魔法使いが、怪物・ネメシスを退治しているにも関わらず、忌み嫌われる世界を舞台に、魔法使いの少年・セトが世界を変えるため伝説の地・ラディアンを目指すTVアニメ『ラディアン』。本作は「異端者を差別・排斥する社会に立ち向かう主人公」という重厚なテーマを、爽快な冒険活劇として描いている。そんなアニメの岸誠二監督&福岡大生シリーズディレクターの対談を、「アニメディア2月号」で掲載中。超!アニメディアでは、掲載しきれなかった部分を含めたロング版をご紹介する。
――監督とシリーズディレクターは、どのような役割分担になっているのですか?
岸 僕は、設定面やシナリオなど、根本設計のところで作品に携わり、そこから先の絵に関する部分は福岡さんたちに任せています。
福岡 岸さんと僕が相談したうえで、僕が各部署のスタッフに指示を伝えています。
――原作者のトニー・ヴァレントはフランス人です。原作の魅力を教えてください。
福岡 海外の方が作ったとは思えないくらい、キャラクター造形がわかりやすい。トニーは日本の少年マンガを勉強しているので、コマや見開きの使い方など、日本人になじみ深いマンガの描き方になっています。僕が一番魅力的に感じたのは、色の使い方ですね。
岸 ストーリーも、フランスの方でないと出てこないシチュエーションやアイデアがいっぱいつまっています。とくに、差別や移民、難民の問題は、大陸のなかにある国に生きる人ならではの発想や文化が入っているのを感じます。僕たちもイベントに招かれてフランスに行った時に、街に移民や難民の方々が普通に存在するのを目にしました。
福岡 いろんな民族の方がいましたね。
岸 こういう空気を受けて、このアイデアや設定が出てきたんだなと感じました。日本人だと出てこない。そこが大きな魅力です。
福岡 原作の差別描写は、きつい部分もありますが…。
岸 アニメはある程度、考慮しています。とはいえ、異端を差別することは原作のテーマに関わっているので避けて通れませんし、避ける必要はないと思いますから、作品の魅力として、しっかり原作を踏襲していきます。
――キャラクターの魅力はどう感じますか?
福岡 最初、セトにツノがあることに違和感を覚えました。ツノと言うと、日本人は雷神さまなどを想像してしまいますよね。
岸 『うる○やつら』のラ○ちゃんとか?
福岡 ちょっとw(汗)。原作ではのちのちツノの意味がわかるのですが、そうした絵や物語の裏に、作者が込めた思いや設定が非常に多いです。
岸 そうだね。トニーに質問するといろいろと答えてくれますが、裏設定が多くて、掘り下げて質問しないとわからない部分がある。それくらい原作は深く作られているんです。
福岡 セトは日本の少年マンガに出てきそうな元気なキャラクターですが、内包しているものは重いです。キャラクターの造形で考え込んだのは、セトとメリですね。そこで、セトの場合は、明るく元気な彼をベースに成長させることでキャラクターを作り込んでいきました。メリで難しかったのは、ふだんの表のメリ。裏メリはすごくわかりやすいのですが、表のメリはあまり物語の本筋に絡まないので、作り込むのが大変でした。
岸 アニメは、10話までを視聴者がキャラクターになじんでいただく構成にしていました。
福岡 ドクには悩まなかったですね。基本的にセトとメリがボケで……。
岸 ドクは“苦労ツッコミ人”として稼働してくれる。そういう意味では、ドクはいろいろと楽しく稼働していただいているかな。
――キャラクターデザインの河野のぞみさんとは、どんなやとりをされたのですか?
岸 総作画監督も兼務してくれている河野さんは、ドラグノフ愛にあふれていますね(笑)。
福岡 河野さんは9話で体調を崩されたのですが「ドラグノフだけは私がなんとかする」と頑張ってくれました。でも、10話で無事に作画作業に復帰されているので、ご心配なく。河野さんは、キャラクターデザインを今回初めて担当していますが、こちらのオーダーに対して積極的に取り組んでくれたのは、ディレクターとしてありがたかったです。
ミスター・ボブリーの「ピュイ」の
一言には深い思いがこめられている
――キャラクターデザインに対して、どのようなオーダーを出されたのですか?
