本作は、突然起こった製鉄所の爆発事故により全ての出口を失い、時まで止まってしまった町を舞台とする、岡田監督によるオリジナルストーリーを描く劇場アニメ。変化を禁じられた世界で、止められない“恋する衝動”を武器に、未来へともがく少年少女の物語が描かれる。
この度、住民たちが作った何も変えてはいけないルールに従って鬱屈とした日々を過ごしている14歳の主人公・菊入正宗役の榎木淳弥さんにインタビュー。榎木さんがこの作品への出演をきっかけに“変化”した意識とは―。
取材・文：米田果織 撮影：吉野庫之介
ヘアメイク：fringe スタイリスト：高山良昭
正宗を演じる上で意識した、“ブレる”表現
――過去に岡田監督の作品を見たことはありましたか？
大学時代に『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』がやっていたので、全てではないのですがいくつか見たことはあります。また、『心が叫びたがってるんだ。』にはモブ役で出演していました。
――それらの作品を見て、岡田監督作品にどのような印象を持ちましたか？
キャラクターたちはかっこ良かったりかわいかったりするけれど、内容はドロッとした恋愛が生々しく描かれていて、人が見たくない部分を表現する作品が多い印象があります。
――本作もそういった部分が描かれています。シナリオを読んだ印象は？
一度読んだだけでは話の全容が掴めず、少し難しく感じました。そのため、何度も読み返したのですが、キャラクターが求めていくものへの力、必死さにすごくエネルギーみたいなものを感じて、胸が熱くなりましたね。
――演じる正宗の印象も聞かせてください。
心を動かしてはいけない、時が止まっている世界の中でもっと大人になりたい、成長したいと思っている正宗。しかし、先に進みたいのに進めないことにイラつきや諦めを覚え、マイナスな感情が渦巻いているキャラクターです。ただ、その感情を隠さずに表に出していて、素直な一面も持ち合わせていると感じました。
――演じる上で気を付けたことは？ 印象的なディレクションがあったら教えてください。
「あまりキレイに演技しないでほしい」とは、オーディションの時から言われていました。それをずっと意識して、“ブレる雰囲気”を出したいと思いながら演じました。
――“ブレる”とは、一体どういった表現になるのでしょうか。
あくまで僕の表現なのですが、「こうやろう」「こういう言い方で話そう」と決めつけず、その時に感じたことをそのままセリフにして出すといった感じでしょうか。「（表現が）もうどうなってもいいや！」という気持ちになったことを覚えています。
――先日行われた「MAPPA STAGE 2023」で、「アフレコでこんなに疲れたのは初めて」と言っていました。一体どんなアフレコだったのですか？
体力的に疲れたというよりは、「なんでこんなことを言うんだろう？」と、考えるのに疲れた感じです。モノローグではない、語りのシーンがあるのですが……普段、僕たちは語ることなんてないじゃないですか（笑）。自分ではピンとこないことを「どうすれば表現できるんだ」と考えることが、他の現場と比べて多いアフレコになりました。
――そんなシーンに対し、どのように正解を導き出したのでしょうか？
「自分なら、どういうシチュエーションだったら心の中で自分に語りかけるかな？」とひたすら考えましたね。
上田麗奈、久野美咲とトライアングルになって挑んだアフレコで気づかされたこと
――今回、睦実役の上田麗奈さん、五実役の久野美咲さんとトライアングルの形になってアフレコされたそうですね。これも他の現場と比べて珍しいことだったのでは？
そうですね。やっている現場もあるとは思うのですが、現実的にこんな形になれるほど広いスペースがある収録スタジオはなかなかないんです。今回の作品では正宗、睦実、五実の繊細な心の動きに対する生々しい演技が必要不可欠だったので、こういった形で収録できて良かったです。
――3人のシーンは見ているだけでも「痛い」と感じるほどでした。3人でお芝居してみて、いかがでしたか？
本人の表情を見ながらの芝居がどれだけ重要かわかりました。もちろんアフレコ中は画面を見てキャラクターがいる環境・心情に合わせなければいけませんが、僕たちが生きているのは現実で、アフレコ現場では肉体を持った人間と絡んでの芝居をしているわけですから。こういった作品では、相手の表情を見て演じるのが良いんだなと気づかされましたね。
――本作のキーワードとなる「変化」について。榎木さんがこの作品への出演を機に、何か声優業への意識が変わったことがあれば教えてください。
今言ったことと同じになってしまうのですが、今回、顔を見合って芝居ができたので、相手を意識して芝居ができなきゃダメだなと思いました。今、そういう演技ができるようにワークショップに通って、映像の監督などに教えてもらったりしています。アニメの声優をやっていると、相手の反応を拾っての芝居がだんだんできなくなってくるんですよね。相手ではなく映像を見てアフレコしますし、一人で撮ることも多いので。本作に出演したおかげで、改めて「相手に反応する芝居」が大切だと思いました。
――声優になった当初と今での思いの変化などはありますか？
声優になったばかりの頃は「とにかく売れたい」と思っていました。それが今では「もっと自分が思い描いた芝居がしたい」と思うようになったんです。求められたことができるのではなく、僕が理想とする芝居をしたいと思うようになりました。
――最後に、公開を待ちわびているファンにメッセージをお願いします。
岡田監督がものすごく思いを込めて作った作品で、僕たちもそれに応えるように精一杯の演技をしました。1日目の収録後は拍手が起こったりして「良いものができた」という手応えも感じています。絵の方もMAPPAさんがすごく頑張ってくださって美しいものに仕上がっていますので、ぜひ劇場でご覧ください。
映画『アリスとテレスのまぼろし工場』
2023年9月15日（金）全国公開
スタッフ・キャスト
脚本・監督：岡田麿里
副監督：平松禎史
キャラクターデザイン：石井百合子
演出チーフ：城所聖明
美術監督：東地和生
音楽：横山克
制作：MAPPA
主題歌：中島みゆき「心音（しんおん）」
配給：ワーナー・ブラザース映画、MAPPA
出演：榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲、八代拓、畠中祐、小林大紀、齋藤彩夏、河瀬茉希、藤井ゆきよ、佐藤せつじ、林遣都、瀬戸康史
2023年9月15日（金）全国公開
スタッフ・キャスト
脚本・監督：岡田麿里
副監督：平松禎史
キャラクターデザイン：石井百合子
演出チーフ：城所聖明
美術監督：東地和生
音楽：横山克
制作：MAPPA
主題歌：中島みゆき「心音（しんおん）」
配給：ワーナー・ブラザース映画、MAPPA
出演：榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲、八代拓、畠中祐、小林大紀、齋藤彩夏、河瀬茉希、藤井ゆきよ、佐藤せつじ、林遣都、瀬戸康史
（C）新見伏製鐵保存会
