コロナ禍で観光地は虫の息状態――温泉地をモチーフとしたプロジェクトのプロデューサーが語る観光業の現状と自身のコンテンツの未来【インタビュー】 | 超!アニメディア

コロナ禍で観光地は虫の息状態――温泉地をモチーフとしたプロジェクトのプロデューサーが語る観光業の現状と自身のコンテンツの未来【インタビュー】

「温泉むすめプロジェクト」の総合プロデューサーを務める橋本竜氏にコンテンツサイドから見た観光地のいまについてインタビュー

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 2020年4月、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、1回目の緊急事態宣言が発出された。あれから約1年と半年。一時期は感染者の数も抑えられていたものの、7月には4回目となる緊急事態宣言が発出されるなど、新型コロナウイルス感染症は今でも全国的に猛威を振るっている。

 各個人・事業が感染防止対策を余儀なくされるなか、大きな打撃を受けた事業のひとつが「観光業」。遠方からのお客さんをお迎えしづらい状況下で、苦戦を強いられている。

 そんな観光業の現状について「虫の息に近い」と語るのが、全国の温泉地をモチーフとした二次元キャラクターを制作し、コミックやノベル、音楽など多面的にメディア展開する「温泉むすめプロジェクト」の総合プロデューサーを務める橋本 竜氏。橋本氏は、2019年に内閣府からクールジャパン企業に選ばれた株式会社エンバウンド、そして観光庁後援となった同プロジェクトを通じて、これまで地域活性に貢献してきた。

 超!アニメディアでは橋本氏に、コンテンツサイドから見た観光地のいまについてインタビュー。併せて、飯坂温泉でのイベントを控えている同プロジェクトの今後の展開や、温泉地を中心とした地域活性における役割についてもお話を聞いた。

イベントだけでは本当の意味で全国を盛り上げたことにならない

――「温泉むすめ」のコンテンツが発足してから約5年が経ちました。振り返ってみて、どのような5年間でしたか?

 本プロジェクトは、「コンテンツの力で日本全国を盛り上げていこう!」と、いち民間企業が無謀な理想を掲げたところから始まりました。最初に我々が行ったのは、日本全国の温泉地を順次キャラクター化していき、「温泉むすめ」のストーリーにも関わってくる“音楽の力”で日本を盛り上げていくこと。今まで北は北海道、南は九州でイベントやライブを行いました。そして、ある程度は温泉地への新しい観光客の送客に貢献できたと思っています。

 ただ、イベントを行うだけでは、一過性で終わってしまう可能性が高いことに気が付きまして。言ってしまえば、イベントがあるから現地に行く、イベントがないと行かない。もちろん、イベントきっかけで温泉地に何度も足を運ぶようになった方もいらっしゃいますが、実際には一握りだったと思います。それでは本当の意味で全国を盛り上げたことにはならないんじゃないかと思いまして。

――立ち上げた当初よりも、観光地や地方に貢献したい、もっと関わっていきたいと強く思うようになり、疑問が生まれてきた。

 そうですね。最初はその地をモチーフにした二次元キャラクターをうまく活用すれば、ゆるキャラのように自然にお客さんが集まってくるだろう、と。しかし、それは浅はかな甘い考えでした。そういった取り組みは一定の集客効果を生みましたが、すべての観光地に必要とされるものではなかったんです。例えば草津温泉さんは、集客には困っていなかったものの人手不足という問題を抱えています。また、塩原温泉さんは温泉地同士が離れすぎていて連携が難しいというお話をされていました。その他にも、そもそも担い手がいない、旅館で働いている人がすぐに辞めてしまうのでそれを食い止めたいという課題をおっしゃられる温泉地もあります。

 そういった様々な課題は、例えロイヤリティフリーで自由度の高い「温泉むすめ」のキャラクターを活用しても、なかなか解決できません。地方創生は一筋縄ではいかないと、コンテンツを運営していくなかで知りました。それからは、なるべく観光地に通い、皆さんの課題をおうかがいして、我々の持っているコンテンツやネットワークを使って叶えられることはないかと、地域に寄り添った課題解決策を常に模索しています。

