「無職転生 ～異世界行ったら本気だす～」
■「無職転生」とは？
原作はWEBサイト「小説家になろう」で2012年9月から2015年4月まで連載された“理不尽な孫の手”による小説。2014年からMFブックス（KADOKAWA刊）にて書籍化、“なろう系小説”の主流である「異世界転生」のパイオニア的大河ファンタジーと称されている。同時期に連載された作品として、『Re:ゼロから始める異世界生活』（長月達平著）、『この素晴らしい世界に祝福を！』（暁なつめ著）、『オーバーロード』（丸山くがね著）などがある。
小説のほかに、コミカライズ『無職転生 ～異世界行ったら本気だす～』、スピンオフ漫画、ドラマCDなど幅広くメディアミックスも展開している。
TVアニメは第1クールが2021年1月～3月、第2クールが2021年10月～12月まで放送された。キャストは内山夕実、杉田智和、小原好美、加隈亜衣、茅野愛衣、浪川大輔らが出演している。
2018年にアニメ！アニメ！で実施した「アニメ化してほしいライトノベル・小説は？」では、2位を獲得。「小説家になろう」でも、連載終了後も長期にわたり累計ランキングで人気を維持しており、2019年3月にアニメ化が決まった際はTwitter上でファンの喜びの声が上がった。
■主人公は、34歳・童貞・ニート・引き込もり男
タイトルのとおり、無職の男が転生することから物語が始まる。その男は事故に遭い命を落とすのだが、目を覚ますとそこは剣と魔法の異世界。男は少年・ルーデウスとして成長していき、前世の記憶、そして後悔を糧に“本気”で生きていくことを決意するのだった。
現世で冴えない男が転生して、チート能力を身に付け成り上がっていく……という王道ストーリーのようだが、本作の軸は冒険やバトルではない。生まれたばかりの赤ん坊からスタートし、家族とのふれあいや、さまざまな出会いから心身ともに成長する姿を捉えて物語が進んでいく。
前世の男が持つ“後悔”が物語のキーポイントとなり、その“弱さ”と向き合い、乗り越えようとする。最近のアニメ作品の傾向として、努力や挫折、葛藤などのシーンを省き、最強キャラになってバトルでストレート勝ち！という展開も少なくはない。本作のストーリーの進み具合をゆっくりと感じるかもしれないが、心に反芻して残るものがあるはずだ。
主人公を演じるキャストは2人。前世の男を杉田智和、転生後の姿・ルーデウスを内山夕実が演じる。アニメではルーデウスの幼少期～少年パートが放送されたが、かわいらしい少年の声と同時に、前世の男（34歳）の心の声が聞こえてくるのが面白い。
序盤は彼のマイナス部分の描写が目立つが、一方で“おまおれ”のような共感できる部分もある。演じる杉田は前世の男に対して「私はこの前世男の事を責められない」「私もまた、彼の前世のようになっていた可能性を否定できない」とコメントしている。
■＜スタジオバインド＞によるハイクオリティな作画
監督は『ゲーマーズ！』を手掛けた岡本学、アニメ制作はスタジオバインドが担当。『Re:ゼロから始める異世界生活』を制作するWHITE FOXと『ソードアート・オンライン アリシゼーション』などに携わるプロデュース会社EGG FIRMのタッグによるスタジオで、本作のために新たに設立された。
映像は、その意気込みをそのまま詰め込まれたような力の入った仕上がり。さまざまな国や村を訪れるルーデウスとともに、街並みや風景を映し出す各話ごとに変わるOPの演出がされるなど、まるで視聴者も一緒に旅をしているような感覚に。そしてリアリティ溢れる緻密に描き込まれた作画に驚かされた。
また、舞台の美術設定のほかに“異世界言語”の細かな設定も。作品内では3種類の言語が作られており、キャラクターたちが流暢に喋っていても、視聴者は字幕を見ないと理解できないシーンまであるのだ。
■家庭教師、幼なじみ、凶暴お嬢様…どのヒロインを選ぶ？
前世の男が転生して成長していく人間ドラマがメインではあるが、ヒロインが多数登場するラブコメ要素もある。ルーデウスの家庭教師としてやってきた、魔法の師匠的存在になるロキシー（CV.小原好美）。ルーデウスの初めての友達となるシルフィエット（CV.茅野愛衣）。ルーデウスが家庭教師をすることになった、凶暴なお嬢様エリス（CV.加隈亜衣）。
ルーデウスはまだ少年のため恋愛模様は少なめ。だが、転生しても中身はクズのままなので、ロキシーのパンツをくすねて“御神体”と崇めるなどゲスいことも働く。
ただ彼女たちとの関係は良好で、ルーデウスに思いを募らせるヒロインも……。第2クール第22話「現実（ユメ）」ではそのひとりと結ばれるのも束の間、すぐにすれ違い。
だが、これこそ人生。ルーデウスは今後どこへ進んでいくのか？ ヒロインたちとの関係はどうなっていくのか？ 彼の物語をこれからもアニメで見届けられることを期待したい。
（C）理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会
