いよいよ12月12日に発売が迫る『新サクラ大戦』。『サクラ大戦Ⅴ ~さらば愛しき人よ~』から14年ぶりの『サクラ大戦』シリーズ復活作であり、“夢のつづき”として期待と注目を集めている。今回はシリーズのすべての音楽を作曲し、ファンと共にサクラ愛を燃やし続け、ついに復活に繋げた功労者でもある田中公平先生にお話を伺い、その模様を発売中の「アニメディア」2019年12月号に掲載した。「超!アニメディア」では、本誌には掲載しきれなかった部分を含めたインタビューの全文をお届けしよう。
■3つの華撃団の曲は、各国の作曲家に「ゲキテイ」を書かせたイメージ
――今回の復活に際しては、[長年待ち続けたサクラファンへの約束をようやく果たせた](https://ameblo.jp/kenokun/entry-12526073884.html)という想いなどもあったかと思います。改めてお気持ちをお聞かせください。
『サクラ大戦』はコンテンツとして一度終わりを迎えていたんです。でもそれがファンの要望によって、もう一度この場に戻ってこられた。「ファンはすごいな!」と思います。
もちろんセガの中にもすごいサクラファンがいて、その人たちが戦ってくれて、ここまで持ってきてくれたのもすごいし。とにかく今回の復活は「サクラ愛が成し遂げた技」だよね。それが周りを巻き込んでいった中で、私もひとつ役を演じられたのはうれしいです。
―― 『新サクラ大戦』のOP主題歌を“ゲキテイ”(シリーズの初代主題歌である「檄!帝国華撃団」)にしたのはなぜですか?
最初の打ち合わせでスタッフから「今回はゲキテイで行きたいと思います」って言われたんですよ。「そのままやったら古いって言われない?」って聞いたら「新ゲキテイを考えてください」って。丸投げだよね(笑)。
ゲキテイでありながら、新たな花組が歌う“新ゲキテイ”にしてほしいと。無茶振りだけど、そういう無茶振りは大好きだから。
――実際に「檄!帝国華撃団」を聴くと、イントロは慣れ親しんだゲキテイで始まって、Aメロから新たなメロディに変化し、サビでまたゲキテイに戻るという、まさに「新ゲキテイ」になっています。
今のアニメソングのリズム感と比べて、昔のゲキテイはゆっくりし過ぎている感覚があったんですよ。従来のファンからは早口言葉だと言われると思ったけど、今のファンには絶対ウケると思う。
――曲の最後の方に登場する「夢は甦る」や「我ら新章(あらた)なる」といった部分は新鮮に感じました。
これは作詞を担当した広井王子さんが替えました。このフレーズに替えたことがすばらしいです。
――「夢は甦る」は、まさに「夢のつづき」のつづきですよね。
あそこでみんな泣いたもんな(笑)。
――佐倉綾音さんの歌唱についても絶賛されていますね。
彼女の声は若くて勢いがあるんですよ。声に太さもあるし。サビも上にハモらせたほうが絶対にいいと思って「走れ(走れ)」って追いかけさせたんです。
――その部分が頭にこびりつくんですよ。
新しくなったと思うでしょ? あれがなかったら、「新ゲキテイは最初は新しいけど、そうでもないね」ってなるから。あそこが変わってなかったら、新しい曲と前の曲をつなぎ合わせただけで終わっている。「走れ」が旧から新への橋渡しになっているんです。
――「スタァ誕生」は、「神崎すみれ」が歌っているというのも従来のファンにはたまらない点だと思います。
(すみれ役の)富沢美智恵さんもレコーディングで泣きそうでしたよ。「またサクラが歌える」って。これは大帝国劇場へいらっしゃいという曲なんですけど、夢を歌っているんですよ。今は寂れてしまったけれど、昔の懐かしい大帝国劇場はすばらしいという夢を歌っているんですよ。
――続いて水樹奈々さんの圧倒的な歌唱も話題になっている、伯林(ベルリン)華撃団のエリスの曲「鉄(くろがね)の星」について教えてください。
ドイツに関しては、私には譲れないものがあったんです。はっきり言うと、これは(作曲家の)ワーグナーです。それも「ニーベルングの指環」と「トリスタンとイゾルデ」のライトモティーフの嵐です。
