■エンドロールのあとにも、“大切なシーン”が…
――今回公開となった『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛している』のお話も伺えればと思います。ぜひここを見てほしいというシーンはありますか?
荒川:見どころだらけで難しいですが、やはりラストでしょうか。今回の映画のキーワードのひとつでもある「きっと何者かになれる」という言葉に対して、冠葉と晶馬が自分たちを”何者”と結論付けるのか、そこは注目してもらいたいです。
木村:テレビシリーズでは冠葉が”何者”なのかって最後まで結論が出ないまま終わってしまう。あれだけ陽毬のことを愛している、にも関わらず最後は自分を犠牲にして陽毬の元から去ってしまう。そんな冠葉が何者なのかって、ずっと一言で言い表すことができなかった……。そこにひとつの結論が出るんです。あそこは自分で言いながら鳥肌が立ちましたね。
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――やはりラストは要注目ですね。そのラストシーンに繋がる“運命の乗り換え”も音楽が「HEROES~英雄たち」に変わり、印象も変わっていたかと思います。
木村:テレビシリーズでは世界の終わりのように感じられた“運命の乗り換え”。あそこがすごくポジティブなシーンに見えるように生まれ変わっている。もうあの瞬間「行けー!!いいぞー!!」って叫びたくなりました。
三宅:応援上映みたい(笑)。
荒川:でも確かに、テレビ版よりも前向きな気持ちになる、力が湧いてくるシーンになっていますよね。
三宅:あのシーン、流れている「HEROES~英雄たち」と映像の尺がピッタリ合っているんですよね。あれはもともと計算して作ったんですか?
幾原:いや、偶然ほぼピッタリだったのであとから微調整だけした感じです。
一同:えー!!
――あそこで「HEROES~英雄たち」がかかること、最初から決まっていたわけじゃないということですか?
幾原:編集の時に試しにかけてみたら見た人からすごく好評で、その時に決めました。なのでセリフのタイミングとかも曲に合うように、あとからちょっとずつ調整した感じですね。もちろん、それができたのは音楽の橋本(由香利)さんのおかげです。
木村:僕からも監督にひとつ聞きたいんですけど、“運命の乗り換え”のあとに、みんなが同じセリフを一人ずつ言っていくところがあるじゃないです。あれは誰に向けて言っているんですか?
幾原:あれはね、観客に向けて言っています。実写シーンの話にも繋がるのですが、あの物語は僕らの世界と地続き。だからキャラクターと視聴者の方を繋げるセリフがないといけないと思ったんです。
木村:そうか、世界が地続きだから。視聴者の皆さん、ぜひ受け取ってください(笑)。
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■世界中が喪失感に包まれているこの瞬間にこそ、届けたい言葉がある
――“運命の乗り換え”が終わった先の物語を、少しだけ見ることができるのもファンにとっては嬉しいポイントかと思います。
木村:そこからさらに続編につながりそうなワンシーンが……。あそこはちゃんと見てほしいですね。
荒川:エンドロール始まってからさらにその先に……! なのでエンドロールが始まっても席を立たないでほしいです。
三宅:あんなシーン見せられたら、ますます続きが見たくなっちゃう。私はあのシーンを見て『輪るピングドラム』の”輪る”の意味が理解できた感じでした。きっと皆さんも見たらそのタイトルの謎が解けると思いますよ!
幾原:実はあのラスト、他にも何パターンか考えていました。そこで一番重視したのは、見ている人にこの先を委ねられるエンディングにすること。僕の中にはこの先の物語が思い描けているけれど、それは僕のものであってみなさんが思い描くものとは違うかもしれない。だから、あえていろんな取り方ができるようにはしています。
三宅:え、監督の中での続きって決まってるんですか! 公式見解ってことですよね! 知りたいのであとで教えてください!
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――とても多様なメッセージが詰まっている『輪るピングドラム』シリーズ。2022年現在、皆さんに作品をとおして受け取ってもらいたいメッセージを教えてください。
荒川:分け合うことの大切さを感じてほしい、そう思っています。私たちが生きている世界でも、分かち合うことができたらもっとみんなが幸せになれるのに、という瞬間はよく目にしますからね。そこは皆さんにぜひ受け取ってほしいと思います。
木村:「自分の運命は自分で切り開ける」ことを感じとってほしいと思います。冠葉はがむしゃらに自分の運命と対峙し続けた男だった。そこには見習うべきものがあるし、自分もそういう生き方をできたらと思っていますから。
三宅:その瞬間に自分が受け取ったメッセージを大切にしてほしいですね。そのメッセージこそが、今の自分にとって必要なものだと思いますから。そして、自分が受け取ったメッセージを私たちに教えてくれると嬉しいです。”#きっと何者かになれる”というハッシュタグがありますので、ぜひSNSに皆さんの感想を投稿してほしいですね。
――幾原監督はいかがですか?
幾原:ちょうど10年前にテレビシリーズが公開された時は、東日本大震災のあとで日本人がすごく大きな喪失感を抱えていました。そして今回、この映画が公開された今も世界中が喪失感に包まれている。そこには運命のようなものを感じています。そんな喪失感溢れる世界に必要なのは、ひとつの言葉だと思っていて、それが今回の映画の“とても大切なところ”で登場します。それをぜひ受け取って、その言葉を皆さんも誰かに届けてほしい。そうすれば世界が少しだけ前向きになるんじゃないかと思っています。
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2022年7月22日より公開中
■STAFF
監督:幾原邦彦
副監督:武内宣之
原作:イクニチャウダー
キャラクター原案:星野リリィ
脚本:幾原邦彦・伊神貴世
キャラクターデザイン:西位輝実・川妻智美
色彩設計:辻田邦夫
美 術:中村千恵子(スタジオ心)
アイコンデザイン:越阪部ワタル
CGディレクター:菊地信明(ウェルツアニメー
ションスタジオ)・越田祐史(スタジオポメロ)
VFX:田島太雄
撮影監督:荻原猛夫(グラフィニカ)
編 集:黒澤雅之
音響監督:幾原邦彦・山田 陽
音響効果:三井友和
音 楽:橋本由香利
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ラパントラック
製作:ピングローブユニオン
配給:ムービック
後編主題歌『僕の存在証明』
やくしまるえつこメトロオーケストラ
■CAST
高倉冠葉:木村 昴
高倉晶馬:木村良平
高倉陽毬:荒川美穂
荻野目苹果:三宅麻理恵
多蕗桂樹:石田 彰
時籠ゆり:能登麻美子
夏芽真砂子:堀江由衣
渡瀬眞悧:小泉 豊
荻野目桃果:豊崎愛生
プリンチュペンギン:上坂すみれ
(C)イクニチャウダー/ピングループ(C)2021 イクニチャウダー/ピングローブユニオン