少女マンガやボーイズラブ作品を数多く発表し、熱狂的ファンをもつ中村明日美子の衝撃作『ダブルミンツ』が、なんと実写映画化。原作者の中村明日美子に、実写映画化に至るまでの経緯や、原作者ならではの視点で観た映画の感想を語ってもらった。『アニメディア』2017年7月号「アニメディアライブフィルムズ」のコーナーで掲載しきれなかった部分を含め、ここでご紹介する。
――まず最初に、実写化が決まったときのお気持ちを教えてください。
正直なところ無理だろうなって(笑)。メディアミックスの企画って流れることが多いので、期待しないでおこうと思っていました(笑)。出版されてから時間が経っていて多くの方に読まれている作品なので、読者の方の反応に対して不安な部分もありましたね。
――そんな状況のなか、実写化を決意された理由を教えてください。
基本的に「やりたい」って言ってくださっていることに関しては前向きに検討するスタンスなんです。ただ、先ほどもお話した通り、私がOKしても企画が流れてしまうことが多いのですが、今回実現に漕ぎ着けたのは内田(英治)監督の熱心さも決め手になっているのではと思っています。普通はプロデューサーの方を通して監督とやり取りすることが多いのですが、今回は内田監督からじきじきにアツいメールをいただいて。それがすごく印象に残っていますね。
――脚本のやり取りに2年の月日をかけたとのことですが、どのようなやり取りがあったのでしょうか。
第1稿が上がってきてから、4〜5回やり取りをさせていただきました。媒体が変われば表現方法も変わるものだと思うので、原作と全く同じものにする必要はないと思ったのですが、キャラクターの個性は変わらないので、「この子はこんなことを言わない」と思った部分は結構修正させていただきました。
――脚本のやり取りのなかで、ここは変えたくなかったなど、こだわられたシーンはありますか?
最初から話の大筋は原作に忠実だったこともありますし、監督が「光夫と光央は共依存の関係なんだ」とおっしゃっていたとお聞きして、「あ、監督は私が描いたことをわかってらっしゃるな」と思ったのでそこまでこだわることはなく、基本的には監督を信頼していました。
――では、本作のキャスティングに関しては、中村さんご自身は、どのように関わられたのでしょうか?
キャストの方々をご提案いただく形でしたね。ただ、(佐伯役の)小木(茂光)さんは、私から指名させていただきました(笑)。私からは、「なるべくビジュアルは寄せたい」とか「光夫は光央より背が高くないといけない」とか「光夫は一見常識人で包容力がありそうな人」など、希望は出させていただきました。
――完成した映画を観た感想を教えてください。
観終わったあと、スタッフロールを観ていたら私の名前が出てびっくりして(笑)、それくらい、別の作品として観ている部分がありました。私、自分が描いているときは光夫の行動の動機をそこまで掘り下げていなかったなと思っているんです。でも、実際に生きている光夫の姿を観て改めて気づかされるものも多くて。演じた人にしか分からない、作者の思い及ばない部分を感じましたね。ある意味、役者の方たちは原作者の私より作品に近づいた方々かもしれないと思うと感慨深いものがありました。
――では映画を観て、いい意味で予想を裏切られたシーンはありますか?
光央の優しさが分かりました。原作でも映画でも、結構どうしようもないチンピラ男なんですが(笑)、急にすごく優しくなるシーンがあって。彼の持つ優しさに、改めて気づかされましたね。
――ちなみに、中村先生は光夫と光央ならどちらがタイプなのでしょうか?
え~(笑)。でもどう考えても光央は困りますよね。一緒にいられなそう。どこに住んでるかもわかんないし(笑)。……光夫かなぁ。でも光夫はこっちが色々勝手に不安になって「浮気してるんじゃ……?」って思わせるタイプですよね。でも光央だったら絶対貢いじゃうな……(笑)。どっちにしてもダメですね(笑)。
――BL的目線でオススメシーンを教えてください。
光央がすごくかわいくなっていたので、そこは括目して観てほしいですね(笑)。乞うご期待という感じです。光央を演じられた田中(俊介)さんは非常にピュアでチャーミングな方だと思っていて、あのかわいさはきっと役作りではなくご本人の内側から滲み出るものなのだと思います。佐伯さんが面倒をみてあげちゃうのも分かる気がしますよね。
――実際に撮影現場には行かれましたか?
最終日の撮影を見学させていただきました。その日は断髪式のシーンの撮影で、撮影している部屋の外から様子を聞いていたのですが、田中さんのうめき声が漏れ聞こえてきて……とても大変なシーンだったと思います。その時の田中さんの顔が、最初にプロフィール写真でいただいていたものからかなり変わっていて、「光央になってきている……!」と驚きましたし、そこまで役に入り込んでいただいてありがたいなと思いました。
――最後に、アニメディア読者へメッセージをお願いします。
ふたりの“ミツオ”の魅力がさらに増しているので、原作を読んだ方も未読の方も、ぜひ観ていただければ幸いです。
▲「田中(俊介)さん演じる光央はとにかくかわいいし、色っぽさも兼ね備えています。役作りのために15kgくらい絞ってくださったのも驚きでした」
▲「桃を食べるシーンは、淵上(泰史)さんの表情に危機迫るものがあったのが印象的でした。淵上さんの目の演技が素晴らしかったです」
▲「光央と光夫は目があった瞬間に主従関係が出来上がってしまったんですよね。でもBL的にいえばそれは“恋に落ちた”ということだと思います」
▲「この2人は主従関係にはあるのですが、突き詰めていくとどちらが上の立場なのかわからなくなってくる……という不思議な関係性だと思います」
<中村明日美子(なかむら・あすみこ)プロフィール>
神奈川県出身。2000年『月刊マンガF』第3回エロティクスマンガ賞で佳作を受賞し、デビュー。代表作は『Jの総て』『同級生』『ウツボラ』など多数。現在は『王国物語』『鉄道少女漫画』『ノケモノと花嫁 THE MANGA』を連載中。
<映画「ダブルミンツ」情報>
全国劇場で公開中
STORY
同じ“イチカワミツオ”の名をもつ壱河光夫と市川光央。高校時代、光夫は光央の下僕として主従関係を築いていた。そんなふたりが再会したのは、ある日、光夫にかかってきた「女を殺した」という一本の電話。電話の主が光央だと悟り共犯者となってしまう光夫。ふたりの関係はこの事件をきっかけに少しずつ変化していく……。
原作/中村明日美子「ダブルミンツ」(茜新社刊)
監督・脚本/内田英治
出演/淵上泰史 田中俊介
須賀健太 川籠石駿平 冨手麻妙 高橋和也 小木茂光 ほか
配給/アーク・フィルムズ、スターキャット
公式サイト
http://d-mints.jp/
R15+
(C)2017「ダブルミンツ」製作委員会 (C)中村明日美子/茜新社