フジテレビ「+Ultra」枠で放送されたTVアニメ『イングレス』などを制作する「クラフタースタジオ」。そのクラフタースタジオ初となるオリジナル長編アニメーション映画『あした世界が終わるとしても』が2019年1月25日(金)より公開となった。今回はTVアニメ『イングレス』、そして『あした世界が終わるとしても』でも監督を務めた櫻木優平にインタビュー。映画へのこだわりやキャスティングの面を中心にお話をうかがった。
櫻木優平監督
『あした世界が終わるとしても』あらすじ
幼いころに母を亡くして以来、心を閉ざしがちな真(シン)。
彼をずっと見守ってきた、幼なじみの琴(コト)莉(リ)。
高校三年の今、ようやく一歩を踏み出そうとしたふたりの前に突然、もうひとつの日本から、もうひとりの「僕」が現れる――。
――本作を制作するに至った経緯を教えてください。
以前に『ソウタイセカイ』というHuluオリジナルアニメ作品を制作したことがありました。『ソウタイセカイ』は完結している作品ですが、まだ同じような世界観で作れるなら作りたいよね、と社内でも話していたんです。そのタイミングで映画を作らないかという話をいただき、それなら『ソウタイセカイ』をベースにした映画にしてみようという流れで本作の制作がスタートしました。
――『ソウタイセカイ』がベースになったんですね。
そうですね。続編ということではありませんが、キャラクターや世界観などは『ソウタイセカイ』がベースとなっています。
――櫻木監督はTVアニメ『イングレス』でも監督を務められていましたが、制作はどちらのほうが先でしたか?
『ソウタイセカイ』からと考えるとほぼ同時ですね。どちらの作品も社内のスタッフが中心となり進行していたので、正直、大変でした(笑)。
――お疲れ様でした(笑)。続いて、物語はどのように構築していったのか教えてください。
本作はふたつの異なる次元、いわゆる相対する世界に命を共有する同一人物がいるという軸で物語が進んでいきます。その軸については社内で協議し、制作の初期段階で決めました。そこから主人公の狭間真とヒロインの泉琴莉、そして相対する世界の真であるジンと琴莉であるコトコがどういう性格で、どういう関係なのかを構築していき、周りの人間たちも固めていきました。
――なるほど。作品の舞台が新宿ですが、これには何か理由があったのでしょうか?
元々、日本のどこか象徴的な場所にしようという話は出ていたんです。そのなかで、本作は18歳の若者たちが主軸の物語ということもあり、若者たちが増えてきたと感じる新宿にスポットを当ててみました。若者の街という点では渋谷でもよかったのですが、あそこはいま再開発をしている真っ只中。記録映画でもないので、作り終えた後に街の風景がガラッと変わっている場所はちょっと避けたかったんですよね。あとは新宿のほうがスタジオから近かったというのも理由のひとつです。
――キービジュアルにも新宿の街が描かれていましたね。
東京に住んでいたら簡単に行ける場所が作品にも登場するので、映画を観終わった後に巡っていただけると嬉しいです(笑)。
――キービジュアルでは新宿の街以外に、キャラクターの表情も特徴的だと感じました。特に真は明らかに伏し目がちですが、ここにはどのようなメッセージが込められていますか?
まず、キービジュアルに登場している真と琴莉はどちらが前を歩くか、という議論をしました。そのなかでキャラクター性としては素直で人懐っこい性格である琴莉のほうが前に出てリードするのが自然なんじゃないかという意見が出たんです。「いや、男性がリードすべきだろう」という意見もあったのですが、今の時代を考えると別に女性が前でもおかしくはないと思って、この位置関係になりました。そして、琴莉が意気揚々としているのに対して、後ろからついていく真は何を見ているのか、何を思っているのか……。それは作品を観て感じていただきたい部分です。
『あした世界が終わるとしても』キービジュアル
――なるほど。キービジュアルもそうですが本作は歩くシーンが多いのが印象的でした。
喋るシチュエーションとしては立ち止まるよりも歩きながらのほうが多いと思ったからです。あとは個人的に歩きながら喋るシチュエーションが好きな演出なので、多くなってしまったのかもしれません。
――物語についてもう少し深堀りすると、本作は真と琴莉の恋愛模様がひとつの軸として描かれていますね。
冒頭からふたりの恋愛模様を描いています。それはふたりの関係性を早い段階から分かってもらいたかったから。そのため、真がどういう気持ちで琴莉についていっているのか、琴莉がどういう気持ちで真と喋っているのか、セリフにはない含みの部分で微妙なニュアンスが伝わるような工夫もしています。ノベライズではそういった心の声も書かれているので、併せて楽しんでいただくと色々な発見があって面白いかもしれません。
――真と琴莉の恋愛関係が描かれている一方で、別世界の真と琴莉であるジンとコトコは対立関係にあります。
はい。これは環境によって人の性格や生き様は変わるということを描きたくてあえて対立関係として描きました。ただ、住む世界は違えども遺伝子はそれぞれで同じ。だから、同じような立場になれば、気持ちの着地点も同じようなものになる、そういう流れにできればと思いながら制作していきました。
――遺伝子は同じというところが分かる点として、相対する世界のふたりは顔が似ているというのも挙げられるかと思います。一方で声はそれぞれ別の声優さんを起用されていますが、それにはどんな意図があったのでしょうか?
同じ声優さんが相対する世界の同一人物を演じ分けるというのも確かに面白いと思いました。ただ、今回は似た声質や声の特徴を持っている方が同じ作品で掛け合うことでどういう化学変化が起きるのか、それはそれで面白いのではと思い、別々の方を起用しました。あとはキャラクター性に併せてイメージといちばん合う方にお願いしたという流れになります。
――作品を拝見しましたが、確かに芝居の面も本作の注目ポイントになりそうだと感じました。
それぞれの声優さんがキャラクターのことをとても理解してくださいました。収録を終えたいまでは、声によってキャラクターに深みが出たと感じています。特に真と琴莉のやり取りはニュアンスが非常に難しい部分ですが、想像以上の仕上がりになっています。ほとんど個別での収録でしたが、その分、個々の方としっかり意見交換ができたので、ブラッシュアップして出来上がった芝居にもぜひ注目していただきたいです。
――そのほか、本作で伝えたいこだわりなどについて教えてください。
作品を観る方によって受け取り方もさまざまなので、それを大切にしていただきたいとは思っています。ただ、個人的に一番気を使ったのはリアリティ。本作は現代の若者のリアルをベースに描いたつもりです。特に真は現代にもいそうな若者っぽくなるよう描きました。そんな現代の若者が非日常にぶつかったときどんなリアクションをするのか。真たちを通して感じてもらい、また自身でも考えてもらいたいと思っています。さまざまな世代の方に観ていただきたいですが、真と同じ高校生の方々には特に「自分たちの世代の映画である」と共感していただけると嬉しいですね。
――最後に『イングレス』『あした世界が終わるとしても』と続けて監督を務めたいま、次に挑戦したいと思っていることを教えてください。
今回のような映画をコンスタントに作っていきたいです。ジャンルについては縛りなく、色々な作品を作って経験値を貯めていきたいですね。そして、どんなジャンルでも多くの方に観ていただけるような作品を作れるようになりたいです。
【作品概要】
タイトル:あした世界が終わるとしても
公開日:2019年1月25日(金)
製作:『あした世界が終わるとしても』製作委員会
配給:松竹メディア事業部
公式HP
ashitasekaiga.jp
公式Twitter:
@ashitasekaiga
©あした世界が終わるとしても