「正義には醜い部分もあるなと思っていて」和田たけあきのミニアルバム『ピカロス』のテーマとは【インタビュー】 | 超!アニメディア

「正義には醜い部分もあるなと思っていて」和田たけあきのミニアルバム『ピカロス』のテーマとは【インタビュー】

「わるいこになあれ」「ROTTEN!!!!」「アスタ・ラ・ビスタ」「PICAROS」と、1月から4か月連続で新曲を発表してきた和田たけあきのミニアルバム『ピカロス』についてのインタビューが、アニメディア8月号に掲載されて …

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「わるいこになあれ」「ROTTEN!!!!」「アスタ・ラ・ビスタ」「PICAROS」と、1月から4か月連続で新曲を発表してきた和田たけあきのミニアルバム『ピカロス』についてのインタビューが、アニメディア8月号に掲載されている。超!アニメディアでは、本誌に掲載しきれなかったぶんを含めた特別版を公開。アルバム制作の手法や、ボカロPからアーティストとして活動するようになった気持ち、どんなアーティストから影響を受けたのかなど、アーティスト=和田たけあきの奥深くに迫った。


すごく危うくて気持ち悪い正義に対するアンチのアルバム

 ーーアルバム『ピカロス』は、どういうイメージで作ったのですか?

 アルバムは、ざっくり言うと“悪”がテーマです。言い換えるとアンチ正義というか。というのも僕は、正義には醜い部分もあるなと思っていて。シャーデンフロイデという言葉があるのですが、簡単に説明すると悪いやつに罰が当たったり報いを受けたりしたときに、「ざまあみろ」と思う気持ちのことなんです。

ーースカッとするみたいな?

 そうです。そのシャーデンフロイデが満たされるときに分泌されるのが脳内麻薬オキシトシンで、それは家族愛や仲間意識が満たされたときにも分泌されるもので。そう言うと良いもののように思いますけど、家族を守るということは敵を作るということで、仲間意識の裏には仲間はずれもあって、オキシトシンはイジメの加害者側の脳内でも分泌されているんです。そう考えると正義の心を満たすことは、弱いものイジメをすることと何も変わらないかもしれない、と。『デビルマン』の終盤で、ヒロインの牧村美樹が魔女狩りに遭うシーンが象徴的です。

ーー近所の住民に殺されてしまう。集団心理の怖さもありますよね。

 でもあの住民たちは、自分たちや家族を守るために、それが正義だと信じてやっている。現実の話で言えば、不倫をした芸能人を叩くことやSNSを炎上させることも似たようなもので、加害者側は確かに間違ったことは言っていないけど、すごく危ういし僕は気持ち悪さを感じていて。

ーー正義という名のもとで、誰かを悪だと決め付けてターゲットを攻撃する。そういう行き過ぎた正義に対する気持ち悪さや、アンチ正義の気持ちが、数年にわたって和田さんの心にあって。何が正義なのか、何が悪なのかをアルバムで問いかけているわけですね。

 はい。アルバムタイトルの『ピカロス』は、ピカレスク小説という分野におけるピカロのことで、悪いやつだけど主人公であるという人物を指す言葉です。ピカレスク小説は読んだことはないけど、アルバムのタイトルを決めるときに悪に関する言葉を調べていて、辿り着いた言葉です。

ーーシニカルで人の心理の闇を暴くようなテイストの曲は、これまでも作っていましたよね。

 それこそ歌い手のうらたぬきさんに提供した曲で、脳内麻薬オキシトシンのことを書いた「オキシトシンの奴隷たち」という曲もありますね。

ーーそれにアルバムを聴いて、ネットの誹謗中傷や自粛警察など、今問題になっていることとも重ねられるなと思いました。

 でもSNSにおける誹謗中傷はずっと以前からあって。作り始めたのは去年の終わりぐらいからですけど、けっこうカツカツのスケジュールで緊急自体宣言のまっただなかにも制作をしていたので、良くも悪くもタイムリーになった感はありますね。「ピカロス」という曲は4月に作って4月に配信したんですけど、絵のほうが先にできてしまったという(笑)。

ーーサウンド感としては、スウィングジャズやトラップといった音楽ジャンルが入り乱れていますが、何か影響を受けているものはありますか?

