アニメ業界 女性の働き方、ジェンダー平等はいかにして実現できるか?【IMART2021レポート】 | 超!アニメディア

アニメ業界 女性の働き方、ジェンダー平等はいかにして実現できるか?【IMART2021レポート】

マンガ・アニメの未来をテーマにした国際カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)の第二回が2021年2月26日(金)と27日(土)にかけて開催された。

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IMART2021「アニメ業界 女性の働き方」セッションの模様
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マンガ・アニメの未来をテーマにした国際カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)の第二回が2021年2月26日(金)と27日(土)にかけて開催された。

マンガ・アニメ業界の先端で活躍するイノベーターや実務家を一同に集めた基調講演が多数行われ、活発な意見が交わされたが、本記事では1日目の夕方に開催されたセッション「アニメ業界 女性の働き方」のレポートをお届けする。他業界よりも女性の進出が比較的進んでいると言われることもあるアニメーション業界だが、日本社会全体の傾向は当然アニメ業界にも影響しており、女性ということで苦労させられる部分も少なくない。

今セッションでは、業界の第一線で活躍する2人のプロデューサー、東映アニメーションの柳川あかり氏とアスミック・エースの竹内文恵氏、長年研究者としてアニメ業界を見てきた須川亜紀子氏、アニメ・マンガライターの川俣綾加氏をモデレーターとしてアニメ業界におけるジェンダー平等に向けた課題を議論した。



柳川氏は大学卒業後、東映アニメーションに入社。ライセンス事業部を経て企画部に異動となり、『おしりたんてい』や『スター★トゥインクルプリキュア(スタプリ)』などをプロデュースした。

竹内氏は、大学卒業後にTSUTAYAを運営する株式会社CCCに入社。コンテンツの流通に携わると、次第にコンテンツ制作そのものに興味を抱くようになり、アスミック・エースに入社。数多くのアニメ制作に携わってきた。

柳川氏は、東映アニメーション入社前からアニメが好きだったという。かつてはデッサンの勉強をするなど作り手へのあこがれがあったが、大学で経済学を学び作品をいかに届けるかに興味を持つようになり、大学時代からアニメプロデューサーについて調べたそうだ。


竹内は『マインド・ゲーム』と『妄想代理人』という2作品に出会ったことでずっとアニメの仕事をしたいと考えるようになったそうだ。

「女性と仕事」という観点では出産が大きなターニングポイントになる。竹内氏が入社したころには育休制度はあったが、活用しにくい雰囲気だったという。しかしアスミック・エースの先輩たちが活用し続けたおかげでそういう雰囲気も変わってきているそうだ。

また、竹内氏は、育休制度のような個別対策も重要だが、そもそも時間で労務管理をするという考えを変える必要があると語る。2020年、コロナ禍でリモートワークの実践が進んだが、これを機に労務管理の考えが変われば、出産・育児をしながら働きやすくなるのではと考えを述べた。

業界でのロールモデルの話になると、柳川氏の東映アニメーションでは世代の近いプロデューサーが何人かいることと、さらに上の世代では『おジャ魔女どれみ』などを手掛けた関弘美プロデューサーの存在が大きく、女性がプロデューサーになれるのかと不安を抱いたことはなかったという。ただ、業界全体で女性プロデューサーがメディアに登場することが少ないので、その傾向も変わっていけばもっと女性プロデューサーを目指す人も増えるのではないかと考えているとのこと。また、東映アニメーションにも育休制度があり、男性監督が育休を取得する例もあるなど、身近に活用例を聞くことが多いそうだ。


また、『HUGっと!プリキュア』など働き方を考えさせる作品が増えているのではという川俣氏の指摘に対して、須川氏は『プリキュア』は実験の歴史であり、女性のエンパワーメントを時代に沿って描いてきたシリーズであると語る。『スタプリ』は安易に結論にたどり着こうとせず、女の子たちは考えて悩んでいるということを全面に出したのが素晴らしく、善悪二元論でもなく、価値観の多様性が全面にでていると高く評価しているそうだ。

また、須川氏は女性のエンパワーメントを扱った作品自体は昔から存在するが、90年代から顕著に目立つようになってきたと言う。90年代は世界的にもガールズ・パワーの次代で女性シンガーがパンクロックを力強く歌うなどの変化が表れてきた時代に、日本ではエポックメイキングな作品として『セーラームーン』が登場。90年代に少女期を過ごした人が今、クリエイターとなって活躍しており、アニメ業界に限らず色々な場所で影響を与えているという。例えば、近年の美人画の世界には女性の描き手が増えており、『セーラームーン』の影響があるのだそうだ。


