配信激戦時代の「海外マーケット」「海外企画」とは? 2022年MIFAの現状や海外向けピッチ手法も解説 | 超!アニメディア

配信激戦時代の「海外マーケット」「海外企画」とは? 2022年MIFAの現状や海外向けピッチ手法も解説

都内アニメーション関連事業者の海外進出を支援するため、2017年度より実施されている「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」。本年度の初回セミナーが8月26日、オンラインにより開催された。

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数土直志氏
  • 数土直志氏
  • 堺三保氏
  • 「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」内容
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都内アニメーション関連事業者の海外進出を支援するため、2017 年度より実施されている「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」。本年度の初回セミナーが8月26日、オンラインにより開催された。
本プログラムは、海外進出に必要なスキルを有名講師から学ぶ「海外ビジネスセミナー」や海外企業への効果的なプレゼン(ピッチ)ノウハウを実践的に学ぶ「海外プレゼンスキル向上ワークショップ」を全8回に渡って行う。

第1回目となる海外ビジネスセミナーは「海外マーケットと海外企画について知る」をテーマに、2名の講師が登壇。
今回の講師は、2004年にアニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、現在は独立しアニメーションに関する報道・執筆に従事するジャーナリストの数土直志氏、『スター・ウォーズ ビジョンズ』『境界戦機』などアニメのSF設定や脚本の仕事を多く手掛けている文筆家/翻訳家であり、デジタルハリウッド大学及び京都精華大学非常勤講師の堺三保氏。

動画配信サービスの発展が進む中での海外マーケットの特徴や、そんな海外マーケットにおける企画の組み立て方についてレポートをお届けする。

堺三保氏

2022年、日本アニメの海外マーケット


前半はアニメーションジャーナリストの数土氏から「アニメの海外マーケット」をテーマに、海外における日本のアニメ産業トレンドについて語られた。

まずはじめに、2021~2022年のアニメ業界をポジティブとネガティブの両軸で振り返った。ポジティブな見方としては、アニメ産業自体の規模が拡大している「成長産業」であること。グローバルでもアニメ産業が盛んになる中、日本のアニメ産業はまだまだ「グローバルで勝負できる産業」であることを挙げた。一方ネガティブな見方としては、時代と共にブラックな体質の働き方は改善されてきたものの「人材の枯渇」が課題に。ほかにも東アジアのみならず世界中でアニメの生産が増えていることによる「グローバルの競争が激化」や、生産量は多いが利益は大きくないという「収益性の低さ」を述べた。課題はあるものの、「日本のアニメ市場は拡大傾向にある」という。

海外マーケットの伸びも好調で、北米向けのニーズが堅調である。その理由に「アニメから派生するゲームライセンスが高値で売れていること」「消費者がマンガを購入するなどマンガ市場が拡大していること」を挙げた。また、コロナ禍においては巣ごもり需要が追い風となり、インターネットへの依存度の高い海外マーケットが伸びた。ただし、数土氏は「2022年からコロナ禍前の日常に戻りつつあるため、アニメ市場も通常ペースに戻っている」と話す。

日本のアニメ産業が海外マーケットで堅調に推移していく中、「日本のアニメスタジオも海外マーケットの恩恵を受けているプレイヤーのひとつである」とのこと。しかし、「ブランド力が高いあるいは生産力の大きい大手と限られたアニメスタジオが市場内で優位性を持つプレイヤーである」とも語った。

そんな中、世界で活躍したいと考えるアニメクリエイティブに携わる人たちはどのように海外ビジネスをスタートさせていくべきなのか。その一つとして挙げられるのがアニメ作品を探している人が集まる「海外のフィルムマーケット」だ。

2022年6月、3年ぶりにフランスで開催されたアヌシー国際アニメーション見本市に参加した数土氏によると、参加登録者数は約13,000人。そのうちのほとんどが業界関係者または業界関係者予備軍だという。また、アヌシー国際アニメーション映画祭ビジネス部門であるMIFAの参加者は約4,300人と、コロナ禍に関わらず過去最高となった。しかしながら、「東アジアの存在感は薄かった」と数土氏は振り返る。日本以外の東アジア諸国の参加がほとんどなかったそうだ。
日本の作品や企画のレベルは決して低くはない。だが、ピッチを行う場合は言葉の壁を克服することが課題となる。ビデオピッチなどでは十分な準備ができるため、大変出来がよいことも多いという。

アヌシーへの参加を踏まえた上で、最後に「アニメ産業のトレンド」について説明。「世界的にアニメーションは成長産業である」と述べたほか、「配信ニーズの高まりにより、常に新しいものが求められている」と数土氏。最近では、海外需要が低いと言われてきた日本の深夜アニメ(青年向けアニメ)需要の高まりも見えてきた。同時に配信プラットフォーム激戦時代へと突入したことから、今後の求められるアニメコンテンツについて「誰もが知っているより大衆向きな作品や有名原作・有名スタッフを扱ったビックコンテンツになっていくのではないか」と言及。

最後に、配信や劇場アニメといった「映像そのものを販売するビジネス」、アプリゲームやライブエンタメといった「新しいかたちのメディアミックス」と「日本のアニメビジネスは二極化が進んでいる」とし、セミナー前半を締めた。

欧米にウケる企画内容とピッチとは?