――なるほど。

 本当にトライ&エラーを繰り返した5年間でした。あっという間でしたが、結果として多くの観光地の方々とつながることができ、温泉むすめプロジェクトは観光庁の後援もいただきました。進んできた道は間違っていないと思っています。

疲弊している観光業

――そんな中で、新型コロナウイルス感染症の猛威が日本中を襲いました。

 方向性が見えてきたことで改めて頑張っていこうと思った矢先でした。我々も悩みが尽きないですが、観光地の方々のほうが頭を抱えていると思います。

――できるだけ全国の観光地に通うことで地元の方々との交流も多くなった橋本さんから見た、観光地の現状を教えてください。

 まず「Go To トラベル」は少なからず効果がありました。潤った……というよりも、ある程度以前の売上が戻ったと言った方が適切かもしれませんが。「Go Toトラベル」は利権が絡んでいるという印象を与えてしまったので、世間的には悪とされている風潮がありますが、特に宿泊業を支えるという点においては、有益な施策だったと思います。政府はいまも、「県民割」といったコロナ禍での施策を講じていますが、緊急事態宣言が延長されていくなかで、観光業はどんどん疲弊しています。金融機関からの借り入れをして何とか生きながらえている施設も少なくありません。皆さん、続けてきた事業、受け継いだ事業を何とか継続させたいという気概で今は踏ん張っていますが、モチベーションが続かなくなったら、取引先を巻き込んだ連鎖倒産もあり得る状況だと思います。

――約1年半耐えてきたけども、そろそろ限界が近づいてきている。

「緊急事態宣言が明ければ」「夏休みが来れば」「オリンピックが開催されれば」と思って頑張って資金繰りをしていたのに、何もかもダメになってしまい精神的にも耐えられない方が増えている気がします。担い手不足も相まって、温泉旅館を手放そうとしている方も増加しました。そんな中で、宿泊施設が倒産するほか、外資に買収されるケースも増えています。外資に買収された後は、そのまま宿泊施設として運営される場合もありますが、いわゆる投資・投機目的で購入されて、別の事業を始める場合もあります。いまの観光業は虫の息状態に近いかもしれません。

――なるほど。

 ただ、存続していかなければ生活が危ぶまれる人たちが大勢出てきます。観光業の従事者は約800万人と言われており、実に日本の労働力人口の1/8にあたります。加えて、温泉旅館でいえば、お米屋さんやお酒屋さん、クリーニング屋さんなど、さまざまな業者さんと取引をして地域経済を支えています。温泉旅館ひとつつぶれるだけでも、地方では影響が非常に大きいんですよね。それが重なれば、日本経済のダメージも少なくないと思います。

――そういった苦しい状況のなか、施策を講じて何とか頑張っている温泉地などはありますか?

 これまでの観光業は、大都市からいかに集客できるかというのがポイントでした。以前の観光業の営業は、都市部の旅行代理店へ行き、団体客を引っ張ってくるというのが主流だったようです。加えて、少し前までは観光関係の雑誌やネット媒体に広告を出しておけば、個人客も来たそうなんです。その広告効果が薄れてきて、コロナの影響で都市部からの団体客や個人客が見込めなくなったいま、どうやって宣伝を行い、集客するのかが重要になっています。

 そんななかで、知り合いの温泉地の若旦那さんは、SNSを自ら運用して広告費0円で旅館の稼働率を2倍にしたそうです。その他、デジタルツールを活用しながら新しいターゲット層へのリーチを頑張っている温泉地は、コンスタントに集客できていて、厳しい状況下でも成功しているようです。私の地元である福島でも各温泉地が協力してキャンペーンを実施したり、お客さんの動きを共有したりしています。こういった動きは以前では考えられませんでした。

