■伝えようとする情熱と、背中を押す仲間が大切
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ここからは、ディズニー・ジャパンとして初めてとなる、中学生向けワークショップの企画立ち上げから携わっているコーポレート・コミュニケーションズの秋月希保さん(写真右)にインタビュー。ワークショップの狙いや、次世代のストーリーテラーに求められる能力などを伺いました。
――今回のワークショップを通して、次世代のストーリーテラーに伝えたことを教えてください。
秋月今回テーマにしたのは「自分自身、もしくは誰かを元気にするキャラクターをつくる」です。誰かを元気づけるためにはまず、自分たちが強い想いや考えを持つことが大切です。誰を元気づけたいか、どんな悩みを乗り越えたいかなどの想いを仲間と一緒に話し合い、キャラクターや物語に反映してもらいました。
私たちディズニーにできるのは、物語の力で想像力をかき立て、物語を生み出す楽しさや喜びを体感してもらうことです。各校のプレゼンから、自分なりの考えや想いを相手に伝えたい、という情熱を感じたので、生徒たち自身が制作活動を通じて、ディズニーが大事にしているストーリーテリングの大事な考え方や要素を吸収してもらえたんじゃないかと思っています。
――参加者を見ていて印象に残ったことはありますか?
秋月物語を考えるときに、仲間の存在を意識していたことが印象的でした。私たちは「キャラクターをつくろう」とは伝えましたが、「キャラクターたちをつくろう」とは言っていません。ですから普通はキャラクターを1体しか考えないと思っていました。しかし実際はどのチームも「複数考えてもいいですか」と自主的に提案し、複数のキャラクターをつくっていたんです。
また、複数のキャラクターが登場する設定だけでなく、悩みを乗り越えて成長するためのストーリーも用意されていました。ひとりではできなくても仲間と力を合わせればできること、背中を押して自信につなげてくれる存在の大切さなどを、生徒さんが自ら気づいてくださって感動しています。
枠にとらわれない発想にも驚きました。感情を色で表したカエルのキャラクターや、人見知り度合いをメーターで表示するロボットのキャラクターなど、内面を伝えるための個性的な仕掛けが多くて。生徒さんたち自身がキャラクターに入り込み、相手の気持ちに寄り添って理解しようとしていることの現れだと思いました。
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――たしかにどのチームの発表もオリジナリティーにあふれていました。
秋月プレゼンテーションを聞いて、「物語には正解がない」ことを実感していただけたと思います。チームごとにストーリー展開も伝え方も違いますし、キャラクターを考えるときの起点も違う。入口も出口も異なりますが、どれも「誰かを元気にするキャラクター」です。今回ストーリーテリングを体験することで、「○○すべき」という考えにとらわれて正解を求めるのではなく、自由な発送と想像力で考える大切さも感じてもらえたと思います。
――各チームとやりとりをしたディズニー社員のみなさんは、どのような点に感心していましたか。
秋月生徒さんたちのイマジネーションが本当に豊かで、少し背中を押せばアイデアがどんどん解放されていくことに驚いていました。
各チームのメンターは「○○したほうがいい」と誘導するのではなく、「そのキャラクターはどうしてそういう考えを持っているの?」と質問を投げかけ、生徒たち自身が物語やキャラクターを深掘りしていくためのヒントを与えていただけです。それだけで、生徒さんたちは期待以上のアイデアを返してくれました。「中学生でもこんなに素敵なストーリーテリングができるんだ」と感動したほどです。彼らの想像力を通して、私たちもイメージが広がりました。
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――それぞれのアイデアが光っていましたね。では、次世代のストーリーテラーには、どのような力が求められると思いますか。
秋月何かを人に伝えたい、という情熱が大切です。テクニカルなスキルはもちろん必要ですが、熱いハートがなければ始まりません。「誰かを元気にしたい」という気持ちがあれば、「どうやって元気にしよう」、「そのためにはどんな仲間が必要だろう」と物語がどんどんふくらんでいき、相手に伝わるストーリーになるはずです。考えるときには、相手の視点に立つことも大切だと思います。いくら情熱を持っていても、相手に共感してもらえなければストーリーはなかなか響きません。
今回のワークショップでも、各チームが自分たちの悩みや願いを体現したキャラクターをつくっていたからこそ、共感を集めたと思います。聞いている私たちも一緒に物語に入り込んでいるような感覚がありました。
――ストーリーテラーを目指している人が、今すぐに実践できることはありますか?
秋月「誰にどんなメッセージを届けたいのか」といった目的意識を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。身近なものや自分が直面している課題、信念などを軸に考えると、相手に伝わるリアルな物語になると思います。外枠だけを固めるのではなく、自分の体験を踏まえて軸をしっかり固めることを意識してほしいです。
――今後も今回のように次世代を育成する取り組みを続けていきたいと考えていますか?
秋月はい。今回が初めてのワークショップでしたが、みなさんの反応を見てとてもいい取り組みになったと実感できました。物語の力でよりよい世界に導いていくことがディズニーの使命なので、今後も継続して開催したいです。ストーリーテラーになりたい人をどんどん増やしていけたら、と思います。
社員からも気づきが多く、「感動するとはこういう気持ちだったんだ」と初心に返ることができました。社内にはコンテンツ制作に携わるプロデューサー以外にも、ゲームや出版などさまざまなジャンルにクリエイターがいるので、多くのメンバーに関わってもらいたいです。自分たち自身も学んで、次のストーリーテリングに活かしていきたいと考えています。
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思い思いの「誰かを元気にするキャラクター」をつくりあげ、ディズニー社員たちの心を動かした中学生たち。仲間とともに困難を乗り越える体験や物語を通して、大きく成長した姿を見せてくれました。彼らはこれからより自信を持って自身の将来を切り開いていくことでしょう。次世代を牽引するようなストーリーテラーが、今回のワークショップ参加者から誕生するかもしれません。