福岡 セトは、元気よく。メリは、かわいらしく。ただし、裏メリとの差をつけて。ミスター・ボブリーは、最初、原作の初期タイプでデザインしたのですが、トニーから「最新タイプにしてほしい」という要請があり、変更した経緯があります。
岸 ミスター・ボブリーは、マスコットとして機能してくれたので、助かっています。
福岡 アニメでは、原作よりも多めに画面に登場させるようにしています。
岸 原作よりも意志を持って動いているかな。
福岡 “中の人”の「出たい出たい」という意志が強いこともありますので(笑)。
岸 アニメでは「ピュイ」としか言いませんが、台本には、彼が何を話しているのか、カッコのなかに書いてあるんです。
福岡 セリフがなぜか関西弁なんですよね。
岸 関西弁の日本語をしゃべっています。
福岡 だから、キャストの小市眞琴さんには「台本のカッコに書かれている思いをピュイのひと言に込めて」と、お願いしています。
岸 ひどい話(笑)。小市さんは、きっと内心では「どうしろっていうの?」と思いつつ、頑張ってくれているのでしょう。よく聞いていただくと、なにかを言っているような感じになっていると思います。
福岡 ドクに関しては、親しみやすく。ただ、中年のおじさんであることを注意してもらいました。ギャグ顔をたくさん用意しています。
岸 ドクは、3人のなかでは変幻自在、縦横無尽に動いてもらわないといけないので、身軽に動いてもらえるキャラクターとしてデザインしてもらっています。
福岡 ドラグノフは「かっこよく」としかオーダーしていません。
岸 あとは河野さんの愛にお任せ(笑)。
福岡 アルマは、基本的に笑わないキャラクター。トニーの思い入れが強いキャラクターなので、全体のラインの取り方や、口の形など、細かいところの修正が多かったですね。
岸 トニーなりのアルマ像を再現してほしいという願いがあったのでしょう。
福岡 マジェスティやグリムはほとんどリテイクはなく、当初のままですね。じつは、マジェスティも笑った口の表情も作ったのですが、笑わないことがあとでわかりました。
岸 表情がないキャラクターが結構いるんだよね。
福岡 グリムも表情がないですから。
岸 まったくないね。
福岡 ただ、原作でも描かれているので、汗の表現は加えるようにしました。
――映像化するうえで心がけているのは、どんなことですか?
岸 マンガで表現されている色みの再現かな。世界観のひとつとして、トニーの色使い、風合いも再現することを心がけています。
福岡 それから、美術との組み合わせで、舞台となる各地域の設定でしょうか。
岸 各地を旅するロードムービー型の冒険ものなので、世界観設定は気をつけています。
福岡 ランブル・タウンの設定は、アルテミス学院の設定を超える数になっています。
――どれくらいの量になるのですか?
福岡 100点まで行ったかな。
岸 TVアニメの場合、制作スタッフへの負荷が大きくなる新規設定は、発注数を抑えて構成することもあります。本作も、アルテミス学院の部分はそうした狙いもあっての構成でした。それでも普通の作品よりはるかに多い数になってしまいました。
福岡 2018年の1月頃から準備を始めて、9月ごろまで延々と美術設定を作っていました。これでも減らしたんですけどね。
岸 全体では、普通の作品の倍くらいになるかもしれません。現実世界の設定ならば写真の参考資料でも通用しますが、架空のファンタジー世界は参考になるものがどこにもないので、一から十まで美術設定を描いていただくしかない。そうなると、どうしても美術設定の発注数は増えることになりますね。
青みがかった色合いにこだわりあり
本作での黒色はスペシャルカラー
――色の再現で苦労されているということですが、どんなご苦労があるのですか?
