TVアニメ『文豪ストレイドッグス』第3シーズンがスタートし、物語を彩っているテーマソングも話題。ED主題歌「Lily」を収録したシングル「Lily」を5月8日にリリースした4人組ロックバンド・ラックライフ。声優アニメディア6月号では、彼らにシングル収録曲について話を聴いた。「超!アニメディア」では、本誌記事内ではお届けしきれなかった部分も含めたインタビュー全文をご紹介する。
ーー『文スト』の楽曲は4曲目です。承認欲求を歌った「名前を呼ぶよ」。「風が吹く街」は、大切な人にもらった言葉を胸に、しっかり今を活きることを歌いました。前回の「僕ら」は、傷や悲しみを乗り越えて前に進む強さを歌っていた。そして今回の「Lily」はどのような曲に?
■「Lily」は、じつは中也ソングだった!
PON:今回は、ふんばる力というか……自分が自分であるために、ときにはこらえることも必要だと歌っています。ラックライフはこれまで、“泣いてもいいよ”とか“素直になれよ”“無理はするなよ”といった感じのことを歌ってきましたが、今回は逆に“無理をしよう”と。人生には泣いてばかりでは前に進まないことが山ほどあるし、自分が自分であるためにグッと涙をこらえる瞬間がきっと誰にでもあると思うんです。そんな“いまやらなきゃ前に進めない”という瞬間の気持ちを表現しました。
ーーこれまで3曲作ってきましたが、まだまだネタは尽きない?
PON:そうですね。原作コミックを読んで、自分の心境と重なる部分を歌にしているんですけど、すごく人間くさいキャラクターばかりが登場するので、その部分では逆に助かっています。自分の人生で歌にならなかったことをキャラクターと重ねることによって、「あのときの気持ちを、曲にしないまま素通りしていたんだ」って気づかされる。『文スト』のタイアップがなければ曲にできなかったことが曲にできているので、とても感謝しています。
ーーそういう意味で、歌詞は『文スト』のいずれかのキャラクターと重ねていると思うのですが、アニメ盤のジャケットが「芥川」なので芥川かな? と思いきや、タイトルの「Lily」は白ユリなので白虎、つまり中島敦なのかな? と思ったのですが。
PON:どちらも全然関係ありません(笑)。僕がイメージしたのは中原中也なんです。
ーーまんまと騙されました(笑)。
PON:みんなそうでしたよ。タイトルが発表されたとき、ネットでは「芥川の歌だ」っていう予想が多かったし。でもきっと、どのキャラクターにも当てはまると思うんですよね。中也も敦も芥川もふんばり倒してきた人ですし、人間くさい人ばかり出てくるので、どのキャラクターに当てはめても成立すると思います。
ーーでも、どうして中原中也を?
PON:『太宰、中也、十五歳』のなかに「中也がんばれ〜」って思ったシーンがあったんですね。それで、そのシーンと自分の経験とを重ねて書いていきました。
ーー「Lily」というタイトルにしたのはどうしてですか?
PON:百合の花言葉が「純粋」とか「無垢」という真っ白なイメージで、中也が真っ白な気持ちでもう一度立ち上がるところと重ねました。それと「リリーフ」という言葉があって、「救済」という意味なんですけど。
ーー野球のリリーフ投手のリリーフ?
PON:そうです。最初は「リリーフ」というタイトルにしようと思ったんですけど、言っていただいたみたいに野球のイメージが強すぎると思って。語感が似た感じで、何かいい言葉はないかと探していたら「リリー(Lily)」を見つけたんです。だから自分のなかでは、「救済」という意味も含めています。
ーー曲としては、どこか温かみのあるメロディが印象的でした。
ikoma:明るいさのなかにも、エモーショナルさや、はかなさが感じられて、『文スト』に合っているなと思います。良曲の予感がしたので、いい仕上がりになるんじゃないかって思いました。
ーーイントロのギターもキラキラした感じがあって。
ikoma:ギターは、あまり歪ませないクリーンな音色で無機質な音をイメージしました。ピュアと言うか、あまりごちゃごちゃさせずできるだけ隙間のある感じをイメージしています。
ーーリズム隊に関してはどうですか?
