3人組バンド・sajiがTVアニメ『あひるの空』EDテーマ「ツバサ」をリリース。本楽曲の制作秘話を聞いたインタビューが、アニメディア2019年11月号に掲載されている。「超!アニメディア」では、本誌記事内ではお届けしきれなかった部分も含めたインタビュー全文を紹介。
■チートではない主人公のリアルさに共感
――phatmans after schoolから、バンド名を改名したのはどうしてですか?
ヨシダタクミ(以下、ヨシダ) phatmans after schoolは、学生時代に結成したときに付けたバンド名です。“phat”はアメリカのスラングで“かっこいい”という意味で、普段はイケていないけど放課後に音楽をやっているときだけは輝けるといった意味で名付けて、約8年その名前で活動してきました。僕らも少年から大人になったことだし、そろそろバンド名を変えたいなと思っていて、そこで今回キングレコードに移籍しての一発目で、ちょうどいいタイミングじゃないか、と思って改名しました。
――新たにつけた“saji”という名前は、どこからきているんですか?
ユタニシンヤ(以下、ユタニ) いろいろな言葉を案として出しているなかで、言葉の意味は関係なく単なる響きとして、ふと「sajiって良くない?」と言ったら、みんなが賛同してくれたんです。
ヨシダ saji=匙(スプーン)で、ここからまた新たな第一歩を踏み出すことを考え合わせ、自分たちの未来は自分たちですくい上げていきたいという意味を付けました。ただ“匙”と、日本語表記にすると固いし、パッと見たときに「どういう意味だろう?」と想像させる含みも持たせたくて、ローマ字の表記にしました。
――8年かけて浸透させてきたものを、捨てるのは、すごく勇気のいることじゃなかったですか?
ヨシダ そうですね。でも、時間の問題だと思うんです。有名な会社の名前が変わったときも最初は違和感を覚えるけど、何度も聞いているうちに、すり込まれて馴染んでいくじゃないですか。
――スターチャイルドがキング・アミューズメント・クリエイティブ本部になったことも。
ヨシダ そうですよ。あれだけ「スタチャ」と馴染んでいたのに、今は「キンクリ」が普通に馴染んでいます。だからそのうち気にならなくなると思うし、むしろphatmans after schoolのときよりも、名前が広がっていくんじゃないかと思って期待しています。
――みなさんがアニメタイアップを手がけるのは、2013年のアニメ『夜桜四重奏〜ハナノウタ〜』のEDテーマ「ツキヨミ」以来。約6年ぶりにアニメ主題歌を担当するわけですが。
ヤマザキヨシミツ(以下、ヤマザキ) 僕はスポーツ漫画が好きなのですが、『あひるの空』は読んだことがなくて。でも、アニメで初めて観る視聴者のみなさんと同じ感覚で楽しみたいと思って、タイアップが決まってからもあえて読むのを我慢しています(笑)。
ユタニ 周りには『あひるの空』を読んでいた方がたくさんいるので、そういう人たちに「俺らがEDテーマをやっているんだよ!」と自慢したいです。
――バスケ漫画としては、歴史のある王道のスポーツ作品として有名ですよね。
ヨシダ 原作は僕が中学生のときに連載がスタートした漫画で、僕自身も小中学生時代はバスケ部だったから、ちょうどリアルタイムで読んでいたんです。部活内で流行っていて、「今週読んだ?」ってつねに話題になっていました。
――特に共感したところはどこですか?
ヨシダ 主人公が、スポーツものにありがちなチートキャラではないところです(笑)。同じバスケものでも、『DEAR BOYS』の哀川和彦や『SLAM DUNK』の桜木花道もチートではないけど、もともと強豪校のエースだったり、体格がよくてポテンシャルが高かった。『あひるの空』の車谷空は、体格にも恵まれず決してポテンシャルが高かったわけでもない。試合をしてもぜんぜん勝てなくて、そこがある意味リアルでした。それまでタバコふかしていたヤンキーが、バスケをはじめてすぐ勝ったら“嘘じゃん”って思うし、バスケ部に入った瞬間から連戦連勝なんて話は、読みたいとは思わないです。スポーツエリートではないものにとっては、下手でも好きだからやり続けて、やっとユニフォームをもらえるだけでも青春なんですよ。それを体現している作品ですね。
――phatmans after schoolも、最初から連戦連勝ではなかった?
ヨシダ ずっと惨敗続きです(笑)。僕ら自身もここからあらたなスタートを切り、そのうえでどう勝ち上がっていくか。そういう意味で、僕ら自身のことと『あひるの空』のストーリーを重ねて考えてしまいますね。
■キーが高くて自分で歌えないこともある
――『あひるの空』EDテーマの「ツバサ」という曲名は、より高みへと飛ぶための翼という意味ですね。
ヨシダ 僕が意識したのは、中学時代にリアルタイムで読んでいた自分がこの曲を聴いて、「これが『あひるの空』の曲でよかった」と思ってくれるかどうかです。この曲が、主人公たちにとっての翼であり、聴いてくれるみなさんにとっての翼にもなればいいなと思って付けました。この曲がみんなの背中を押してくれる、夢への推進力になったらいいなと思います。
――あえてバスケをイメージするワードを使っていないのも意識的にやっていることですか?