 僕の曲にはその時期のマイブームが反映されていることが多くて、今作の制作中はちょうどThe Correspondentsというイギリスのアーティストにハマっていたんです。スウィングジャズとヒップホップやエレクトロサウンドが融合した、エレクトロ・スウィングというジャンル名になるんですけど、そこからの影響が大きいですね。

 ーーシャッフルビートの曲が多いのは何か理由が?

  単純にシャッフルが好きで、好きすぎて気づいたらシャッフルの曲ばかりが増えてしまって。新曲も1曲はシャッフルだし。でもこれ以上シャッフルの曲が増えても飽きられてしまうので、もう1曲はシャッフルにいきたい気持ちを抑えて作りました(笑)。

ーー曲作りの順序としては、トラックを作ってからですか?

 メロディが最初です。メロディを作って、リズムを作って。そこから曲によって、先に歌詞を書くこともあるし、編曲を先にやることもあります。ギターは、アコギだったりエレキだったり。きれいめのメロディを作るときやコード感が重要になる曲はアコギで、「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」のようにストレートのロックを作るときはエレキギターで、極端なときはベースを弾きながらメロディを考えたりします。

ーーはなわスタイル(笑)! 和田さんはもともとはギタリストだったわけですが、ギターが前面に出ていない曲もあるのは敢えてですか?

 最近の曲に関しては、わりと意識的にそうやっています。ジャズっぽい曲調でガンガンにエレキギターが入っていてもおかしいし。それにずっとギターばかり弾いてきたので、あまりギターに頼りすぎると守られている感覚で緊張が緩んでしまうんです。だから近年のライブでもギターを弾かずにハンドマイクで歌う曲を増やして、「自分は歌でやっていくんだぞ!」と言い聞かせているところもありますね。

歌い方の部分で、アヴちゃんからの影響はすごく大きい!

ーーボカロが歌って映えるメロディと、自分が歌うのに適したメロディは違うと思いますが、自分で歌うようになってからは、メロディ作りに関してはどんな考え方ですか?

 結局ボカロはなんでも歌えるので、コードに対するメロディが良ければなんでもOKなんですけど、自分が歌うとなると、楽器が変わるとの同じ感覚でちょっと勝手が違いますね。たとえばインストゥルメンタルの曲は、ギターやピアノなどメインとなる楽器の特性を活かした曲作りをするじゃないですか。人間が歌うメロディも、人間が歌うことで初めて映えるみたいなところがあって、ピアノで弾くとすごくつまらなく聴こえるメロディでも、歌ったらすごく良かったりするんです。そういうことに、10年以上曲を作ってきて最近初めて気づきました(笑)。だから今回のアルバムは、そのことに気づく前と気づいた後の両方が入り交じっているので、過渡期にある作品だと言えると思います。

ーーもともとくらげPとしてボカロ曲を作り、それを自分で歌い直している曲もありますが、そもそも自分で歌うようになったのは、どういうきっかけだったのですか?

 結局ボカロPは、あくまでも「作曲者」という見られ方なんです。自分としてはボカロP=「歌が打ち込みのアーティスト」という感覚でいたんですが、実際はそうは見られていなかったことに2〜3年前に気づいて。それでいろいろ考えた結果、アーティストとして認識してもらうには、もう自分で歌うしかないと思ったんです。

ーーボーカルという部分で、影響を受けているものはありますか?

 ボーカルで好きなのは、女王蜂のアヴちゃんです。歌い方の部分で、アヴちゃんからの影響はすごく大きいです。歌を始めたばかりのころにいろいろ研究したのですが、アヴちゃんの地声と裏声の使い分けを突き詰めたら、自分にも当てはめることができるんじゃないか、と気づいて。最近は以前よりも音域が広く出せるようになって、そうなると気持ちにも変化があって。最初は必要に迫られてというネガティブな理由で始めたボーカルでしたが、今はようやくボーカルという楽器が楽しくなってきました!

