『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』美術監督・谷岡善王のこだわり─文化・思想の違いを美術でも表現、最後に必要なものは“愛”【インタビュー】 | 超!アニメディア

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』美術監督・谷岡善王のこだわり─文化・思想の違いを美術でも表現、最後に必要なものは“愛”【インタビュー】

不朽のSFアニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』を新たな解釈で蘇らせた作品『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(以下、『2202』)。2017年2月に第一章が劇場で上映された本作が2019年3月1日上映の第七 …

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 不朽のSFアニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』を新たな解釈で蘇らせた作品『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(以下、『2202』)。2017年2月に第一章が劇場で上映された本作が2019年3月1日上映の第七章で最終章を迎えた。超!アニメディアでは美術監督を務めた谷岡善王にインタビュー。作品への愛、そして美術監督という仕事についてお話をうかがった。


ーー本作で谷岡さんが担当されている美術監督とはどのようなお仕事ですか?

 背景というのは、アニメーションの画面の動かない部分の絵。例えばビル・山、『ヤマト』であれば宇宙などですね。そういう背景のすべてを一定以上のレベルになるように管理するのが美術監督の主な仕事です。

ーー『ヤマト』でいえば例えば艦内も背景になりますか?

 そうですね。艦内の通路や波動エンジンの機関室なども背景の担当になります。

ーー美術監督である谷岡さん自身も背景を描くことはありますか?

 基本的には美術ボード(※)を描いてスタッフに渡していますが、キーになる背景は自分で描くこともあります。『ヤマト』は星ひとつにしても実際には存在しないものがほとんどなんですよね。なので、まずは羽原監督や小林誠さんからいただいたイメージを自分で形にしないとスタッフにも伝えられない。だからキーとなる部分は自分で描くようにしました。

(※)背景作業に入るとき、指針にする背景のこと。

ーー架空とはいえ、『2199』『2202』どちらも『宇宙戦艦ヤマト』シリーズのリファインになります。その点で意識することもありましたか?

 基本的には過去のデザインを検証していますが、設定が根本的に変わっている部分もあるので、一度ばらして現代のものに組み直しています。リファインよりはリビルドですね。『2202』でいえば時間断層という新しい設定もありますし、ズォーダーも『さらば』(1978年公開映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』)では地球の善に対して悪という構図だったのが本作では思想の違い、愛の視点の違いで語られている印象を受けます。美術もそういう新しい設定に併せています。ただ、これまでのシリーズのイメージを持って作品を観て下さる方もたくさんいらっしゃるので、それを壊さないように組み直すことは意識しました。

ーー逆に『ヤマト』を『ヤマト』たらしめるため、変えなかった部分は?

 例えば波動エンジンがオレンジ色であるという点。これが白や赤に変わるとやっぱり『ヤマト』じゃないですよね。これまでのシリーズでインパクトが強かった部分は変えないようにしました。

ーー谷岡さん自身も『ヤマト』を観て育ってきましたか?

 3、4歳の頃に観た『宇宙戦艦ヤマトⅢ』が原体験なのですが、当時はストーリーとかよくわかっていなかったです(笑)。ただ、とにかく艦や波動砲がカッコよかったですし、絵がキレイだったのでインパクトがありました。当時はビデオもなかったので、テレビで放送していたものを思い出したり、『ヤマト』のレコードを買ってもらって音楽を聴いて想像したりしながら、絵を描いていました。

ーーいまのお仕事をするきっかけになったのが『ヤマト』と言っても過言ではない?

 間違いないですね。『ヤマト』がなければ人生が変わっていたと思います。きっと絵を描くということもやっていなかったでしょうから。

ーーでは、『ヤマト』を観ていて、美術的な面で「ここはすごい」と思ったのはどんな部分でしたか?

 美術的にはとにかく美しい。当時のアニメーション技術の最先端が『ヤマト』だったと思います。『YAMATO2520』(1995年に発売したOVA)の少し前に作られた『ヤマト 胎動篇』(『ヤマト わが心の不滅の艦(ふね) -宇宙戦艦ヤマト胎動篇-』)という作品の冒頭に『完結編』(1983年公開映画『宇宙戦艦ヤマト 完結編』)の「ヤマト」が海から上がってくるシーンが流れるんです。当時この映像を観たのは90年代、15歳くらいの頃でしたが、新作の『ヤマト』が作られたのかなと思うくらい絵に古さを感じませんでした。10年以上も前に作られた作品なんて思えなかったんです。

ーー遜色なかった?

 色使いなど遜色ありませんでした。『完結編』の美術は特に印象に残っています。冒頭の宇宙空間とか、ルガール将軍との闘いの宇宙の色は今でも使いたいと思うくらいカッコよかったです。

ーー鮮明に記憶に残っている。

 そうですね! 勉強にもなります。今回のお仕事で最初に作業したのが『さらば』のイメージを踏襲した版権イラストの製作だったんです。その時も当時の版権を見ながら背景を描きました。当時背景を担当された方と直接お会いしたことはありませんが、絵を通じて繋がったように思えます。アナログ作業で時間もかかっただろうに、さまざまな工夫がされていて、学ぶことがたくさんありました。

ーーいまはデジタルの作業が中心かと思いますが、アナログ・デジタルそれぞれの良さってどういった点なのでしょうか?