後半は、文筆家/翻訳家の堺氏から「海外展開のための企画の煮詰め方」をテーマに、海外、特にアメリカ向けの企画内容と企画プレゼン手法(ピッチ)について語られた。

はじめに日本と欧米の企画内容の違いについて言及。欧米で最も重視されるのは「強烈なキャラクター」と「起伏のあるストーリー」が掛け合わさること。「明確な目的や悩みを動機にキャラクターが成長・変化していく」というパターンが好まれるのだそう。日本アニメでよく見る完全無欠な主人公や日常系といったストレスフリーな作品のニーズは低く、ストーリーとキャラクターの心理的葛藤が帯同し視聴者が感情移入できる作品のニーズが高いのだ。この要素が含まれていれば、過激な描写やバッドエンドであっても構わないのだそう。

その前提のもと、日本発信の作品に求められる要素は「日本的な要素と世界共通の要素のバランス」と堺氏。日本的な外見(デザイン)は求められているが、内面(設定)的に求められているのは前述した通り「明確な目的や悩みを動機にキャラクターが成長・変化していくドラマ」だ。世界中の誰が見ても「そうだよね」と思える最大公約数を狙いにいくことがポイントとなる。中でも今世界から求められている要素は2つ。「多様性」と「平等性」だ。欧米作品では黒人やアジア人が主人公の作品が増え、視聴率や興行収入も高い。堺氏は「これまで作品を熱狂的に見てこなかった視聴者層が獲得できたことで、売り上げにも繋がっている」と話す。

とはいえ、ただ面白い企画をつくるだけではなく、海外で売り込みをしなければならない。このプレゼンで躓くことが多くあるのだという。「企画書を渡し、物語を10分くらいかけて説明する」という日本的なプレゼンは欧米で好まれない。前述した通り、欧米は強烈なキャラクターを重視するため、「主人公がどんな人物なのか」を手短に説明する。そこで食いついてきた相手に対して物語を説明すれば良い。企画書においても「ビジュアル中心」または「30秒~1分程度の映像」を見せること。営業マンが商品を売り込むことと同じように、「作品の良し悪しではなく企画の面白さで相手の興味を引かせること」「相手に判断させず面白さを誘導すること」この2つが大切だと語った。

また、ピッチの練習法は「5分用のピッチ原稿をつくり、原稿を見ないで話せるようにする」こと。日本のアニメ作品の企画自体は海外と比較して劣っているわけではないものの、やはり課題はプレゼンにある。海外勢は暗記するまでピッチのシミュレーションをするのに対し、日本勢は圧倒的に練習が足りないという。「国も言語も違うのだから、もっと必死に練習してほしい」「せっかく面白い企画だから、興味を引く伝え方をしてほしい」「作品制作と同じくらい説明に力を入れてほしい」と切実な思いを述べた。

最後に、日本から海外へ発信するアニメの企画に対して「アジア人が世界に向けて世界共通のコンテンツを出している意識を持ってもらいたい」と堺氏。日本人は日本人にしか分からない内容や描写を含みがちなため、そこを見直すことの大切さを説いた。また、配信における日本アニメのライバルコンテンツについて、堺氏は「大人向けドラマ」を挙げた。特に韓国の実写ドラマは世界中から高い人気を博している。「配信により世界で売れるコンテンツやユーザー層が変わっているからこそ、売り方も変えていかないと難しい」と日本アニメ業界へ課題を呈し、本セミナーは終了となった。

今後のセミナー・ワークショップ開催予定


海外進出に必要なスキルを学べる「海外進出ステップアッププログラム」。次回は、9月20日にセミナーB「海外での企画のバイブル・ピッチについて知る」を開催、その後は、10月14日にセミナーC、10月25日にセミナーD、12月5日にはセミナーEが開催される。また、「海外プレゼンスキル向上ワークショップ」は、10月4日、11月18日、11月29日に開催される。詳細はウェブサイトをご参照。

《阿部裕華》
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