続編決定の「鎧伝サムライトルーパー」はいかにして人気作になったのか? いちファンの視点で当時を振り返る | 超!アニメディア

続編決定の「鎧伝サムライトルーパー」はいかにして人気作になったのか? いちファンの視点で当時を振り返る

1988年に放送されていたテレビアニメ『鎧伝サムライトルーパー』が、この令和に正統続編『鎧真伝サムライトルーパー』として復活! Xのトレンド1位にも輝いた本作は、はたして何がどう人気だったのか? 当時のムーブメントを振り返ります。

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『鎧伝サムライトルーパー』(C)SUNRISE
  • 『鎧伝サムライトルーパー』(C)SUNRISE
  • (C)SUNRISE
  • 草尾毅さん

2025年6月11日、『鎧伝サムライトルーパー』のアニバーサリー上映会で、正統続編『鎧真伝サムライトルーパー』のサプライズ発表がありました。

『鎧伝サムライトルーパー』とは1988年に放送されたテレビアニメで、5人の少年が「鎧擬亜(よろいギア)」と呼ばれるアーマーをまとって戦うバトルヒーローです。新宿に魔城「阿羅醐城(アラゴじょう)」が出現したことで新宿近辺の人々が消失。その元凶となった「妖邪」に対抗するべく、武将の血を引く若者たちが鎧兜をイメージしたアーマーをまとうというストーリーラインでした。

その続編となる『鎧真伝サムライトルーパー』の発表がされるや否や、かつてのファンがXなどで狂喜乱舞。「続編とか言われて頭が混乱してる」「令和に新作!?」「また森口博子さんが楽曲を担当してくれたら!」など、おもに約30年ぶりの続編に驚くポストが続々と。当日の深夜には7万件を超えるポストでトレンド1位になったことからもその話題性がうかがえました。

とくに注目のポストは「俺の青春の1ページだぞ、観るしかねえ!」「私の青春でございますわよ」と“男女とも”にアニメ放送を見ていたリアルタイム勢の反応があったこと。当時はその点において“奇妙な現象”が発生しており、番組企画者を混乱させていたといいます。

今なお男女に愛されるこの作品はどこが人気だったのか? 当時はどのように受け止められていたのか? 本稿ではそのあたりについて注目したいと思います。

■女性ファンの心を掴んだ「トルーパー」

『鎧伝サムライトルーパー』(以下『トルーパー』)の放送がスタートした1988年といえば、まだ現在のような深夜枠でのアニメ放送がなく、夕方や19時の枠を中心に子供向けのアニメを制作していた頃です。オモチャを売るために番組が企画され、『トルーパー』も当然のことながらヒーローキャラクターのフィギュアなどを販売するために男児向けに作られていました。

当時は1986年に放送がスタートした『聖闘士星矢』が大ヒットしており、おもちゃ業界でもキャラクターがアーマーをまとう「クロス系」が流行っていましたから、その需要を当て込んで企画されたことが容易に想像できます。ところが男児向けに企画した『トルーパー』は、真田幸村や伊達政宗の子孫という美少年キャラクターが女性ファンの心を掴み、そちらで大ヒットすることに。

おかげで番組終了後もOVA(ビデオ販売用のオリジナル作品)として、『鎧伝サムライトルーパー 外伝』(ニューヨーク編)、『鎧伝サムライトルーパー 輝煌帝伝説』、『鎧伝サムライトルーパー MESSAGE』と約3年にもわたる展開で支持を得たのでした。書店ではBL系のアンソロジー本がシリーズで売られていたことからも女性ファンの勢いがうかがえます。

■当時の声優ブームを牽引

さらにテレビ放送の約半年後あたりから、出演声優である草尾毅さん、竹村拓さん、中村大樹さん、佐々木望さん、西村智博さんが所属事務所の枠を超えてアイドルユニット「NG5」(エヌジーファイブ)を結成。短い活動期間ながら、顔出しの仕事でも人気を博しました。

今でこそ声優のライブステージや歌手活動など珍しくありませんが、1989年といえばまだまだ裏方がメインだったころ。「NG5」に限らず、声優単体というよりは「作品から派生したユニット」という、キャラクターを背負った形での活動が多かった時代です。そのあたりのムーブメントについて、当時はドキュメンタリーなどで声優ブームを扱う番組もちらほらと出るようになり、「NG5」もメインの取材対象として取り上げられていました。

中でも印象的だったのは『地球発19時』というドキュメンタリー番組。旧東芝EMI・ユーメックスの藤田純二さんが「声優のレコードが出たら買いますか?」と同人誌即売会の会場で女性ファンに尋ねて回っていたことを鮮明に覚えています。キャラクターソングや、すでに人気だった「NG5」ではなく、草尾毅さん本人、佐々木望さん本人の活動として、いわゆるアーティストデビューさせてもついてきてくれるかを確認していたのです。音楽業界における声優市場がまだ形成されていないことがよく分かるエピソードであり、アーティスト路線を開拓するまさにその場面が紹介されていました。

この頃からアニメ作品を扱った深夜ラジオが続々とスタートし、90年代に入ると、くすぶっていた声優人気が大きく花開くことになります。(※『トルーパー』まわりはそれ自体が各ブームの起点というわけではなく、大きなきっかけのひとつでした。)

■「隣のレーンでストライク」の大ヒット

また同番組内で当時のタカラ(現タカラトミー)の担当者は、男児ではなく女性ファンの間で大ヒットしたことについて、「ボウリングの球を投げたら、自分のレーンでガーターになったのに、隣のレーンではストライクになったようなもの」と苦笑いしていた姿を覚えています。ひとつの作品としてヒットしたことは嬉しい半面、それが自社の利益に直結しなかったことはやはり複雑でしょう。

そうして『聖闘士星矢』に続く形で『トルーパー』のような美少年キャラクターものがヒットしたことで、いわゆる「美少年アニメブーム」がさらに過熱。おもちゃ業界では「クロス系」の商品を期待し、アーマーアップ系の作品が続くことになります。その代表格が『天空戦記シュラト』や『超音戦士ボーグマン』でした。


思わぬ形ではあるものの、当時のアニメシーンに大きく影響し、今なお男女ともに絶大な支持を得る『鎧伝サムライトルーパー』。新作はその正統続編ということで、新たな要素はもちろんのこと、オリジナル版のキャラクターや設定がどのように関係するか楽しみです。

(C)SUNRISE

《気賀沢 昌志》
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