 アナログの場合は予期せぬ嬉しい偶然が起きることではないでしょうか。アナログって絵具で背景の色を塗っていくので、にじみなどを作るときは色を重ねないといけないんです。そのにじみは水の加減ひとつで思っていたよりも広がってしまうことがある。ただ、それが思わぬ発想や仕上がりにつながることもあるんですよ。これはアナログならではなので、楽しさもあると思います。

ーー偶然から起きた奇跡みたいなものですね。

 まさに奇跡です。デジタルは自分の想像したものをダイレクトに出しやすいというのがメリットのひとつではないでしょうか。待ち時間がないんですよね。アナログは絵具が乾くまでおいておく時間があり、それを待っている間に良くも悪くもイメージが変わってしまうことがある。デジタルの場合はすぐにイメージした色を作れるというメリットがあります。

ーーデジタルだと一日でどのくらい作業することを目安にされていますか?

 ものにもよりますが、若い頃は基本1日3~5本ほど描いてと(先輩方から)言われていました。そうしないと生き残れない時代だったので。仕事としては数をこなすのも大事なので、短い時間で効果的な絵を作るという訓練を若い頃にしていました。『ヤマト』の場合は込み入った絵が多いので、1枚で3~4時間くらいかかっていたと思います。基本的には大きなポスターなどでも2日以内に収めないといけないと言われた記憶があります。

ーー『2202』だとどのくらいの美術背景を描きましたか?

 300~400くらいはあると思います。TVシリーズでいう第四話はキャラクターの心情の変化や時間経過が丁寧に描かれていたので、そこに併せて色味のボードもシーンごとにたくさん作りました。「ヤマト」が海中から出て飛び立つところまでの一連をボードで作って、細かい色までスタッフに伝えましたね。

ーーあのシーンは空の色も綺麗でした。そのほか、ご自身のなかで印象に残っているシーンは?

 ガミラス製の人工太陽によって生存可能な環境が整えられている第十一番惑星。あそこは緑色に発光する人工太陽に照らされている星なんです。ただ、斉藤たちがいた広場だけは地球の光源が照らされているから、緑ではなくノーマルな色なんですよ。あそこは文化の違いが色濃く出ている部分であり、ストーリーともマッチしていて部分であり、演出の見せ場として面白い部分でもありました。

ーー文化の違いという点がほかにも色濃く出ている箇所はありますか。

 ガミラスに関しては「ガミラス大理石」という材質を使っているという設定があるんです。例えばデスラー艦の艦内に黄色い模様が入った壁がありますが、あれはガミラスの惑星圏内で取れた「ガミラス大理石」を使っているんですよ。なので、ガミラスの艦船などはそれで統一しています。また、ガトランティスで使われている材質については、甲殻類の殻みたいな質感をイメージして統一しました。ガトランティスの艦の内部の床や壁もカニの甲羅を参考にしています。そういう文化の違いによる材質の違い、質感の違いが美術でも分かるように意識しました。

ーーそういった設定は谷岡さんが作られている?

 質感などの設定は現場で作ることもありますが、核となる美術設定は小林誠さんと羽原監督が打ち合わせをして作られます。さらに細かい設定に関しては社内の青木(薫)という美術設定担当が描き起こして背景に反映していますね。なので、僕からいきなり生まれるわけではありません(笑)。あくまで羽原監督、小林誠さんのイメージを元にビジュアル化していくというのが僕らの仕事です。

ーー本日お話をうかがって、美術監督の仕事は作品に対する読解力も必要ということがよくわかりました。

 むしろそこが一番必要かと。シナリオや絵コンテ、あとはレイアウトを読み解いて、この絵・このカットでは何を見せたいのか理解するのが重要なことだと思っています。それを理屈で理解して美術を担当するメンバーに説明するのが美術監督の仕事です。ただ、観ていただく皆さんに伝えるときに重要なのは、理屈ではない。むしろ、最後は気持ちではないでしょうか。

 精神的な話かもしれませんが、表現をするうえで気持ちは本当に大切。『ヤマト』を『ヤマト』にするのは“愛”なんです。ファンの方々もそれをひとつの基準にされるのではないでしょうか。この作品に対して愛はあるのか、どんな作品でも、そこは抜けないように制作しないといけないですね。本作では自分が好きということもありましたが、魂を込めて作っていったので、完成した映像を観たときは『ヤマト』が『ヤマト』になったと感じました。それくらいの愛は注いだと思っています。


 『宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち』 第七章「新星篇」<最終章>は3月1日より全国35館にて上映中。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』公式ホームページ 
yamato2202.net
公式twitter 
@new_yamato_2199

©西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会

《超!アニメディア編集部》
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