サビの頭はジークフリートのテーマなんですけど、ジークフリートは正統王道の主人公なんです。ワーグナーをつなぎ合わせただけじゃないかと言われそうだけど、私がこの業界に入ったのはワーグナーのおかげなので、いつか書きたいと思っていた正統なドイツの曲です。60歳以上のドイツ人が聴いたら泣くかもしれないよ(笑)。
――倫敦(ロンドン)華撃団のランスロットの曲「円卓の騎士」は、様々な要素が入っていますね。
最初に鳴るのは本物のウェストミンスター寺院の鐘の音です。途中に入るコーラスは、ヘンデルの「メサイア」の歌詞です。あとスタッフから「グラムロックはどうですか?」と提案されて、面白いなと思って採用しました。リズム的にはグラムロックなんですよ。
――イギリスらしさをそういう形で表現したのは驚きました。
メロディはわかりやすく書いたけど、編曲とか、中に詰まっているエッセンスやポリシーが複雑です。それがいいでしょ? わかりやすいイギリス風の曲じゃつまらない。『サクラ大戦』の曲には背景に悲しみやストーリーがあるんです。
サクラは文学性が飛び抜けた作品なんです。文学性がないと深みもカタルシスもないので、私は曲に文学性を詰め込んだということです。
――上海華撃団のホワン・ユイの曲「虹の彼方」は、作詞が広井王子さんで、「これぞ『サクラ大戦』!」という印象の曲でした。途中に入る楽器は二胡ですか?
二胡です。演奏は篠崎正嗣(しのざきまさつぐ)さんです。
この3つの華撃団の曲はひと言で言うと、各国の「ゲキテイ」なんです。上海や倫敦の作曲家に「ゲキテイ」を書かせたらどうなるかというイメージで書いているんです。だから非常にネイティブな香りがすると思いますよ。
■サクライズムを感じ、なおかつ新しいサクラを音楽で表現する
――続いてキャラソンについてお聞かせください。天宮さくらの「乙女なんですよ」は、ラブコメマンガ原作アニメの主題歌のような印象で、サクラでは新鮮でした。
コンセプトは昭和のアイドルソングですよ。今回はさくらさんに対して、あまり捻らないほうがいいなと思ったんです。わりとすくすく育っているんですよ。だから真面目でまっすぐで明るい正統妹ソングにしました。
★「乙女なんですよ」の視聴はこちら
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――東雲初穂の「女!!祭りの心意気」は?
日本風で勢いのある、サクラならではの曲ですね。初穂が(『サクラ大戦』に登場する)桐島カンナ枠なので、カンナの歌の感覚ですよ。
――曲中の「踊れや踊れ」はサクラ大戦歌謡ショウ『海神別荘』の劇中歌「海の宴・花の宴」ですよね。
完全に『海神別荘』です。
――ライブでは一番盛り上がるでしょうね。
フルでは間奏が2分くらいあって、踊りや太鼓を叩きまくるようにできているから。
――望月あざみの「忍者あざみ」は、かわいいコミックソングで大好きです。
正統アニソンらしいニンニンソングで、みんな好きだと思うよ。
――サクラはこれまで忍者キャラがいなかったので、忍者ソングは新鮮でした。
忍者を出せば人気が出るのはわかっていたけど、広井さんが出さなかったんですよ。そのバイアスが外れたんですね。
――アナスタシア・パルマの「帰れる場所」は、『サクラ大戦』のマリア・タチバナ的な曲だなと感じました。
「ミルクがなければこの血を与える」という、マリアの「赤いカチューシャ」くらい深い曲を書いてほしいとイシイジロウさん(ストーリー構成。キャラソンの歌詞も担当)に頼んだんです。アナスタシアが一番苦労している人なので。また福原綾香さんというのが歌がうまいんだ。
彼女の今までの曲をたくさん聴いたんだけど、アイドルソングばかりでもったいないなと思ったの。だから一回追い込もうと思って。彼女も収録で本気で追い込まれたら、途中で「どうしていいかわからない」って歌えなくなっちゃって。「じゃあ電気消すから好きなように歌え」って言ったらどんどんよくなってきてさ。彼女が一番女優気質かもしれない。声優もいいけど、私は舞台をやったらいいと思う。
――クラリスの「輪舞」は?