話は海外との比較に移る。竹内氏は海外の映画祭などにも参加することが多いが、海外の事務局などとやり取りしている中で、登壇者は男女イコールが当たり前のこととして運営されていると感じるという。それは誰かに言われてそうしているのではなくて、そういう映画祭でありたいというメッセージを体現しているのではないかと感じるそうだ。


ジェンダー平等や多様性の実現という点で遅れを取っていることは、国内のクリエイティビティにも影響を及ぼすだろうか。

須川氏は、日本のアニメーションはかつてセクシャリティの多様性という点では西洋諸国の作品に先行していた面があると語る。一例として、1970年代の『ガッチャマン』にベルク・カッツェというキャラクターが登場したことが海外では驚きを持って迎えられたのだという。宗教的タブーのない日本では、LGBTQのキャラクターも比較的自由に描けたが、一方である種のステレオタイプな描写に集中してしまった面もあるという。社会が多様化していくことでアニメの作り手にも多様な人が増えれば、おのずとそうしたステレオタイプな描写も変わってくることだろうと期待しているようだ。

ディズニーに同性愛キャラクターが登場したのもつい最近のこと。権利獲得運動があれだけ盛んな国でもアニメーションにそうしたキャラクターが登場するには多くの時間がかかった。日本はもっと以前から描いていたにもかかわらず、ステレオタイプな描写から脱却しきれないのは残念、本来の日本アニメにはもっと奥深さがあるはずだと須川氏は語った。

その話を受けて柳川氏は、東映アニメーションにおいて制作現場で決定権を持つ女性の比率は増えていると語る。柳川氏が『スタプリ』の企画を立ち上げた時も、メインスタッフやオーディションにも女性スタッフに参加してもらうことを心がけたそうだ。


川俣氏は3名に、業務の中で女性であることで苦労した点はあるかと尋ねた。

須川氏は、大学は男性中心社会なので苦労したことばかりだと語った。懇親会でビールをつがされたり、研究以外のことで苦労が多かったそうだ。さらに、女性研究者は比率が少ないので、女性だからという理由で男女平等推進委員会に指名されたりもするそうだ。センシティブな問題は女性がやることを期待されることも多いという。それではステレオタイプな女性像を強化してしまう懸念もあるのではないかと語った。

柳川氏は、アニメ業界だけの問題ではなく、社会全体の空気がそのまま流れ込んできていると指摘する。年上の男性も多い中で、女性がプロデューサーとしてプロジェクトの指揮を取る難しさについて相談されることがあるそうだ。そして、業務以外の話として、スタッフが女性であるという理由で作品の誹謗中傷をするユーザーも見かけるという。

竹内氏が所属するアスミック・エースは、女性にはアシスタント、決定は男性がくだすという風潮があまりない会社だそうだ。竹内氏が入社したころからそういう社風だそうで、それはアスミックが比較的小規模な組織だから可能なのかもしれないという。やはりグループ企業の大きな部署に行くと別の雰囲気を感じるようだ。

今後、アニメ業界がどう変化していけば女性がより活躍しやすくなるかとの問いに、柳川氏は「自分がやることが女性代表の意見に思われない雰囲気になってほしい」と語った。

女性の意見が大事だから、という動機で女性を会議のメンバーに加えたりすることは一般企業でもよくあることだろう。だが、それは裏を返せば女性なら誰でもいいという意味にもなってしまう。「女性の意見」ではなく男性同様、当たり前に「個人の意見」として尊重してもらいたいということだろう。

女性を活躍させるということも、国に言われたからやるのではなく、企業として前向きに選択するものであってほしいという。

竹内氏は、ジェンダーの問題のみならず、働き方の多様化の推進が重要だと指摘する。人それぞれにあった働き方を模索して、力を発揮できるようになったほうが組織全体も活性化して良い結果を生めるはずで、そうなればおのずと女性も働きやすい環境になるのではと語った。

須川氏は、世代やジェンダー、人種やバックグラウンドも多様になれば、それが宝となり新しいクリエイションが生まれる土壌になると語る。女性だから何かを期待される時代は終わりにして、若い世代には嫌な思いをさせず、次の問題にチャレンジしていってほしいと時代の変化に期待を込めてセッションを締めくくった。

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]
《杉本穂高》
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