ーー和田さんの歌に対するファンの反応は、どんなものが多いですか?

「声が好きです」と言ってくださる方もけっこういて、すごく嬉しいんですけど、そこはまだ少し半信半疑なところもあります(笑)。歌と楽器の圧倒的な違いは、自分の耳に聴こえている音と実際に録音したときの音が違うところで。みなさんも経験があると思いますが、録音した自分の声を初めて聴くと違っていて驚くじゃないですか。声というのは、自分のなかで鳴っている音と耳に届いた音のふたつが同時に聴こえているから、そうなるんですけど……。自分がイメージした声と実際の声の違いに、まだ違和感があって。

ーーきっと慣れなんじゃないでしょうか。そういうものだと思って、それを想定して歌うことができれば。

 それをやろうとしているんですけど、まだ完全にしっくりくるまでには至ってなくて。やっぱり慣れなんですかね〜。

ーーミニアルバム『ピカロス』の話に戻りますが、ここに込めたメッセージも含めて、アルバムを聴く人には、どんなことを感じて欲しいですか?

 ここに込めたメッセージは、最初にお話をした正義とは? ということなのですが、あくまでもエンターテインメントでありアートとして成立するように、さまざまなモチーフを用いて表現しています。僕がいつも意識しているのは、どこのレイヤーでも楽しめるものにしたいということなので、メッセージの部分まで辿り着かなくても良くて。何となく音が気持ちいいという感覚で楽しんでもらってもいいし、深いところでメッセージを感じ取って聴いてもらってもいい。浅くても深くても、どこでもいいので一度触れてみて、好きなように楽しんで欲しいです。

ーー話は変わってアニメ/マンガのお話も聞きたいのですが、どんな作品がお好きですか?

 柴田ヨクサルさんのマンガが好きで、超ハイテンション将棋漫画の『ハチワンダイバー』とか『エアマスター』など。あとは2年前にリリースしたコミック付きアルバム『わたしの未成年観測』でマンガを描いてくださった道満晴明さんや、ちょっとサブカルっぽいところで宮崎夏次系さんなどが好きですね。

ーーこういう話が好きとか、傾向はありますか?

 傾向というわけではありませんが、思い返すとセリフにリズムがあるマンガ家さんの作品が多いことに気づきました。絵を取っ払ってセリフだけを追ったときに、「何だか心地いいな」と感じる作品が好きだと自己分析しています。それこそ柴田ヨクサルさんの作品は、セリフのなかでキャラクターが普通に噛むときがあって、それがいい感じのリズムを生んでいるんです。アニメだといちばん好きなのは、今敏監督の作品です。

ーー『パプリカ』や『千年女優』ですね。

 特に『千年女優』は、全アニメ/全映画をひっくるめたなかでも一番好きです。ある女優が生涯をかけて初恋の人を追いかける話ですけど、最後に主人公の女優が「あの人を追いかけている自分が好きだ」と言うんです。それって、何にでも可愛いと言っている自分が可愛いと思っていると言っているようなもので。一生をかけたあれだけすごい映像を見せておきながら、最後にそういうセリフを言うところがむしろ人間らしく、そこにすごく深みを感じます。

ーー和田さんの歌詞は、そういう作品からも影響を受けているんですね。

 すごく影響を受けています! 『千年女優』に関しては、それを元ネタに作った曲もあるくらいですから!

取材・文=榑林史章

プロフィール
和田たけあき【わだ・たけあき】初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、「くらげP」「和田たけあき(くらげP)」といった名義でオリジナル曲を発表し続ける。またギタリストとしてはるまきごはんなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。その他アニメ『NEWGAME!』のエンディングテーマの楽曲提供など作家としても活躍中。2016年2月に公開した楽曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」はYouTubeで2019年1月までに2316万再生を超える。エッジの効いたギターリフ、ストーリーと中毒性がある歌詞が特徴。

和田たけあき最新ミニアルバム『ピカロス』リリース情報
発売日:発売中
販売価格:1,500円(税別)

《超!アニメディア編集部》
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