いい曲ですよ。クラリスってわりと夢見がちな人じゃない? それで作る際に、まず3つの場面を設定したの。
最初はクラリスが本を読んでいるシーン。そうしたら本の中にシュッと入っちゃって、世界がセピア色になって、人形たちが踊り出すんだ。クラリスも一緒に歌っている。最後はそれが本の中から全部飛び出してきて、パノラマになってみんなで踊っているというように、映画的にイメージして書いたんですよ。アナスタシアとクラリスの曲に関しては、完全に文学で書いてます。
――劇伴についてもお聞かせください。
劇伴はすごいぜ。昔はシミュレーションゲームだったから、バトルシーンの曲はちょっと落ち着いていたほうがよかったんですよ。今回はアクションだから、全部速くて激しくてかっこいいの。けど、戦っている間ずっとこれ聴くんだなと思ったら、疲れるよなって(笑)。
ゲームパートのBGMは新曲ばかりだけど、ムービーのところは昔の曲を踏襲したり、「ここでこの曲来るか~!?」みたいな。往年のファンほどのけぞるようなところがたくさんあるので期待してください。
――いよいよゲームは12月に発売となり、TVアニメや舞台も控えています。長年待ったサクラファン、そして新たなユーザーたちに、意気込みをお聞かせください。
そこがセガさんとのお話し合いの、一番の問題点だったんです。昔のファンが喜ぶように作れば、昔のファンは買ってくれると思うけど、それ以上のことは望めない。新しいほうに全部を寄せると、昔のファンが怒るだろうと。じゃあ両方が納得するにはどうすればいいかという話ですよ。
どんなことをやっても納得しないよねという話にまずなって、「じゃあ私が音楽でつなぐ。サクライズムを感じて、なおかつ新しいサクラを音楽で表現するから、あなたたちは昔に引っ張られずに新サクラを作って」と言ったの。だから昔のファンに向けては、あなたたちが待ち望んだ『サクラ大戦』が復活します。少し違う形態を取っているかもしれないけど、あなたたちの期待を裏切らないものです。私の曲と共に、『新サクラ大戦』を好意をもって受け入れてほしい。
今のファンにとっては、『サクラ大戦』というのはちょっと古いコンテンツと思うかもしれないけど、逆に14年も空いたので、新しいものだと思ってゼロから入っても全然OKです。始めた途端にどんどん中に惹き込まれる要素がたくさん詰まっているので、新規ファンこそ偏見に捉われずに来てほしい。
私の理想は、新サクラファンと旧サクラファンが一堂に寄り添って、このゲームについてしゃべってくれる場がたくさんできるとすごくうれしい。私が作ってもいいよ。
――また一緒に連載やりませんか?
またかい(笑)。とりあえず、アニメもあるし舞台もあるし、盛り上がります。14年待たせて、やるとなったら全部やるという(笑)。負担も大きいけど、ひと言で言ったらうれしいです。
取材・文/帝劇スタ夫
PROFILE
田中公平【たなか・こうへい】
音楽プロダクション「イマジン」所属。手がけた作品は『ワンピース』音楽、『プラネット・ウィズ』音楽ほか、作家生活40年で一万曲を超える。
公式サイト「田中公平のブログ My Quest for Beauty」
https://ameblo.jp/kenokun/
リリース情報
「新サクラ大戦」
セガゲームスより12月12日発売予定
PS4 通常版・DL版8,800円、初回限定版・デジタルデラックス版14,800円(各税別)
ジャンル/ドラマチック3Dアクションアドベンチャー
【CERO】C(15才以上対象)
(C)SEGA