――むしろ、情報をライバルに渡したくなかった。

 いかに自分の旅館のリピーターを増やすのか、連泊してもらうのかなど囲い込むことを中心に考えていたと思います。新型コロナウイルス感染症の拡大は、観光業に大きな打撃を与えましたが、今までにはなかった横のつながりを生みました。その横のつながりにおいて、「温泉むすめ」という第三者が作り出した共通項は、利用しやすいツールなのかもしれません。実際に、「温泉むすめ」を取り扱っている観光地の方々がLINEグループでつながっているんです。そこでは、どういうおもてなしをしているのか、「温泉むすめ」をどうやって活用しているのかなどの情報共有が活発になされています。このように「温泉むすめ」を媒介とした新しい連絡網が少しでも観光地の力になれているならば、嬉しい限りですね。

――イベントやコンテンツ関係者の方にインタビューしているときに感じるのは、何かをやろうとされている方は、皆さん気持ちが前向きということ。「この状況では何もできない」ではなく、「何ができるのか」と考えている方が多い気がします。それが、今苦しんでいる方々の動き方や気持ちの持っていき方のヒントになるかもしれないなと、本日お話を聞いていて改めて思いました。

 そうかもしれません。「温泉むすめ」で言えば、先日、「Clubhouse」で参加者限定のトークショーをやりました。そこで、「話を聞きたいけど『Clubhouse』ってよく分からないから別にいいかな」「招待制だし、わざわざ知り合いを探す時間がない」と思ってしまった方は、厳しい言い方かもしれませんが、今の時代に置いていかれてしまうと思います。それはリテラシーがどうこうというだけの話ではありません。受け継いだ伝統を守りながらも、ポジティブに、貪欲に今を取り入れようとしているかどうかが重要だと思います。

――これまで守ってきた伝統を残すためには新しいツールやデジタル技術を使ってはいけない、ということはないですもんね。

 考え方次第なのかなと思います。恐らく、しばらくは非対面・非接触、いわゆる「withコロナ」の時代が続くでしょう。加えて、今抱えている人手不足の問題を考えると、宣伝面以外でもデジタルは活用しなければいけない時代がすぐそこまで来ています。そのデジタル技術のひとつとして、手前味噌にはなりますが「温泉むすめ」を活用していただければと考えております。キャラクターを使った今までにない情報発信を取り入れてみると、新しいコミュニティが生まれるかもしれません。「飯坂温泉」さんや「塩原温泉」さん、「小野川温泉」さんが「温泉むすめ」を活用してくださっている温泉地の代表格なのですが、効果が如実に出ていて、売り上げ増や温泉地の活性化にもつながっています。加えて、弊社ではインターネットのインフラ整備やワーケーション利用の促進、ネット広告の代理運用など、「温泉むすめ」事業以外でも幅広く観光地をサポートしていますので、そちらの面でもお力になれると思います。

――もし、デジタルを活用した宣伝方法やコミュニケーションの取り方が分からないという事業者さんは、エンバウンドさんにお声がけすれば解決できるかもしれない。

 はい、お任せください。使いこなせるまで二人三脚でとはいきませんが、我々のほうでこれまで培ってきた経験もありますし、ノウハウもお伝えできますので、ぜひお声がけください。

最終目標は「人類補完計画」

――「温泉むすめ」の今後の予定について教えてください。

 状況を見つつ、イベントは復活していきたいと思います。冒頭で方向転換をしたというお話をしましたが、イベントを開催することで経済効果は生まれますし、交流人口を作る手段のひとつではあると思います。以前のように毎月という頻度ではないにしろ、イベントはやっていきたいですね。コロナ禍でしばらく自粛していましたが、9月18日に約1年半ぶりとなるイベントを福島県・飯坂温泉の「パルセいいざか」さんで開催する予定です。本イベントは弊社ではなく、飯坂温泉観光協会さんが主催なんです。我々は制作サポートとして携わり、面白いイベントを作ろうと、毎月関係者の皆さんと話し合っております。飯坂温泉の温泉むすめ・飯坂真尋役の吉岡茉祐さんに脚本を書いていただいたミニ朗読劇や、クラウドファンディングが達成したことで制作された「真尋ちゃん音頭」の披露なども予定しておりますので、期待していただきたいなと思っています。