岸 トニーが描くカラー原稿は、ちょっと青みがかった独特な色合いなんです。
福岡 陰の色を、黒を使わず、青系の色で作っているんです。そこで、アニメでも、単純に明るさを下げるのではなく、色をつけたうえで調整しています。グリムも黒色を使っているように見えますが、ネイビー(濃紺)なんですよ。ネメシスの縞は黒色ですね。
岸 黒色は、特別なものや特別な表現に使う、という形ですね。
――ほかに気をつけていることはありますか。
岸 ファンタジアの表現。どんなものかをトニーに確認しつつ、処理を決めた部分だよね。
福岡 これが難しくて。魔法と呼んでいますが、トニーの説明では、気やオーラといったパワーを魔法使いのなかで作り出しているのではなく、空気のように周囲にあるものから力をもらっているという意味合いが強い。それをイマジネーションで変換して吐き出している。そうした設定を受けての表現になっています。ファンタジアを集めるシーンは、セトは青色、メリは緑色、アルマは紫色など、魔法使いによって色を変えています。
岸 集める人の個性や特徴が出る表現ですね。
――印象に残っているエピソードといえば?
岸 僕は、セトが旅立った3話やドラグノフを描いた9話、コンラッドが初登場する11話以降が印象にあるかな。コンラッドは物語後半の超重要キャラクター。彼こそ、日本人はなかなか描かないキャラクターですから。
福岡 民衆を扇動しますからね。
――9話はアニメオリジナルでした。
岸 ドラグノフのキャラクターを掘り下げる物語でしたが、スタッフみんなで楽しく作ることができた回だったと思っています。
福岡 ちょっと大人びた回になっていますね。
岸 僕が『機○警察パ○レイ○ー』に登場する「特○二課」が好きなので(笑)。
福岡 だから、ドラグノフが釣りをするシーンを作ったんですよ。
福岡 エピソードはアニメオリジナルですが、空に羽根が生えた魚が存在するという設定は、トニーに確認して作りました。じつは、魚に羽根が生えていることにも濃い設定があるのですが、今はまだ詳しいことは言えません。また、僕が印象に残っているのは15話。トニーに話を聞いた僕がやらなくてはいけないと思い、絵コンテを半分担当しました。描き上げて放心してしまったくらい思い入れがある回です。でも、山場は、まだその先にもあるんですよね。
岸 そう。大きな山場はまだある。
――では、今後の注目ポイントは?
岸 物語が大きく濃縮される瞬間があります。それはぜひ期待してもらっていいかな。ハンカチ、ティッシュを用意してご覧ください。
福岡 怒濤の展開になります。原作の第3〜4巻の一番濃いところなので、死にものぐるいで作っています。音楽も乞うご期待です。
〈TVアニメ『ラディアン』情報〉
NHK Eテレにて毎週(土)午後5時35分〜放送
スタッフ
原作:トニー・ヴァレント
監督:岸誠二
シリーズディレクター:福岡大生
シリーズ構成:上江洲誠
キャスト
セト:花守ゆみり
メリ:悠木碧
ドク:大畑伸太郎
アルマ:朴璐美
ミスター・ボブリー:小市眞琴
ドラグノフ:遊佐浩二
グリム:子安武人
マスター・ロード・マジェスティ:山口勝平
ヤガ:吉野裕行
ミス・メルバ:東山奈央
トルク:三宅健太
フォン・ツェペシュ:寺島拓篤
ウルミナ・バグリオーレ:早見沙織
リゼロッテ:佐倉綾音
サントーリ:緒方賢一
ピオドン:木村良平
ボス:稲田徹
コンラッド・ド・マルブール:村瀬克輝
タジ:田村睦心
ハーメリーヌ:内山夕実
ナレーション:速水奨
(C)2018 Tony Valente, ANKAMA EDITIONS / NHK, NEP