大石:サウンドプロデューサーの本間昭光さんと一緒に作らせていただいたんですけど、自分にはこうしたいというドラムのイメージがあって。突き刺すような雰囲気がありながら、途中で温もりも感じられるようにシンバル選びに気を使いました。「風が吹く街」はロック調でバッと勢いがある感じでしたけど、「Lily」は基本的にはシンプルなアレンジで「名前を呼ぶよ」に近いですけど、それとは角度を変えて攻めた感じです。ワンシーンワンシーンを大事にしながら、しっかりメロディを聴いてもらったうえで展開するような意識がありました。
ーーシンバル選びで、そんなに変わるんですか?
大石:めちゃめちゃ変わりますよ。サビで鳴っているシンバルは、自分で丸くカットしているので、世の中に同じものはない音なんです。
ーー電動のこぎりで?
大石:サングラスとマスクをして、ブィーンって。鉄くずが大量に出るので、あとの掃除が大変ですけど(笑)。
ーーベースはどんなこだわりを?
たく:サビは、はっきりした感じになっていますけど、全体的には流れるような演奏を意識しました。
ーー今回もサウンドプロデューサーの本間さんが加わっていますが、具体的にはどんなやりとりを?
PON:大まかなアレンジを本間さんが考えてくださるんですけど、自分たちだけでは見いだせない風景を見せてくれる感じです。「そこでそういうことをするんや!」みたいな発見がたくさんあります。アイデアをたくさん持っていらっしゃる方と制作ができることの醍醐味を毎回感じさせていただいています。
ikoma:今回は、本間さんからデモが上がってきたときにベースが印象的でした。主役ばりにうごめいてて、むしろギターがベースの役割りをしていて。今回の3曲で、いちばんギターが入っていないし。
大石:4人だけでアレンジをしたら、きっと物足りなくなって、もっと音を詰め込んでいたと思う。
ーー「Lily」は、どういう気持ちで歌ったんですか? 自分のなかから吐き出すみたいな?
PON:そうですね。歌詞が主観ですから。自分らしさは何かと自問自答していく過程があって、涙が溢れそうになるのをこらえて、そこから強気になるみたいな。歌詞と自分をリンクさせることで、がなって声が歪む瞬間があったり、声が抜けていく切なさや地を這うようなポイントがあったりと、いろんな表情があるのでそのバランスをすごく考えながら歌いました。
ーー<僕には何がある 何ができる>というフレーズがあって、そこは自分たちに向けても歌っているイメージですね。
PON:全部自分の感じたことですからね。歌をやっていると「自分らしさは?」と自問自答する瞬間に直面することが普通の人よりも多いだろうし。そういうことばかり考えながら生きていて、何周もしているのに、それでもまた同じ問題にぶつかって挫けそうになったり嫌になったり。それでもまだ頑張りたいと思いながら、こういう歌を書いては進みを繰り返しています。
■自分の悩みを書くことで、その人の悩みに寄り添える
ーーカップリング曲の「meaning」は、おしゃれなサウンド。かけ声をかけるところがあって、ライブで盛り上がりそうですね。
PON:そうですね。楽しい感じの曲になったらいいねって。
大石:昨年リリースしたアルバム『Dear days』の1曲目に「走って」という曲があるんですけど、リード曲候補にあがっていたんです。
ikoma:要は、候補から落ちてくすぶっていたところを引っ張り出して手を加えて、ライブでやって楽しい曲として仕上げました。
大石:たとえば「Aメロはこんな風にラップ調で歌って、イントロはこんな感じで」と、僕は歌が下手ですけど、歌ってPONに伝えて。
PON:イメージ先行だったから、最初はあまり乗り気じゃなくて「え〜早口なん?」とか、ぶつぶつ言いながら作りました(笑)。それで、かけ声も入れようということだったので、ライブによって生かされているみたいなことをラックライフらしく歌おうと思って。僕らは、とにかくライブが好きなんです。10年以上やっていても飽きず、もっとやりたいと思う。でも、みんなを元気にしたいと思ってライブをやっているけど、自分たちもライブをやることで充電できている気がしていて、それを歌にしたいなって。