ヨシダ そうです。特定のイメージを持ったワードを使わず、いろんな人が聴いて共感してもらえる曲になることを目指しました。ともすれば抽象的な印象になってしまいますが、バスケとか『あひるの空』を知らない人にも「わかる」と思ってもらえたらいいなと思いました。
――1番のAメロの歌詞に「空」という言葉が出てくるのは、主人公の名前と重ねて?
ヨシダ 完全に狙いました。花園千秋というキャラクターが、空に対して言うセリフを意識しています。あと空がボロボロになったバッシュを指して、「これが僕の翼です」と言うセリフがあって、それに対しての返答も含んでいます。
――原作を読んでいる人は、すぐわかりますね。
ヨシダ 食いついてくれたらうれしいです!
――楽曲は、デモをヨシダさんが作ってそれをメンバーに?
ヨシダ できたデモをまずアニメ側のスタッフに聴いていただいて、うれしいことに一発OKをいただいて。歌詞もリテイクなしだったので、「よっしゃ!」という感じでした。それでメンバーと共有していきました。僕はベーシックのデモを極力シンプルに作って、詳細なアレンジはふたりに任せています。この曲に限らず、僕がラフ絵を描いて、ふたりが彩色していくようなイメージです。
――楽曲は、すごく爽やかな曲という印象でした。
ユタニ デモを聴いた時点で、僕もすごく爽やかさを感じました。特にイントロはアニメのイメージを思い描きながら、どういうものがより寄り添えるか考えました。青空に突き抜けていくようなものをイメージして、音色も選びました。
ヤマザキ 僕も曲の印象としては、同じく爽やかでした。ただ爽やかな曲はシンプルになりがちなので、なるべく動きのあるベースラインを意識して。いちばんこだわったのは、1番のサビのあとのフレーズです。
ヨシダ ピアノが鳴ってるところでしょ?
ヤマザキ ベースが目立つところなので、そこは注目して聴いてほしいです。
――ヨシダさんの歌はハイトーンで、カラオケで歌うのが難しそうですね。
ヨシダ 長年曲を書いてきて、年々キーが高くなっていっています。今の自分が歌って心地いいと思えるキーを尊重して、そのうえで歌詞を書いて、実際に自分で歌ってみるのは最後で、そこでキーが高くて歌えないことに気づくこともあって。
――実際に歌ってみて出ない高さの音程だったら、メロディを変えるんですか?
ヨシダ いえ、曲ごとボツにします。それで幻になった曲が、何曲もあります。ただそれは現時点の自分では消化しきれていないというだけで、いずれその音が出るようになったら、掘り返すかもしれないですけど。
――ヨシダさんは、水樹奈々さんの「絶対的幸福論」や「レイジーシンドローム」などの楽曲提供していることでも有名です。水樹さんのファンの方からの期待も感じていますか?
ヨシダ そうですね。実際に水樹さんに曲を提供したことをきっかけに僕らのことを知って、僕らのライブに足を運んでくださるようになったファンの方がたくさんいらっしゃいます。今後はアニメ『あひるの空』を観て僕らのことを知って、ファンになってくれる方が増えたらうれしいです。
――最後に読者にメッセージをお願いします。
ヨシダ 僕らのインタビューやアニメ『あひるの空』を通じて、sajiというバンドの存在を知って、曲をたくさん聴いてもらえたらうれしいです。今後もアニメのタイアップ曲にどんどん挑戦していければと思いますので、アニメの世界感に寄り添いながらいかにsajiらしくて僕らしい曲を書いていけるか、注目していただけたらうれしいです。
取材・文/榑林史章
PROFILE
saji【サジ】
水樹奈々の「絶対的幸福論」などを作詞・作曲したことでも知られるヨシダタクミ(Vo&G)、ユタニシンヤ(G)、ヤマザキヨシミツ(B)の3人組バンド。2010年にphatmans after schoolとしてスタートし、2013年に「ツキヨミ」が、アニメ『夜桜四重奏~ハナノウタ~』EDテーマに起用。2019年7月にバンド名をsajiと改名した。
リリース情報
「ツバサ」
キングレコードより10月23日発売
初回限定盤:1,500円
通常盤:1,200円(各税別)
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「ツバサ」は、『あひるの空』の主人公の名前と青空を想像させる爽やかさが印象的。ヨシダタクミのハイトーンボーカルなど、何度も聴きたくなる魅力が満載されている。カップリングには、ありふれた日常を描いたラブソング「猫と花火」とビックバンドを匂わす「まだ何物でもない君へ」を収録している。
saji 公式サイト
https://saji.tokyo/
saji 公式Twitter
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