アニメ至上屈指のゲス外道! 敵キャラ・ボンドルドだからこそ伝えられる「メイドインアビス」のテーマとは | 超!アニメディア

アニメ至上屈指のゲス外道! 敵キャラ・ボンドルドだからこそ伝えられる「メイドインアビス」のテーマとは

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第12弾は、『メイドインアビス』よりボンドルドの魅力に迫ります。

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(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会
  • (C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会
  • 劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』新規キービジュアル(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会
  • 『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』ティザービジュアル(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会
  • 『メイドインアビス 深き魂の黎明』(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会
  • 『メイドインアビス』(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第12弾は、『メイドインアビス』よりボンドルドの魅力に迫ります。


『メイドインアビス』は、「未知への憧れ」を描く作品だ。

主人公のひとりであるリコがそれを体現している。伝説の探窟家を母に持ち、どこまでも深く広がる大穴アビスへの探求心を胸に秘め、何にでも好奇心を示し、機転がきくし勇敢だ。冒険活劇の王道と言えるタイプだ。

だが、その「憧れ」を別の角度から体現する者が本作には存在する。黎明卿ボンドルドだ。彼は、リコやレグたちに立ちはだかり、ナナチの因縁の相手となる存在で、その残忍な所業から「筋金入りのろくでなし」や「ゲス外道」などと呼ばれる。

しかし、ボンドルドはただのクズな悪役ではない重要な役どころといえる。なぜなら、彼の行動原理もまた「未知への憧れ」だからだ。

『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』ティザービジュアル(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会

本当の悪人は自分を悪だと思わない


ボンドルドは、本作に登場する探窟家の頂点「白笛」のひとりである。探窟家としての功績は大変大きく、不可侵だったルートを開拓し、深層で活動を可能にする拠点を設置するなど、「誰も成し得なかった事を次々とやってのけた(ハボルグ談)」人物だ。

そうして、ついた異名が「黎明卿」である。黎明とは夜明けを意味する。彼は暗闇に閉ざされた未知の世界に光をあてて切り開いてきた人物だということだ。大変、前向きで美しい異名だが、一方で彼は、非道な人体実験や環境破壊を厭わないルート開拓など、目的のためには手段を選ばない。

作中、最も視聴者・読者を震撼させたのは「カートリッジ」の発明だろう。子どもを犠牲にし、アビスの上昇負荷の呪いを肩代わりさせるこの装置は画期的であると同時に、まともな人間のすることではない。しかも、そういう残忍な行為を紳士的な口調で穏やかに実行に移すのだ。

客観的に見れば、ボンドルドは悪の権化そのものである。しかし、本人はそう考えていないだろう。彼は善や悪という物差しで動いていない、あるのは徹底した探求心だけである。

本当の悪人は自分のことを悪だと微塵も感じていないとよく言うが、ボンドルドはまさにそれが当てはまるキャラクターだろう。

しかし、そういう頭のネジが飛んだ人物によって、世界の歴史が開拓されてきたというのも事実だ。大西洋横断や世界一周を初めて成し遂げたような人物、あるいは革命家のような、それまでの常識を覆してきた偉人には少なからず非道な一面がある。私たちはそういう非道な偉人が開拓した道を後から歩んでいるに過ぎない。

その点で確かにボンドルドは、夜明けをもたらす者「黎明卿」と呼ばれるにふさわしいのも確かだ。そんな前向きで希望に満ちた異名をこのような人物に名づける本作のセンスは、「未知への憧れ」という作品全体のテーマを一層多面的に深くしていると言える。

『メイドインアビス』(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会

ボンドルドはなぜリコを「こちら側の人間」と言ったのか


ボンドルドの印象的な台詞は数多いが、中でも本作のテーマを考える上で重要なのは、リコに対して言う「君は私が思っているより、ずっとこちら側なのかもしれませんね」だ。

リコは溢れんばかりの探求心を秘めた主人公だ。未知なるものに対して物おじせず、研究熱心で冷静に物事を把握できる。彼女の心は常に恐怖よりも好奇心が勝る。

第四層で毒を腕に受けて重症を負ったリコは、レグに自分の腕を切り落とすように頼む。そして、それは痛みが比較的和らぐ肘の関節部分ではなく、患部ギリギリのところを指定していた。肘から下が残っていたほうがやれることが多くなるからだと、後にナナチが説明しているが、リコは自分が瀕死の重症の状態でも冒険を続けることを考えていたのだ。その精神力には驚かされる。

そして、リコは大変に実験精神旺盛だ。レグを拾ってきた時も彼が寝ている間にいろいろと身体中を調べてつくしているし、痛覚の実験すら行っていることもほのめかしている。

リコは、第三層で、小動物をオトリにする戦法を実行している。その時、リコは「ごめんね」の後に「できれば美味しく食べたかったな」と言う。小さい生命を犠牲にすることよりも、どんな味がするのかの興味が勝っていたのだろうか。

リコは小動物を犠牲にし、ボンドルドは人間の子供を犠牲にする。その違いはとても大きい。だが、犠牲にして良いものの範囲が違うだけとも言える。

ある意味、リコとボンドルドは自分の中の「未知への憧れ」と達成するためなら犠牲も厭わないという姿勢では共通している。ボンドルドが言うとおり、リコは「こちら側」なのかもしれない。

劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』新規キービジュアル(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会

「憧れ」や「探求心」を持った主人公は、視聴者・読者に夢と希望を与える。しかし、それら『メイドインアビス』は、「憧れ」が導く残酷さと過酷さも描いている。「憧れ」はキラキラしているとは限らない。ボンドルドの存在は「憧れ」の多面性を示しているのである。
《杉本穂高》
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