ーーバンドとお客さんの出会いの意味、それで「meaning」と。
PON:たまたまであっても、そこには必ず意味がある。と言うか、意味があるものにしようぜ! って。
ーー3曲目の「フレンズ」は、それぞれの夢に向かって道を違えど、友情関係は変わらないと歌っている。
PON:まさしく、その通りの歌です(笑)。
ーーライブの最後に歌ったら、ファンへのメッセージにもなりそうですね。
PON:そうなんです。それもその通りで、ライブのアンコールに歌える曲を作りたいという気持ちもありました。そもそもは、昨年高校時代の友だちと久しぶりに会える機会が何度かあったのがきっかけです。僕ら4人を含めた高校の同級生10人くらいで旅行に行ったり、ライブハウスに友だちばかり60人くらい集めて飲み会をやったりして。「お前とは何年ぶり? 5年ぶり! アホちゃうか(笑)!」みたいに、5年前にすぐ戻れる友だちがいることはすごく幸せだと思って、その友だちに曲を作りたいと思って書き始めたんです。でもそれは、お客さんに対してもそうです。それぞれが日々をがんばった、その先にライブハウスで会えるわけで、僕らもがんばらないと、ライブハウスに出られないし。お互いにがんばった先で、「また会えたら最高やね」っていう気持ちで歌えたらいいなと思っています。
ーー3月に結成11周年ライブがありましたが、11年経って今思うラックライフらしさというのは、どんなもの?
PON:包み隠さず自分のことを表現して、それを「聴いてくれ!」と言えることが、ラックライフとしての音楽の強みだと思っています。「そんなことまで歌にしなくていいのに」と思われることまで歌にしてきたバンド。それを言えるのが、僕らの強みなんだと思う。
ーーどんなに仲のいい友だちでも、言いたくないことがあるし。基本的には人って、良く見られたいですからね。
PON:そうなんです。だから僕も、人に対しては隠してますよ。でも歌にはできちゃう。人に悩み相談を持ちかけることもない代わりに、歌にして消化している感じです。迷った時期もありました。何を歌えば、聴く人のいちばん近くに行けるのか。その人のことばかりを思って歌っていたことがあったけど、そうじゃなかったんです。自分のことをめちゃめちゃリアルに歌うことが、聴く人にいちばん近づける方法だと気づいた。それからは、自分がどう感じているかをちゃんと言葉にすることを意識して曲を作っています。自分の悩みを全部書くことで、その人の悩みに寄り添える歌が歌える、それは僕のなかでのポリシーみたいなものですね。
ーー6月には3公演のツアーがあります。どんなツアーにしたいですか?
大石:11周年を迎えて、これからも毎年少しずつ成長できていたらいいなって思っています。何かのきっかけで爆発的に売れる方もいますけど、僕らは本当に一段ずつ階段を上がってきているので、これからも階段をしっかり踏みしめながら上りたい。着実にやっていくことが、12周年、13周年に繋がっていくと思っているので、そういうツアーになったらいいなと。
たく:僕はしゃべるのが苦手なんですけど、10周年のツアーでは僕がしゃべるコーナーがあって、3月の11周年ライブでもそういうコーナーがあって、毎回イジられているんですね。だから、たぶん今回も、みんなのおもちゃになるんじゃないかと(笑)。それでもみんなが楽しんでくれたら、それでいいかなって。
ikoma:長いスパンのツアーだと、途中でセトリを入れ替えたりとか練り直したりできるんですけど、今回は3本で終わってしまうので、しっかり準備をしていいものを届けられたらと思います。ぜひ観にきてください!
取材・文/榑林史章
PROFILE 
「Lily」
発売中
バンダイナムコアーツ
アーティスト盤:2,800円
アニメ盤:1,300円(各税別)
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表題曲「Lily」のほか、ライブで感じたファンとのつながりを歌った「meaning」、地元の友達との経験をふまえつつファンにも向けた「フレンズ」を収録。6月に開催するツアーへの期待が高まる1枚になっている。
©朝霧カフカ・春河35/KADOKAWA/2019文豪ストレイドッグス製作委員会






