今回は2時間でやっています。

難しいのは、今はお台場に行けば実物大のガンダムの立像が建っていますから、モビルスーツの質感がどういうものか、視聴者が知ってしまっていることですね。だから、映像で動きが軽すぎると「なんか違うな」と思われてしまう。“現実”と“作り事”のすり合わせをきちんとやらないといけなくて、冒頭はそれを重視しました。

あと、当初はストライクフリーダムが最初からいて、途中でやられて新型に乗り換える話だったんです。でも両澤の「新型で勝つんじゃなく、旧型で勝ったほうがカッコいい」という意見から、そのように変更しました。

■ファンが喜んでくれたことが一番!

――あらためて、映画作りの基本的な方向性は、やはりファンの人に喜んでもらうというのが第一だったでしょうか?

福田:もちろんです。18年待たせてしまいましたから。失敗しても来年があるという作品ではないですし、18年振りに見るものが「なんじゃ、これは!?」となったらお互いに不幸です。

ただ、今なにが売れているのか、ファンは何を求めているかは、世の中を観察しました。今は「体験を共有する」という部分が強くなっていると思います。個人用にPCやスマホを持つ時代となり、一人の時間が大切という流れもありますけど、やっぱりそれだけじゃつまらないんでしょうね。みんなで手に汗握って、横を向くと涙を流している人がいて同じように感じている。そういう空間を共有できるというのが今、求められることかと。

それと“本物”であるということに価値がある。両澤も言っていましたが、舞台やコンサートのような本物の迫力を見られるものには強いパワーがあるので、映像はどうしても不利です。でも、もの作りはリアルがすべてではないと思っていて。その結果、 “皆が気持ちよくなれるもの”を作れるかどうか?を大事にしました。初日3日間で10億円という成績がどのくらいの大きさなのか、僕には実感できないけど、皆が喜んでくれているので本当によかったなと思います。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

■CAST
キラ・ヤマト:保志総一朗 / ラクス・クライン:田中理恵 / アスラン・ザラ:石田 彰 / カガリ・ユラ・アスハ:森なな子 /
シン・アスカ:鈴村健一 / ルナマリア・ホーク:坂本真綾 / メイリン・ホーク:折笠富美子 /
マリュー・ラミアス:三石琴乃 / ムウ・ラ・フラガ:子安武人 / イザーク・ジュール:関 智一 / ディアッカ・エルスマン:笹沼 晃 /
アグネス・ギーベンラート:桑島法子 / トーヤ・マシマ:佐倉綾音 /アレクセイ・コノエ:大塚芳忠 / アルバート・ハインライン:福山 潤 /
ヒルダ・ハーケン:根谷美智子 / ヘルベルト・フォン・ラインハルト:楠 大典 / マーズ・シメオン:諏訪部順一 /
アウラ・マハ・ハイバル:田村ゆかり / オルフェ・ラム・タオ:下野 紘 / シュラ・サーペンタイン:中村悠一 /
イングリット・トラドール:上坂すみれ / リデラード・トラドール:福圓美里 /
ダニエル・ハルパー:松岡禎丞 / リュー・シェンチアン:利根健太朗 / グリフィン・アルバレスト:森崎ウィン / ギルバート・デュランダル:池田秀一

■STAFF
企画・制作 サンライズ / 原作 矢立 肇、富野由悠季 / 監督 福田己津央 / 脚本 両澤千晶、後藤 リウ、福田己津央 /
キャラクターデザイン 平井久司 / メカニカルデザイン 大河原邦男、山根公利、宮武一貴、阿久津潤一、新谷 学、禅芝、
射尾卓弥、大河広行 / メカニカルアニメーションディレクター 重田 智 / 色彩設計 長尾朱美 / 美術監督 池田繁美、丸山由紀子 /
CGディレクター 佐藤光裕、櫛田健介、藤江智洋 / モニターワークス 田村あず紗、影山慈郎 / 撮影監督 葛山剛士、豊岡茂紀 /
編集 野尻由紀子 / 音響監督 藤野貞義 / 音楽 佐橋俊彦
主題歌:西川貴教 with t.komuro 「FREEDOM」 / エンディングテーマ:See-Saw 「去り際のロマンティクス」
製作 バンダイナムコフィルムワークス
配給 バンダイナムコフィルムワークス、松竹

(C)創通・サンライズ

《杉本穂高》
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