――主催が観光協会なんですね。

 観光地の皆さんが集まってひとつのイベントを作り上げる。観光地活性化のひとつの理想形かなと思っています。我々は部外者としてお邪魔するのではなく、大切な仲間として地元の方々と一緒にイベントを作っていきたいんですよね。

――飯坂温泉でのイベント後の展開についても教えてください。特に、昔からコンテンツを知っている方からはアニメ化を期待する声もあがっているかと思います。

 元々アニメを作っていた人間だからこそ分かることなのですが、アニメ化は諸刃の剣だと私は考えています。もちろん、放映時は一時的には盛り上がるでしょうし、2期、3期と続ければ、人気も継続する可能性はありますが、TVアニメを1クール放送したところで、いまのアニメ多産多死時代の中、一過性の話題で終わってしまいます。それに、今はあまり知名度が高くないからこそ、限られたファンがちゃんとルールを守って温泉地の皆さんと共生できていると思っています。地方創生に重要なことの一つに、この歩みの遅さがあります。とはいえ、特に海外の方のファンを増やすには、動くアニメーションでの知名度アップは必須だと思います。正直なところ、アニメ化についてはまだ答えが見つかっていません。最適解を見つけるため、今は試行錯誤しているとも言えます。ふわっとしたお答えで申し訳ございませんが、アニメ化は引き続き検討中とだけお伝えしておきます。

――その他、「温泉むすめ」含めて、橋本さんのほうで考えている施策などはございますか?

「温泉むすめ」はキャラクター・声優・歌・物語と色々なコンテンツの集合体です。ただ、地方創生・地方を盛り上げるという意味では、このプロジェクトだけではパワーが足りないと思っています。なので、「温泉むすめ」を何十年も続くサステナブルなコンテンツにしていく一方で、これまでの経験とノウハウを生かして、次のステージに進みたいと考えています。そのために、我々が各温泉地のデジタル化の手助けをできるような新しいプラットフォームの立ち上げを準備しています。そのプラットフォームと併せて、「温泉むすめ」の利用促進も広がっていき、コンテンツ自体もさらに盛り上げていければと考えております。まだ言えないことも多く、曖昧な表現になってしまいましたが……。とにかく、息も絶え絶えの温泉地を復活させるためにいろいろな手段を使って尽力をしていきたいですね。このプラットフォームがローンチされれば、新しい観光促進用のツールとして各地で重宝される存在になると確信しております。

――そんな橋本さんの最終目標は……?

 とても突飛な表現ですが、「人類補完計画」を考えております。

――えっ!?

 私、『エヴァンゲリオン』世代ですので(笑)。あくまでも理想論ですが、あらゆる世代が互酬や相互扶助で繋がった優しい世界を作りたいんです。もっと欲を言えば、地方だろうが都市部だろうが、等しく楽しく生活できるような格差のないソーシャルキャピタルで溢れる日本を作りたいと考えています。このコロナ禍で、どこに住んでいても一定水準の生活ができるようになる可能性が高いと感じるようになりまして。派遣会社大手のパソナさんが淡路島に移転しましたし、全国各地でスマートシティ構想も進んでいます。今よりも地方の存在感と利便性を高めて、都心部中心の経済から日本全体でひとつの大きな経済圏を作る、そのためには絶対に広域での連携や人と人との繋がりが必要となるので、これからも日本全国を巻き込んだ網羅的で横断的な盛り上げ施策を実施していきたいです。

イベント情報
「温泉むすめ トークイベント in 飯坂 vol.2」
9月18日(土)1部:13時開場 13時30分開演/2部:16時開場 16時30分開演
※各部90分を予定

1部の後半は、飯坂真尋役吉岡茉祐脚本のミニ朗読劇を予定。2部の後半は、「真尋ちゃん音頭」のお披露目を予定。

開催場所:パルセいいざか

出演
飯坂真尋役:吉岡茉祐
草津結衣奈役:高田憂希
いわきあろは役:大坪由佳

チケット料金:全席指定5,000円(税込)

《M.TOKU》
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